HUNTER 05 

「で、結局、リョウから貰った情報って、なんだったんだ??」

 聖霊祭も終わり、日常へと戻った時間の中、突然の弟からの質問に、烈は歩いていたその足を止めた。

「あれ?お前、聞いてなかったのか?」

 そして、意外そうにその顔を見る。
 勿論、その情報を貰った時に、豪も同じ場所に居たのだ。
 だから、聞いていない事の方が意外だと言うように問い掛けられた言葉に、豪は一瞬不機嫌そうな表情を見せた。

「兄貴、分かってて、聞いてるだろう?」

 確かに、その場に自分が居た事は認める。
 しかし、あの時の自分は、果樹酒に酔ってしまって、記憶にないのだ。
 その後も気になっていたのだが、聞くに聞けずに、こんなにも、日日が過ぎてしまったのが、真実。
 そして、きっと今烈が向かっている先は、リョウから貰った情報の場所。

「分かってるから、黙ってついて来てると思ってたぞ」

 呆れたようにため息をついて、烈は持っていた荷物を道端に置く。

「取り合えず、ここで休憩!ほら、お前も座れ」

 そして、そのまま地に腰を下ろすと呆然と見守っている弟へと、隣に座るように指示を出す。
 豪も、それに仕方なく言われた通り腰をおろした。

「ほら、地図」

 座った瞬間、今まで烈が持っていた地図が渡される。

「これが、何だよ?」

 しかし、渡された地図は、何処も可笑しくもない普通の地図で、豪は意味が分からず、兄へと問いかけた。

「お前、地図も知らないのか?」

 しかし、そんな豪に、烈は呆れたように盛大なため息をついて見せる。
 そんな兄に文句を返そうとした瞬間、すっと指が一箇所の村を指差した。

「ここ、ボク達が向おうとしている場所だ」

 地図でも本当に小さく記されている村。
 近くにある湖が、目印だと言うようなその村は、その目印の湖よりも、小さい。

「そこに、何があるんだ?」

 何もなさそうなその村に、不思議そうに豪が首を傾げて兄を見る。
 それに、烈は小さくため息をつくと口を開いた。

「水龍が、居るらしい」

 短い簡潔な説明。真剣な表情で言われたそれに、豪は意味が分からないと言うような表情をする。

「水龍??」
「お前、『知らない』とか言うなよ」

 呆れたように先に釘をさされて、言葉に詰まる、勿論、『知らない』訳は無い。
 この世界には四龍が存在していると言う事を……。
 水を司る水龍。火を司る火龍。風を司る風龍。
 そして、土を司る土龍。
 この存在を知らない者など、この世界には、存在しないだろう。

「それぐらいは、知ってるって!でも、こんな村に、水龍が居るのか??」
「リョウくんの話ではね……会ってみたいと思うから、行くだけさ」
「んな伝説の生き物なんて……」

 しかし、世界中の者が知っているその四龍の存在も、本当なのかどうか真実を知る者は、少ない。
 何処に居るのか、会った人物など、世界中探しても居るかどうかと言うぐらいだ。

「居るんだよ……」
「兄貴?」
「存在してるから、探してるんだ。四龍の力が必要だからね」
「力が、必要??」

 何処か遠い目をして呟かれた言葉の意味が分からずに、問い掛ければ、ただ少しだけ困ったような笑みが返された。
 こんな時の烈に、何を言っても答えなど戻ってこない。
 それを誰よりも知っているからこそ、豪はただため息をつく。

「さて、休憩終了!今日までに、ここまでは行きたいから、頑張るぞ!」
「って、マジかよ!!」

 大きく伸びをしてから地図の一箇所を指差す烈に、信じられないと言う声を上げる。
 それは、ここから数十キロも離れている小さな町。
 そこまで歩くのは、並大抵の事ではない。
 旅をしてきて、歩く事に慣れている自分たちでも、体力的に限界があるのだ。

「文句言わない!置いて行くぞ」

 既に歩き出だしている烈が、振り返って声を掛けてくるのに、慌ててその後を追う。
 勿論、その辺で野宿と言うことが、どれだけ危険な事かを知っているからこその、烈の判断。
 その町まで歩かなければ、何処にも休める場所は無いのである。

「しゃーねぇか……」

 盛大なため息をついて、覚悟を決めると歩き出す。
 兄よりも、自分の方が体力的には自信があるのだ。
 兄が文句も言わずに歩いているのに、自分だけが、愚痴を零しても、始まらない。
 しかも、烈には、マネモネと言う荷物まであるのだから、文句など言えば、そのまま怒鳴られて、確実に置いていかれる事など、想像がつきすぎる。

「たかだか、一日歩くぐらい……」

 自分に言い聞かせるように、山道を歩き出す。
 先の見えない道に、再度ため息をつきながら……。






「着いた!!」

 町の門が見えた瞬間の、豪のその声に、烈も顔を上げる。
 流石に体力的には限界を迎えているのが、正直なところ。

「そうみたいだな……この町は、温泉が有名らしいから、ゆっくりと出来るぞ」
「ラッキー!」

 小さく息を吐いてから、説明を受けた事に、豪が嬉しそうに目を輝かせている。
 そんな現金な弟に、苦笑を零して、町の門を見上げた。
 閉ざされている門は、魔物達が襲ってこないように頑丈に出来ている。

