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一番近い海は、30分歩いて辿りつける場所。
「やっぱり、ちょっと寒いなぁ・・・・・・」
砂浜を歩きながら、烈が小さくぼやいた事に、豪が慌てて自分の首に巻いてあるマフラーを外そうとする。
「だからって、お前のマフラーなんて、しないからな!!」
豪の行動を横目に、烈が先に釘をさす。
不機嫌そのままで言われた事に、豪はその手を止めて苦笑を零した。
「でも、兄貴・・・・・・」
「知らない!寒くないから、お前のなんて必要ないの!!」
ここに着く前から不機嫌な烈に、豪は内心溜息をつく。
理由は、思い当たる事がいっぱいありすぎて、どれが一番なのか分からない。
話し掛けても、自分の言葉にちゃんと答えを返してくれないのは、怒っているからとしか考えられないだろう。
「烈兄貴、寒いんだったら、やっぱり俺のマフラー・・・・・・」
「いらないって、言ってるだろう!寒くなんて・・・・・・」
無理矢理マフラーを差し出された事に、烈が文句を言おうとした瞬間小さくくしゃみをする。
「ほら、寒いんだろう?俺は、寒いの大丈夫だから・・・・・怒ってるのは分かるけど、兄貴に風邪ひかれたくないから・・・・・・」
体を小さく震わせる烈の首に無理矢理マフラーを巻きつけ、豪は小さく息を吐き出した。
本当に、何に対して怒っているのか分からないが、ここで無理をすれば完全に烈は風邪をひいてしまうだろう。
それじゃなくっても、熱を出しやすい体質をしているのだから・・・・・・
「・・・・・・お前なんて、大嫌いだ!バカ、豪・・・・・・」
無理矢理巻かれたマフラーに顔を埋めて不機嫌そうに返されたそれは、自分の胸を突き刺すような言葉。
本当に、何に対して怒っているのか分からないだけに性質が悪い。
最も、一番の原因はアレだと分かるだけに、全ての責任は自分にあるのだ。
「烈、兄貴・・・・・・」
「スカートなんて穿くんじゃなかった・・・・・・寒いし、何にもいい事なんて無い・・・・・・」
文句を言いながら、もう一度小さくくしゃみをする。
そんな烈を前に、豪は小さく溜息をつく。
「でも、俺はすっごく得した気分なんだけど・・・・・そりゃ、兄貴にしたら、嫌かもしれないけどさぁ・・・・・・やっぱり、こうやって兄貴と並んでて恋人同士に見られるのって、俺は嬉しい」
真剣な瞳で言われたそれに、烈は一瞬瞳を見開いて豪を見詰めてから、頬を少しだけ赤くしてゆっくりとそっぽを向く。
「・・・・・・バカ・・・知らない・・・・・」
明らかに照れていると分かる烈の態度に、豪は小さく笑みをこぼす。
要するに、烈が不機嫌だったのは、全て照れ隠しだったと悟っただけに、楽しいと思う反面どうしても可愛いと思ってしまうのを止められない。
『ここで、可愛いって言っても、怒らせるだけなんだろうなぁ・・・・』
などと考えて、苦笑をこぼす。
だから、寒そうに小さく震えている烈を優しく後ろから抱き締めた。
「ねぇ、兄貴、これでもまだ寒い?」
そして、からかうようにそのまま烈の耳元で優しく囁けば、瞬時にその耳が真っ赤に染まる。
「なっ、な、なに言って・・・・バカ!寒くないから、さっさと離れろ!!」
顔を真っ赤に染めたまま、何とか自分から豪を引き剥がそうと暴れる烈に、豪はもう一度苦笑をこぼす。
