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「ウォーターダンサー」 ★★★ 原題:"The Water Dancer" 訳:上岡伸雄 |
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2021年09月
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19世紀中盤のアメリカ、ヴァージニア州を舞台に、黒人奴隷ハイラムの半生を描く長編力作。 白人地主を父親、黒人奴隷を母親に生まれたハイラム。しかし、母親は売られていき、ハイラム自身はその才能を見込まれて父親によって屋敷奉公に上げられ、父親の愚鈍な跡継ぎ(異母兄)の守り役として期待されます。 しかし、異母兄は川に転落して溺死。ハイラムは愛する奴隷女性ソフィアと共に脱走を図りますが、奴隷狩りの白人一味に捕らえられ、拷問された後に売り飛ばされてしまう。 しかし、ハイラムを買った白人が、奴隷の逃亡を助ける組織<地下鉄道>のメンバーだったとは。それからハイラムは地下鉄道の工作員として訓練を受けるのですが、最後にハイラムが選んだ道は・・・。 「アンクル・トムズ・ケビン」以来、アメリカの奴隷制度を批判する作品は多く書かれてきたのでしょうけれど、改めて本作を読むと、奴隷制度というのはアメリカの恥ずべき歴史であると、つくづく思います。 家族をばらばらにして売り払う、女性奴隷を拘束しておくための策略等々、どれだけ悲惨なことが繰り返されていたのか。 そうした白人所有者に対し、懸命に矜持を保とうとする黒人奴隷たちの姿に、胸が震えるような思いがします。 また、奴隷たちを救おうとする地下鉄道メンバーの白人たちとの対比によって、なおのこと奴隷所有者たち白人の非道さが浮かび上がっているように感じられます。 ただ、本ストーリィの中で目が留まったのは、女性に選挙権が与えられていないことに対する批判。 広く捉えるならば、本作に込められた批判は決して奴隷制度だけに対するものではなく、自分と違う人間だからと蔑視、差別する姿勢に対するものだと思います。 トランプ前政権の姿勢や、警官による黒人男性フロイド殺害事件等、さらには日本でも外国人労働者に対する差別、搾取といった問題も、上記と決して無縁ではないと考えます。 是非読んでいただきたい、力作です。 ※実在の組織だったという<地下鉄道>、コルソン・ホワイトヘッド「地下鉄道」もお薦めです。 |