○名古屋大学に今年出した紀要

※北折の書いた論文の、恐らく公刊される中では第一号となる研究です。いいのか、こんなもん公刊しちゃって(笑)。なんか、すごく照れくさい。ちょこちょこまとめてきたものが、こうして形になるのは嬉しい。でもこれからの長い人生、これで飯食ってくんだよなぁ。もちろん、この研究の裏話もあるよ。いまは、次なにやろーかなーって、考えてるところです。どうせやるなら、面白いことやりたいよね。コストが多少かかっても。

 

TITLE

社会規範からの逸脱行為に対する違反抑止
メッセージの効果に関する研究

―禁止メッセージの提示方略に着目して―

 

北折 充隆(Mitsutaka Kitaori)

名古屋大学大学院教育学研究科博士課程(後期課程)

  

abstract

Message effects in detering socially deviant behavior

Mitsutaka Kitaori

 

This study investigated message in detering socially deviant behavior Five kinds of messages were examined. 1) Please refrain from acting in such manner; 2) Don't behave in such a manner; 3) Such behavior is strictly prohibited; 4) Such behavior can do a lot of harm, so do not act in that manner (state consequences); 5) If you behave in such manner, you will be penalized, so do not act in that manner (state consequences). Two-hundred and fifty-three college students responded to a questionnaire with five kinds of situations and messages. As a result, specifying the harmful consequences of an antisocial behavior induces a sense of guilt and inhibits such behavior, and was found to constitute the most effective message of those examined in this study.

 

Key words; socially deviant behavior, deterrence strategies, rule enforcement,consequences, sanctions

 

【問題と目的】

 個人の欲求に志向された社会規範からの逸脱行為は,時として重大な被害や迷惑を周囲に対して及ぼす。本研究は,社会規範からの逸脱行為を抑止するため,現実の社会的場面において最も多く用いられる,違反抑止メッセージを扱う。違反抑止メッセージとは,ここでは様々な社会的場面において目にする,看板等に書かれた禁止メッセージをさす。こうしたメッセージを掲げ,逸脱行動をとらないように訴えることが,現実場面においては非常に多い。Cialdini, Reno & Kallgren(1990)の研究では,ゴミのポイ捨てに関するフィールド実験が行われた(e.g., Reno, Cialdini & Kallgren, 1993)が,渡されたチラシに書かれたメッセージが環境美化を訴える内容に近いと知覚されるほど,チラシをポイ捨てする割合が低くなることが見出されている。Cialdini, et al.の研究は,違反抑止メッセージを目にした場合,それが実際の行動に反映されることを証明した研究として,非常に興味深い。しかし,違反抑止メッセージにも様々な提示方略があり,これらのタイプの違いが,具体的な行動抑止にどの程度つながるのかについての研究は,ほとんど見られない。そこで本研究では,違反抑止メッセージを目にした場合,どのようなインパクトを受け,どういった感情が生起するのか調査する。また,提示のされ方が同じであるメッセージも,逸脱行動がとられる状況により,効果が異なることも考えられる。そこで,メッセージタイプの違いだけでなく,メッセージを目にする状況についてもいくつか提示し,状況間の違いも検討する。社会心理学的観点からこうした効果を考えた場合,精緻化見込みモデルとメッセージの鮮明さに関する一連の研究が重要な示唆を示す。

 Petty & Cacioppo(1986)が主張する,精緻化見込みモデル(Elaboration Likelihood Model,以下ELMと略す)は,説得における周辺的手がかりの存在を指摘する。このモデルは,態度変容を説明するモデルである。すなわち,説得に至るまでの2つのルート(中心的ルート・周辺的ルート)を設定した上で,説得的コミュニケーションを受けた場合,受け手がそれを考えようとする動機づけと,この情報を処理しようとする受け手の能力の2側面に着目する。情報が納得しうるのであれば,得られた内容に基づく態度変容(中心的ルートによる態度変容)が生じ,納得できなければ,態度変容は生じない。また,受け手の動機づけか処理能力の一方,もしくは両方が欠如していたら,説得的な情報はあまり処理されず,態度変容は生じない。しかし,説得的な情報に関する周辺的手がかりがあれば,それに基づき態度を変容させる(周辺的ルートによる態度変容)。具体的なELMにおける周辺的手がかりとしては,声の特徴や話者の魅力などが用いられている(Chebat & Chebat, 1991;Norman, 1976)。Chebat et al.らの実験では,声の質による効果は,低い動機づけ状況においてのみ見出され,ELMの予測が支持された。

