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「俺、どうしても気になる事があるんだよなぁ…」
「突然、どうしたんでげすか?」
マシーンの調節中に言われた言葉を、一番近くに居た藤吉が聞き返す。
「マグナムの調子が悪いんでげすか?」
「嫌、マグナムは絶好調なんだけどよぉ……」
珍しく、ハッキリと言わない豪を相手に、藤吉は持っていた扇子を閉じる。
パチンと良い音を響かせてから、藤吉はもう一度豪を促した。
「だったら、何が気になるんでげす?」
「……んっ、あのさぁ……」
「みんな、ちょっと集まってくれないかなぁ……」
言いかけた言葉が、突然の集合の声と共に掻き消されてしまう。
「烈くん、何かトラブルでげすか?」
「…そう言う訳じゃないんだけどね。う〜ん、だからと言って、嬉しい知らせかどうかって言われると、ちょっと分からないけど……アストロレンジャーズから、招待状が届いたそうなんだ」
「招待状?」
見事なまでに全員の声がハモるのに圧倒されて、思わず烈は後ろに下がる。
「それって、どう言う事だすか?」
「う〜ん、そう聞かれても、ボクも良く分からないんだけど……内容的には、ボク達ビクトリーズのメンバーと改めて、親睦を深めたいって事らしいんだけど……」
言い難そうな烈の言葉に、誰もが疑問を隠せない。
第2回WGPが始まって、既に2ヶ月が過ぎている。確かに、ここは彼らにとっては自分達の祖国である。
だが、今更そのアストロレンジャーズからの誘いとは、ハッキリ言って不気味に思っても仕方ないだろう。
「きっと、裏があるんでげすよ」
「藤吉くん?」
突然言われた言葉に、皆の視線が一斉に藤吉に集まった。
「それしか考えられないでげすよ。何か、裏工作でも考えてるんでげす」
「裏工作って?」
「そこまでは、わてにも分からないでげすが……でも、何かあると考えるのが当然でげしょう」
Jに聞き返されて、困ったように言う藤吉に小さくため息をつく。
「ところで、豪。何時もなら、一番に何か言うお前が何も言わないなんて、不気味だぞ。どうかしたのか?」
今まで何も言わない自分の弟に、心配そうに声を掛ける。何時も五月蝿い人物が静かなのは、反って目立つのだ。
「どう言う意味だよ、烈兄貴!」
「言葉通りに決まってるだろう。で、お前はこの招待どうする?」
呆れた様に返しながら、それでもちゃんと要点を聞く所は、流石の一言であろう。
「別に、いいんじゃねぇのか。招待してくれるってんなら、答えてやるのがスジってもんだろう」
「……お前は、気楽でいいよなぁ……Jくん、リョウくんはどう思う?」
「俺も、豪の意見に賛成だ。それに、あいつ等が、姑息な手を使う連中だとは思っていないからな」
「そうだね。面白そうだし、いいんじゃないかな」
二人の意見を聞いて、烈も大きく頷いてみせた。
「だね。ボクもそう思うよ。藤吉くん、みんなの意見は決まったけど、どうする?」
「みんながそう言うのなら、仕方ないでげす。わても賛成でげすよ」
烈の質問に、仕方ないというように頷く。
「と、それはそうと、豪君には気になる事があるそうでげすよ」
今まで気になっていた思い出した事をそのまま口にした藤吉に、烈が素直に首を傾げる。
「気になる事?」
「そうでげす。それを聞こうと思っていたときに、烈君が呼んだんでげすよ」
聞き出せなかった事が、余程気に入らなかったらしい藤吉の言葉に、烈は豪の方に視線を向けた。
「豪、マグナムの調子悪いのか?」
「マグナムは、関係ないそうでげす。わても、そう聞いたら、マグナムの調子は絶好調だと言ってたでげすからなぁ……」
豪の変わりに藤吉が答えた事に、烈はもう一度首を傾げた。
「だったら、何が気になるんだ?言ってみろよ、豪」
「あ、兄貴には関係ねぇよ!」
優しく問い掛けられた烈の言葉を、強く拒絶する。
「豪君、そんな言い方ないでげすよ!烈君は、豪君の事を心配して言ってくれてるんですから」
「いいよ、藤吉くん。豪にも言いたくない事あるだろうし、無理に聞き出す事もないだろうから……それに、言いたくなったら自分から言うだろうしね」
