「さて、家事は全部終わったよね」
 
 掃除を終わらせて、時計を見れば既に11時を回ったところ。

「洗濯終わったし、掃除も終わった。夕食の準備は……今日は大丈夫だよね。明日は、約束通りロールキャベツ作ろう。それじゃ、そろそろ準備しないと……………でも、どうしようやっぱり、あれ、実行しようかなぁ……」

 自分が呟いた事に、顔が赤くなるのは止められない。
 何故、あんな事を考え付いてしまったのか……?

「……やっぱり、豪の事好きだからなんだろうなぁ……」

 ため息をついて、諦めたように呟くと、ソファに座り込む。

「……いけない!ゆっくりしている場合じゃないんだ。どうしよう……でも、何時もの格好だと、恋人同士には見えないし……こんなチャンス無いんだから、覚悟決めて、準備しようかなぁ……」

 既に、そんな事を考えている事事態が、何時もの自分ではないと解ってはいるのだが、今なら全てが薬の所為だと言い訳できる。

「うん、そうだよね!準備、しよう」

 意を決して、ソファから立ち上がると、準備をするためにリビングを後にした。






「やべー、完全に遅刻だぜ。兄貴、待たせちまった」

 時計を見ながら、待ち合わせ場所へと急ぐ。既に、烈との約束の時間から30分は過ぎている。

「……何だ?何で、烈兄貴との待ち合わせ場所に、ヤローが群がってんだ?」

 烈との待ち合わせ場所には、数人の男達が居るのが目に入ってきた。
 しかも、花時計を囲むように立っている男達は、誰かを見ているようで……。

「まさか!」

 自分が考え付いた事に、慌ててその場所に走る。
 そして、数人の男達を押しのけると、烈が待っているであろう場所に急いだ。

「……たく、誰だよ。あんな可愛い子待たせてる奴。何なら、代わってやりてぇよな」

 ナンパに失敗したのだろう一人の呟きが聞こえてきた時、豪は思わず首を傾げてしまう。

『可愛い子?それって、烈兄貴の事か?確かに烈兄貴は可愛いけど、でも兄貴は男だし……そりゃ、薬で女になってるかもしんねぇけど、きっと格好は、何時も通り……』

 男の言葉に、急いで人を掻き分けていけば、豪は漸くその意味を理解する。
 花時計の前で見られている事に、恥ずかしそうに俯いている姿は、確かに烈なのだが、その格好は、自分が想像していたものとは遥かに異なっていた。
 コートを着ているので、詳しい格好は解らないが、黒のコートの下から見えているのは、どう見てもスカート。
 一瞬、思考回路が全てストップしてしまうくらい、マジマジと見詰めてしまう。
 確かに其処に居たのは、男が呟いた通り、可愛い女の子がいたのだから……。

「豪!」

 驚いて声も出ない自分に、気が付いたのだろう。
 嬉しそうな声で名前を呼ばれて、我に返った。
 しかも、それと同時に、周りの視線も豪に集中する。

「あっ、烈……あっ……」

 釣られて名前を呼ぼうとしたが、それは、慌てて走り寄って来た烈に遮られてしまう。

「遅いぞ!ほら、早く移動しよう……ボク、こんな中で居るの、駄目なんだから……」

 豪の口を押さえて、小さな声で文句を言うと、烈はこの場を一刻も早く離れたくって歩き出す。
 豪も急かされるままに、烈の後に続いた。
 その後姿に、多くの視線が向けられているのを感じながら……。





「やっとで落ち着いた」

 近くの喫茶店に入って、腰を落ち着かせたと同時に、烈は大きく息を吐き出す。
 着ていたコートは、脱いで隣の空いた席に置かれている。
 豪は何も言わず、ただマジマジとそんな烈を見詰めてしまう。
 モスグリーンに、裾の方にだけ小さな花の模様を散りばめたフレアスカート。
 そして、薄茶色のハイネックセーター。
 それが、なんの違和感も無く似合っているのだ。

「んなに見るなよ……結構、勇気がいったんだからな」

 拗ねたようにそっぽを向く烈を、豪はそのまま見詰めながら、真剣な瞳をむける。

「……なぁ、烈兄貴。俺が来るまでに、何人の男に声掛けられた?」

 突然の質問に、烈は意表を付かれたように驚いて豪に視線を戻す。

「はぁ?な、何、言って……」
「だって、あそこに居ただけでも5、6人は居たじゃん。その男達がさぁ、声も掛けずに居るなんて……」
「だ、だからって!ボクがその誘いに乗るとでも思ってるのか?」