 このモデルは,主に臨床心理学やワークショップ,販売戦略などにおいて応用されているが(e.g., Eenst & Heesacker, 1993;Norman, 1976;Cialdini, 1988),本研究にも大きな示唆を与えてくれる。つまり,メッセージに付加された情報について,それが中心的ルートによる態度変容を促進するものなのか,周辺的ルートによる態度変容を促進するものなのかに関する手がかりとなる。具体的に本研究では,逸脱行為の結果生じる被害と制裁を付加したメッセージについて検討する。土田(1989)によれば,中心的ルートによる態度変容と周辺的ルートによる態度変容は,考えるという情報処理を経ているか否かで異なる。例えば現実の社会場面で,“カラスがあさりますので,指定された曜日以外に生ゴミを出さないで下さい。”などのように,被害を付加して逸脱行為の自粛を訴えるメッセージは多い。こうしたメッセージは,違反行為による因果推論を個人内に喚起させる,すなわち精緻化を促進する効果があると考えられる。こうしたメッセージを目にすれば,ELMが示す中心的ルートにより,態度を変容させ,逸脱行為を辞めるであろう。また月極駐車場などでは,“無断駐車ご遠慮下さい,違反の場合は○万円いただきます。”などと,具体的な制裁を付加する場合が多い。制裁を提示された場合は,その制裁が科されることを避けるよう志向された行動選択の結果として,逸脱行為が抑止される。しかしそういった態度変化は,単に制裁を避けるため,いわば仕方なく逸脱行為を自制させただけである。よって議論の本質について精緻化させているとは言えず,こうした制裁が付加されたメッセージは,被害の提示とは異なり,周辺的ルートを経た態度変容ではないかと考えられる。提示されたメッセージが中心的ルートを経るのか,周辺的ルートを経たものであるかは,今後の違反抑止策を考慮していく上で非常に重要である。これらの日常の社会場面において高頻度で目にされる,被害と制裁の2つの付加的情報が,中心的ルート,周辺的ルートのいずれによるものなのかの検討が,本研究の第1の目的である。被害の提示は,議論の本質について精緻化を促進するから,中心的ルートによる態度変容をもたらし,何らかの認知的変化をもたらすであろう。また,制裁の提示は周辺的手がかりとして作用し,メッセージを見ても精緻化はされず,認知的変化は生じないと予測される。

 また,本研究の第二の目的として,鮮明なメッセージの提示が,違反抑止に効果をもたらすのかを検討する。Nisbert & Ross(1980)は,提示された情報が鮮明である基準を3つ挙げている。 すなわち(a)感情的に関心を持つ,(b)具体的でイメージが刺激的である,(c)感覚的,時間的,空間的に近く感じる。以上の3つであり,鮮明な情報はそうでない場合よりも,判断にインパクトを与えることを見出している。こうした結果は,他にもいくつか報告されている(e.g., Bell & Loftus, 1985; Fiske & Taylor, 1991)。しかし,Frey & Eagly(1993)の実験では,はっきりした情報の方がそうでないメッセージと比べ,記憶される度合いが低かったり,主張的でないと知覚された。こうした結果は例外ではなく,情報が鮮明である事による効果は,メッセージの受け手が関連した知識を持っていた場合,もしくは受け手がその情報を必要としているか,情報に対して高く動機づけられている場合に限られるとする報告もある(Simpson & Borgida, 1991;Taylor & Thompson, 1991)。違反抑止メッセージをこの枠組みで捉えると,例えば“〜して下さい”とか“〜をご遠慮下さい”などと,婉曲にお願いのような形で提示する場合と,はっきりと“〜をするな”,”〜禁止です”といった,明確な禁止の提示との対比が,鮮明さの操作に対応するであろう。