ニッコリと笑顔で言われては、藤吉もそれ以上は何も言えなくなってしまう。
一瞬空気が重くなったのを感じて、烈は苦笑すると何時もの明るい声を出す。
「そう言う事だから、今日の練習は早めに切り上げて、アストロレンジャーズの招待に答える事にしよう」
話を切り上げるように、言われた言葉に皆がそれぞれ頷いて返す。それに烈も満足そうに頷いた。
「そうだな……ところで、烈。アストロレンジャーズの所へは、どうやっていくんだ?」
「土屋博士が、トランスポーターを出してくれるそうだよ。あっ、そうだ!勿論、次郎丸くんも一緒だから、安心して」
思い出したと言わんばかりに、リョウの隣に居る次郎丸に声を掛ける。
「本当だすか?」
心配そうに見詰めてく次郎丸に、烈は優しい笑顔を見せて頷く。
「ボク達のチーム全員を招待してくれたんだからね、勿論だよ」
「やっただす」
嬉しそうにはしゃぐ次郎丸に、烈も優しい表情になる。
「すまんな、烈」
「誤る事じゃないと思うよ、リョウくん」
申し訳なさそうに誤るリョウに、烈は首を振って返す。
「次郎丸くんは、ボク達にとっても大事なメンバーの一人だからね」
「…オラも、メンバーだすか?」
「勿論だよ。色々手伝ってくれているんだから、欠けてはいけない一人だと思うけど」
これ以上ないほど優しい笑顔。その笑顔を前に、面白くないのは、話の中に加われない人物達。
だから、我先にと烈に話し掛ける。
「烈くん、時間の方は?」
「あっ、それは、夕食を御馳走してくれるそうだから、夕刻時だと思うよ。正確な時間は、返事を返してからって事だから、これから土屋博士に報告してくるよ」
「ちょっと待て!御馳走があるのかよ……たく、そう言う事は、早く言えよなぁ」
豪の言葉に、全員が苦笑してしまう。
現金過ぎる豪の言葉が、余りにもらしい。
「それじゃ、ボクは土屋博士に報告してくるから、みんなはここで待機しててくれるかい?」
「僕も一緒に行ってもいいかなぁ?」
烈の言葉に、言い難そうに言われたJの言葉に笑顔を見せる。
「勿論構わないよ。えっと、それじゃみんなはどうする?」
Jが、一緒に行きたいのであれば、当然みんなの意見も聞いておかなければ行けないとばかりに、烈が皆に視線を移す。
「俺は、もう少しトライダガーを走らせていたいからなぁ……」
「兄ちゃんが残るのなら、オレも残るだす」
リョウに続いて、次郎丸が残りの声を上げる。それに頷いて、烈は残りの二人に意見を求めるように視線を向けた。
「わても、スピンコブラのセッティングをしたいでげすから、残るでげす」
藤吉は、片手に持ったマシーンを高々と見せ付けながら答える、そんな藤吉に烈は思わず苦笑する。
「豪、お前も残るのか?」
「……ああ、別に用事もねぇし、マグナムを走らせてるぜ」
問われた事に、烈から視線を逸らして答えてから、豪はマグナムを持ってさっさとコースに戻っていく。
「……変な奴だなぁ……」
何時にない豪の行動に、正直に思ってしまった事が、口をついて出てしまう。
「豪君が変なのは、今に始まった事じゃないでげす」
「その通りだす。うんこ野郎は、前から変だす」
自分の言葉に、身もフタモない二人の言葉が返されて、烈は苦笑いする。
「……一応、あれでも僕の弟だから、そこまで言われると困るんだけど…」
「まあ気にするな。二人とも本気で行ってる訳じゃないんだからな」
フォローとも何とも言えないリョウの言葉は、だが次の言葉で意味のなさないモノとなってしまった。
「兄ちゃん、違うだすよ。オラは本気でそう思うだす」
「そうでげすよ。わて等は、本当の事を言っただけでげすよ」
そこまで言われて、フォローの言葉も出てこない。誰もが沈黙を守ってしまっても、許される事であろう。
「烈くん、行こうか……」
「そうだね、Jくん……」
今、烈達に出来る事は、その話題から一刻も早く遠去る事だけであった。
話を聞いてなかった当の本人が平和だったのか、その答えは誰にも分からない事であろう。
玄関で出迎えてくれたブレットが、烈へと手を差し出してくる。
「良く来たな、レツ・セイバ」
