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「・・・・・・エーリ、封印が解けちゃったみたいなんだ・・・・・お前は、仲間の所に帰た方がいいよ・・・・」
優しく銀の毛並みを撫でながら呟かれたそれに、エーリが心配そうにレツの顔を舐める。
「ボクは、大丈夫だから・・・・・君は、群のリーダーだ。群のみんなの安全を一番に考えなきゃいけにはずだよ」
真剣にそう言ってから、レツはその表情を笑顔をにかえた。
「心配は要らないよ。ボクだって、守護族の一人なんだから、簡単にやられたりはしない」
苦笑をこぼすように言われたそれに、エーリが心配そうな瞳を向けてくるのに、もう一度笑顔を向ける。
「大丈夫、ボクには、まだ護りたいモノがあるんだもの・・・・だから、エーリも、護るモノの傍に帰らなきゃ駄目だよ。君には、君を必要としてくれている仲間が居るんだから・・・・・・・」
レツが言いたい事が分かるだけに、それ以上傍に居られないと悟ったエーリはもう一度だけレツの顔を舐めると静かにレツの傍を離れた。
「エーリ、気を付けて・・・・・今度の魔物は、普通の相手じゃないから・・・・・・」
心配そうにそう呟けば、一度だけ振返って大きな声で咆える。
それに頷いて返せば、後は後ろも振り返らずに、その姿は、森の中へと消えていく。
それを見送ってから、レツは小さく息を吐き出した。
「・・・・・・これが、最後なのかなぁ・・・・・・」
ポツリと呟いて、ゆっくりと目の前に広がる湖を見詰める。
光を浴びて輝くその水面を見詰めながら、レツは瞳を細めた。
「ボクが居なくなっちゃたら、ここはどうなるんだろう?」
今は、守護族が張った結界の力が働いているこの地。
しかし、最後に残された自分が居なくなった時、その結界も消えてしまうだろう。
そうなった時、ここにも魔物達が入ってきて、この湖は血で汚されてしまうのは、目に見えている。
「・・・・・ボクが、護らなくっちゃ、いけないんだ・・・・父さん、ボクに力を貸して・・・・・・・」
肩の力を抜くように大きく息を吐き出すと、レツはゆっくりと瞳を閉じた。
静かに流れる風だけが、レツの髪と穏やかな湖の水面を優しく撫でていく。
「寝ちまったみたいだな・・・」
レツが置いていった薬湯を飲んで直ぐに、Jは安らかな寝息を立てていた。
パニック状態だった精神も、今では少しだけ落ち着いている。
まだ少し青褪めた表情を見詰めながら、ゴーは小さく息を吐き出した。
Jから聞かされた村の状態。
そして、なにかを隠しているレツの態度が気になって頭から離れない。
聞いた所で口を開く相手ではないと、分かるだけに溜息がとまらないのだ。
「さて、どうしたもんかなぁ・・・・・・」
溜息をつきながら、これからの事を考えてみる。
分かっているのは、自分の帰る場所は既にないという事。
ただ、パニック状態だったJからは、生存者の可能性があるともないとも分からない状態。
今、自分がやらなければいけない事は、一度村に戻ってどう言う状態になっているのかを自分の目で確かめると言う事。
「本当は、あいつから事情を聞ければいいんだけどな・・・・・・」
苦笑をこぼしながら、壁に立てかけていた自分の剣を手に取ってそれを腰に下げる。
少しだけ感じる重みに、小さく頷いてゴーはゆっくり歩き出した。
部屋を出て直ぐに、レツの姿を探して辺りを見回すが、その姿を見付ける事が出来ずに小さく首を傾げて見せる。
「・・・・・何処に行ったんだ?」
家の中を一通り見て回った後、ゴーは今度は外へとその姿を探すために移動した。
この外は、湖があるだけで一望出来るようになっているが、その姿を見付ける事で出来ない。
森の中に入って行ったのなら分からないが、それはないと自分の勘が告げている。
「・・・・ああ、あそこかぁ・・・・・・」
そして、ドラゴンが出てきたその洞窟が目に入ってきて、ゴーは確信をもって歩き出す。
