|
|
「西への出口」 ★★☆ 原題:"Exit west" 訳:藤井光 |
|
2019年12月
|
世界中に難民が溢れる現代を、寓話的に描いた長編。 中東だと思われる、内戦が続くある国。 その街で若いサイードとナディアは出会い、恋仲となります。 しかし、武装組織が勢力を拡大し、銃撃戦が頻発するようになったその街からの脱出を2人は決意します。 脱出の方法は「代理人」に金を払って、「扉」の在り処を教えてもらうこと。2人が扉を抜けた先は、ギリシャのミコノス島。 そこで暫く暮らした後、2人はそこから英国ロンドンへ、さらに米国マリンへ。 まるでドラえもんの<どこでもドア>のようです。 しかし、本作品は、ファンタジーでも、2人の幸せへ向かう冒険物語でもありません。 何故なら、扉を抜けるのは2人だけでなく、多くの難民も扉を通って先進国へなだれ込み、さらにテロリストや武器までも扉を抜けて要は輸出されてしまうのですから。 大勢の難民が容易く、一気になだれ込んだら相手国もたまりません。当然ながら排他主義者たちとの対立が起こり、状況は不穏となっていきます。 経緯は異なるまでも、難民の受け入れに拒否反応を示す、あるいは受け入れた難民と自国民との対立が深まる、という状況は現代の世界情勢そのものではありませんか。 どちらを批難することもできません。一番理想的な解決は、難民たちが不安なく自国に戻り、平和な生活を手に入れることでしょうけれど、それがそう簡単にいかないからこそ難しい。 半世紀を経たエピローグには、ホッとさせられる気持ちです。 ※サイードとナディアの2人が次々と扉を通り抜けるところは、C・ホワイトヘッド「地下鉄道」に似ていると感じます。 |