以上をまとめると,Table1のような5タイプのメッセージを設定できる。これらを用い,本研究では,以下の2つの問題について探索的に検討する。

 

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1.逸脱抑止メッセージに付加される被害や制裁の提示は,ELMにおける中心的ルートによる態度変容なのか,周辺的ルートによる態度変容なのか。

2.メッセージの提示は,お願いのように曖昧な提示の仕方がよいのか,もしくははっきりと禁止と書くような,鮮明に提示する場合の方が効果的なのか。

 

【方法】

調査の実施時期 1997年6月上旬,授業時間中に行われた。

被験者 私立N女子短期大学1,2年生253名。

場面状況の選定:本研究で用いた場面状況は,北折(1994)で作成した社会規範意識尺度の中の逸脱行動より,以下の基準を基に選定した。

(a)比較的,日常的に経験しやすい。

(b)逸脱行動の禁止を目にする,場面想定をしやすい。

(c)5タイプの禁止メッセージを,現実感が持てるように設定できる。

選定された5つの状況は,以下の通りである。

状況1.寺社における仏像等のフラッシュ撮影

状況2.可燃ゴミ・不燃ゴミの分別

状況3.図書閲覧室における最後の人の戸締まり

状況4.電車への整列乗車

状況5.濡れた傘の建物への持ち込み

質問紙 質問用紙は,5つの状況×5つのメッセージタイプで,全部で25種類ある(Table2参照)。1人で全てを行うのは,大きな負担となるため,このうちの5種類を1人に実施してもらった。選択に当たっては,全ての状況,全てのタイプのメッセージを,1人が回答するよう配慮された120通りの組み合わせのうち,メッセージタイプを提示する順序が全て同じにならないよう,乱数プログラムをもとに並べ替えられた。これにより,提示順が回答に及ぼす影響は取り除かれた。

Table2:調査で用いた25種類のメッセージ(○は教示)

1.寺社における,仏像等のフラッシュ撮影

○あなたは京都に寺社巡りに出かけました。色々な仏像を見ていて、是非写真におさめたいと思い、持ってきたカメラで写真を撮ろうとしましたが、ふと見ると下のようなメッセージが目に入ってきました。

1-1:本寺の仏像は売店にて写真・絵葉書として販売されていますので、写真撮影はご遠慮下さい。
1-2:本寺の仏像は売店にて写真・絵葉書として販売されていますので、写真撮影は禁止されています。
1-3:本寺の仏像は売店にて写真・絵葉書として販売しており、写真撮影は禁止。絶対に写真を撮るな。
1-4:撮影時のフラッシュが仏像の劣化を進めるという報告がされています。写真撮影はご遠慮下さい。
1-5:仏像の写真撮影を見つけた場合、建物より外へ出ていただきます。写真撮影はご遠慮下さい。

2.可燃ゴミ・不燃ゴミの分別

○あなたは公園に出かけ、友人と昼食をとりました。食事が終わり、あなたはゴミを捨てに行きました。ジュースの空き缶もパンの袋も一緒に一つの袋にゴチャゴチャに入っています。しかし、ゴミ箱の前にきたとき、ゴミ箱が空き缶と空き缶以外のものを分別して捨てるように分けて置いてあることに気がつきました。“今更分けるのも面倒くさいなぁ。”と思ったとき、ふと以下のようなメッセージを目にしました。

2-1:燃えるゴミと空き缶・ビンは、きちんと分別をして捨てて下さい。
2-2:燃えるゴミの中に空き缶・ビンを混ぜないで下さい。ゴミ分別にご協力下さい。
2-3:ゴミは必ず分別して捨てること。絶対に燃えるゴミと空き缶・ビンを混ぜるな。
2-4:分別時に清掃員が割れたビンでけがをする事故が起きています。ゴミ分別にご協力下さい。
2-5:分別が守られない場合、園内の全てのゴミ箱を撤去し、ゴミは持ち帰っていただくことになります。ゴミ分別にご協力下さい。

3.図書の閲覧室での最後の人の戸締まり

○あなたは図書室で勉強をしていました。ふと時計を見ると、電車の時刻が迫っています。あわてて支度をし、席を立つと周囲には誰もいません。図書室を出るのは自分が最後のようです。“急がなきゃ、間に合わない”と思って部屋を出ようとしたところ、以下のようなメッセージが目に入りました。