「やっぱり、ここだったんだな」
「ゴー・・・・あの人は?」
洞窟の中を覗き込んだ時に、探していた人物を見つけて声を掛ければ、相手はそんな自分に驚きもしないでそのまま問い掛けてくる。
「Jなら、あんたのくれた薬で、眠ってるよ。んで、俺はちょっと村に戻るつもりだから、あんたの事探してたんだ」
「・・・・・村に戻る?」
洞窟の中に入りながら、ゴーが言ったその言葉にレツは不思議そうに首を傾げた。
「ああ、Jの話じゃ、誰か生きてる奴が居るかもしれねぇから、自分の目で確かめてくる。ここで、ジッとしてるのは、俺の性格にはあわねぇんだ」
苦笑を零しながら言われたそれに、レツはフッと視線を外して小さく息を吐き出す。
「・・・・・・止めても、行くんだよね?」
そして、ポツリももらされたそれに、ゴーは小さくだがはっきりと頷いて見せた。
「ああ・・・・・」
返ってきたその答えに、レツはゴーにバレナイように溜息をつく。
「うん、分かってたから・・・・君が、ボクから事情を聞けないと分かったらどう言う行動をとるのか・・・・・・」
もう一度息を吐き出して、レツが逸らした視線をゆっくりとゴーへと戻す。
そして、そのまま笑顔を見せた。
「止めないよ。どうぞ・・・・・・君が、どうなろうとボクには関係ない事だからね」
言葉の割に、今自分がどんな表情をしているのかなんて、きっと本人は気付いていないのだろう。
ゴーは小さく息を吐き出すと、そっとその顔に手を伸ばした。
「ああ・・・・そうだよなぁ・・・・確かに、俺がどうなろうが、あんたには関係ない事なんだよなぁ・・・・・」
言いながら、ゆっくりとレツの頬に手を添える。
触れられた事で、レツの肩が小さく震えるのを感じながら、ゴーはそのまま両手でその顔を包み込んだ。
「でも、あんたにそんな顔してもらえるなら、関係ないって言われても、なんとも思わないぜ」
「・・・・・・そんな、顔?」
自分の頬を包むようにしてるゴーの顔を不思議そうに見上げれば、優しい笑顔が返された。
「泣きそうな顔してるって、気付いてねぇんだろう?」
「えっ?」
言われた事の意味が分からなくって、驚いて瞳を見開いて相手を見詰めてしまう。
自分が今どんな表情をしているのか、全く分からないだけに、言われた言葉が信じられないくって首を傾げる。
多分、今の自分の中に、不安がないと言えば嘘になるだろう。
誰にもこの気持ちを伝えられない辛さと、誰かに、この気持ちを分かって貰いたいという二つの思いが同時に存在するだけに、その言葉は自分を更に不安にさせる言葉であった。
「・・・・・・あんたが何を隠しているのか、俺には分かんねぇけど、それがあんたの事を苦しめているんだてのなら、俺は力になりてぇんだ」
真剣に自分の事を見つめてくる瞳から、目が離せない。
不思議な青い瞳が、ただ自分を見詰めてくるのに、レツは静かに首を振った。
「有難う、ゴーの気持ちは本当に嬉しいけど、これはボク達守護族の問題なんだ。それに、君達の村を巻き込んでしまった事は、本当に申し訳ないんだけど、やっぱりボク以外には出来ないと思うから・・・・・・」
ゆっくりと自分の頬を包んでいるゴーの手を自分から離すと、レツは今度こそちゃんとした笑顔を見せる。
「村に戻るんだろう。ボクが昨日渡した小石は持ってる?」
「えっ、ああ・・・・ポケットに入ってるけど・・・・・・?」
聞かれた事に、慌ててポケットの中からそれを取り出そうとすれば、その手をやんわりと止められてしまう。
「うん、そのまま持ってて・・・・精霊に力を借りるから・・・・・・」
「精霊に力を借りる?」
自分が問い掛けたその言葉に、ニッコリと笑顔を返される。
そして、レツがゆっくりと瞳を閉じた。
<大地を護る精霊 風を守護する精霊
水を護りし精霊 そして 火を司りし精霊よ
ドラゴンの守護族であるレツが願う。
我に 聖なる力を貸したまえ 願わくば 邪なものを払う力となれ>