「へぇ、結構、大きな町みたいだな」

 見上げる門の大きさに、感心しながら、豪が門を開けてもらおうと辺りを見回す。

「って、門番がいねぇじゃん」
「……確かに、変だな……」

 普通なら、門番が居る筈なのに、その姿は見えない。
 それに、違和感を感じた烈が、ふっと空を仰いだ。

「やっぱり、変だ……」
「ああ??」

 ボソリと呟いたそれに、豪は意味が分からないと言うように問い掛けようとした瞬間、烈の体が、フワリと宙に浮く。

「って、兄貴?!」
「お前はそこに居ろ!マネモネ、お前もだ!!」

 自分の肩に乗かっているマネモネを豪に押し付けて、そのまま門よりも高く浮上する。
 その姿を見送る形になった豪は、盛大なため息をついた。

「疲れてるのに、魔法使ってどうすんだよ……」

 体力的に限界にきているはずの兄を知っているだけに、心配するなと言う方が、無理な話である。
 しかし、今の自分にはどうする事も出来ずに、ただ無事を祈るだけしか出来なかった。

「お前、大きな鳥にでもなって、俺を中に……って、訳には、いかないよなぁ」

 自分の腕の中に居る存在に、そんな事を呟いて、もう一度盛大なため息。
 マネモネの特色を生かせば、きっとこんな門など直ぐに乗り越えられると分かっているのだが、自分には、その能力を使いこなせないでいた。
 烈なら、マネモネの力を使えるかもしれないが、既にその姿は、門の向こう側に消えている。

「ピー!」

 しかし、その瞬間、マネモネが、まるで豪の呟きに答えるように泣き声を上げると、その姿が大きな鳥の姿を作り出した。

「……スゲー」

 目の前で見せられたその変身能力に、豪が歓呼の声を零す。
 これが、ハンターたちが、マネモノを欲しがる理由。

「よし!兄貴を追いかけるぜ!!」
「ピー!!」

 その背に乗って、門を飛び越える。
 烈の後を追うように……。





 町の中は、静まり返っていた。
 人の気配はするのに、何処か怯えたような空気が流れている。

「……人は、居るのに……一体何が?」

 所々で荒らされているようなそれ、しかも、鋭い爪で引っかいたような傷後は、魔物が付けたものだと分かるから……。

「門は、閉ざされていた。なのに、何故魔物が……?」

 疑問に思った事を口に出した瞬間、ハッとして振り返る。
 そして、そのまま右に飛び退く。。

「鳥類系の魔物???」

 自分に襲い掛かってきた魔物の正体に、烈はただ驚きの声を上げた。
 普段は、決して人里には姿を見せない、鳥類族。
 生息しているのは、山の頂上や崖付近。

「何で……」

 信じられないと言う気持ちだけが、疑問になる。
 しかし、そんな自分に容赦なく次の攻撃。

「『……襲いくる敵を回避せよ……壁!』」
「ギャ〜っ!!」

 襲い掛かっていた魔物の悲鳴が、辺りに響き渡る。
 烈の前にある、見えない壁に弾かれて……。

「また、厄介な魔物だね……鳥類は、集団で行動する……今ので、周りにいた仲間が、集まってくるって、事だろうねぇ……」

 ダメージから回復出来ずに、自分の直ぐ傍でバタバタと暴れているその姿を見詰めながら、人事のように呟いて、苦笑を零した。

「……役に立たないけど、あいつも連れてくるべきだったな……」

 そして、今表に置き去りにしてきた弟の事を考えて、再度ため息をつく。

「……来た…16匹か……群れにしては、小さい方だね」

 どんどん集まってくる魔物の姿に、剣を鞘から抜いて手に持つ。

「依頼でもないのに、魔物狩りなんて、趣味じゃないけど、襲われたら、相手をするのが、礼儀って、ね!!」

 ダメージを受けて暴れていた魔物が、後ろから自分に襲い掛かってくるのを避け、そのまま鳥類の急所でもある首へと剣を突き刺す。
 断末魔の悲鳴を上げて、魔物が動かなくなるのを横目で確認しながら、同時に襲ってきた残りの攻撃を、大きくジャンプして民家の屋根に登る事で避ける。

「本当、疲れてるって言うのに、あんまり労働させないで欲しいよね」
「兄貴!!」
「豪?!」

 今にも襲い掛かってきそうな群れの姿に、突然の声が邪魔をする。
 しかし、聞きなれたその声に、烈は驚いたように視線を向けた。
 どう考えても、弟があの門を越えられるとは、思っても居なかったから……。