「・・・・お前、ボクの事からかって、楽しむのやめろよ!!」
力では全く叶わない上に、自分の事を離そうとはしない豪に、烈が真っ赤な顔のまま抗議の声を上げた。
それに嬉しそうに笑顔を見せると豪は小さく首を傾げて見せる。
「なんで?俺は、楽しんでなんていないぜ。ただ、純粋に烈兄貴が寒くないように暖めてやろうとしてるだけじゃん」
嬉しそうな笑顔を見せながら言われたそれに、烈が憎らしそうに豪を睨み付けた。
そのどう見ても楽しんでいるようにしか見えない豪の態度に、烈は再度その腕から逃れようともがきだす。
「離せ、馬鹿!!」
「うん、俺馬鹿だからvv 兄貴の言う事聞けないよなぁ……」
悪態を付く烈に嬉しそうな笑顔で返事を返せば、一瞬だけその動きが止まった。
「兄貴?」
突然大人しくなった烈に、思わず心配してその顔を覗き込もうとした瞬間、バッと顔を上げた烈の頭が見事なまでに、顔面にヒットしてしまう。
「イテェ!!」
烈の突然な行動に、対処できなかった豪は、そのまま自分の鼻を抑えてその場に座り込んでしまった。
烈は、自分の頭に感じた衝撃に、訳が分からず、思わず驚いたように豪を振り返る。
そして、蹲っているその姿を見た瞬間、漸く何が起こったのかを理解した。
「…だ、大丈夫か、豪!」
顔面を両手で抑えている豪に、慌ててその場に座り込んで、烈が心配そうに声を掛ける。
自分の頭に感じたその痛みから、思わず心配してしまうのは当然の事であろう。
自分の言葉にも何の反応も返さない相手に、烈はどうしたものかとおろおろしながら、ただその様子を見詰めるしか出来ない自分に、思わず泣きたくなってくる。
「…豪、ごめん……」
ポツリと小さく謝ってから、烈が俯く。
自分の所為で、相手を傷付けた事に、落ち込んでしまうのは止められない。
どんどん考えていくと、落ち込みは酷くなる一方で、烈は更に泣き出したい気持ちを必死で堪えるように唇をかむ。
「兄貴、大丈夫だから…そんな顔するなよ」
ギュッと目を瞑り泣き出さないようにしていた自分を、フワリと温かい腕が抱きしめた事に、驚いて顔を上げれば優しい青い瞳が、自分を見詰めている。
「豪……」
真っ直ぐに見詰めて来る瞳に、ホッと胸を撫で下ろしながら、それでも少しだけ赤くなっている額に気が付いて、一瞬眉を寄せてしまう。
「……ごめん……」
「大丈夫だって!元はと言えば、俺が兄貴を怒らせるような事したのがいけないんだからな」
苦笑を零すように言われたそれに、烈はなんとも言えない複雑な表情を浮かべた。
確かに、豪が言っている事は間違いではないが、それはただ単に照れ隠しの為だと言う事を、自分自身が一番良く分かっているのだ。
「お、怒ってなんかいない……ただ、お前が、人の事からかうから……」
「だから、からかってないって、俺の正直な気持ちしか言ってないぜ。まぁ、それが兄貴には、嫌だったかもしれないけどな…」
「……ない……」
「えっ?」
ため息をつきながら言ったそれに、小さな声が返される。
それは、余りにも小さすぎて、豪は再度問い返した。
「………嫌、な訳じゃ、ないからな……xx」
小さく少しだけ拗ねたように再度繰り返すように言われたそれに、豪が思わず笑顔を作ってしまう。
時々見せられる素直な態度は、自分を幸せにしてくれると言う事に、気が付いているのだろうか?
