その7 風炉の季節の茶

 稽古のお点前は流し点て。平茶碗に水を張り茶巾をたたまずに入れて持ち出す。亭主は炉の時のように客の方へ斜めに向いて座す。客の目前で茶巾を絞り、茶碗の水を建水に空けるその姿と音とで涼感を演出する。

 さらに先生が用意した道具立ては、江戸切り子の平茶碗に水指はベネチアガラスのワインクーラーの見立てとさらに涼しさを醸すものだった。

 暑い盛りにあえて熱いものをとり、暑気払いなどと言うこともあるが、この場合は暑さを少しでも和らげようという気持ちが直球で清々しい。暑い時期には少しでも涼しく、寒い時期には少しでも暖かく、といったように快適さを客に提供しようという意識がお点前の基本にあったのだと思う。茶事の形式や道具立てしかり。点前が形骸化して所作の本来の意味を理解しないまま、ということが往々にしてあり、わざわざ家元の”お許し”を得てまで憶えたいという意欲に駆られないでいるが、こういうものなら客をもてなす意図がストレートに伝わり、良い。

 ところで、ガラスの茶道具というのは中が透けて見える分、点前もよく見えるので難しいもの、ごまかしの利かないものと思った。もし茶入や風炉、釜の中が客から丸見えだったならこんなに緊張することはないだろう。

 

 さて、この日は平の花月もやった。これなどは稽古のための所作であることは一目瞭然で、野球で順繰りに打撃と守備の練習をするようなものだ。こういう事そのものが好きだという人もいるのかもしれないが、野球をする楽しみがゲームにあるように、茶の面白味は茶事にあるのだ。公式戦に出るにはルールを覚え基本プレイが身についていることが重要であることは言うまでもないが、試合慣れすることもまた大切である。練習試合でも”三角ベース”でもいいから多くの試合=茶会に参加したいと思う今日であった。

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