〜 スイート・チョコレート R ~
別に、こんな行事とかって興味ない。
そりゃ、確かに女の子達にとっては、大切な行事かもしれないけど、それを男のボクが大切にしなきゃいけない理由はないはずなのだ。
「……なのに、なんでここに居るんだろう?」
頭の中で、必死に言い聞かせている理由は、今自分の居る場所が、デパートのチョコレート売り場だから……。
目の前では、楽しそうにチョコレートを見ている女の子達の姿がある。
そんな中で、ボクはきっとすごく浮いてるんだろうなぁ……
なんて、本当にどうでもいい事だけが頭に浮かんでくるのは止められない。
大体、男であるボクがチョコレートなんて買った日には、好奇の目で見られるのは目に見えているのだ。
「烈兄ちゃん?」
どうしようか、本気で悩んでいると、突然後ろから名前を呼ばれた。
こんな風にボクの事を呼ぶ人物は、一人しか居ない。
「……ジュンちゃん……」
困った様に振り返って、ボクはその相手を見た。
案の定、後ろには制服姿のジュンちゃんが居る。
「烈兄ちゃんも買い物?……ああ、そうか!明日、バレンタインだもんね」
「ジュ、ジュンちゃん……」
嬉しそうに言われた言葉に、ボクはなんと答えていいものか、本気で困った。
「烈兄ちゃん、顔真っ赤だよ」
ボクの顔を見ながら、ジュンちゃんが嬉しそうに笑っているのを見て、ボクはますます困ってしまう。
そんなボクの態度に、ジュンちゃんは笑いながら謝ってくれた。
「ごめんね、からかて……私も、お父さんのチョコレート買いに来たんだ。良かったら、烈兄ちゃんの分も買ってきてあげようか?」
手に持っているチョコレートを見せながらの申し出に、ボクは思わず感謝したくなる。
だって、この場所にいるだけでも勇気が居るのだから、レジにチョコレートを持って行くなんて、自分にはきっと出来ないと思っていたのだ。
だから、その申し出は本当に有り難かった。
「烈兄ちゃんに、こんな事までさせるんだから、豪って本当に幸せ者だわ……」
ボクが大きく頷くのを確認してから、ジュンちゃんはため息をつきながら苦笑を零す。
ジュンちゃんは、ボクと豪の関係を知る数少ない人物である。
幼馴染みってのもあるのか、ボク達の事を優しく応援してくれた。
「それで、豪に渡すチョコレトは、決まってるの?」
「うん、一様は……あいつ、ああ見えて甘い物苦手だから、ビター系のチョコレートにしようかと……」
「……本当に、豪って幸せだなぁ……」
ボクが、チョコレートをジュンちゃんに渡そうとした時、苦笑を零しながらジュンちゃんが呟いた事に、思わず首を傾げてしまう。
「烈兄ちゃんの事だから、分からないだろうけど、男の子にとって、好きな人からのチョコレートが一番幸せなんだよ」
「ジュ、ジュンちゃん ///// 」
ジュンちゃんって、時々ボクの事を男扱いしてくれない時がある。
ボクって、そんなに女みたいなのかなぁ?
なんて言えば、きっと『烈兄ちゃんって、そこいらの女の子よりも可愛いんだもん』と返されそうで怖い。
昔、そんな事言われた経験あるし……
可愛いなんて、自覚はないし、自分では、可愛くないと思うんだけどなぁ……。
豪にも、時々からかわれるけど、ボクの何処が、可愛いのか本当に分からないんだけど……。
素直じゃないし、イジワルだし……
なんて、考えてると、落ち込んできちゃった。
「烈兄ちゃん、どうしたの?」
自分の考えた事に、落ち込んでしまったボクは、心配そうに声を掛けられて、我に返る。
「だ、大丈夫。なんでもないよ、ジュンちゃん」
我を取り戻したボクは、心配そうに見詰めて来るジュンちゃんに、ニッコリと笑い掛けた。
「そう?じゃ、これでいいんだね。買ってくるから、待てて……」
ボクからチョコレートを受け取ると、ジュンちゃんはレジに向けて歩き出す。
「あっ!ジュンちゃんお金、渡しとくね。勿論、お礼に、何か奢るから……」
そんなジュンちゃんを慌てて呼び止めて、ボクは財布を取り出すとお金を取り出そうと開いた。
「お金は、後でいいよ。でも、奢ってくれるって言うのには、甘えちゃうね」
ニッコリと笑顔を見せるジュンちゃんに、笑い返す。
「ケーキセット奢るよ」
「本当!有難う、烈兄ちゃん」
嬉しそうに笑うジュンちゃんは、本当に可愛いと思える。
幼馴染みだからって訳じゃないけど、妹の様に大切な存在。
しかも、豪とボクを応援してくれる貴重な人物なのだ。
ボク達の仲を知っても、ちっとも変わらなかった人。
それどころか、心から祝福してくれた事は、本当に嬉しかったから……。
