その8 茶杓を削る

 数ある茶道具の中でも茶人自身が手作りする代表的なものが茶杓。歴代の茶匠、数寄者による名茶杓が今に残り、その人となりを伝えてくれる。

 

 茶杓を作ってみたい、とお茶の先生に相談した所、以前淡交会青年部でお世話になったという工芸家のM先生をご紹介して頂いた。M先生は勤め人をするかたわら、陶芸を教え、依頼されれば講習会等で茶杓削りを始めとする竹工芸や蒔絵も指導される。お父様もその分野では有名な方だったとの事。

 日時を調整し、インターネット上で知り合った人々とお宅に伺った。ほとんどが茶杓削り初体験の者だ。

 日曜10時の約束にやや早めに着くと、お茶を教えておられる奥様にお茶を一服頂いた。その後、工房へ移動する。

 まずは箱一杯の割った竹の中から1本を選ぶように言われた。150年経た民家の解体の際入手したという煤竹はどれも景色があってなかなか迷う所。ようやく選ぶと、実寸大の茶杓の寸法図にあてがい、櫂先と撓めの部分に印しをつける。撓めの部分を中心に曲げやすいように削り込む。

 曲げるために竹をお湯で茹でている間、先生のお父様が作られたという茶杓を見ながら、茶杓の造形について解説して頂いた。普段の稽古だと決まり切った形状や、せいぜい歴代家元の写しぐらいしか目にしない為、実に様々な形があることに驚かされる。もっとも、選んだ竹の素性によってほぼ最終形は決まってしまうものだという。

 1時間ほど茹でた竹を、お湯につけたままで撓めの部分を曲げる。そのまま水で急冷することで固定する。茹でたせいで、汚れや煤もきれいに落ちている。

 いよいよ削り始める。初めて使う切り出し小刀だが、よく研がれている上に、茹でたての竹は軟らかく削りやすい。

 ※自分は元々左利きだったのを幼少の頃矯正されたため、字や箸、包丁は右手だがボールを投げたり消しゴムを持ったりするのは左手である。ちなみにカッターナイフは左。無意識のうちに自然と使い分けている。終始、右利き用の切り出しがなじまなかったのは、そのせいかもしれない。

 最初に撓めの幅を決める。それから節の方へ向かって細くなるように削っていく。節から下は同じ幅で。断面は蒲鉾状に。途中で棗に乗せてみてバランスを確認しながら削っていく。

 昼食をはさみ削ること約1時間半、ほぼ形になった頃、やかんの湯気で要所の曲げを調整する。すばやく水分をふき取ればだいぶ様になってきた。

 さらに細部を削り込む。削りすぎて思いの外細くなってしまった。その割にメリハリがないためずんどうに見える。先生の修正で節の上のあたりをくびれさせて頂いたら見違えるようになった。

 茶杓の身の部分にペーパーや砥草を掛け、竹の皮の部分で磨いて艶を出し、一応完成。

 筒の方は蓋を口に合わせて削った後、先生に表面を削って頂いた。蓋は銘を書くべき筒の表(通常樋のある部分)に木裏(木の中心方向)がくる様にする。ちなみに杉は木裏側が濃い色になっている。蓋を口の大きさにあわせるコツは、筒の口先を切った際の切れ端を定規にして蓋の削る方に円を描く。その円に合わせて削れば当然蓋は筒の口に合う事になる。

 完成した茶杓を見せ合いながら、先生に点てて頂いたお茶をお手製の楽茶碗で頂く。1、2本削ったくらいでは個性が出る所まではいかない、とのことであったが、それなりに作者の人柄を反映するような作品に仕上がっていた。

 終了予定の3時を1時間ほど超過したが、先生は終始なごやかで、我々も皆初対面であったにもかかわらず有意義で楽しい時間を過ごせたことに互いに感謝し別れた。

 

 さて、この茶杓だが、棗に茶が少ないと実にすくいにくい(茶入だとまあまあ)。櫂先が細く撓めも浅く直線的なせいかと思う。こうして茶杓の機能性にまで気が及ぶようになれたことは今回の収穫の1つであった。材料の竹を分けて頂いてきたので早速、次の作に挑戦している。

 

 翌週、第2回目の教室が開催された。希望者を募った所、1日にはまとめきれなかったためである。仕事を抜け出しのぞきに行く。女性陣が多かったせいもあってか先週同様初対面が多いにもかかわらず和気あいあいであった。

 やや時間は超過したが、それぞれ個性にあふれた一本が出来上がり一同感激。さらに先生のお宅の茶室まで拝見させて頂いた。釜(鉄)以外は何でも作ると言うことで、楽の土風炉、大茶盛式に使う大茶碗(意外に軽く1人で十分持てる)、それに合わせる挽家に蒔絵をした棗見立てと珍しいものも多かった。先生の奥様(裏千家の先生)が、”お茶は楽しまなくっちゃ”といった言葉が染みた。

 機会をみて今度は茶碗作りに挑戦したいと思う。

制作工程へ(画像集)※第3回の幹事H氏提供

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