「招待有難う。お言葉に甘えて、お邪魔させてもらうよ」
烈が差し出された手を握り返して、笑顔を返す。
「タカバリョウ、久し振り。招待を受けてもらえて、嬉しいワ」
ブレットの後ろから出て来たジョーが、嬉しそうにリョウの傍へと近付いて行く。
「ああ、久し振りだな」
リョウもジョーに笑顔を向けながら、話を始めている。
「ヘイ、TRFビクトリーズ」
次々と出てくるアストロレンジャーズのメンバーに迎えられて、TRFのメンバーは中へと進められた。
「でも、どうして急にボク達を招待してくれたんだい?」
部屋の中に促されながら、疑問に思った事を素直に隣に居るブレットに尋ねてみる。
「なんだ、レツ・セイバは知らないのか?これは、シンボクカイってヤツだろう?」
「親睦会?何で今更……」
既に、WGPは開催されていると言うのに、今更親睦会などと言われても変な感じなのだ。
「そう、今更なんだが、お前達とはちゃんとしておきたかったからな」
嬉しそうに言われた事に、“?”マークが浮かぶ。まったく意味が分からないという表情で、思わずブレットを見詰めてしまう。
「俺達が、お前達ともっと親しくなりたいって事だろう」
ウインク付きの言葉に、漸く烈も合点が合ってにっこりと笑顔を返した。
「そう言う事なら、何時でも歓迎するよ。改めて、宜しくね、ブレットくん」
笑顔のまま、ブレットに片手を差し出す。それに一瞬ブレットはきょとんとした表情をするが、直ぐに元の表情に戻ると烈の手を握り返して、それを自分の方に強く引いた。
「わっ」
余りに突然の事にバランスを崩したレツは、当然ブレットに向けて倒れこむ。
それを見計らって抱き止め、ブレットは皆が驚いて見守る中、その烈の頬にキスをした。
「俺達の親睦の意味だ。ご馳走さん、レツ」
笑顔で言われた言葉に、瞬時烈の顔が真っ赤になる。
「てめぇ!人の兄貴に、何してんだよ!」
「何って、挨拶のキスだろう?」
勢いのままに怒鳴る豪にも、まったく動じずにあっけらかんと言ってのけるブレットに、豪の怒りが爆発した。
「何が挨拶だ!日本じゃそんな挨拶は、しねぇんだよ!もっと勉強しやがれ!」
「……豪、それをお前が言うのか?」
自分以上に怒りを露にしている豪を前に、烈は額に手を当てがってしまう。
目の前で爆発してしまった弟の肩を押し止めながら、頭が痛くなるのは止められない。
「てめぇ!烈兄貴が何も言わないからって、調子に乗るんじゃねぇぞ!」
「……誰も、調子に乗ってなんてないだろう。落ち着けよ、豪…」
ブレットは怒鳴る豪をモノともせず、涼しい顔で豪を見詰めている。そんな二人では、喧嘩なんて起こらないと分かっていても、実の弟が暴言を吐くのは、聞いていて気分のいいものではないだろう。もっとも、自分の事で怒ってくれているのには、有難いと言う気持ちは正直なところあるのだが……。
「すまない、ブレットくん。弟が言った事は、気にしないでくれないかい?」
「烈兄貴!こんな奴に謝る事ねぇだろう!」
「そうでげすよ、先に失礼な事をしたのは、そっちなんでげすからね」
藤吉までもが、仲間に加わっての言葉に、烈はため息を吐いた。
「二人共、ボクが気にしてないんだから、もういいよ。ボクの事で怒ってくれるのは、嬉しいんだけど、ね」
ニッコリと笑顔を向けてのそれに、二人共何も言えなくなってしまう。
それを目の前で見せられた、アストロレンジャーのメンバーもその笑顔に思わず表情を和ませた。
「大したリーダーだ。ちゃんと、メンバーが言う事を利くのは、信頼されている証拠だからな」
「ボクなんて、リーダーとしては失格だと思うけど、そう言って貰えると、救われるよ……」
ブレットの言葉に、苦笑を浮かべながらも答える烈に、掛ける言葉が見つからない。
本当に辛そうな表情を見せるのは、自分に自信がないからだろう。
それが分かるだけに、何をどう言えば伝わるのかが分からないのだ。
「烈兄貴!馬鹿な事考えてんじゃねぇぞ!そうやって考え込むのは、兄貴の悪い癖だぜ」
だが、突然割って入ってきた怒声に、驚いてそちらに視線を向ければ、少し怒ったような豪の視線とぶつかった。