『精 霊 召 喚!』
ゆっくりとした呪文のようなものと同時に、レツの足元に魔方陣が描かれた。
そして、その中心から四人の精霊の姿・・・・・・。
「・・・・・召喚術まで使えるのか?」
目の前で行われているその光景に、ゴーは驚いて瞳を見開く。
それは、魔法と同時に噂でしか聞いた事ない召喚術。
精霊や召喚獣を呼び寄せる事の出来る力。
信じられないモノでも見るように、ただじっと見詰めていたゴーの目の前で突然その精霊たちの姿が一瞬で消えてしまう。
「えっ?なんだ、あいつら何処に行ったんだ?」
「ゴー、村に戻った方がいい・・・・・・そして、その目で確かめてこいよ。村がどうなってるのかを・・・・・・」
自分の目の前で消えてしまったモノを探すかのようにキョロキョロと辺りを見回す自分に、はっきりとした口調でレツが声を掛けてきた。
その言葉に、我に返って思わずレツに視線を向ければ、しっかりとした瞳で見詰められている。
「・・・・・・ボク達には、やる事がある。だから、ゴーも自分のやる事をやれよ。知りたいんだろう、村がどうなってるのか・・・・」
ジッと見詰めてくる瞳を見返して、頷いて返す。
そんな自分にレツも満足そうに頷いた。
「それじゃ、早く行けよ。あの人の事は、大丈夫だから・・・・・あの薬には、眠香草を混ぜておいたから、今日は目を覚まさないと思うよ」
眠香草とは、少しキツイ睡眠薬である。
人の精神も落ち着かせる効力を持っているが、扱いを間違えれば一生眠ったままになってしまう恐れのある薬草なのだ。
「・・・どうりで、速効で寝ちまった訳だ・・・・・・レツさん、あんたは薬の知識まで持ってるのか?」
「守護族なら、誰でも知っていた事だよ」
フイッとそっぽを向きながら言われたそれに、ゴーは小さく息を吐き出す。
正直言って、守護族の力というのは確かに人間とは明らかに違うという事が分かった。
『これじゃ、普通の人間が恐れるってのは、分かる気がするよなぁ・・・・・・』
人間とは全く違う力を使い、しかも、その知識は計り知れないものがあるのだ。
「・・・・・ゴー、村に戻るのなら、この洞窟の中を通るといいよ。村外れに出るはずだから・・・森の中を通るよりは安全だよ・・・・・」
「えっ?・・・あ、ああ・・・・・あんたは、どうするんだ?」
自分の考えに浸っていたゴーは突然名前を呼ばれて、慌てて頷いて返してから、そのまま質問を投げ掛けた。
「言った筈だよ、ボク達には、やる事があるって・・・・・・君に、精霊の加護がありますように・・・・ゴー、さようなら・・・・・・」
「えっ?!」
最後に聞こえたその言葉を聞き直そうとした時、ドンっと背中を押されてそのまま否応なしに奥に進められてしまう。
「お、おい!ちょっと、待てよ!!」
突然の行為に驚いて振り返った自分の後ろには、既にレツの姿はない。
そして、レツの傍にいた二匹のドラゴンの姿も、何処にも見つけられなかった。
「・・・・・・嫌な予感ってのは、こんな時に言うんだろうなぁ・・・・・・」
『さようなら』確かにそう言って、レツの姿は消えたのだ。
それが何を表しているのか、どんなに鈍い人間でもわかるだろう。
そして、ゴーは怒ったように洞窟の壁をその拳で殴りつける。
「死ぬなんて、許さねぇぜ!」
何も出来ない自分を恨みながら、ゴーはその足を洞窟の奥へと走らせた。
「ソニック、マグナム・・・・お前達の力を借りる事になるね・・・・・・ごめんね、本当は、ボク一人で何とか出来ればいいんだけど・・・・」
レツの言葉に、まるで気にするなと言わんばかりに二匹がその頬に擦り寄る。
そんな二匹に苦笑を浮かべると、レツは小さく息を吐き出した。
そして、すっと目の前にある洞窟に鋭い視線を向ける。
「・・・・・村の祠が壊されたのだとしたら、あいつらの目的は、ここ以外に考えられない・・・・・ここを壊せば、あいつは自由になれるから・・・」
目の前にある洞窟は、この森の東に位置する洞窟。