3-1:最後にこの部屋を出る人は、戸締まり・冷暖房の確認を行って下さい。
3-2:最後に部屋を出る人は、戸締まり・冷暖房の確認を行って下さい。確認しないままで帰らないで下さい。
3-3:最後に部屋を出る人は、戸締まり・冷暖房の確認を必ず行うこと。絶対に確認を怠るな。
3-4:戸締まりの不徹底による盗難事件や暖房の切り忘れによるボヤ騒ぎが起きています。最後の人は戸締まり・冷暖房を確認して下さい。
3-5:確認の不徹底が続く場合、係員の勤務時間外における図書室の使用を禁止します。最後の人は戸締まり・冷暖房を確認して下さい。

4.電車への整列乗車

○あなたは駅で電車を待っています。朝からのバイトで疲れていて、とても座りたいのですが、あなたは列のかなり後ろに並んでいます。この駅からあなたは長い時間、電車に乗らなければなりません。“これじゃあ、座れないなぁ”と思ったとき、列の前の方が乱れました。“よし、割り込んで席を確保しよう”と思ったとき、ふと以下のようなメッセージが目に入ってきました。

4-1:電車へのご乗車は白線より後ろに二列に整列してお待ち下さい。
4-2:整列乗車にご協力下さい。割り込み乗車は禁止されています。
4-3:電車には必ず整列して乗車すること。絶対に割り込み乗車をするな。
4-4:先月、割り込み乗車で押されたお年寄りがホームに落ちて亡くなる事故が発生しました。整列乗車にご協力下さい。
4-5:割り込み乗車を駅員が発見した場合、その電車へのご乗車を制止いたします。整列乗車にご協力下さい。

5.濡れた傘の建物への持ち込み

○あなたは雨の日に、友人の出ている試合の応援に近所の体育館へ出かけました。盗まれるといけないので、さしてきた傘を持って建物の中に入ろうと思いましたが、ふと見ると、玄関に以下のような張り紙がしてあるのを見つけました。

5-1:濡れた傘は傘立てに立てて建物の中にお入り下さい。
5-2:濡れた傘は傘立てに立てて下さい。建物内への濡れた傘の持ち込みは禁止です。
5-3:濡れた傘は必ず傘立てに置くこと、絶対に建物の中には持ち込むな。
5-4:濡れた床で転んで骨折する事故が起きました。建物の中への濡れた傘の持ち込みはおやめ下さい。
5-5:濡れた傘の持ち込みを発見した場合、建物より退出していただきます。建物の中への持ち込みはおやめ下さい。

x-1=お願い, x-2=普通の禁止, x-3=強い禁止(命令), x-4=被害の提示, x-5=制裁の提示

質問内容 5つの状況について,場面想定法を用い,逸脱行動を起こしたくなるような状況を想定してもらった。その上で,逸脱を抑止するメッセージを目にした場合,それに対してどう感じたかについて,回答を求めた。質問項目は独自に作成された,メッセージを目撃したときに感じると思われる項目が,1質問紙あたり24項目設定された。さらに,項目番号18に,自分なら〜する(Ex:自分なら割り込み乗車をする)などの,実際の行動への回答を設定した。よって1質問用紙あたり質問項目は25項目,被験者1人あたりの回答数は125項目である。各質問項目は“全くそう思わない〜非常にそう思う”まで,7段階での回答を求めた。

 

【結果】

項目の因子分析 実施した25項目から,実際にとる行動に関するの項目を除く24項目について,状況およびメッセージのタイプで分類しないまま因子分析(主因子法,Varimax回転)を行なった。固有値の減少および解釈の可能性を基に,4因子を抽出した。因子負荷量は.40以上を採用し,2因子にまたがる項目は除外された。この4因子で全分散の68%を説明できる(Table2参照)。各因子は,以下のように命名された。