「兄貴!俺達を信じろよ。リーダーとかじゃねぇ、俺達は、ちゃんと兄貴を信頼してんだって事を!」
「豪……」
にっと笑う弟に、笑顔を返す。こう言う時に思うのだ、自分は兄として、情けないと……。
弟に励まされる兄貴など、自分だけだろう。だから、少しでもいいから、この弟に兄として慕われて居たいと思うのだ。
例え、情けない兄だと自分で分かっていても……。
「レツ、俺が言うのも変かも知れないが、自分に自信を持つ事だ。そんなお前を支えている奴等がいるのだからな」
「ブレットくん……確かに、その通りだね」
笑顔を向ければ、優しい笑顔で返される。そして、ある扉の前で立ち止まると、ゆっくりと頭を下げられた。
「どうぞ、TRFのメンバー様」
扉が静かに開けられて、中へと全員が促される。
「……あっ、ありがとう……」
慣れない事をされて、お礼を言うと、すっと手を差し出されるので首を傾げれば、烈はブレットに手を取られた。
「ブ、ブレットくん?」
訳のわからないその行動に、焦りながらもされるがままに部屋の中へ導かれてしまう。俗に言う、エスコートであるのだが、そんな事を烈が知っている筈もない。
「……なんか、気に居らねぇなぁ……」
そんな二人を目の前に見せ付けられながら、TRFのメンバー達は、面白くない事この上ない。
「リーダーは、レツ・セイバの事お気に入りだから、気を付けた方がいいわよ」
TRFのメンバー達の表情を見て、笑いながら小声で忠告するジョーに皆の視線が一斉に向けられる。
「それ、本当かよ!」
「勿論、本当の事よ。この招待も、実際はレツ・セイバを招待するためのモノと言ってもいいくらいなのよ。でも、お陰で、タカバリョウに逢えたんだけど……」
嬉しそうにリョウに笑顔を向けて、ジョーがリョウの腕に抱き付く。
そんなジョーの態度に、リョウは困ったような笑顔を向けた。
「くそー!やっぱ、油断ならねぇ奴だぜ」
「本当だね、これも仕組まれた事だったなんて……」
「だから、言ったでゲスよ。やっぱり裏があったでげしょ」
自信満々に言う藤吉の言葉など、完全無視。
「女!兄ちゃんに近付くなだす!」
次郎丸は、リョウとジョーの間に割り込むと、リョウの腕を掴む。
「じ、次郎丸……」
突然賑やかになった後方に驚いて、両チームのリーダーが同時に振り返った。
「みんな……一体、どうしたんだ?」
「ブレット!てめぇ、俺の兄貴に手ぇ出してんじゃねぇぞ!」
「ご、豪?」
行き成り近付いてきたと思ったら、繋がられていた手を払いのけ、烈を自分の後ろへと庇う様に立ち付くす。
「お前、何怒ってんだ?」
訳の分からない烈は、取り敢えず目の前で怒り狂っている弟に尋ねてみる。
「あ、兄貴……分かんねぇのかよ!」
「分かる訳ないだろう。一体、どうしたんだ?」
通された部屋の中には、豪の喜びそうなご馳走が用意されているというのに、怒る理由など分かるはずもない。
「だぁー!鈍過ぎるぜ、烈兄貴!」
「誰が鈍いんだ!お前、オレに喧嘩売ってんのか?」
「売ってんのは、俺じゃねぇよ!ブレットの奴だ!」
「何で、ブレットくんが喧嘩売ってんだ。売ってんのはお前だろう!」
全く、分かっていない烈を相手に言い合いをしたところで、それでは逆に相手を怒らせるという事に、豪は気付いていない。
「烈くん、豪くんは、烈くんに喧嘩を売ってる訳じゃないと思うけど……」
「Jくん、こんな奴、庇う事ないよ。こいつがこんなに礼儀の無い奴だとは、思わなかった」
呆れたような烈の台詞に、豪の方が先に我慢出来なくなるのは、何時ものことであろう。
「あっ〜もう知んねぇ!勝手にしろ!兄貴の心配なんか、もう金輪際してやんねぇからな!」
「勝手にするさ。お前に心配してもらう必要なんてないからな」
売り言葉に買い言葉とは、この事である。どっちもが、引くに引けない状態になってしまって、Jの頭を抱えさせた。
「烈くん、豪くん。落ち付いて……」
「放っておいていいよ、Jくん。甘やかすと、ロクな事にならないからね」
冷たい言葉に、豪の方もむっとした表情を見せて、烈を睨み付ける。