レツが住んでいる場所とは全く正反対の場所。
その傍にもやはり湖が存在するのだが、そこはレツの住んでいる場所とは全く違って光も届かないような異様な闇が広がっている。
レツの住む場所を光とするのなら、この場所はまさに影と言っていいだろう。
それほどまでに、この二つの場所は違いすぎた。
「・・・・・まるで、地獄まで続くトンネルみたいだね・・・・・」
そして、目の前に広がて居る洞窟は、更にその闇を閉じ込めたかのようにぽっかりとその口を開いている。
一歩踏み入れれば、何も見えなくなる程の闇。
「行こう、ソニック、マグナム・・・・」
グッと両手を強く握り締めて、一呼吸置いてから、レツは漸くその洞窟の中へと一歩を踏み出す。
一歩足を踏み入れただけで、自分の体の周りを執拗な闇が纏わり付いて来る感覚に、レツは眉を寄せる。
何処までも広がっているその闇は、一切の光もなく直ぐ傍に居るドラゴンの姿までも見えなくさせてしまう。
<炎の守護族よ 我に力を貸したまえ
辺りを照らし出す光を作れ >
『火 炎 灯』
唱え終えた瞬間に、レツの掌に火が灯る。それは、闇の中淡い光を照らし出しレツ達の道をしめす。
「・・・・・・本当は、力を使いたくないんだけどね・・・あいつは、ボク一人に倒せるほど甘くなだろうから・・・・・・」
苦笑をこぼしながら、自分の直ぐ傍に居るドラゴンに笑顔を向ける。
「・・・・一人だったら、怖くって前に進む事なんて出来なかっただろうなぁ・・・・お前達が居てくれて、嬉しいよ」
強がりだとは自分でも分かっているが、それでも目の前に居る二匹のお陰で自分がまだ笑える事に、心から感謝しているのだ。
そして、近付いてくる無数の気配に、レツはハッとして振り返る。
それは、二匹も同じで、縋るようにレツにその身を預けてきた。
「・・・大丈夫、まだ奴らはここには来ないよ。でも、急がないと・・・・・・」
ゴーの村から解き放たれた魔物達の狙いがここであると分かっているからこそ、自分はゴーを村へ戻るように言ったのだ。
その魔物達が、少しづつこの洞窟に近付いて来るのが分かるだけに、レツは小さく息を吐き出した。
「・・・・あいつらに邪魔される訳にはいかないんだ・・・・・」
呟いて、ゆっくりと瞳を閉じると、その手を足元に当てる。
<大地を護りし者達よ 我が前にその姿を示せ
邪魔モノを通さぬ壁を作れ >
『浄 土 壁!!』
レツが触れていたその大地が、レツの言葉に答えるように盛り上がって壁を作り出す。
「・・・・これで、後戻りは出来なくなったね・・・・・行こう、ソニック、マグナム・・・・」
出来た壁を見詰めて苦笑を零すと、レツは踵を返してそのまま奥へと進んでいく。
自分の掌の上にある炎だけが、周りを照らしだす。
自分達の影が洞窟の壁に照らし出されるのを横目に見ながら、レツ達はただ奥へ奥へと行く。
「どこまで続くんだろう・・・・・・」
どのくらいの時間を歩いたのかも分からないほど、同じ景色だけが続いているその洞窟。
自分達が住んでいるあの洞窟とは余りにも違い過ぎるこの場所は、まるで本当に自分を地獄にまで引き込んでいるようにすら感じられた。
今、自分達が犯した罪の制裁を受ける時だという事に、全身に緊張が走っている。
自分の体に、必要以上の緊張を感じている事に気が付いて、レツは苦笑を零すと体中の力を抜くように息を吐き出す。
「・・・これで、最後だから・・・・・・ボク達が遣り残した事が、これで終わるんだ・・・・・・ボク達守護族が存在する本当の理由・・・・・・」
力の抜けた手にもう一度力を込めて、レツはまた奥を目指して歩き出した。
「ひでぇ・・・・・・」
村に辿り着いてのゴーの最初の言葉はそれだった。
家は焼かれ、あちらこちらに村人の死体が転がっている。
まだ、村の中から邪悪な気配を感じて、ゴーは腰に下げていた剣を鞘から抜いた。
「・・・・・祠・・・って言ってたよなぁ・・・・・・」