「どうやって……ああ、マネモネか…」

 自分に嬉しそうに擦り寄ってくるその生き物に、納得したと言うように頷いて、笑みを零す。

「体力バカも来た事だし、僕は、楽をさせてもらおうかな」
「バカは、余計だっての!!」

 邪魔をした相手である自分に、遠慮も無い攻撃を仕掛けて来る魔物の一匹に、烈が持っている剣よりも大きなそれが、その羽を切り裂く。

「……バカ力……」

 ボソッと呟いて、そのまま屋根から飛び降りると、豪の傍へと移動する。

「……さっさと仕舞付けるぞ!豪、呪文唱えてる間、任せた」
「おう!って、兄貴?!」

 当然のように言われた言葉に、返事を返した瞬間、言われた内容にギョッとして慌てて振り返った。
 その瞬間、また魔物の鋭い爪が襲い掛かって来る。
 それを、烈の剣が弾き返す。

「ほら、余所見してる場合か?しっかり盾になってろ!」

 無茶苦茶な事を言われているのに、逆らう事など出来る筈もない。
 静かに目を閉じた烈に、盛大なため息をつき、豪は自分達に向ってくる魔物を睨み付けた。

「……たく、難しい事、言ってくれるよな……」

 ニ、三匹なら、簡単なことかもしれないが、十匹以上の魔物では、流石に完全に防ぎきれる自信は、薄い。
 しかも、鳥型で、空から襲われては、何時も以上に苦戦してしまうのは、否めない事だ。

「……出来るだけ、早く頼むぜ、兄貴!」

 烈を背に庇いながら、自分たちに襲い掛かってくる者だけを相手にする。
 鋭い爪で襲い掛かってくるそれらに、剣を振り回しながら、豪はもう一度ため息をついた。
 疲れているのは、烈だけではない。
 流石に、ずっと山道を登って来た状態なのだ、疲れていない方が、無理な話とも言えるだろう。

「『雲よ、暗雲持ちし、雲よ集いたまえ……我頭上にて、その姿を集え。風よ、我等を護る壁となれ……今、その姿見せよ』……『風壁!!』」

 烈の言葉と共に、魔物を囲み込むように風の壁が出来る。
 そして、目を開いた烈が、不適な笑みを浮かべた。

「待たせたな、豪。続けて『雷鳴、招来!!』」
「って、マジかよ!」

 聞きなれた呪文の言葉に、豪が驚きの声を上げるが、既に後の祭り状態である。
 自分の声が、突然の落雷によって、掻き消されてしまう。
 大きな落雷は、風で出来た輪の中へ見事なまでに落ち、魔物達すべてに直撃して、消えた。
 辺りに響き渡ったそれが、漸く落ち着いた頃、目の前には数十体の魔物の黒焦げ姿が散らばっている。
 それを目の前に見付けて、豪は盛大なため息をつく。

「……普通、街中で、あんな大技使うか??」

 魔物たちを囲むように出来た風も、何時の間にか収まっている。

「さっさと終わらせたかったからな。民家に被害はゼロだし、問題は無いだろう」

 しかし、自分の言葉に返されたのは、無常なそれ。
 確かに、魔物達を包むように風の壁が出来上がっていて、民家などを護っていたのは認めるが、流石にそれだから問題が無い訳ではないように思うのだが……。

「疲れた。さっさと、宿屋探して休むぞ」

 本当に疲れきっている表情に、思わず頷き返す。
 あんな大技を使えば、山登りなどしていなくっても、疲れるだろう。

「あの、すみません……」

 魔物たちと戦った後だと言うのに、緊張感など残されていない二人に、申し訳なさそうな声が掛けられる。
 それに、二人は同時に振り返った。
 そこに立っていたのは、老人といっても言いぐらいの一人の男と、その後ろには町の人間だろうと思える人達。

「あなた方は、ハンターですか?」
「まぁ、一応は、そうなるな」

 振り返った自分たちに、突然の質問。
 それに、豪が、言葉を返した。
 その言葉に、やっぱりと言うように、嬉しそうな表情を見せる男に、烈が何かを感じて、首を傾げる。

「失礼ですが、ボクたちに、何か?」
「す、すみません。あまりにも見事な戦い振りだったもので、お礼の言葉も、ありませんで……私は、この町の町長をしております」

 深く頭を下げる男に、烈と豪は、思わず顔を見合わせた。
 こう言う展開は、自分たちにとっては、あまりありがたくはない展開なのだ。

「魔物の群れを倒してくださり、本当に有難うございます。そこで、その腕を見込んで、お願いがあるのですが……」

 礼の言葉と続けられたその言葉に、二人は『やっぱり』と盛大なため息をついた。

「まぁ、乗りかかった船だ……お話を聞かせていただけますか?」

 初めはボソリと呟いて、烈が深くため息をついてから、町長だと名乗った男へと声を掛ける。
 それに、町の人々が嬉しそうに声を上げた。余程、困っていたのだろう、その喜び方は、思わず後退りしたくなるほどのモノである。
 そんな町の人々を見ながら、烈と豪は、再度盛大なため息をつくのだった。








 

        


  
はい、こちらも再Upの『ハンター』です。
  いや、見れば、分かるって……xx
  
  この回は、続き物ですね。
  本当は、豪誕に、続きがUPされる予定だったのに……xx
  駄目駄目管理人で、本当にすみません。