「そのくらいにしておけ、二人とも。レンジャーズのメンバーが困っているぞ」
「あっ、リョウくん……」
突然割って入ってきた人物に、烈が先に我に返るなり、周りの人物達を見まわした。
確かに、リョウの言う通り、アストロレンジャーのメンバー達が、困ったように自分達を見詰めている事に気が付いて、烈は申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんね、折角招待してもらったのに、失礼ばっかりで……本当に、ごめんなさい……」
深々と頭を下げて、誤る烈を前に、ブレット達は微苦笑した。それから、ぽんっと烈の頭を叩く。
「気にするな。ゴウ・セイバの事も気にしていない。レツが誤ることは無いだろう?」
言われた事に頭を上げて、烈は驚いたようにブレットを見てから、満身の笑顔を見せる。
「有難う、ブレットくん」
その笑顔が、可愛いモノだと言う自覚は、本人全く持っていないのだろう。誰もが、一瞬その笑顔に見惚れてしまった。
勿論、先程まで喧嘩をしていた豪も、その笑顔に見入ってしまうのは止められない。
「……ボクの顔に、何か付いてる?」
余りにも皆が、じっと自分の事を見詰めて来るのに気が付いて、心配そうに首を傾げて尋ねられ、漸く皆が我に返った。
「嫌…今日はレース抜きのシンボクカイだ。楽しんで行ってくれ」
「そうさせてもらうよ。豪、お前も変な事言ってないで、ご馳走を戴いたらどうだ?」
「変な事じゃねぇ!」
烈の言葉に反論しながらも、豪は目の前に用意されている食事で、自棄食いを始める決意をする。
「まっ、ご馳走に罪はねぇけど、なぁ……」
ブツブツと文句を言いながら、料理へと手を付けて行く。
「本当に、変な奴だな……」
ため息をつきながら、それでも目の前で食事を始めた弟に優しい視線を向けるのは、兄としてだけではないのだろう。
変なところで意地を張って、喧嘩をするが、自分は確かに豪の事を認めているのだ。ただ、兄としての立場から、どうしても抜けられないだけ。
「レツ、少し二人だけで話をしたいんだが、イイか?」
豪の事を見詰めている所に、声を掛けられて、烈はブレットを見上げて首を傾げた。
「話したい事?」
「ああ、キキたい事があるんだが……」
「別に、構わないけど……ボクに答えられるのかなぁ……」
心配そうに呟く烈に、ブレットは笑顔を向ける。
「大丈夫だ。レツにしか答えられない事だからな」
それを、傍で聞いていた者達は、驚いて二人に視線を向けてしまうのは、当然の事であろう。
「じゃ、すまんが、付き合ってくれ」
「えっ、今直ぐ?」
「ゼンはイソゲ、と言うんだろう?」
「……確かにねぇ……」
ブレットの言葉に、最もだと言うように頷いてから、レツは豪へと視線を移した。
「豪、オレは席を外すけど、食べ過ぎるなよ」
少しだけ考えてから、烈はそれだけを言うと、ブレットの後に続く。
「ちょっ、おい!烈兄貴!」
素直にブレットの後に付いて行く烈に驚いて声を掛けるが、もう既に後の祭と言うものであろう。
「たくっ……本当に、鈍過ぎるぜ……」
「豪くん?」
「俺、後つける。J、後宜しくな」
「ちょっ、豪くん」
部屋を出て行った二人の後を追い掛けるように走って行く豪に、慌ててJが声を掛けるが、既に走り出している豪には聞こえていない。
「……後で、烈くんに怒られるって解ってるのに……」
「Jくん?」
「何でもないよ、藤吉くん」
心配そうに自分の事を覗き込んできた藤吉に、笑いかける。
「それにしても、豪くんにも困ったものでげすなぁ……本当に、烈くんは大変でげしょうねぇ……」
シミジミいわれた事に、思わず苦笑してしまう。
当たらずとも、遠からず。
まさに、そんな言葉がピッタリであろう。二人ともがそれぞれに大変なのである。
「本当に、大変だよねぇ……」
「そうでげしょう?烈くんに同情するでげすよ……」
ため息をつきながらの藤吉の言葉に、Jは小さく笑うと首を振った。
「違うよ、“二人とも”がだよ」
「二人でげすか?」
驚いたように聞き返された言葉に、もう一度Jは頷いて見せる。
「うん、二人とも」
