― Wizard 5 ―



「本当にここなのか?」
『ここよ・・・』

 道案内とばかりに姿を現しているシルフが頷いて見せる。

 案内された場所は、一つの洞窟。
 そして、そのすぐ傍には、沼ともいえるような大きな水溜りのような濁った湖があった。

「・・・・・あいつが住んでるところとは、正反対の場所だな・・・・」
『・・・・・・ここは、守護族の過ちの地・・・・レツが住んでいる場所とは相反する場所・・・・』
「過ちの地?一体、そりゃ・・・・・」
『・・・行けば全てが分かるわよ』
『ここで、グズグズしてる暇はねぇぜ。ほら、敵さんのお出ましだ』

 姿をあらわしたファイヤーの言葉に、そちらに視線を向ければ団体さんの魔物の姿が目に入る。
 だが、魔物はゴーの事などまったく気にせずに、全員がそのまま洞窟の中へと入っていくのを見て、ゴーは戦闘体制に入ろうとしていた体勢をとく。

「・…あいつら、何で洞窟の中に・・…」
『んな事どうでもいいんだよ!あいつらがあん中に入ったって事は、どっちにしても倒さねぇと前には進めな……げっ!!』
『…聖界なる我らが水界よ! 我が声に答え、邪なるモノを洗い流せ! 水 竜 舞!!』

 新たな声と共に、何処から現れたのか大量の水が洞窟の中に流れて行く。
 その水の勢いに、魔物達はそのまま流されてしまって、後に残ったのは、水浸しになった洞窟だけだった。

「あ、危ねぇ・・…xx」
『ウ、ウインディーネ!!何、考えてんだ、中にはレツが居るんだぞ!!』
『……心配する事はないわ。中から地の力を感じるもの…道は閉ざされているでしょうし、何よりも水はレツを襲ったりしない』
『……あ、あなた、怒ってるでしょう?……本当、怒らすと手加減を知らないんだから・……』

 呆れた様に呟かれたそれに、ゴーは何も言えずに見守ってしまう。
 しかし、シルフの言葉に、ウインディーネと呼ばれた女は、長い水色の髪に手を通すと、そのままシルフを睨み付ける。

『怒ってるわよ、こんな人間を任されて、レツの傍に行けないんですもの』

 さり気に言われたその言葉に、ゴーは漸く目の前の精霊が自分の事をどう思っているのかを知って、ため息をついた。

「・・…もしかしなくっても、俺、嫌われてるのか?」
『好かれてるって思う方が、ズーズーしいと思うわよ』

 ゴーの言葉に、今度は呆れた様に呟いてそのままウインディーネの姿は消えてしまう。
 消えていった姿に、もう一度ため息をつくと、ゴーは仕方なしに歩き出す。

「まっ、兎に角魔物は居なくなったんだし、お前らが居るんだったら俺も安心だ。早くあいつの所に行こうぜ」
『……あ、あんたって、無茶苦茶能天気な奴ね・・…』
『…シルフに言われるとは、よっぽどじゃなぁ・…』

 ポツリと呟かれたそれに、ノームが自分の長い髭を摩りながら呟いたそれは、誰にも聞こえずにすんだらしい。



「……暗い・・…」

 洞窟の中に入って数メートル。時間で言えば2、3分なのだが、既に自分の周りは闇に包まれていて、一メートル先も見えない状態に落ち入ってしまった。
『…仕方ねぇなぁ……』

