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− 極寒の雲取山 − 1 泊 2 日

4 月 ×× 日

1 日目 【晴れ】

 午後1時に山梨市から奥多摩方面に向かう。天気予報では晴れるはずだが、やけに風が冷たい。塩山のガソリンスタンドで、「今朝はバケツに氷が張った」と話していたので、「寒いんだな」と気を引き締める。国道 411 号線の柳沢峠に車を停め、お弁当のおにぎり 2 個とウィンナーを食べる。何となくせわしなく、消化不良が心配だ。その後、青梅街道をひた走るが後山林道の入口がなかなか現れない。「通り過ぎてしまったかな」と思った頃に林道入口が現れたが、曲がれずに通り過ぎてしまった。少しバックして鋭角に曲がり、細い危険な砂利道を行くと林道終点に到着。右側が山、左側が谷になっていて、どちらも切り立っている。駐車場はないが、路肩に 10 台位は置けそうだ。一晩置いても安全そうな場所に駐車した。

 14 時 40 分に出発する。ザックは 20 kg 以上あるはずだったが、意外にも軽く感じられた。三条の湯までは楽な道のりのはずだったが、すぐに苦しくなってくる。15 時 10 分に汗だく状態で三条の湯を通過。いいペースだが、汗が噴き出して仕方がない。ペースをぐっと落とすことに決め、特に登りのきつい場所では亀のように歩いた。左右の靴がくっつきそうだが、休憩の回数も減り、続けて歩けるようになった。途中、老夫婦とすれ違う。雪や氷が現れたのでアイゼンを装着する。アイゼン無しでも登れるのだろうが、岩が凍っている場所はとても怖い。その後、首に巻いた大きな汗拭きタオルがガチガチに凍っていたので、アイゼン装着も良いだろうと納得する。足元は滑らず安定していたが、大きな岩を乗り越えるときにアイゼンとの衝撃で左膝に痛みが走った。後になって思えば、どうやらこのときに左膝を痛めたらしい。所々に標高を示す小さなプレートが 1150 とか 1250 とか貼られているが、三条ダルミの標高がわからないのであまり励ましにならない。地図を出して見てみると、歩いているところは“水無しの尾根”と書いてあり、ますます不安になってしまった。右に谷を見ながらくねくねと進むと、初めてテントを張れそうな場所が現れた。

 そこが三条ダルミだった。18 時 30 分なので周囲は既に暗くなっているが、遠くにくっきりと富士山が見える。テープ紐の切れ端やペグが落ちていて、ここにテントを張る人は多いと思われた。ヘッドランプを点灯し、早速テントを設営。レトルトカレーをワンクィックライスにかけて食べ、その後スープに砂糖をいくつか入れて飲んだ。一息ついた後、鍋に笹の葉の上に乗っている雪を集めた。ここで落ちてしまうと植村直巳のように行方不明になってしまうので、崖から落ちないように気を付けた。鍋を温めて雪を溶かし、フィルターを通してから水筒に入れた。シュラフを出して横になり、ラジオで巨人のサヨナラ負けを聞いた。天気予報は季節外れの寒さと言い、温度計は−10 ℃を示している。22 時 30 分に眠ることにするが、寒くてなかなか眠れない。外を見ると星が綺麗だが、富士山方面に明るいライトがあって残念だった。ゴアライトは頭の上が狭くて殆ど寝るだけの状態だが、大きなテントは重いのだから仕方がない。腰から下がとても寒かった。

2 日目 晴れ

 4 時 50 分起床。目を開いてびっくり。テントの内側全面が凍っている。「 外バリが必要なのかなあ 」 と思う。昨日作った水に厚さ 1 センチの氷が張っていて、温度計は− 4 ℃だ。バーナーに点火してテントの中に入れる。紅茶をたくさん作り、朝食として 2、3 枚クッキーを食べるが、どうにも喉を通らない。朝食や行動食にもっと気を使わなければいけない。外に出てからテントを収納する。外はやはり寒いので、レインウエアは上下とも着る。テントは凍っているため、かさばってなかなか袋に入らない。冬山ではどうするのだろうかと思う。

 歩き始めたのは5時50分。急な笹林の尾根登りだが、昨日のことを思い出して亀のようにゆっくり登る。10 センチくらい積もった雪の上に 3 人分の足跡があった。途中には氷の滑り台のような箇所もあり、アイスクライミングのようになってしまった。朝日が射して清々しく、振り向くと雪道のジグザグが見えて冬山登山のようだ。

 6 時 55 分に雲取山山頂到着。上方には雲があるが、富士山など周囲の山々を一望できた。避難小屋のベンチにザックを置き、ウロウロして写真を撮ったり、GPS でデータをとったりしていた。小屋の前で紅茶を飲んでいたら突然ガタガタッと扉が開いて単独行のおじさんが出てきたのにはびっくりした。小屋の中は広い土間と板張りがあり、テント泊とくらべると土間で料理を作れるし、板張りの上にマットとシュラフならば寝心地も良さそうだった。

 7 時 50 分に下山開始。太陽が出てぽかぽかと暖かい。ゆっくりと下るが、左膝に痛みを覚えて足元が心許ない。一歩一歩気を付けながら下る。右足のアイゼンが外れ気味で困る。何回も締め直しながら歩くがすぐに前側が外れてしまう。25 分で昨日幕営した三条ダルミを通過。足が跛行気味なので飛竜山への縦走は断念し、昨日登ってきた道を下山することにする。左膝は曲げられず、曲がると自然に声が出てしまうほどになっていた。アイゼンを外すと少し楽になったが、急な下りは膝が曲がるのでゆっくりしか進めない。5 〜 6 組のパーティーとすれ違う。水をごくごくと飲むが、雪を溶かした水は埃っぽい。湯冷ましにしないと美味しくないのか。なんとか三条の湯にたどり着いたのは 10 時 20 分。ザックを置き、レインウエアを脱いで小休止する。温泉につかるのも良いと思ったが、早く下山しないと歩けなくなってしまいそうだ。道は登ったときに思ったほど険しくなかったが、すれ違うときに左足が上げられないのでうまく避けてあげられない。迷惑をかけてしまった。谷に落ちないように一歩一歩注意しながら進み、やっと車が見えてきた。

 11 時 05 分下山。渓流釣りの人たちがウロウロしているが、若者が釣りなんて爺臭い。靴を履き換えても足の痛みは変わらず、殆ど歩けない状態であった。デリスペくんはオートマなので、右足だけで軽快に走る。14 時 20 分に帰宅したが、自宅前の階段が登れないのにはびっくりした。左膝が曲がらないので左の靴が段に乗らないのだ。

( 雲取山= 2,017.7 m )
 
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