何時でも戦闘体制に入れるように注意しながら、Jから教わった村はずれにある祠を目指す。
村の状態を見詰めながら、少しの気配にも気を配りゴーは急いで祠を目指した。
何も分からない自分が、唯一レツを助けられる方法が、そこにあると何かが告げてくるから・・・・・・。
「邪魔だ!どけぇ〜!!」
村人の死体を食べている魔物達が、新たなエサを前にして襲い掛かってくるのを剣で切りつけていく。
魔物に邪魔されながらも、ゴーは漸く目的の場所に辿り着いた。
「ここが・・・・・・」
こなごなに壊された祠の跡に、ゴーは一瞬驚きに瞳を見開く。
その壊れた祠から、魔物が生まれているのだ。
初めのうちは透き通った体が、祠から離れて行く間に実態を作り出していく。
そんな、目の前の信じられない光景に、ゴーは言葉もなく立ち尽くしていた。
「そ、そんな事・・・・・・」
信じられない状況に、言葉が出てこない。そんな自分に気が付いた魔物達が気が付いて襲い掛かってくる。
はっとした時には既に遅く、ゴーは自分の周りを取り囲まれているのに気が付いた。
「・・・・・・どうする・・・・」
剣を構えて、何とか一度目の攻撃をかわして、ゴーは何とかこの場を逃げる事を考えた。
後から後から生まれてくる魔物すべてを相手にする自信はない。
しかも、目の前に居る魔物達は、自分が今まで見た事もないような魔物なのである。
レツが言っていたように、猛毒を持つものが居ても不思議ではない。
そして、毒をもつものが居るとすれば、少しの傷を受けたとしてもそれは、命取りを意味しているのである。
「・・・・・・やばいって事、だろうなぁ・・・・」
暢気に呟いて、襲ってくる魔物を剣で倒す。出来るだけ一撃で倒せるようにしながら、ゴーは逃げ道を作るように行動していく。
「・・・・どうする・・・逃げ道は出来そうにねぇし・・・・このまま戦ってて逃げられるって保証はねぇんだ・・・・」
小さく息を吐き出して、ゴーはこなごなになっている祠にもう一度視線を向けた。
そして、その場所に黒い霧のようなものを見つけて、息を呑む。
ゆっくりと地下から噴出してきたその霧が、一体の魔物の形を作り出していく。
「・・・・あの霧を塞げばいいって事かよ・・・」
自分の考え付いたことに納得は出来ても、今の状態ではそんな事が出来ないと分かっているだけに、ゴーは持っている剣を強く握り締めた。
今は、自分に襲い掛かってくる魔物を倒すだけで精一杯だと分かっているだけに、ゴーは悔しそうにその霧を睨みつける。
「・・・・・もっと、俺に力があれば・・・・・・くそぉ〜!!」
ざっとまた魔物を切りつけて、そのまま祠に近付く。
どうする事も出来ない自分の力のなさに、ゴーは苛立ちを感じていた。
今、自分がここでやられてしまったらっと考えるだけで、背筋を冷たい汗が流れていく。
「俺が死んだら、あいつ、泣いてくれるかなぁ・・・・・」
そして、自分が呟いた言葉に、思わず苦笑を零す。
そんな事を考えている場合ではないのに、今でも頭の中に浮かぶのは少し寂しそうな表情で笑顔を見せるレツの事。
「泣く、だろうなぁ・・・・・・そんな気がする・・・・そんで、自分の事責めるんだろうなぁ・・・・」
魔物の攻撃をかわしながら、ゴーはもう一度苦笑した。
きっと、レツは自分を村に戻した事を後悔して、己を責めるだろう。それは、少ない時間しか一緒に居なかった自分にも、確信が持てる事実。
「自分の所為じゃねぇのに・・・・泣かせたくねぇよなぁ・・・・そうだよなぁ・・・・俺様ともあろう者が、弱気になってどうすんだ!護るって約束したんだ。絶対に、護ってみせる!!」
『気に入ったわ!』
自分の言葉に勇気付けられように、体制を立て直したゴーの耳に、誰かの声が響き渡った。
突然の声に、ゴーは驚いて辺りを見回す。
「だ、誰だ!」
『私達は、ここよ』
ぱっと自分の目の前に現れたその姿に、ゴーは一瞬言葉が出なかった。
『は〜い、初めまして、私はシルフ・・・風の精霊よ』