「兄貴vv」
嬉しくって、抱きしめている腕に力をこめれば、赤い顔で睨みつけてくる。
それに笑顔を見せて、今は暮れて行く夕日を二人で見詰めた。
人の姿の見えない砂浜を、夕日が照らし出した二人の影だけが見詰める。
「……お前は、寒くないのか?」
ボンヤリと夕日を見詰めていた自分に、ポツリと尋ねられたそれ。
豪は不思議そうに腕の中の存在を見詰めた。
自分の事を見上げてくる視線に気が付いて、思わず笑いがこぼれてしまうのを止められない。
「寒くなんてないさ……兄貴が、居るから……」
自分を見詰めながらの優しい笑顔に、顔が赤くなるのを感じて、烈は慌てて豪から顔を逸らした。
「兄貴?」
自分から顔を逸らす烈に、心配そうに声を掛ければ、何も言わずにただ体を預けるように自分に凭れ掛かってくるのを感じて、豪は笑みを零す。
今は、兄弟だからと言う感じは全く無く、本当恋人同士としか見えない、自分達の姿に、お互い思わず顔を赤くしてしまう。
そして、夕日が完全に海に沈む頃、漸く二人はその場所を離れた。
「…夕飯どうする、兄貴」
手を繋ぎながらゆっくりとした足取りで歩きながら尋ねれば、少しだけ考えてから返事が返ってくる。
「……ボクは何でもいいけど、お前食べたいものは?」
「……体、冷えただろう?だったら、ラーメンでも食いに行く?」
長時間海風に吹かれていたのだ、体は自分達が考えているよりも冷えているだろう。
何時もよりも冷たくなっている手を感じて、烈はその言葉に賛成した。
恋人同士で行くには、色気も何も無いが、寒さにはやはり弱いのだから、許してもらいたい。
「んじゃ、ラーメン食って、今日は帰ろうぜvv」
嬉しそうに言われたそれに頷いて、そのままラーメン屋に急ぐ。
「お疲れ様」
一緒に戻ってきた家のドアを開いて、中に入った瞬間言われたそれに、思わず笑みがこぼれてしまう。
そう言われて見れば、ここ暫くこんなに歩いた事は無い事を思い出して、烈は苦笑を零した。
「……確かに、疲れた……豪、お風呂入れて来てくれよ。ボクはお茶でも入れるから……インスタントのコーヒーでいいか?」
「分った。それでいい……」
烈の言葉に返事を返して、豪がお風呂の準備をするために先に移動して行く。それを見送ってから、烈もそれに続くように上がると、キッチンへと移動した。
コーヒーを入れるために、カップを二つ取り出す。
「えっと、あいつは、砂糖無しで……あれ?」
インスタントコーヒーを棚から出して、カップに入れようとした瞬間、クラリと視界が揺らぐ。
倒れそうになる体を、烈は慌てて近くのテーブルに手を置く事で堪えた。
「……つ、疲れたのかなぁ?」
急激な貧血に、慌てて頭を横に振る。
そんな事をすれば、余計に眩暈を感じて、そのまま体が重力に逆らえずに、崩れてしまう。
「ふっ……イタッ…」
そして、突然自分の体を襲う痛みに、烈はぎゅっと瞳を閉じて、体を抱き締めるようにその場に丸まった。
「兄貴!」
烈に言われた通りお風呂にお湯を入れていた豪は、突然聞こえてきた音に慌ててキッチンへと入って、その場所にうずくまっているその姿に、慌ててその体を抱き起こした。
「兄貴!!」
「…ご、う…体中が、痛い……」
ぎゅっと自分の体を抱き締めている烈の姿に、豪は慌てて烈をリビングのソファーに横たえる。
そして、荒い息をしてい烈をただ心配そうに見詰めた。
この苦しそうな姿は、昨晩の姿に重なる。
多分、烈の体が元に戻っていると分かっていても、苦しそうな烈を前にして何も出来ない自分に、豪はぎゅっと拳を握り締めた。
「……3日は、戻らないんじゃねぇのかよ……J…」
そして、昨晩聞かされた事に、苛立ちを感じるようにそう言った人物の名前を口にする。
「ごう……大丈夫だから……これで、元に戻れるんだろう?」
苦しそうな息の下、にっこりと自分に笑顔を見せるその姿に、豪はそっと自分に差し出された手をぎゅっと握り締めた。
「……兄貴…でも……」