 ゴーの呟きに、ファイヤーがため息をつきながら、その体を表す。
 ファイヤーが出てきた瞬間、今まで暗かった自分の周りを仄かな光が照らし出した。

「……お前って、便利だなぁ……」
『…そう言う問題か?……お前って、本当に人間なのか?物事に動じねぇって言うか・…ただの馬鹿って言うか……』

 自分の言葉に飽きれたように言われたそれに、ゴーは思わず苦笑をこぼす。
 出会って直ぐに、レツにも同じ事言われたから……。

『馬鹿って言われて、笑うヤツって……』

 自分の言葉に笑っているゴーに、呆れたようにため息をつかれて、再度苦笑を零した。
 それと同時に、グラッと地面が揺れる。

「なっ!」
『あいつだ!レツが……急げよ』

 まだ揺れている地面を感じながら、ゴーは言われるままに走り出す。

「って!行き止まり?!」

 だが、自分の行くてを遮るように、現れたその壁の為に、前へ進む事が出来なくなる。

『下がっておれ!』
「えっ?」

 突然言われたその言葉に、ゴーは慌ててその場所から数歩後ろに下がった。

『…主の道を塞ぐものよ、王が命ずる 我らを通す道を作れ』

 老人の言葉の前に、目の前にあった壁が崩れて行く。

『行くぞ、後、もう少しだ』
「おう!!」

 言われるままに奥へと急ぐ。
 どのくらい走ったのか、自分でも分からないくらいの時間を暗闇の中走っていた時、また大きく地面が揺れた。

「レツ!」

 言い様のない不安を感じて、ゴーはレツの名前を呼んだ。
 それが、相手に聞こえるかどうかなど考えもしないで、ただ持てる力の全てでその名前を呼ぶ。



 誰かに名前を呼ばれたような気がして、レツははっとして顔を上げた。

 しかし、自分の周りには纏わり付いてくるような闇が広がっているだけ……。
 そして、目の前には、自分達が犯してしまった最大の罪の証し。
 真っ直ぐにその姿を見上げて、レツは小さく息を吐き出した。

「……ボクを殺したいんだろう?だって、ボクは君が憎む、守護族の最後の生き残りなんだから……」

 苦笑するように呟いたそれに、目の前の大きな姿が動く。
 ハッとした瞬間、レツはその大きな尻尾で壁に叩きつけられていた。

「……うっ・…」

 叩きつけられた衝撃に、大きく咳き込んで、レツはそれでもゆっくりと立ちあがる。

「……許せないよね……ずっと、こんな所に閉じ込めたボク達を……だけど、君が呼んだ魔物が、村を襲った!だから、もうこれ以上、このままにしては置けないんだよ……」

 泣きたくなるような気持ちを押さえながら、レツは真っ直ぐと目の前の巨体を睨みつけた。

『我ヲ コンナ所ニ閉ジ込メタノハ オ前達ダ……』
「ボク達一族が、君をここに閉じ込めた。でも、それは……」
『我ハ タダ望ンダダケダ ニンゲンノ居ナイ世界ヲ』

 低い声が、辺りに響き渡る。
 そして、言われたその事に、レツは悲しそうに目の前に居るモノを見詰めた。

「…人間が居ない世界が、そんなに大切?ずっとここに封印されていたのに、まだ分からない?」
『ニンゲン ニクイ……我ノ仲間ヲ殺シタノハ ニンゲン達ダ!!』
「君のその感情が、魔物達を呼び覚ましているって事に、どうして気付いてくれない、ダーク!!」
『魔物? ヤツ等ハ 我ノ手伝イヲスルモノ達ダ 何ガイケナイ?』
「……魔物によって、お前の仲間も殺された……」
『我ノ 仲間…』
「残ったのは、ここに居るソニックとマグナムの2匹だけだ。それは、人間だけじゃなく、君が呼んだ魔物によって……」
『煩イ!!』

 響き渡ったその声と共に、また尻尾によって壁に叩きつけられる。
 そんなレツを心配する様にソニックとマグナムはレツの傍へと近付いて行った。

『ナゼダ ソレハ憎ムベキ存在……』

 心配そうにレツを伺い見ている2匹に、低い声が問い掛ける。

「大丈夫だよ、ソニック、マグナム……」

 自分のことを見詰めて来るその瞳に、ニッコリと笑顔を見せて、レツは痛む体を無理やり立たせた。

「…ごめんね、ソニック、マグナム……君達の封印を解かさせてもらうよ……」

 ゆっくりと立ち上がって、自分の肩に乗ってくるその姿に謝罪すれば、気にするなというように2匹が頬に擦り寄ってくる。
 それに笑顔を見せて、レツは肩の力を抜く様に、息を吐き出す。