「……本当に、幾らお礼を言っても言い足り無いよ……」
苦笑交じりに、レジに向かうジュンちゃんの後姿を見送った。
2月14 聖・バレンタイン。
お菓子会社の陰謀に嵌っているのがすっごく悔しいけど、それでも、チョコレートを買ってしまっている自分にため息をつく。
「しかも、手渡しできないからって、こんな朝早くに学校に来るなんて……」
自分で考えた計画に苦笑しながら、1年の下駄箱を目指している自分にもう一度ため息をついた。
メッセージも何もないチョコレートを、豪の下駄箱に入れようなんて本当にボクって、勇気無いよなぁ……。
い、いけない……。また落ち込んで来ちゃった。
それにしても、豪の下駄箱分かるかが一番不安なんだけど………。
って、思ってたら、そんな心配一瞬で吹き飛んだ。
豪の下駄箱には、張り紙がされていて『チョコは入れるな! 星馬 豪』と書かれている。
「あ、あいつ……自意識過剰過ぎるんじゃ……」
張り紙に呆れながら、苦笑を零してしまうのは止められない。
でも、本当は知ってる。
それが、自意識過剰だけじゃないって事。
豪は、女子達の間では1・2を争うくらい人気があるのだ。
「……ボクのチョコレートは、受け取ってくれる?」
豪の下駄箱に、そっと手を当てて、ボクは自分が持っていたチョコレートをその中に入れた。
「……こんな張り紙出してるのに、チョコレート入れて、ごめんな……でも、好きだから、お前に渡したいんだ……」
メッセージも何もないチョコレート。
そんなんで、豪がボクのだって分かってくれる訳もないのに、それでも受け取ってくれるって言う自信だけは持ってる。
あんまり、気分のいいもんじゃないかもしれないけれど、豪がボクのだって気付いてくれたら、どうしよう……。
そんな事、ある訳ないのに……。
「いけない。誰か人が来ちゃう……」
豪の下駄箱の前で、ぼんやりしていたボクは、我に返ると慌てて自分の下駄箱へと向かった。
授業も終わって、ボクはゆっくりと鞄の中に荷物を入れながら、今朝の事を考える。
豪の下駄箱の中に入れたチョコレート。
今頃、豪の手の中にあるんだろうって、考えると、思わず顔が赤くなってしまう。
何人かのクラスメート達が声を掛けてくるのに返事をしながら、ぼんやりとしてしまうのは止まられない。
「……烈兄貴……」
だが、突然後ろから声を掛けられて、僕は驚いて振りかえった。
「ご、豪!な、なんで、お前が……部活は?」
ここに、豪がいることが信じられなくって、思わず声が上ずってしまう。
「今日は、特別休み。んでさぁ……話あるんだけど、いいか?」
ビックリしているボクに、豪は簡単に答えた。
何だか怒っているような豪の態度に、ボクは首を傾げながら、頷いて返す。
「い、いいけど……」
豪が怒っている理由が解らない。
なんかボク、怒らせるような事、したのかなぁ?
「んじゃ、一緒に帰ろうぜ」
素っ気無く言う豪が、ボクの荷物を取ると、さっさと歩き出す。
「ご、豪!」
スタスタと歩き出した豪の後を、ボクは慌てて追い掛けた。
ボクが声を掛けるのに、豪は全く振り向きもしないで、先に歩いて行く。
靴を履き替えた所で、豪が何も言わずに待っててくれてるから、ボクは慌ててその隣に急いだ。
だって、豪が本当に、怒っているのが解るから、ボクは不安を隠せない。
豪を怒らせるような事、した覚えなんかないんだけど……。
もしかして、チョコレートの事、怒ってるのかも……。
ボクなんかのチョコレート、貰っても嬉しくなんかないって……。
もしそうなら、どうしよう……。
豪が、甘い物好きじゃないの知ってるのに、チョコレートなんて、渡さなきゃ良かった……。
何も言わず、歩いている豪の隣に並んで、ボクはグルグルと頭の中に考え付く内容に、泣きたくなってくる。
豪は、何も言わないし、すごく怒ってるって事は、解るから……。
「烈兄貴?」
そんな風に考え込んでいたボクは、突然立ち止まった豪に名前を呼ばれて、顔を上げた。
少し驚いたように僕を見詰めてくる豪の視線を感じて、泣きたい気分が更に強くなる。
そんな自分に気付いて、慌てて豪から顔を逸らす。
「あ、兄貴、ご、ごめん……別に兄貴の事怒ってたわけじゃなくって……その、えっと、そう、聞きたい事、聞きたい事が、聞き難い事だから、どうやって聞こうか考えてて……だから、頼むから、泣かないでくれよぉ」
ボクの態度に慌てた豪が、困った様に漸く口を開いた。
そんな風に慌てている豪を見るのは嫌いじゃないけど、言ってる事がすごく気になる。
聞きたい事って、やっぱりチョコレートの事?