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 第1因子は,「破るとほかの人が嫌な思いをする」,「破るとほかの人が被害を受ける」などの項目に高い因子負荷量を示しており,周囲に対して悪いと感じることに関する項目であるため,『周囲に対する罪悪感』と名づけられた。第2因子は,「守ることはわずらわしい」,「守ることに不愉快を感じる」などの項目に高い因子負荷量を示しており,自己の利益を優先したいと感じる項目であるため,『利己的感情』と名づけられた。第3因子は,「破るとほかの人に恥ずかしい」,「破るとほかの人に格好悪い」などの項目に高い因子負荷量を示しており,周囲の人からの白眼視を恥ずかしいと感じる項目であるため,『周囲に対する羞恥心』と名づけられた。第4因子は,「守ることはもっともである」,「守ることは正しい」などの項目に高い因子負荷量を示しており,禁止内容を肯定し,妥当であると感じる項目であり,『禁止の私的受容』と名づけられた。

 次に,各因子についてのα係数を求めたところ,いずれの因子も.85以上の数値を示していたため,各因子内の項目の内的整合性は極めて高いと判断した。

各因子の妥当性の検証 各因子における妥当性の検証は,全ての状況・メッセージタイプを含んだ上で,実際の行動への回答で,高逸脱群(7段階で6,7と回答した群),および低逸脱群(7段階で1と回答した群)に分け,この群間で各因子についての平均についてt検定を行った(Table4参照)。 第1因子(周囲に対する罪悪感)については,実際の行動は罪悪感が強いほど抑止傾向を示すであろう。そこで高逸脱群と低逸脱群の2群間でt検定を行ったところ,0.1%水準で有意差が見られ,低逸脱群ほど罪悪感を感じると答えていた。第2因子(利己的感情)については,利己的な傾向が強いほど,逸脱行動を起こす傾向を示す。高逸脱群と低逸脱群の2群間でt検定を行った結果,0.1%水準で有意差が見られ,高逸脱群ほど利己的感情が強かった。第3因子(周囲に対する羞恥心)については,羞恥心が高いほど逸脱は抑止されるであろう。高逸脱群と低逸脱群の2群間でt検定を行ったところ,0.1%水準で有意差が見られ,低逸脱群ほど羞恥心が高かった。第4因子(禁止の私的受容)について,禁止が妥当であると感じるほど,逸脱は抑止されるであろう。そこで高逸脱群と低逸脱群の2群間でt検定を行ったところ,0.1%水準で有意差が見出され,低逸脱群ほど禁止は妥当であると回答していた。

 以上から4因子とも信頼性,妥当性が検証されたと判断した。

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各因子の分散分析および多重比較 抽出された各因子について,違反を起こす状況(5)×違反抑止メッセージタイプ(5)の2要因分散分析を行った。結果,因子1(F(4, 1148)=27.19, p<.001),因子2(F(4, 1140)=13.56, p<.001),因子3(F(4, 1144)=13.57, p<.001),因子4(F(4, 1149)=5.99, p<.001)において状況の主効果が見出され,因子1(F(4, 1148)=3.48, p<.01),因子2(F(4, 1140)=5.24, p<.001),因子4(F(4, 1149)=4.11, p<.01)において,メッセージタイプの主効果が見出された。因子2については,状況とタイプの交互作用(F(4, 1140)=4.49, p<.01)が見出された。各因子の状況,メッセージタイプ別の平均値をTable5に示す。

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 メッセージのタイプに関して,主効果のみが見られた因子1,4についてはタイプ別,交互作用が見られた因子2については,状況−タイプ別で多重比較(Tukey法,p<.05)を行った。結果,因子1(周囲に対する罪悪感)においては,被害の提示>普通のお願い,被害の提示>普通の禁止に有意差が見出された。因子2(利己的感情)について,各状況別にタイプ別の多重比較を行った結果,状況1,4において群間の有意差が見られた。状況1(フラッシュ撮影)においては,強い禁止>被害の提示,お願い>被害の提示の有意差が見出された。状況4(電車への整列乗車)においては,制裁の提示>被害の提示,普通の禁止>被害の提示に有意差が見出された。因子4(禁止の私的受容)においては,被害の提示>普通のお願い,被害の提示>普通の禁止,被害の提示>制裁の提示に有意差が見出された。