 < 我 守護族であるレツが願う 今その封印を解き 真の姿を我の前に示せ
  ここに 全ての力を解き放ち 悪き者を滅ぼす力となれ >

『ソノ呪文ハ…… 本気デ 我ヲ倒スト言ウノナラ 我モ容赦はセヌ』

『……聖 龍 降 臨!!』

 レツが呪文を唱え終えた瞬間、目映い光が当りを包み込む。それと同時にソニックとマグナムの姿が大きくなった。
 それは、目の前に居るその姿と同じ龍。

「……ダーク…ボクは、君の事が嫌いじゃない……だから、本当は分かって貰いたかった……人間にだって、悪い奴ばかりじゃないって事に…君がここに封印された時、ボクはまだ子供だったから……君の気持ちが分かって、苦しかった……ボクだって、人間が好きじゃない。君達の仲間を殺したのは、確かに人間だから……でも、この世界は、ボク達だけのモノじゃないんだ!」
『黙レ!!』

 その声が響き渡ったと同時に、その口から炎が噴出される。
 それは、真っ直ぐにレツをめがけて吐き出されていた。
 怪我を負っているレツに、それを素早く避ける事など出来ない。
 レツは、ギュッと瞳を閉じると、炎を受ける形をとった。

「……ソニック!」

 自分を焼く炎を覚悟していたレツは、何時まで経ってもその熱を感じない事に、瞳を開いた瞬間、自分の目の前に居るその姿に驚いた様に名前を呼んだ。

『ナゼ ソノ者ヲ庇ウ……守護族ハ我ヲココニ閉ジ込メタノニ……』

 驚いているダークの言葉に、ソニックが甲高い声で泣き声を上げた。それは、怒っているような、だが少しだけ悲しそうな声。
「……ソニック……」
『コノ者ヲ 傷付ケルナト言ウノカ? 私ハ オ前達ノ長ダ…ソノ我ニナゼ逆ラウ』

 低いその声に、ソニックがもう一度声を上げる。
 まるで訴える様に……。
 そして、それに合わせて、近くに居たマグナムも同じように訴えるような声を出す。

「……ソニック、マグナム……」

 呼びかける様に鳴き声を上げる2匹を前に、レツは傷付いた体を引きずる様にソニックの前に出た。

<風よ 我の声を聞け 
我の体を 持ち上げよ……>

『浮 遊 力!』

 瞳を閉じて、ゆっくりと呪文を唱えると、レツの体を風が持ち上げる。
 その体が、ドラゴン達の目線に合わせた場所で止まった時、レツは閉じていた瞳を開いた。

『風ヲ 使ウカ 守護族ノ子ヨ ナラバ……水ニ沈ムガ良イ!』
 その言葉と同時に、ダークの手に水球が出来る。
 それが、自分に向けて解き放たれた時、レツは小さく笑みを見せた。

「残念だけど、ボクは異端者なんだよ……君と同じね……」
『ナンダ?』

 すっと手を差し出したと同時に、放たれた水が蒸発して行く。
 その情景を目の前にして、ダークは驚きを隠せないで居た。

 守護族は、火、水、地、そして風の五大要素の自然の力を使う事が出来る。
 だが、その使う力は限られているもので、一人に一つの力しか扱えない。
 まず、全ての力を使える者は、存在しないと言って良いだろう。

