1938年発表
2007年05月
新潮社刊
(3000円+税)
2008年03月
新潮文庫化
2007/07/28
amazon.co.jp
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40年ぶりの再読です。ストーリィをすっかり忘れていると思っていましたが、読み終わった今、所々記憶に残っていたことを知りました。ただし、同時期に読んだ「ジェーン・エア」と似るところが多分にあるため、ごっちゃになっていた処もあります。
主人公は、寄る辺無く金持ち夫人の話し相手という仕事を始めたばかりの若い女性である“わたし”。
保養地モンテカルロで偶然知り合ったマキシム・デ・ウィンターに見初められ、倍近い年齢差を越えて結婚します。
相手のマキシムはマンダレーという豪壮な屋敷の所有者で、一年前にレベッカという美人の妻を亡くしたばかりの男性。
新婚旅行を終えマキシムと共にマンダレーに到着した“わたし”は、以後前妻レベッカの影に脅えることになります。
美人で社交好きで評判の高かったレベッカ。家政婦頭のダンヴァーズ夫人は未だにレベッカを崇拝し、常に私を前妻と比較する姿勢を露骨に示します。
前半はそのマンダレーで、“わたし”が色濃く残る前妻レベッカの面影に萎縮しながら、自信無げに暮らす様子が描かれていきます。
正直言って何でこれ程まで、些細なことにまで怯えるのかと、じれったく感じることが幾度もありました。それは、作者のデュ・モーリア自身、軍人である夫に伴ってエジプトへ赴き、社交が苦手なのにもかかわらず司令官の妻として振舞わなければならなかったという苦痛、間違った居場所にいるのではないかという不安を抱えた経験を反映したものだと知ると、その切実な圧迫感が納得できます。
そんな雰囲気が一転するのは後半に入って、レベッカに関わる、マンダレーに秘められた謎が明らかになってくるところから。
そこからはまさに一頁一頁がスリリング。賽はいったいどちらに転がるのか、展開される局面、局面において状況は一転二転し、全く予想がつきません。そんな緊迫感孕んだ展開に、後半は一気読みでした。
ゴシック・ロマン、古典的サスペンスという点で傑作と言うほかない作品ですけれど、本作品の秀逸さはむしろ前半の不安心理にこそあるように思います。
前半のまどろっこしさと、後半思わず一気読みしてしまうスリリングな展開。
600頁近い長篇作品ですが、読み終わってみるとこの厚さ、全く気になりませんでした。
質の高く、文学性の高いサスペンスがお好みの方には、是非お薦めしたい新訳です。
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