ぎゅっと手を握り締めて、苦しそうに息をしている烈をただ見詰める。
「…豪が居るから……ボクが望む事してくれたら、絶対に、大丈夫だから……」
「烈兄貴の望む事?」
弱弱しい笑顔と共に言われたそん言葉に、豪は分からないと言うように、烈を見た。
「……昨日と同じ事……」
少しだけ顔を赤くして呟かれたその言葉に、豪は昨日を思い出すように思考を巡らせる。
「幾らでも、してやる!って言うか、俺の方が望んでる事だ!!」
「……だったら、してくれよ……」
すっと豪の頬に手を伸ばして、烈がゆっくりと瞳を閉じた。
それに合わせるように、豪も誘われるように烈にキスをする。
「……うん、大丈夫……」
離れた瞬間、にっこりと笑顔を見せて、そのまま烈は気を失ってしまう。
「結局、元に戻って良かったんだけど、あの薬ってなんだったの、Jくん?」
「あの薬?…ただの液体だったはずなんだけど、ボクにも、何で烈くんが女の子になったのか、良く分からないよ」
烈の質問に、にっこりと邪気の無い笑顔をで答えるその姿に、どうしたものかと烈は盛大なため息をつく。
「……『素直になる、薬』じゃなかったのか?」
そして、そんな二人を前に、呆れたように入れてもらったお茶を飲みながら、豪が尋ねる。
「えっ?そんな薬ボクに作れる訳無いよ。大体、作れたら、ノーベルショーモノだよね」
ニコニコと全く何の悪気もない笑顔で言われて、烈と豪は一瞬言葉を失って、ただそんなJを見詰めた。
「……そ、それじゃ、ボクが女の子になったのは?」
「う〜ん、烈くんが、素直になるって言うのは、自分が女の子になって初めて出来るって思ってたのかもしれないね。だから、自己暗示って、事だと思うけど」
「……自己暗示で、女の子になれるの?」
「さぁ、でも現に何の変哲も無い砂糖水で、そうなったんだから、否定できないと思うよ」
「さ、砂糖水?」
言われたそれに、豪と烈の声が見事なまでにハモってしまう。それもそのはずだろう、何せ、そんな普通の水で、ここまで振り回されたとあっては、なんとも言えない気分である。
「まぁ、なんにしても、上手くいったんだから、結果オーライって事なんじゃないの?」
嬉しそうに笑顔で言われたそれに、何も言えずにそのまま疲れたように、机に懐いてしまう二人の姿。
「…烈くん……」
「…何、Jくん……」
疲れたように返事を返す烈に、Jはにっこりと笑顔を見えた。
「良かったね」
そして、続けて言われたその言葉に、烈は思わず顔を赤くする。
ずっと、自分の気持ちを話していた相手だからこそ、その言葉の意味が誰よりも一番分かってしまう。
「……有難う、Jくん……」
そして、一番嬉しいと思えるから、最高の笑顔でお礼を伝える。
意味の分からなかったたった一日の出来事だけど、確かに自分にとって何ものにも帰られないくらいの一日だったから。
何はともあれ、GIRLSDAY。
たった一日だけの、とんでもない出来事。
だけど、その一日だけの時間が、大切なこれからを導いてくれたから……。
君の隣で、笑っていられる権利。
それだけは、誰にも譲らない。
それが、一番の約束。

やっとで終わりました!
そして、本当に、すみません(><)
もう、何が書きたいのか、途中から本人にも分からなくなってしまいました。
しかも、最後はもう、つけたし状態で、こんな風になってしまって、反省いたします。
結局、中途半端な終わり方になりまして、本当にすみません。
こんな小説でも、楽しみにして下さった皆様、本当にお詫び申し上げます。
これからも、レツゴーの方は更新遅くなると思いますが、と、兎に角まだ好きなので、続けたいです。
こんな下らない小説で宜しければ、またお付き合いくださいますと、とっても嬉しいです。
では、次は、烈の記憶喪失話を頑張って書きますね。
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