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「で、結局、リョウから貰った情報って、なんだったんだ??」
聖霊祭も終わり、日常へと戻った時間の中、突然の弟からの質問に、烈は歩いていたその足を止めた。
「あれ?お前、聞いてなかったのか?」
そして、意外そうにその顔を見る。
勿論、その情報を貰った時に、豪も同じ場所に居たのだ。
だから、聞いていない事の方が意外だと言うように問い掛けられた言葉に、豪は一瞬不機嫌そうな表情を見せた。
「兄貴、分かってて、聞いてるだろう?」
確かに、その場に自分が居た事は認める。
しかし、あの時の自分は、果樹酒に酔ってしまって、記憶にないのだ。
その後も気になっていたのだが、聞くに聞けずに、こんなにも、日日が過ぎてしまったのが、真実。
そして、きっと今烈が向かっている先は、リョウから貰った情報の場所。
「分かってるから、黙ってついて来てると思ってたぞ」
呆れたようにため息をついて、烈は持っていた荷物を道端に置く。
「取り合えず、ここで休憩!ほら、お前も座れ」
そして、そのまま地に腰を下ろすと呆然と見守っている弟へと、隣に座るように指示を出す。
豪も、それに仕方なく言われた通り腰をおろした。
「ほら、地図」
座った瞬間、今まで烈が持っていた地図が渡される。
「これが、何だよ?」
しかし、渡された地図は、何処も可笑しくもない普通の地図で、豪は意味が分からず、兄へと問いかけた。
「お前、地図も知らないのか?」
しかし、そんな豪に、烈は呆れたように盛大なため息をついて見せる。
そんな兄に文句を返そうとした瞬間、すっと指が一箇所の村を指差した。
「ここ、ボク達が向おうとしている場所だ」
地図でも本当に小さく記されている村。
近くにある湖が、目印だと言うようなその村は、その目印の湖よりも、小さい。
「そこに、何があるんだ?」
何もなさそうなその村に、不思議そうに豪が首を傾げて兄を見る。
それに、烈は小さくため息をつくと口を開いた。
「水龍が、居るらしい」
短い簡潔な説明。真剣な表情で言われたそれに、豪は意味が分からないと言うような表情をする。
「水龍??」
「お前、『知らない』とか言うなよ」
呆れたように先に釘をさされて、言葉に詰まる、勿論、『知らない』訳は無い。
この世界には四龍が存在していると言う事を……。
水を司る水龍。火を司る火龍。風を司る風龍。
そして、土を司る土龍。
この存在を知らない者など、この世界には、存在しないだろう。
「それぐらいは、知ってるって!でも、こんな村に、水龍が居るのか??」
「リョウくんの話ではね……会ってみたいと思うから、行くだけさ」
「んな伝説の生き物なんて……」
しかし、世界中の者が知っているその四龍の存在も、本当なのかどうか真実を知る者は、少ない。
何処に居るのか、会った人物など、世界中探しても居るかどうかと言うぐらいだ。
「居るんだよ……」
「兄貴?」
「存在してるから、探してるんだ。四龍の力が必要だからね」
「力が、必要??」
何処か遠い目をして呟かれた言葉の意味が分からずに、問い掛ければ、ただ少しだけ困ったような笑みが返された。
こんな時の烈に、何を言っても答えなど戻ってこない。
それを誰よりも知っているからこそ、豪はただため息をつく。
「さて、休憩終了!今日までに、ここまでは行きたいから、頑張るぞ!」
「って、マジかよ!!」
大きく伸びをしてから地図の一箇所を指差す烈に、信じられないと言う声を上げる。
それは、ここから数十キロも離れている小さな町。
そこまで歩くのは、並大抵の事ではない。
旅をしてきて、歩く事に慣れている自分たちでも、体力的に限界があるのだ。
「文句言わない!置いて行くぞ」
既に歩き出だしている烈が、振り返って声を掛けてくるのに、慌ててその後を追う。
勿論、その辺で野宿と言うことが、どれだけ危険な事かを知っているからこその、烈の判断。
その町まで歩かなければ、何処にも休める場所は無いのである。
「しゃーねぇか……」
盛大なため息をついて、覚悟を決めると歩き出す。
兄よりも、自分の方が体力的には自信があるのだ。
兄が文句も言わずに歩いているのに、自分だけが、愚痴を零しても、始まらない。
しかも、烈には、マネモネと言う荷物まであるのだから、文句など言えば、そのまま怒鳴られて、確実に置いていかれる事など、想像がつきすぎる。
「たかだか、一日歩くぐらい……」
自分に言い聞かせるように、山道を歩き出す。
先の見えない道に、再度ため息をつきながら……。
「着いた!!」
町の門が見えた瞬間の、豪のその声に、烈も顔を上げる。
流石に体力的には限界を迎えているのが、正直なところ。