自分の事に疎かになって、プレッシャーに弱く、ちっとも自分に自信のない烈。
自分勝手で、前しか見てないように見えるのに、烈の事になると人一倍心配性になる豪。
だから、二人とも大変なのだ。そして、一番豪が大変な所は、魅力があるのに、ちっとも自覚がない烈を護る事。
そのクセ、ライバルだけは大勢いる事であろう。
「……実は、豪くんの方が大変かも……」
自分の考え付いた事に、Jはもう一度苦笑してしまった。
「聞きたい事って……何、ブレットくん?」
テラスへと連れ出されて、烈は何も言わないブレットに自分から尋ねてみる。
「ああ……実は、ずっと気になっていたんだが……」
「何を?」
言い辛そうなブレットに、烈は首を傾げて先を促す。
「……レツは、その……オレとボクを使い分けているだろう?その事が、ずっとギモンだったんだが……」
言われた事に驚いて、烈はマジマジとブレットの顔を見詰めた。
まっさか、そんな事くらいで部屋を抜けてくる事になるとは思わなかったのである。
拍子抜けしても、仕方ないだろう。
「……ボクとオレの使い分けなんて、聞いてどうするんだい?」
そもそも、そんな事に疑問を持つという事は、余程烈の事を観察していたからだと気付くのが本当なのだろうが、そこは烈である、全くそんな事頭にもない。
それどころか、そんな些細な事を一々気に掛けている事の方が、不思議なのである。
「ただ、レツの事が知りたいから、かな」
ブレットのその言葉に、烈は困った様に笑顔を見せた。
「……本当、ブレットくんはそう言う冗談好きなんだね。でも、そういう事は、女の子に言ってあげた方がいいと思うよ」
苦笑を零しながら言われてしまえば、何もフォローできなくなるのはどうしてなのか?
豪が言うように、本当に鈍過ぎる。
ブレットが思わずため息をついても許されるであろう。
「……ここで、本気だと言ったら、レツは信じるか?」
真っ直ぐに烈を見詰めて、真剣に言われた言葉。
驚いて、烈は瞳を見開いてブレットをマジマジと見詰めてしまう。見詰めて、その瞳が真剣なのを読み取って、烈は困ったように視線を逸らした。
「……気持ちは、有難いけど……ボクには、答えられないよ……」
相手が真剣だからこそ、自分も嘘偽りのない気持ちを正直に伝える。
「それは、好きなやつが居るから?」
ブレットの質問に、逸らしていた視線をもう一度戻して相手を見詰めた。
そんな烈の態度に、ブレットは笑顔を向ける。
「正直に言ってくれ。その方が、俺もスッキリする」
ハッキリとそう言われて、烈も笑顔を返した。
「そうやって、はっきり言って貰えらえると、安心するね。……でも、正直言って、ボクにも分からないんだ。相手に自分と同じ気持ちを返してもらいたい訳じゃじゃないから……ただ、一緒に居たくって、あいつが何かをするのを見るのが楽しいし、無茶苦茶なのに、どんな時でもボクに力をくれるんだ。それに、何よりもあいつはボクの期待に答えてくれるから……だから、対等で居たいと思う相手なんだ」
一言で、『好き』と言われるよりも、ずっと気持ちが強いのだと言われた気分である。
ブレットは、その言葉で失恋を実感してしまう。
「そこまで言われると、逆に嫉妬したくなるもんだな…」
「えっ、違うんだよ。そう言う意味じゃなくって……どう言えばいいんだろう……」
ブレットの言葉に、真っ赤になって慌てる烈が何とか分かってもらおうと言い訳をする。
それに笑顔を向けて、ブレットは烈から視線を逸らした。
「分かっている、レツ。ただ、正直そいつが羨ましく思えただけだ。……最も、そいつよりも先に出会うなんて事は出来ないだろうがな」
「ブレットくん……」
その言葉で、『あいつ』が誰かと言う事がバレているのに気が付いて、烈はどう言う表情をすればよいのか困ってしまう。
正直、自分の気持ちをこうやって人に伝えた事などないから、慣れない事をしたばかりに、気持ちが付いてこないと言うのが今の心境である。
「ダイジョウブ、誰にも言わない。もっとも、ホンニンには口が裂けても言いたくないがな」
自分の心配に気付いてなのか、突然ウインク付きで言われた事に、思わず烈も笑顔を見せた。