 違反状況の多重比較については,5つの状況を設定したのは,メッセージの効果が通状況的であることを実証するためであり,個別の状況の効果を検討することは本研究での目的ではない。したがって,状況の効果に関しては,一般的な傾向を考察で記述するだけにとどめる。

 具体的な行動への回答について 項目番号18の具体的な行動に関する質問である“自分なら〜する”について,違反を起こす状況(5)×違反抑止メッセージタイプ(5)の2要因分散分析を行った。結果,状況の主効果(F(4, 1152)=12.77, p<.001),メッセージタイプの主効果(F(4, 1152)=3.80, p<.01),および交互作用(F(4, 1149)=1.97, p<.05)が見出された。交互作用が見られたため,多重比較(Tukey法,p<.05)を行った。その結果,各状況別にメッセージタイプ間の主効果が見られたのは状況4(F(4, 231)=5.15, p<.001)および状況5(F(4, 230)=3.31, p<.05)の2つであった。状況4(電車への整列乗車)においては,普通の禁止>被害の提示,普通の禁止>強い禁止,普通の禁止>普通のお願いについて有意差が見出され,状況5(濡れた傘の建物への持ち込み)においては,普通のお願い>制裁の提示の有意差が見出された。つまり普通の禁止やお願いは,違反行為への抑止効果がもっとも低いメッセージであるといえる。

 

【考察】

 メッセージのタイプについて メッセージタイプに着目すると,被害を提示されたようなメッセージは,他のメッセージと比べ,罪悪感を生起させたり,禁止が妥当であると感じさせることが明らかとなった(Table5)。実際にはいかなる場合にも,ある行為が禁止されるとは,その行為により,何らかの被害が生じることに起因する。もしも常に被害を認識していれば,具体的に被害を提示されても,これを当然のことと知覚するから,被害を提示する意味はあまりない。よって,現実の社会場面において逸脱行動を起こす場合,その時点では被害が思いおよんでいない可能性が,結果から示された。このように具体的な被害を提示することは,そのまま自分の行動が,見知らぬ第三者に被害を与えるとはっきり認識でき,これが,罪悪感や禁止の私的受容を高めるのではないかと考えられる。以上から,被害の提示は他のメッセージと比べ,メッセージを目にすることにより,違反を抑止せねばならないと志向された方向に,認知を変容させ得ると結論できる。このことから被害の提示は,ELM理論が示唆するように,中心的ルートによる態度変容をもたらすことが示された。すなわち,被害を提示されることにより,自分の逸脱行為がもたらす被害について因果を推定する。これはまさにELMが示す精緻化のプロセスであり,これにより逸脱行為を辞めたことは,中心的ルートによって説得されたことに他ならない。具体的な制裁の提示については,本研究で扱ったような因子について,他のメッセージとの間に違いは見出されなかった。少なくとも,制裁が付加されたメッセージを提示されたとしても,これにより罪悪感を高めたり,禁止を妥当であると認知させたりはしないことが,結果より示された。もちろん,本研究で扱った罪悪感などの他にも,制裁を提示することで,強く喚起されるような感情成分は存在するであろう。しかし,被害の提示が禁止を妥当であると認知させるが,制裁を提示されてもこれを妥当であるとは感じないことは,それが逸脱行為の本質について精緻化させているとは考えにくい。むしろ制裁を科されることを単に避けるためだけに,仕方なく追従しているに過ぎない。よって制裁の提示は,議論の本質に関連するのではなく,態度変容をもたらす上では周辺的手がかりとして作用するのではないだろうか。もちろんこれは,一つの可能性を示しているに過ぎず,今後さらに検討を重ねる必要があるであろう。