 そう、自分と言う存在だ生まれるまでは……。

 ドラゴンの一族の中で、ダークだけが言葉を喋り、魔法能力を使う事の出来る存在だったのである。そして、その力は、制限などなく全ての力を使う事の出来る能力。

「ダーク、君だけが、その力を使える訳じゃないんだ……ボクも、君と同じ能力を持っている、異端者…なんだよ…」

 そう言ってレツが、笑う。

 悲しいまでの笑顔で……。

 異端者である者は、守護族にとって恐れられる存在なのである。
 自分は、小さい頃から、守護族の仲間にさえ嫌われていたのだ。

 自分に話し掛けて来た者は、父親と精霊達そして、人狼一族であるエーリだけ。

「……ボクと君の力がぶつかり合えば、どちらもただでは済まないだろうね……」

 グッと手に力を込めると、レツは苦笑を零すように呟いた。

『笑止ナ ソノヨウニ 傷付イタ 体デ我ト同等ノ力ナド出セル筈モナイデハナイカ!』
「……試してみるかい、ダーク……」

 冷たいとも取れる微笑を浮かべて、まっずぐに相手を見据える。

「ソニック、マグナム……君達の長を……ボクは……」

 そして、自分の後ろに居る2匹に静かな声で話し掛けた。それに答えるように、ソニックとマグナムが泣き声を上げる。

「……有難う……」

 静かに微笑んで、レツはゆっくりと瞳を閉じた。

「…ボクが持っている、全ての力を君に……ダーク……ボクは、キミが、好きだったよ……」
『……スキ…?何ヲ 我ハ オ前達ノ所為デ!!』

<聖なる光よ 我の想いを聞き入れよ
 光の矢となりて 希望とならん!!>

『希 聖 光!!』

『全テノ闇ヨ 我ガ命ジル 
 光ヲ滅ボシ 全テヲ無ニ返ス力トナレ 暗 黒 光!!』

 光と闇が同時にぶつかり合う。
 その衝撃に、洞窟が大きく揺れた。

 そして、浮かんでいたレツの体が、グラリと揺れてそのまま力なく地上に落ちる。

『…コレデ 我ハ自由ダ!! 忌々シイ守護族ハ滅ンダゾ』

 地面に横たわったレツは、ピクリとも動かない。
 そして、レツの力が無くなったのと同時に、ソニックとマグナムの姿が元に戻ってしまう。
 だが、そんな事も関係ないように、ソニックとマグナムは、倒れているレツの傍に急いだ。

 そして、心配する様にレツの手や顔を舐める。

『無駄ナ事…ダガ 息ノ根ハ我ノ手デ刺シテ ヤロウ……ソコヲ退ケ!』

 大きな声で言われたそれに、マグナムとソニックはレツを庇うようにその前に立ち塞がった。

『ホウ ソノ小サクナッタ体デ 何ガ出来ルト言ウノダ?』
「……出来るぜ、こいつを守る事がなぁ……」
『誰ダ!!』
「お前が、大嫌いな、人間だよ」
『ウインディーネ、早く治癒魔法!』
『言われなくっても、分かてるわよ!! 命ノ雫!』

 きらきらと光り輝く水がレツの体を覆う。
 それを確認してから、ゴーはゆっくりと目の前の大きなその体の主を睨み付けた。

『人間ガ ココニ何ヲシニ来タ!!』
『浄土壁!!』

 大きなその尾がゴーめがけて振り回された瞬間に、ノームの声と共にゴーの前に壁が出来る。
 その壁に邪魔されて、ダークの尾は空しく土の壁を壊しただけであった。

『精霊ガ 何故 人間ノ味方ヲスルノダ!!』
『レツが認めた人間を護る。わし等はそう決めただけじゃ……ダーク、お前さんには、分からん感情じゃろう……』
『…俺達は、レツを気に入ってる。だから、お前に殺させたりはしない!』

 ざっとレツを護るようにその前に立ったファイヤーの姿に、ダークが笑いを零した。

『精霊風情ガ 我ニ立テ付クカ……良カロウ オ前達ガ相手ト言ウノデアレバ 我モ手加減ハセヌ』
「…駄目、だよ、待って……これは、ボクの問題だから、みんなは手を出しちゃ駄目だよ……」
『レツ!』
「大丈夫だよ、ウインディーネ……有難う……」