「有難う。ボクとしても、この気持ちを誰かに伝えたりするなんて思ってなかったから、少しだけ気持ちが軽くなったよ」
「俺でよければ、いくらでも聞いてやるさ。勿論、レツが言いたければだがな。それに、何よりもレツの気持ちってヤツを教えてもらえて、特別になれるのは光栄だ」
笑顔と共に言われた事に、烈はクスクスと笑う。
「有難う、ブレットくん」
「NO.ブレットでいい。レツには、そう呼んでもらいたい」
真剣な瞳で言われたそれに、一緒んきょとんとした表情を見せるが、すぐに笑顔を作る。
「分かった、ブレットだね。……そう言えば、ここに呼び出された目的について答えてなかったよね」
「ああ、『ボクとオレの使い分け』な……」
自分の言葉に返された事に、烈は苦笑した。だが、確かに皆から離れて、こんなところで話をしているのは、ブレットがその事を自分に聞きたかったからと言うのが事実であるので、うなずいて返す。
「……でも、大した理由じゃないと思うけ……それに、ボクも意識して変えているつもりはないんだ」
大きく息を吐き出して、烈はゆっくりと視線を空へと移した。
「……ただ……」
「ただ?」
自分の呟いた言葉に、促すように復唱されて、烈は瞳を閉じる。
「弟……豪の前で、自然と『オレ』って言ってるんだと思う」
困ったように呟かれたそれに、ブレットは烈を見た。その表情は、余りにも寂しそうで、思わず掛ける言葉を失ってしまう。
「……やっぱり、兄としては負けたくないんだ。あいつ……豪に……何て、兄貴としては、すっごく情けないんだけどね」
視線をブレットに戻して、苦笑を零す。
「だからだと思う。どうしても、あいつの前では、お兄ちゃんになちゃって、『オレ』って言うんだと思うよ」
言い終えた後に、烈は自嘲的な笑顔を見せた。
「ねっ、大した理由じゃないだろう?ボクは、そんな事ばかりを考えているんだ。時々自分がすっごく嫌いになる。真っ直ぐな豪を見てると、どんどん自分の事が嫌いになるのに、それなのに笑顔で誤魔化しているんだよ。自分の醜い心を、笑顔のベールで隠しながら生きてる。そんな自分が、もっともっと嫌いになるんだ!」
泣き出してしまいそうな烈の肩を、ブレットはそっと叩いた。
「そんな事ないだろう。もしそうだとしても、そんなレツを好きになるヤツも居るんだからな」
「ブレットくん……」
自分の事を見上げてくる烈に、ブレットはウインクしてみせる。
「だろ?しかも、俺一人じゃない。さっきから、こちらを気にして様子を窺っているヤツも、レツの事がスキなんじゃないのか?」
さりげなく後ろを指差しての言葉に、烈は首を傾げてブレットの後ろに視線を向けた。
そこには、本当に心配そうに自分とブレットの事を影から見守るように見詰めている実の弟の姿があって、烈は思わず苦笑してしまう。
「あいつ、あれで隠れてるつもりなのか?」
呆れたように溜息をつくと、烈はもう一度ブレットに笑顔を向けた。
「有難う、ブレットくん。こんなボクを好きだって言ってくれて……それじゃ、もう戻ろう」
「あっ、ああ……イヤ、先に戻ってくれ……俺は、もう少しここに居る……」
「そう?でも、夜は冷えるから、ほどほどにね」
「ああ……」
相手にうなずけば、ニッコリと笑顔で返される。それから、烈は後ろでこそこそとしている豪の方へと走っていってしまった。
その後姿を見送りながら、ブレットは苦笑いしてしまう。
「……フラレタってのに、諦められないのは、あの笑顔のせいだな……」
溜息をつくと、空へと視線を移す。
「心臓直撃の笑顔で、御礼を言われると、抱きしめたくなるんだぜ……」
ブレットは、もう一度溜息をついて苦笑した。

  
はい、またしても、終わっていません。
でも、2で終わりますので、ご安心を・・・・・・。
そんでもって、今更ながらの内容で、大変申し訳ないです。
最後に、ブレットFANの皆さん、大変申し訳ない内容ですね。はい・・・・・・xx
嫌いじゃないんですよ、信じてください。
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