 罪悪感,私的受容を状況別に見ると,罪悪感は,ゴミの分別および整列乗車について高い値を示し,相対的にフラッシュ撮影,濡れた傘の持ち込みは低い値を示している。メッセージタイプに着目すると,これらの状況はいずれも,もっとも強く罪悪感を生起させた被害提示において,逸脱者とは直接関係がない,第三者が死亡したりケガをしたりなどの,身体的被害が生じたと訴えている。フラッシュ撮影や最後の人の戸締まりなどは,そうした第三者の身体的被害を訴えたメッセージではなく,これが罪悪感の生起に差異が見られた原因の1つと考えられる。濡れた傘の持ち込みも,具体的な身体的被害を提示してはいるが,反面で自分の傘を盗まれるといけないので持ち込もうとしたとも教示されている。これ以外の条件は遵守による個人の被害は提示されておらず,自分が面倒であることに起因している。濡れた傘の持ち込みにおいて罪悪感が低かったのは,こういった背景が原因であると考えられる。私的受容に関しては,ゴミの分別が他と比べて突出している。設定した5条件のうち,ゴミ分別のみが個人に制裁が加えられるのでなく,結果的に自分も不利益を被るものの,むしろ不特定多数に対して被害が及ぶように,制裁が提示されている。しかし,フラッシュ撮影などを例にとると,見つかった場合の制裁は建物の外に追い出されるなどの形であり,制裁を被るのは自分のみである。ゴミ分別の制裁は,ゴミ箱を撤去し,各自ゴミを持ち帰ってもらうとする形であり,この被害は不特定の第三者にもおよぶ。私的受容が高い値を示したのは,こういった公共心が関連しているのではないだろうか。こうした第三者にも被害がおよぶことを提示するのは,個人が被る被害と,他者が被る被害が併せて提示されているとも考えられる。この点でも,身勝手な行為が多くの他者にも被害を及ぼすと知覚することは,禁止を妥当であると認識する上で,大きな要因となることをさらに支持する。

 周囲に対する羞恥心に関しては,メッセージタイプによる効果は見出されず,状況の主効果のみが見られた。回答への平均値を見ると,もっとも低いのは最後の人の戸締まりで,逆にもっとも高いのは,電車への整列乗車である。また,神社仏閣でのフラッシュ撮影も,他の3状況と比べて高い値を示している。これは逸脱行動を起こす状況下で,周囲に多くの他者がいるか否かが大きく影響している。すなわち,最後の人の戸締まりなどは,明らかにその場にいるのが1人であり,逸脱行動が人の目につくことはない。逆に,整列乗車を乱して割り込む行為も,多くの観光客がいる中で禁止されている撮影行為をすることも,明らかに多くの他者の目に触れる行為である。このことから,周囲に対する羞恥心とは,多くの他者への目のつきやすさと強く関連している。すなわち,ある種のメッセージを目にすることで高められるのではなく,多くの人に目につくか否かに大きく影響を受ける。

 利己的感情については,状況,メッセージタイプそれぞれの主効果のほかに,2要因間に交互作用が見られ,目にした状況,タイプによってまちまちであることが示唆された。各タイプ別で見ると,お願いの提示では,全体的に各状況別のばらつきが小さいのに対し,強い禁止や制裁の提示は,大きなばらつきを示した。お願いが高い数値のままで,ばらつきが少ないことは,メッセージを見ても,内的なメッセージを守ろうとする変化が少ないことを示している。逆に,強い禁止などは,ゴミの分別において強く利己的感情を抑制する効果がある反面,最後の人の戸締まりなどでは,全く逆の効果を示している。利己的な感情については,同じ提示のされ方でも,提示された状況で大きな効果の違いがあることが,本研究で見出された。

 実際にとる行動について 本調査では,実際にとる行動(項目番号18の,自分なら〜するへの回答)において,メッセージタイプと提示された違反状況の主効果,2つの交互作用が見出されたが,各状況別のタイプに関する多重比較では,普通の禁止条件における整列乗車への違反の高さが目立った。メッセージを目にしたときに生起する感情や認知は,被害の提示が他のメッセージと比べて罪悪感を高め,禁止を妥当であると認知させる効果が見出された。制裁の提示においてこれらは見出されなかったが,実際にとる行動では,被害の提示と制裁の提示が他のメッセージと比べ,逸脱行動の選択が抑止された。行動判断においては,被害や制裁が付加されたメッセージの方が,そうでないメッセージと比べ,逸脱行動を抑止する効果があることが明らかとなった。しかしELMとの関連から,この態度変容のプロセスにおいては,被害の提示は中心的ルート,制裁の提示は周辺的ルートを経た態度変容であると予測できる。この二つの説得に至るまでの認知プロセスの違いは非常に大きい。例えば土田(1989)は,中心的態度変容と周辺的態度変容との違いとして,中心的ルートを経た態度変容の方が,周辺的ルートを経た態度変容よりも態度の持続性が高いことを挙げている。このことから,制裁の提示により逸脱行為が抑止されても,そうした抑止は持続性が低いことが予測できる。逆に被害を提示され,これに従った場合,議論の本質に根ざした態度変容であるから,抑止の持続性は高いであろう。行為の抑止策は,こうした点を踏まえて考えていくことが,非常に重要である。