 ニッコリと笑顔を見せて、伸ばされた手を優しく遮ってからレツがゆっくりと立ち上がる。

「何バカな事言ってるんだよ!そんな体で何が出来るって?!」
「……君に馬鹿扱いされるとは思ってなかったよ、ゴー……でも、これは、ボクだけの問題だから……」
「守護族だけの問題じゃ既にねぇじゃねぇか!!これは、俺達人間にだって、原因がある!こいつ等が教えてくれた、こいつがこんな風になったのは、俺達人間の所為なんだって……だから、これはお前だけの問題じゃねぇんだよ!!」

 精霊達が、教えてくれた事。
 それは、この森だけに魔物が要る理由。
 そして、その魔物達を集めているモノの正体、それが、目の前に居るドラゴンの長だと言う事を……。

「俺は、ソニックやマグナムの事、会ったばっかりだけどすげー好きだぜ。だから、俺達人間がその仲間を殺したって事を聞いた時、恥ずかしかった。珍しいからとか、そんな理由だけで俺達がお前達の一族を手に掛けた事……俺達には、そんな権利ねぇのにな……だから、お前が怒っている理由は、俺にも分かる。人間である俺が憎いって言うのなら、俺を殺してもいいぜ……」
「なっ!!」

 ゴーのその言葉に、その場に居た全員が驚いて言葉もなく相手を見詰めてしまう。
 しかし、ゴーはその視線を受けながらも静かな笑顔を浮かべた。

「……俺、バカだから、そんな事くらいしか浮かばねぇけど、お前がそれで納得するんなら、それでいいさ」

 ニッと笑うその笑顔は、本当に清々しいくらいの明るい笑顔。それは、まるで太陽を思い出させるような温かみのあるゴーらしい表情。

『……オ前如キノ命デ 我ノ気持チガ納マルト思ッテイルノカ?』

 その笑顔を前に、ダークが静かな口調で問い掛けてくるのに、ゴーは真っ直ぐその顔を見上げる様に頷く。

「ああ!だって、あんたは寂しいだけなんだろう?こんな所に閉じ込められて、誰も居なくって、寂しかっただけなんだろう?……お前の目ってさぁ、レツの目に似てるから……」

 自分で言った言葉に、楽しそうに笑う。そして、ゴーはそっとダークの足に触れた。

「…同じなんだよ、あんたとこいつは……こいつだって、ずっと一人だったんだぜ。だから、お前の事を誰よりも大切にしたいと思ってるんだって、あんたも気が付いてるんだろう?」

 確かに、レツはダークの事を好きだと言ったのだ……。
 その声は、自分の耳にはっきりと聞こえた。
 そして、殺したくないと言う心の叫びも…。

 だから、レツにダークを殺させるような事はさせたくない。
 泣いてしまうから、誰よりも繊細な優しいその心が傷付いて泣いてしまわない様に……。

『バ、バカナ事ヲ……我ガ寂シイ?ソンナ感情ナド我ハ知ラナイ……』
「知らない?なら、なんでそんな目をしてるんだよ。本当は、レツに愛されているソニックとマグナムが羨ましんだろう!」
『違ウ!!』
「ゴー!!」

 否定の声と共に、ゴーを狙ってダークの尻尾が振られる。
 それを近くで見ていたレツがその体で庇う。

 ほんの一瞬の出来事。
 それに、誰も何も出来なかった。

「レツ!!」

 壁に叩き付けられたその体を慌ててゴーが抱き上げる。
 そして、ウインディーネが急いで治療魔法をかけようとしたが、その手は静かに下ろされた。

『ウインディーネ!』

 治療魔法を掛けないウインディーネを促す様に声を上げたシルフに、ただ静かに首を振る。

「……大丈夫だよ…ごめんね…そして、有難う。ダークの気持ちに気が付いてくれて……君になら、全てを託す事が出来るのかなぁ……」
「レツ!」
「ダーク……君を愛してれくれる人は、一杯居るよ……だから、もう一度だけ……君は、遣り直すべきだ……」