 豪の言葉を遮るように、烈が強い瞳で豪を睨み付ける。
 そんな烈に、豪は苦笑を零すと首を振った。

「思ってねぇよ。誘いに乗ってたら、烈兄貴ここに居るはずねぇもん。大体、そんな誘いに乗るなんて、これぽっちも思ってねぇからな。ただ、烈兄貴が俺の為に女の格好してくれてるってのに、すげー感動した」
「バカ…… ///」

 優しい眼差しと、嬉しそうに笑う豪に烈は顔を赤くしてそっぽを向く。

「ところでさぁ、烈兄貴。その服どうしたの?」
「えっ?ああ……これは、母さんの服だよ」

 不思議そうに尋ねられた事に、まだ少し顔を赤くしたまま、烈がスンナリと答える。
 その言われた事に、豪は驚いたように瞳を見開いた。

「母ちゃんの?でも、母ちゃんのだと、サイズ合うようなのねぇんじゃ……」
「……母さんに、そんな事言ったら、ただじゃすまないと思うぞ、豪……でも、勘違いしてるみたいだから教えるけど、この服は、母さんが若い頃のヤツ。母さんって、そう言うの大事に取ってあるって知ってたから……昔、着せ替え人形にされた事あったしね……」

 苦笑しながら答える烈に、豪は思わず笑顔を返す。

「へーっ、そん時、見たかったなぁ。烈兄貴、母ちゃんには逆らわねぇから、母ちゃんも面白がってたんだろう。それに、烈兄貴って着せがいありそうだもんなぁ」

 これが、自分だったら、思いっきり似合わないだろうと苦笑を零してしまう。勿論、想像するのも勘弁してもらいたいものだ。

「でも、母ちゃん昔は細かったんだなぁ……今の兄貴のサイズと同じくらいだろう?」
「う〜ん、正直言うと、ちょっと大きいんだ……ウエスト、ベルトで締めてる。セーターは自分のだし、借りたのは、スカートだけだよ」

 感心したように言われた事に、烈は苦笑しながら答えを返す。
 それに、豪はものすっごく納得して大きく頷いた。
 何せ、烈は本当に細いのだ。その辺の女の子よりも、ウエストが細い。
 正直言って、何時も服を買うときサイズが無くって困っているのを豪は良く知っていた。

「納得って事で、んじゃ、これからどうする?」
「んっと、そうだなぁ……豪の希望は?」

 小首を傾げるように尋ねられて、豪は思わず苦笑を零した。

『兄貴って、無意識でこう言う表情見せるから、たまんねぇんだよなぁ……』

 自分の目の前で、不思議そうに見詰めてくる相手に、ため息をつく。

「豪?」
「あっ、なんでもねぇよ。腹減ったなぁって思っただけだかんな」
「なら、いいけど……」

 納得出来ないという表情をしているが、それでも深く追求しないでくれるのが、烈である。

「それじゃ、頼んでた料理も来たし、食べながら考えよう。豪も、お腹空いてるみたいだしね」

 運んで来られた料理に、ニッコリと笑うと、自分の頼んでおいた料理を前に、ペコリと頭を下げた。

「戴きます……」

 烈が選んだ料理は、カルボナーラとサラダにチキンスープ。フォークとスプーンを使って、器用にスパゲティを巻き付けてると、それを口に運んだ。

「んっ、美味しいv」

 一口口に運んで、満足したように笑うと目の前の豪に視線を向けた。

「食べないのか?お腹空いてるんだろう?」

 自分の事をずっと見ている豪に、少しテレながら声を掛ける。

「食べるよ。でも、烈兄貴がすっごく幸せそうだから、見てて幸せになってた」
「なっ /////」

 嬉しそうに笑いながら、サラリと言われた言葉は、余りにも恥ずかし過ぎて、キザ過ぎた。
 何か、悪いものでも食べたのかと、本気で心配してしまう。

「お前、言ってて恥ずかしくないか?」
「なんで?本当の事だから、恥ずかしくねぇよ。それに、一昨日までは、烈兄貴とこんな時間持てるなんて、夢にも思ってなかったから、幸せだって思うのは当然だろう」

 本当に嬉しそうに語られる内容に、烈は申し訳なさそうに、瞳を伏せる。

「……ボクが、ちゃんと自分の気持ちを伝えられなかったから……」

 申し訳なさそうに項垂れてしまった烈に、豪は苦笑を零した。

「違うだろう、兄貴。烈兄貴が、勇気を出してくれたから、今の時間が、持ててるんだぜ。こんな時間が持てるのは、兄貴が俺を受け入れてくれたからだ。だから、俺は、烈兄貴に感謝してるんだけど?」