「そうみたいだな……この町は、温泉が有名らしいから、ゆっくりと出来るぞ」
「ラッキー!」
小さく息を吐いてから、説明を受けた事に、豪が嬉しそうに目を輝かせている。
そんな現金な弟に、苦笑を零して、町の門を見上げた。
閉ざされている門は、魔物達が襲ってこないように頑丈に出来ている。
「へぇ、結構、大きな町みたいだな」
見上げる門の大きさに、感心しながら、豪が門を開けてもらおうと辺りを見回す。
「って、門番がいねぇじゃん」
「……確かに、変だな……」
普通なら、門番が居る筈なのに、その姿は見えない。
それに、違和感を感じた烈が、ふっと空を仰いだ。
「やっぱり、変だ……」
「ああ??」
ボソリと呟いたそれに、豪は意味が分からないと言うように問い掛けようとした瞬間、烈の体が、フワリと宙に浮く。
「って、兄貴?!」
「お前はそこに居ろ!マネモネ、お前もだ!!」
自分の肩に乗かっているマネモネを豪に押し付けて、そのまま門よりも高く浮上する。
その姿を見送る形になった豪は、盛大なため息をついた。
「疲れてるのに、魔法使ってどうすんだよ……」
体力的に限界にきているはずの兄を知っているだけに、心配するなと言う方が、無理な話である。
しかし、今の自分にはどうする事も出来ずに、ただ無事を祈るだけしか出来なかった。
「お前、大きな鳥にでもなって、俺を中に……って、訳には、いかないよなぁ」
自分の腕の中に居る存在に、そんな事を呟いて、もう一度盛大なため息。
マネモネの特色を生かせば、きっとこんな門など直ぐに乗り越えられると分かっているのだが、自分には、その能力を使いこなせないでいた。
烈なら、マネモネの力を使えるかもしれないが、既にその姿は、門の向こう側に消えている。
「ピー!」
しかし、その瞬間、マネモネが、まるで豪の呟きに答えるように泣き声を上げると、その姿が大きな鳥の姿を作り出した。
「……スゲー」
目の前で見せられたその変身能力に、豪が歓呼の声を零す。
これが、ハンターたちが、マネモノを欲しがる理由。
「よし!兄貴を追いかけるぜ!!」
「ピー!!」
その背に乗って、門を飛び越える。
烈の後を追うように……。
町の中は、静まり返っていた。
人の気配はするのに、何処か怯えたような空気が流れている。
「……人は、居るのに……一体何が?」
所々で荒らされているようなそれ、しかも、鋭い爪で引っかいたような傷後は、魔物が付けたものだと分かるから……。
「門は、閉ざされていた。なのに、何故魔物が……?」
疑問に思った事を口に出した瞬間、ハッとして振り返る。
そして、そのまま右に飛び退く。。
「鳥類系の魔物???」
自分に襲い掛かってきた魔物の正体に、烈はただ驚きの声を上げた。
普段は、決して人里には姿を見せない、鳥類族。
生息しているのは、山の頂上や崖付近。
「何で……」
信じられないと言う気持ちだけが、疑問になる。
しかし、そんな自分に容赦なく次の攻撃。
「『……襲いくる敵を回避せよ……壁!』」
「ギャ〜っ!!」
襲い掛かっていた魔物の悲鳴が、辺りに響き渡る。
烈の前にある、見えない壁に弾かれて……。
「また、厄介な魔物だね……鳥類は、集団で行動する……今ので、周りにいた仲間が、集まってくるって、事だろうねぇ……」
ダメージから回復出来ずに、自分の直ぐ傍でバタバタと暴れているその姿を見詰めながら、人事のように呟いて、苦笑を零した。
「……役に立たないけど、あいつも連れてくるべきだったな……」
そして、今表に置き去りにしてきた弟の事を考えて、再度ため息をつく。
「……来た…16匹か……群れにしては、小さい方だね」
どんどん集まってくる魔物の姿に、剣を鞘から抜いて手に持つ。
「依頼でもないのに、魔物狩りなんて、趣味じゃないけど、襲われたら、相手をするのが、礼儀って、ね!!」
ダメージを受けて暴れていた魔物が、後ろから自分に襲い掛かってくるのを避け、そのまま鳥類の急所でもある首へと剣を突き刺す。
断末魔の悲鳴を上げて、魔物が動かなくなるのを横目で確認しながら、同時に襲ってきた残りの攻撃を、大きくジャンプして民家の屋根に登る事で避ける。
「本当、疲れてるって言うのに、あんまり労働させないで欲しいよね」
「兄貴!!」
「豪?!」
今にも襲い掛かってきそうな群れの姿に、突然の声が邪魔をする。
しかし、聞きなれたその声に、烈は驚いたように視線を向けた。
どう考えても、弟があの門を越えられるとは、思っても居なかったから……。
「どうやって……ああ、マネモネか…」
自分に嬉しそうに擦り寄ってくるその生き物に、納得したと言うように頷いて、笑みを零す。
「体力バカも来た事だし、僕は、楽をさせてもらおうかな」
「バカは、余計だっての!!」