目の前に現れたのは、小さな姿。その背には羽を持っていて、妖精とはこう言うものなのだろうと想像していた姿そのまま。
「か、風の精霊?」
精霊というにはあまりにも想像と違いすぎる。精霊のイメージは、綺麗で等身大の姿というイメージがあるのだ。
しかも、洞窟で見た姿は、確かに等身大だったのだ。
『今、貴方の周りに結界をはったのよ。だから、私達の姿は、通常の姿よりも小さくなってしまってるの』
自分の心を読んだように答えるシルフに、ゴーは慌てて辺りを見回す。
確かに、先程まで自分に襲い掛かってきていた魔物の攻撃が全くなくなている。それどころか、魔物達は、突然居なくなった相手を探すようにうろたえているのが分かった。
「・・・・・助けるのなら、もっと早くに助けてくれ・・・・・・」
『失礼ね、私達は、レツの願いを聞き入れているだけ・・・貴方を助けるかどうかは、私達の意思。私達が、貴方の事を気に入らなければ殺さない程度に助けるだけよ。死なせたくないっていうのが、レツの意思だからね』
にっこりと言われた事に、ゴーは疲れたようにその場に座り込んだ。
「んじゃなにか、命があれば、それでOKって事かよぉ・・・・」
『まっ、そう言う事・・・私達精霊は、気まぐれだから、自分の意思でしか行動しない。そして、レツが気に入っているから悲しませるような事もしない。だから、精霊族は、レツに力を貸すの』
自分の言葉にあっさりと帰った来たその言葉に、ゴーは不思議そうに首を傾げて見せた。
「・・・・守護族だから、力を貸すんじゃねぇのか?」
『守護族なんて、関係ねぇよ!オレ達は、レツだから力を貸す!それだけだ』
シルフの姿を押しやるように、姿をあらわした少年が、きっぱりと言った内容に、ゴーは思わず苦笑を零す。
「・・・・俺も、人の事言えねぇよ・・・・・あんたらと一緒だ。俺も、あいつを護りたい・・・・・」
『だから、わし等はあんたを助けたんじゃよ・・・・・』
すっと現れた年寄りの姿に、シルフが驚いた表情を見せる。
『ノーム!やだぁ・・・あんたも出てきたの?』
『シルフ、時間がないぞ・・・急いであの場所を塞ぐんじゃ!』
『わ。分かってるわよ!そんな事・・・・・ストリーム!!』
シルフの声と共に、風が吹き荒れた。
そして、壊れた祠の残骸が黒い霧が出てくるその場所を塞いだ。
『・・・・あの祠の破片ならば、あの霧を防げるじゃろう・・・・ゴーと申したな、こんなところでぐずぐずしている暇はないぞ。あの子を助けたいというのであれば、急いで東の洞窟に行け・・・そこにお前の知りたい真実がある』
「・・・・・東の洞窟・・・・・?」
言われた事を繰り返すように呟いて、ゴーはゆっくりと顔を上げた。
洞窟に住むと言う凶暴なドラゴンの正体。魔物がどう言う存在なのか・・・。
そして、守護族であるレツが何を隠しているのかという事・・・・・。
「それが、すべて分かるんだなぁ・・・・・・」
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お、お待たせしました!!「Wizard 4」です。
そして、漸くここまで話が進みました。ええ、断言できます、今度こそ!
「Wizard」は5で終わります!
おいおい、4で終わるんじゃなかったのって思った方、すみません。
頑張ってみたのですが、終わりませんでした。
次回こそは、本当に完結ですので、お許しくださいね。
次回で、すべての謎が解き明かされる事に、努力したいと思いますです。
とりあえずは、レツが何と戦おうとしているのか?それが、一番の謎ですよね。
書き切れないかもですが、頑張りますので、宜しくお願い致します。
これが終わったら、心置きなく記憶喪失を書きますので、それまで待っててください。
では、5は出来るだけ早く上げるように頑張ります!!
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