<……光ある所には 闇があり 闇あるところに また光がある……
  全ての闇を光に変え すべての光を闇の中に 今 光と闇を一つに……>

『……光 闇 統 化……』

 眩しいばかりの光に、全員が目を閉じた。

「な、なんが起こったんだ?」

 目を閉じていても感じられるその優しい光が漸く収まった時、ゴーはゆっくりと瞳を開く。

「……レツ!」

 そして、自分の腕の中の人に慌てて視線を移した。
 傷付いた体で、魔法を使えばどうなるかなどと言う事は、そんな力を持っていない自分でも想像はつく。

「……な、なんで、そんな体で無理するんだよ!俺は、俺はまだあんたに何も言ってないのに!!!」

 段々と冷たくなって行くその体から、それ以上熱が逃げ出さない様に強く抱き締める。
 もう、息もしていないその体は、力なく自分に抱き締められていた。

『…レツ……!!…シルフ、俺達を地上に送れ!!ここが崩れる』
『……ゴー!行くわよ!早く私達の方に!!』
「……勝手に行けよ!俺は、ここに残る……こいつを一人で残したりはしない……」

 レツの体を抱き締めて、小さく首を振るゴーの姿に、誰もが一瞬言葉を無くす。
 だが今は、レツの死を悲しんでいる余裕は、自分達にはない。

 勿論、精霊である自分達は、ここが崩れたとしても、何の問題もないのだ。
 しかし、人間であるゴーは違う。

『何バカな事言ってるのよ!急いで!!』
「……バカでも何でも、俺はここに残る!!もう、決めたんだ……」
「ピイ〜!」

 力なく項垂れたゴーの背に、声と共にマグナムが体当たりをした。
 そんなに力はないが、ゴーを正気に戻すには十分な威力。

「……お前……俺には、死ぬなって、そう言うのか?」

 自分の言葉に、甲高い声で鳴くその姿は、まるで自分の事を力付けようとしているようで、ゴーはそっと目許に浮かんだ涙をグッと拭った。

「……俺なんかよりも、お前達の方が悲しいんだよなぁ……それに、一緒に死ぬなんて、あいつは望まない……」
『ゴー!』

 再度シルフに名前を呼ばれて、ゴーがゆっくりと立ち上がる。
 そして、レツをそのまま抱き上げた。

「こいつだって、こんな所に置いて行かれるのは、イヤだろうからな……行こうぜ、マグナム、ソニック」
『……急いで…時間がない…!!ダーク……』

 ゴーの手を掴んだ瞬間に、シルフがその後ろに居たモノの名前を呼んだ。
 その声に、ゴーも振り返る。

 どんな魔法を使ったのか、ダークの姿は、見上げるようなその巨体から想像も出来ないほど小さくなっていた。
 今の大きさは、ソニックやマグナムの大きさと全く変わらない。

