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魔物は、人を襲い。世界は、混沌の中に存在する。
人々は、その恐怖に怯えながら生きていた。
そして、その魔物を倒すために旅をする人間が存在する。
人々は、その者達の事をハンターと呼ぶ。
「兄貴!」
大きな声で自分を呼んでいる相手に気が付いて、顔を上げれば、自分の方に走ってくるその姿が目に入る。
「やっぱりあの森がそうだってよ!」
そして、続けて言われたその言葉に、椅子に座って地図を見ていた少年が盛大なため息をついた。
「……お前が見つけて来る依頼は、本当に厄介なのが多いよなぁ……」
「って、今回は、兄貴が!」
「はいはい、お前に任せたボクが悪かったよ…」
盛大にため息をついて、少年は持っていた地図を折り畳む。
「そんな事よりも、ちゃんと依頼人には会ってきたのか?」
「バッチリ!」
地図を鞄に入れながら、自分の直ぐ傍に座った相手に尋ねれば、嬉しそうな笑顔を見せてブイサイン付きで頷く。
そんな相手に思わず不安を覚えてしまうのは、今までの経験からかもしれない。
「…本当か?」
だから、疑わしい目で相手を見詰めながら問い返せば、少しだけ不機嫌そうな顔で見詰めてくる。
「当たり前だろう!…でも、こんな子供で大丈夫なのかってさ……たく、これでも一流だって言うのに信じないんだぜ」
力強く返事を返してから、その後に盛大なため息をついてコップに入った水を一気に飲み干す。そんな弟の姿に、兄が呆れたようにため息をつく。そんな事は、今に始まった事ではないのだから……。
「それは、仕方ないさ。だけど、結局は、依頼をこなせるかどうかで全てが決まる。その点で言えば、ボク達は合格さ」
目の前でむくれている弟を前に、笑顔を見せてその頭に手を乗せた。
魔物退治。それが、自分達の仕事である。
だから、子供である自分達がそんな危険な事をしているなど、普通は思わないだろう。
「で、兄貴の方は情報集められたのか?」
「誰に向かって聞いてるんだ?もう、対策もバッチリに決まってるだろう」
自分の質問に、当然のように返されたそれに、弟が感心したようにため息をつく。
「流石、兄貴」
「当然だ!まぁ、厄介なのは、森の中って事だな……ターゲット以外の魔物がどれだけ居るか考えただけで、疲れる」
疲れたように盛大なため息をついた兄を前に、思わず苦笑を零す。
「で、今回の報酬は?」
目の前で苦笑を零す弟に、真剣な表情を見せて尋ねる。
「…ターゲットは、森の洞窟に住む魔物。報酬は、5000リル(100リル=千円)」
「リスクが大きいのに、ずいぶん安いな……」
すっと取り出された紙を手に持ちながら、思わず愚痴を零す。
そんな兄に、小さくため息をついた。
「ターゲットが正確じゃねぇらしい。兎に角、でっかい化け物に襲われたから、退治して欲しいってのが希望だと」
「……いい加減だな…まぁ、一般人なら仕方ないか…なら、早く片付けて先を急ぐぞ」
「おう、準備は出来てるんだろう?」
「勿論だ。豪!」
椅子から立ち上がって近くに置いてあった荷物を肩に掛けていた時に、名前を呼ばれて顔を上げる。
「んっ?」
「持っとけよ、気休めだ」
投げて渡されたそれに、苦笑を零す。
渡されたのは、魔除け。
低級の魔物になら多少の効力を持つが、これから向かう場所では、本当に気休めにしかならないものである。
「一応、ボクのオリジナルだ。その辺で売ってるものよりは、期待できるぞ」
だが、続けて言われたその言葉に、笑みを見せてそれをポケットの中へと仕舞い込んだ。
自分の兄が作ったと言うのなら、どんな魔除けよりも効力がある事を身を持って知っているから……。
「で、洞窟って言うのが、この場所で、肝心の魔物は?」
襲ってくる魔物の群れを倒しながら漸くたどり着いたその場所で、呆れたようにため息を付く。
どう見ても、この洞窟の中にターゲットなりそうな魔物は住んでいない。
「知るかよ!大体、このちっこいヤツ、なんなんだよ、兄貴?」
洞窟の中に入った瞬間、目の前に現れたのは、毛むくじゃらの小さな生き物。
それを指差しながら、兄へと質問すれば、呆れたような視線が向けられる。
「…知らないのか?マネモネを…お前、ハンター失格だな……」
盛大なため息と共に、足元にじゃれてくるそれを抱き上げて、それを弟の目の前に持っていく。
「マネモネは、姿変えが得意なんだよ。大人しいが、敵に襲われた時だけ、その姿を違う魔物に似せる。依頼人が見たのは、その姿を変えている時だったんだろうな……まぁ、一ついえるのは、こんな森の中に住むような生物じゃないんだけどね…」
「って、今回の依頼……」
「骨折り損のくたびれもうけってヤツだろうな……まぁ、お前が見つけて来た依頼は、何時もの事だろう」
さらりと言葉を述べて、ため息をつく。
「まぁ、こいつを連れて行ってみて、もしかしたら報酬の半分くらいは貰えるかもな。そうすれば、こいつも、この洞窟で怯えながら生活する事も無いだろう」
「って、兄貴、連れてくのか?」
「マネモネは、飼いならせば、ハンターにとって役に立つ。もっとも、こいつにその意思があれば、だけどね」
兄のその言葉に、小さな生物が甘えるように擦り寄ってみせる。
「決まったな。そんじゃ、町に戻るぞ!」
「……なんか、納得できねぇ……」
「未熟者のハンターには、よくある事だ。これからは、ちゃんと依頼内容を選ぶんだな、豪」
にっと笑顔を見せて言われたそれに、何も返す事が出来ない。
きっと、目の前に居る兄は、こうなる事を知っていたのだろう。
だからこそ、そんに驚いていないのだと分かる。
「……烈兄貴!」
「んっ?」
「……知ってて、俺に教えなかったろう!」
涼しい顔を見せている目の前の兄に、不満をぶつける。
そうすれば、ニッと笑顔を見せる兄が居て……。
「いい勉強に、なっただろう?」
そして、嬉しそうに言われた言葉が、全てを物語っているようだ。

30000HIT お礼小説、手直し版です。
新シリーズ如何でしょうか?
またしても、ファンタジーです。
これから魔法とか剣とか、魔物とか一杯出てくる筈……xx
でも、今回は、この二人が兄弟なので書きやすいと思うんです。
兄貴の性格も、最強シリーズに近いしね。(笑)
そして、これから少しずつ、彼らが何のために旅をしているのかを書いていきたいと思います。
頑張りますねvv
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