 苦笑を零しながら言われたそれに、レツは不思議そうに首を傾げる。

「……感謝?」
「そっ、感謝。俺の気持ちに、答えてくれて有難うって……」

 嬉しそうに微笑む姿に、烈も笑顔を返す。

「……それなら、ボクだって感謝してるよ。豪が、ボクの事スキだって言ってくれた事、本当に嬉しかったから……だから、有難う、ボクを好きになってくれて…」

 少しテレながら言った言葉は、心から思っている事。
 どんなに好きでも、相手が自分の気持ちに答えてくれない時だってあるのだ。
 相手から、同じ気持ちを返して貰える事が、どんなに贅沢な事かをちゃんと知っているから……。

「……じ、自分で言ってて、すっごく恥ずかしいや……ほら豪、料理冷めちゃうから、食べよう……」

 自分で言った言葉に顔を赤くしながら、慌てている烈に、豪はもう一度笑顔を見せた。
 照れていると、十分に解る烈の態度は、見ているだけで笑顔を誘う。

「……笑うな、バカ……本当に、恥ずかしいんだからな」

 自分を見ながら笑っている豪の態度に、少しだけ拗ねたように呟いて、悔しそうに豪を睨み付けるが、その威力は皆無に等しい。

「……怒らせたい訳じゃねぇよ。でも、兄貴が可愛いからいけないんだぜ。本当、自分が、幸せだって実感しちまう」

 嬉しそうな笑顔を見せる豪に、烈は少し頬を赤くしてそっぽを向く。

「…笑ってから、そんな事言っても遅いよ……」
「笑ってからって……俺、本当にそう思ってるんだけど…」

 烈の言葉に、困った様に苦笑を零して言われた事に、烈は自分の頬がますます赤くなるのを感じて、慌て首を振った。

「し、知らない!」
「知らないって、ひでぇなぁ……俺は、こんなにも烈兄貴の事、思ってるのに……」

 真っ赤になった顔を逸らす烈に、笑顔を向けながら少しだけからかう様に豪が文句を言う。
 勿論、それは楽しそうに笑いながら言われただけに、烈は不機嫌そうに豪を睨み付けた。

「……お前、ボクの事からかって楽しいか?」
「からかってなんてねぇよ、本当の事だもん。だから、俺の事信じてよ」

 ニッコリと嬉しそうに語られたそれに、烈は疲れたように息を吐き出す。

「もう、いいよ・・・・・・料理冷めるぞ、豪・・・・・・」

 何時までも終わりそうにない会話を打ち切って、烈はもう一度溜息をつくと今度こそ食事に集中する。
 そんな烈を、嬉しそうに見詰めながら、漸く豪も料理に箸をつけた。
 少しの間、食事をしているので、静かな時間が流れるが、その沈黙を先に破ったのは烈。

「豪・・・・・・これから、どうするのか考えたのか?」

 途中ですっかり話しするのを忘れてしまっていた事を思い出したように尋ねれば、苦笑して返される。

「だよなぁ・・・・・・本当、烈兄貴は、希望ねぇの?」
「・・・・・・あれば、言ってる・・・・・・でも、そうだなぁ・・・・・・久し振りに、海に行きたい・・・・・・」
「海?」

 ぽつりと言われた言葉に、思わず聞き返してしまう。
 この寒空の下、好き好んで海に行く人物はそうそういるものではない。
 自分は、寒いのにも暑いのにも全然平気なのだが、目の前に居る兄は、寒いのが極端に苦手なのである。

「やっぱり、駄目か・・・・・・」

 少しだけ残念そうに、呟いて溜息をつく姿に、豪は慌てて口を開いた。

「駄目って訳じゃねぇけど・・・・・・兄貴、寒いの苦手じゃねぇか・・・・・・大丈夫なのか?」
「・・・・・・大丈夫じゃないかもしれないけど、お前と海に行きたいんだよ・・・・・・それに、豪が居れば・・・・・・・」

 言おうとした言葉に自分で気付いた瞬間、顔が赤くなるのを止められなくなる。

「あ、兄貴?」

 突然目の前で顔を赤くしている兄に、豪は不思議そうに首を傾げた。

「な、何でもない・・・・・・そんな事より、駄目なのか?」

 少しだけ不機嫌そうにいわれた事に、慌てて首を振る。

「勿論、OKだぜ。兄貴が、寒いの大丈夫だって言うんだったら、俺が反対する理由なんてねぇからな」

 ニッコリ笑顔と共に言われた言葉が、更に顔を赤くさせるのを止められない。
 何でもない言葉でも、相手が豪だと落ち着かなくなる。
 今までだって、二人きりなんて当たり前だったのに、今はまともに顔を見る事も出来ないなんて、きっと自分はどうかしてしまったのかもしれない。

『なんで、こんなに胸がドキドキするんだろう・・・・・・なんだか、ボクの心じゃないみたいだ・・・』


「兄貴?どうかしたのか?」

 自分から顔を逸らして、胸に手を当てる烈に、豪は心配そうに声を掛けた。
 先程から、落ち着きの無い烈の様子が気になって声を掛けたのに、それは大きく首を振って否定されただけで終わってしまう。
 そんな烈の態度に、豪は困ったような表情を見せるが直ぐに思い当たった事で、慌てて口を開く。