「……来いよ…それが、あいつの望んだ事だから……」

 すっと手を差し出したそれに、ゆっくりとした動きでダークが近付いてくる。
 ゴーはその体を優しく受け止めた。

「……帰ろう…光のある場所へ……」

 その言葉と同時に、闇の中からその姿が消えて行く。



「……帰ってきたぜ、あんたが大切にしている場所に……」

 光を浴びて輝いている湖を前に、ゴーは静かに微笑んだ。

『……守護族の結界が、消える……』

 静かなその声に、誰もが空を仰ぎ見た。
 あるで水の粒子の様にキラキラと輝くその結晶が風に流れて行く。

「……ウインディーネ……レツの眠りは、あんたが護れよ……」
『あんなたにお願いされなくっても、レツの眠りを誰にも邪魔させたりしない』

 そっぽを向きながら言われたその言葉に、ゴーは満足そうに頷いた。そして、抱き締めていたその体を、ゆっくりと湖の中に下ろす。

「……真中…連れて行ってくれ……」

 そっと手を離して呟けば、レツの体が静かに流されて行く。それを何とも言えない表情で見送りながら、その姿が完全に消えてしまうまで、誰もその場所を動けないでした。

「……さてと、俺は、ここに残る……」
『……ここに残って、どうするの?』

 大きく伸びをしながら言われたその言葉に、シルフが尋ねてきたそれに、ゴーは笑顔を返す。

「…こいつ等と一緒に居る……あいつがずっとしていた様に、今度は俺がこいつ等を護るさ……」
『……人には、厳しい事やもしれぬぞ…』
「人とか、守護族とか関係ねぇじゃん。俺は、俺がしたいからここに残って、こいつらの面倒を見るんだ」
『…本当に変わった奴だよなぁ……レツがあんたの事気に入った理由、俺には分かるぜ』
「サンキューvv それに、ここにはあんた達も居るから、俺にはそれだけで十分だと思うからさ」
『……もう、あなたには、私達の姿を見る事はできなくなる……だけど、覚えておいて、私達はあなたの傍に居るんだって事……』

 すっと湖の中から現れたその姿は、自分と同じ大きさの美しい女性の姿。

「ウインディーネ?」
『……本当は、あなたの事、嫌いじゃなかったわ……レツが選んだ、人ですもの…』

 優しく微笑むその姿に笑い返す。そして、その姿が静かに見ずに溶けるように消えて行く。

『……レツの力が、消える…俺達は、自分達の所に帰るだけだ……忘れるなよ、俺の事』
「……当たり前だろう、ファイヤー…結構、お前とは気が合いそうだったのにな…」

 お互いの顔を見合わせて、笑い合う。
 そして、今度は炎に包まれるように、その姿が消えた。

『……お前さんが、畑を作る時には、わし等が手助けしよう』
「…サンキュー、ノームのじいさん……」

 笑顔を見せれば、優しい瞳で頷いて返され、それの姿が土に返っていく。

『……私達は、何時でもそっと見守っているわ……』
「……ああ、何時でも、その力を感じてるぜ…シルフ……」

 ニッコリと微笑む姿が風に流れる様に薄れて行くのを、ゴーは静かに見送った。

 一群の風が、そん場を通りすぎて行くのを感じて、ゆっくりと瞳を閉じる。

 ここから、また新しい時間が始まるのだ。
 ゴーは閉じていた瞳を開いて、そっと自分の後ろを振り返った。

「……ソニック、マグナム…そして、ダーク…これから、宜しく頼むぜ」

 三匹のドラゴン達が自分に飛び付いて来るのを受け止めながら、幼馴染が居る家へと歩き出す。
 今日からそこが、自分にとっての新しい家。

 もう直ぐ目を覚ますだろう大切な幼馴染に、その事を話たら何と返されるのだろうか?
 そして、このドラゴン達を紹介しなくっては、いけない。

 それに、きっと驚くだろうその顔を想像して、笑顔を零す。

 今から、また新しい時間が始まるのだから……。




                                             ― E N D ―



 

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      漸く、漸く終わりました!!
      そして、レツを殺しちゃってごめんなさい(><)色々悩んだすえに、こんな話になってしまいました。
      苦手な方、本当にすみません。

      えっと、まずは説明不足で、自分の文才の無さに嫌気が差してしまいました。
      本当に未熟な話で、ごめんなさい。楽しみにしていた皆様の期待を裏切ってしまった様で、申し訳ないです。
      しかも、こんなに待たせてしまいました。何度謝っても、申し訳ないです……xx
      
      この話での苦情は、幾らでも聞く覚悟は出来ておりますので、メールでもBBSでも構いませんので、おっしゃってください。
      説明し切れなくって、疑問に思った事もどうぞ。考えている範囲でお答えいたします。<苦笑>

      そんな訳で、本当に長い間お付き合いくださって有難うございます。
      この話を持ちまして、『Wizard』は終了とさせていただきます。
      本当に、読んで下さった皆様、そして感想を下さった皆様に、心からの感謝の気持ちを送りますね。
      

      有難うございました!!