邪魔をした相手である自分に、遠慮も無い攻撃を仕掛けて来る魔物の一匹に、烈が持っている剣よりも大きなそれが、その羽を切り裂く。
「……バカ力……」
ボソッと呟いて、そのまま屋根から飛び降りると、豪の傍へと移動する。
「……さっさと仕舞付けるぞ!豪、呪文唱えてる間、任せた」
「おう!って、兄貴?!」
当然のように言われた言葉に、返事を返した瞬間、言われた内容にギョッとして慌てて振り返った。
その瞬間、また魔物の鋭い爪が襲い掛かって来る。
それを、烈の剣が弾き返す。
「ほら、余所見してる場合か?しっかり盾になってろ!」
無茶苦茶な事を言われているのに、逆らう事など出来る筈もない。
静かに目を閉じた烈に、盛大なため息をつき、豪は自分達に向ってくる魔物を睨み付けた。
「……たく、難しい事、言ってくれるよな……」
ニ、三匹なら、簡単なことかもしれないが、十匹以上の魔物では、流石に完全に防ぎきれる自信は、薄い。
しかも、鳥型で、空から襲われては、何時も以上に苦戦してしまうのは、否めない事だ。
「……出来るだけ、早く頼むぜ、兄貴!」
烈を背に庇いながら、自分たちに襲い掛かってくる者だけを相手にする。
鋭い爪で襲い掛かってくるそれらに、剣を振り回しながら、豪はもう一度ため息をついた。
疲れているのは、烈だけではない。
流石に、ずっと山道を登って来た状態なのだ、疲れていない方が、無理な話とも言えるだろう。
「『雲よ、暗雲持ちし、雲よ集いたまえ……我頭上にて、その姿を集え。風よ、我等を護る壁となれ……今、その姿見せよ』……『風壁!!』」
烈の言葉と共に、魔物を囲み込むように風の壁が出来る。
そして、目を開いた烈が、不適な笑みを浮かべた。
「待たせたな、豪。続けて『雷鳴、招来!!』」
「って、マジかよ!」
聞きなれた呪文の言葉に、豪が驚きの声を上げるが、既に後の祭り状態である。
自分の声が、突然の落雷によって、掻き消されてしまう。
大きな落雷は、風で出来た輪の中へ見事なまでに落ち、魔物達すべてに直撃して、消えた。
辺りに響き渡ったそれが、漸く落ち着いた頃、目の前には数十体の魔物の黒焦げ姿が散らばっている。
それを目の前に見付けて、豪は盛大なため息をつく。
「……普通、街中で、あんな大技使うか??」
魔物たちを囲むように出来た風も、何時の間にか収まっている。
「さっさと終わらせたかったからな。民家に被害はゼロだし、問題は無いだろう」
しかし、自分の言葉に返されたのは、無常なそれ。
確かに、魔物達を包むように風の壁が出来上がっていて、民家などを護っていたのは認めるが、流石にそれだから問題が無い訳ではないように思うのだが……。
「疲れた。さっさと、宿屋探して休むぞ」
本当に疲れきっている表情に、思わず頷き返す。
あんな大技を使えば、山登りなどしていなくっても、疲れるだろう。
「あの、すみません……」
魔物たちと戦った後だと言うのに、緊張感など残されていない二人に、申し訳なさそうな声が掛けられる。
それに、二人は同時に振り返った。
そこに立っていたのは、老人といっても言いぐらいの一人の男と、その後ろには町の人間だろうと思える人達。
「あなた方は、ハンターですか?」
「まぁ、一応は、そうなるな」
振り返った自分たちに、突然の質問。
それに、豪が、言葉を返した。
その言葉に、やっぱりと言うように、嬉しそうな表情を見せる男に、烈が何かを感じて、首を傾げる。
「失礼ですが、ボクたちに、何か?」
「す、すみません。あまりにも見事な戦い振りだったもので、お礼の言葉も、ありませんで……私は、この町の町長をしております」
深く頭を下げる男に、烈と豪は、思わず顔を見合わせた。
こう言う展開は、自分たちにとっては、あまりありがたくはない展開なのだ。
「魔物の群れを倒してくださり、本当に有難うございます。そこで、その腕を見込んで、お願いがあるのですが……」
礼の言葉と続けられたその言葉に、二人は『やっぱり』と盛大なため息をついた。
「まぁ、乗りかかった船だ……お話を聞かせていただけますか?」
初めはボソリと呟いて、烈が深くため息をついてから、町長だと名乗った男へと声を掛ける。
それに、町の人々が嬉しそうに声を上げた。余程、困っていたのだろう、その喜び方は、思わず後退りしたくなるほどのモノである。
そんな町の人々を見ながら、烈と豪は、再度盛大なため息をつくのだった。

はい、こちらも再Upの『ハンター』です。
いや、見れば、分かるって……xx
この回は、続き物ですね。
本当は、豪誕に、続きがUPされる予定だったのに……xx
駄目駄目管理人で、本当にすみません。
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