「本当に、大丈夫なのか?薬の所為で、またどっか変になってるんじゃ・・・・・・」
「ち、違う!・・・・・・と、思う・・・・・・でも、そんなんじゃなくって・・・・・・な、なんでもない!本当に大丈夫だ」

 豪の質問に、もう一度大きく首を振りながら、烈が慌てて否定する。
 それでも、今は自分の心が理解出来なくって、どう答えを返すべきなのかが、分からない。

『ボク、本当にどうしちゃったんだろう・・・・・・薬の所為で女の子になって、思考まで影響されてるのかなぁ・・・・・・じゃなきゃ、豪の事をこんなに意識するなんて・・・・・・』

 訳の分からない感情が理解できなくって、烈は大きく首を振る。

「・・・・・・本当に、大丈夫なのか?」

 そんな自分の態度に、もう一度念を押すように尋ねられて、烈は小さく頷いて見せた。

「・・・・・・ならさぁ、俺からも言ってもいいか?」

 烈の態度に疑問を感じながらも、頑なに首を振る姿に諦めたように小さく息を吐き出すと、口を開く。

「兄貴とこうしてるっての俺、すげぇドキドキしてる。だからさぁ、兄貴となら、何処でも一緒に行きたいって思ってるから、その事頭に入れといてくれよ・・・・・・」

 突然言われた事に、烈は驚いて顔を上げて豪を見た。
 見上げた先には、少し照れたように、鼻の頭をかいている豪が、窓の外に視線を泳がせている。
 そんな豪の態度に、烈は少しだけ瞳を見開いて、その後笑顔を零した。

「・・・・・・本当、お前には負けるよ・・・・・・」

 自分と同じ気持ちでいると、素直に伝えてくる弟に、心が軽くなるのを感じる。
 無意識なのに、ちゃんと自分の気持ちを知っていてくれるから、誰よりも一緒に痛いとも思えるのだ。

「・・・海、見に行こう・・・・・・今からなら、夕日見れるだろう」

 だからもう一度だけ、自分の気持ちを伝える。
 君とだったら、寒くはないから・・・・・・・。

「兄貴?」
「うん、大丈夫!」

 心配そうに見詰めてくる豪に、満身の笑顔を見せて、烈が頷く。
 この気持ちが、自分だけじゃないと分かったから、認めえしまえる。
 君が、素敵だって事。

「食べ終わったんなら、出よう。時間、勿体無いだろう?」

 笑顔を見せながら、椅子から立ち上がる。
 さり気無く自分の荷物と伝票を手に持って、歩きだした烈を慌てて豪が呼び止めた。

「烈!」

 突然呼ばれた名前に、烈は驚いて立ち止まると、後ろを振返る。
 呼び捨てなんて初めてだから、知らない人に名前を呼ばれたみたい。

「これは、俺が払うよ。今日は、カップルだろう?」

 驚いて立ち止まっている自分の手から伝票を取り上げると、ウインク付きで豪が笑顔を見せた。
 ドキッとさせられるその笑顔に、顔が赤くなるのを止められない。

「だって、その格好で、兄貴なんて呼べないよ・・・・・他の奴らにだって、変に思われるぜ、烈兄v」

 顔を赤くして立ち止まっている烈に、さり気無く耳元で囁かれた言葉。
 嬉しそうなその笑顔で言われた事に、烈は内心複雑である。 

『もしかして、ボク・・・・・すごい事、しちゃったのかも・・・・・・xx』

 後悔とは、後に悔やむモノ。
 この先、平和なデート(?)なんて出来るのか、相手の行動に振り回されてばかり。
 さてさて、どっちらが優位なのかなんて、きっと誰にも分からない。
 もっとも、本人達には、分からないだろうが・・・・・・xx

 

 

                        

 



    って、事で終わってません。しかも、『1』よりもかなり短くなりました。

    何だか、コメディになっているように思うのは私だけでしょうか?
    何度、お前らいい加減にしろ!って言った事か分からないほど、苦手なラブラブ状態!!

    いや、ウチのは基本的にラブラブなんですが、苦手なんです。<苦笑>
    信じてください!!(誰に言ってるんだ・・・・・・xx)
    そんな訳なので、終わりませんでした。ごめんなさい。(><)
    『3』で終わるといいですねぇ・・・(もはや、希望・・・)

    次号は、烈が希望した海!どんな状態が待ち受けているのか?
    さらなるラブ状態になったら、私に書けるのか!!(おいおい)
    そして、烈は本当に男に戻れるのでしょうかねぇ・・・・・・。(遠い目)
    それは、私にも分かりません。<苦笑>