 本研究では,違反抑止メッセージを目にした場合のインパクト,罪悪感などへの影響の強さを検討した。メッセージの与えるインパクトは,タイプによって違いが見られ,実際の社会場面においても,何らかの効果の違いが見られると予測された。しかしそれ以上に,メッセージが提示された場面によって,これらは大きな違いが生じた。実際の行動に関する分析では,被害の提示,および制裁の提示が効果的であると示唆された。

 

【要約】

 本調査では,違反抑止メッセージを目撃した場合のインパクト,これから生起する感情などの影響を検討した。

 お願い,普通の禁止,強い禁止,被害の提示,制裁の提示の5タイプのメッセージについて,メッセージから受けるインパクトや,生起する感情を検討した。メッセージを目にする状況として,寺社での仏像のフラッシュ撮影,可燃・不燃ゴミの分別,最後の人の戸締まり,電車への整列乗車,濡れた傘の建物への持ち込みの5つを設定し,メッセージタイプ,設定した状況間の罪悪感因子,羞恥心因子などの差異を検討した。

 結果,被害の提示はメッセージを妥当と感じる因子,罪悪感に関する因子において高い値を示し,羞恥心はメッセージの効果に依存せず,むしろ状況に強く依存した。また利己的感情に関する因子は,状況とメッセージタイプによって大きなばらつきが見られた。

 実際の行動に関する分析では,被害の提示,および制裁の提示に効果があることが示唆された。

 

【引用文献】

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北折充隆 1994 社会規範意識と孤独感との相関 ?“まぁいいや”意識が招くもの- 名古屋大学教育心理学実験演習Vコース報告(未公刊)

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Norman, R. 1976 When what is said is important: a comparison of expert and attractive sources. Journal of Experimental Social Psychology, 12, 294-300.

Petty, R. E., & Cacioppo, J. T. 1986 The elaboration likelihood model of persuasion. In L. Berkowitz(Ed.), Advances in experimental social psychology, Vol. 19. Academic Press. Pp.123-205.

Reno,R.R., Cialdini,R.B. & Kallgren,C.A. 1993 The transsituational influence of social norms. Journal of Personality and Social Psychology, 64, 104-112.

Simpson, J. A., & Borgida, E 1991 The effects of vividness on persuasion: The role of personal involvement. Unpublished manuscript, Texas A & M University, College Station, TX.

Tatlor, S. E., & Thompson, S. C. 1991 Stalking the elusive vividnesseffect. Psychological Review, 89, 155-181.

土田昭司 1989 説得の課程 大坊郁夫・安藤清志・池田謙一(編) 社会心理学パースペクティブ1 誠信書房 Pp. 235-271.

謝 辞

1)本稿は平成9年度名古屋大学大学院教育学研究科に提出した修士論文の一部を加筆・修正したものである。なお本研究の一部は,日本グループ・ダイナミックス学会第46回大会において報告された。

2)本研究をすすめるにあたり,調査にご協力いただきました名古屋短期大学藤田達雄教授に深く感謝いたします。

 

 

話したくて仕方がない
この研究の裏話コーナー

 これ、修論の研究3です。でも実のところ、原型とどめていません。修論よりも読みやすいように、あちらこちらと手を加えたので。図表やらなにやら、文章やら、かなり書き換えました。疲れた。いつも思うけど、加筆・修正を加えた、っていうのは、殆ど1からコードを書き起こしたような感じで、使ってるデータだけが違うっていうのは、”加筆・修正”に入るんだろうか?うーん、うーむ、わからん。ま、いっか。

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