「豪……?」
「だから、その……」
豪が困ってるいるのが解るけど、何が言いたいのかまるで解らない。
すごく言いにくそうな豪の態度に、ボクは思わず首を傾げた。
「居た!烈兄ちゃん……豪も、セットで居ると思ったんだぁ」
何も言わずにボクの事を見詰めてくる豪を真っ直ぐに見詰め返していたその時、突然嬉しそうな声が掛けられて、ボク達は驚いて声の方に視線を向ける。
「……ジュンちゃん……」
「ジュン…」
制服姿のジュンちゃんが嬉しそうに、ボク達に近付いてくるのを確認して、ボクは慌てて豪との間に距離をとった。
ボク達の関係を知られているって言っても、やっぱりこんな所見られるのは恥ずかしい。
「烈兄ちゃん、昨日はご馳走様v それで、これは私から二人に渡したくって……」
ニッコリと笑うと、ジュンちゃんは鞄から何かを取り出す。
「ジュンちゃん?」
「はい、二人で食べてね vこれから私、本命にチョコレート渡しに行くんだ。だから、もう行くね。それじゃ!」
嬉しそうにボクにチョコレートを渡して、ジュンちゃんが手を振って走り去って行く。
……本命チョコって、誰に渡すのかわからにけど、ジュンちゃんにも本命の人が出来たって事が、ちょっとだけ嬉しかった。
だって、ジュンちゃんが昔、豪の事好きだったって事、ボクは知ってるから……。
ボク達の事を祝福してくれた彼女だから、誰よりも幸せになってもらいたいと、心から願う。
「……昨日って、烈兄貴……もしかして、ジュンと喫茶店に行ってたのか?」
嬉しそうに走り去る後姿を見送っていたボクは、突然肩を掴まれて振り向かされた。
そして、聞かれた事に一瞬、昨日の事を思い出しちゃって思わず顔が赤くなってしまうのが、自分でもわかってしまう。
「…… ////// あって、もしかして、聞きたい事って……」
だけど、聞かれた内容に、漸く豪の聞きたい事って言うのを理解できて、僕は思わず瞳を見開いて豪を見てしまう。
「そうだよ!俺のクラスのヤツが、烈兄貴がS女の彼女と、喫茶店に入るところ見たって……だから……」
罰悪そうにそして、少し拗ねたように言いながら、豪がボクから視線を逸らす。
でも、ボクは言われた内容が嬉しくって、自分の顔が笑顔になって行く事を止められない。
「ヨカッタ……てっきりボクがあげたチョコレートの事だと……」
本当に嬉しくって、ボクはほっと胸を撫で下ろしながら呟いた言葉に、慌てて口に手を当てた。だって、
あのチョコレートを渡した人物がボクだって事は、豪には知られたくないのに、それを自分でバラしちゃうなんて、バカ過ぎる。
「俺、烈兄貴からチョコレートなんて……」
ボクが呟いた台詞に、豪が不思議そうに首を傾げた。そりゃ、そうだろう。だって、名前もメッセージも何もないチョコレートを渡した人物なんて、早々解るもんじゃないよね。普通は、気味悪がって受け取らない。でも、豪は……。
「あのチョコレート、烈兄貴の?」
どうやら、そのチョコレートはちゃんと受けとってるみたいで、本当に意外そうに僕を見詰めてくる。
そして、僕を見詰めながら、考えを巡らすようにする姿に、ボクはその場から逃げ出してしまいたかった。
だって、自分からのだってわからないようにしたのに、結局豪にばらしちゃってる。
そんなの恥ずかし過ぎて、豪の顔もまともに見れないよぉ〜。
「サンキュー、烈兄貴v これは、有り難く戴くから……。でも、俺にとっては……」
ボクが真っ赤な顔をしている中、嬉しそうに鞄の中から、ボクが渡したチョコレートの包みを取り出して、嬉しそうに笑っている豪が、すごく憎らしい。
しかも、ウインク付きのその笑顔に見惚れてしまった自分がすごくイヤになる。
そして、そんな豪から視線を逸らせなかったボクは、突然伸びてきた豪の手によって顔を上向けさせられた。
一瞬何が起きたのか解らなかったボクの唇に、暖かな感触……。
「マイ スイート チョコレートってねv」
もう一度ウインクをしながら笑顔を見せる豪に、ボクは驚いて自分の唇に手を当てる。
キスされたのだとわかった瞬間、自分でもイヤになるくらい顔が赤くなるのがわかった。
「ご、豪!」
嬉しそうに笑っている豪の名前を呼ぶ。
それでも、豪にしてもらうキスは、どんなチョコレートよりも甘い。
本当、ジュンちゃんに貰ったチョコレートと、どっちが甘いのかなぁ?
甘いのが苦手なくせに、なんでこんなに甘いんだろう?
きっと、甘い関係が好きだからなのかなぁ?

って事で、URUZUさんに送った小説です。
こちらは、烈サイト。
話的には、こちらから読んだ方が笑えますね。
本当に、勝手にやってくれといわんばかりのラブラブ状態。
私って、基本的にはラブラブ書くの苦手なはずなんですけどねぇ・・・・<苦笑>
こんなのばっかり書いてるから、信じてもらえないんだと思うんですが、
本当なんですよ!(っても、書くのは苦手でも、読むのは好きですが・・・・)
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