「それじゃ、ここを使っていいからね」
夕食を済ませて体を清めてから、寝室部屋へと案内されて、ゴーは素直に首を傾げた。
「・・・・・・ベッド、他にもあるのか?」
寝室の中に置かれているベッドの数は、1つだけ。
今ここに居る人物の数は、3人。
どう考えても、ここに数人分の寝室部屋があるとは思えない。
「えっ?・・・・・・ああ、大丈夫だよ。君が気にする必要はないから。エーリの事なら心配しなくっても、休む所はあるからね」
「はぁ?何で、オレがエーリの旦那の心配なんてするんだ?俺が心配してるのは、あんたの寝るところだろう!」
自分の質問にニコニコしながら返された事に、溜息をつく。
だが、その言葉にレツは不思議そうに首を傾げた。
「ボクの寝る所?そんな心配する方が可笑しいと思うけど・・・・・・一様、ボクはここに住んでるんだよ」
確かに言われた事は間違いではないのだが、それに違和感を感じるのはどうしてなのか?
どう見ても、隠し事をしているようにしか見えないその態度に、疑問は拭えない。
「・・・・・・レツさん、確か、ここに住んでるのは、あんただけなんだろう?」
だからここで、ゴーは質問の内容を変えることにした。
確かに、レツは食事のときにそう話していたのだから、間違いは無い。
「一人じゃないよ。エーリが居るんだから・・・」
だが、それはニッコリ笑顔と共に否定される。
それは、間違いではない。
いや、本当にその通りなのだが・・・・・・何時もは、狼の姿をしているから、一人と一匹・・・・・xx
って、そんな問題ではない、ないのだが・・・・・・。
「嫌、そうじゃなくって・・・・・・」
「そうじゃなくって?」
自分が言いたい事の意味が、全く分からないと言うように、首を傾げられて、ゴーは本気で返答に困ってしまう。
「その、だから・・・・・・」
「だから?」
先を促されるようにオオム返しされて、ゴーが本気で焦り出した時、突然レツが笑い出した事で、漸くからかわれていたのだと言う事に気が付いた。
「お、お前、わざとだなぁ!」
「ご、ご免・・・・・・ゴーの反応が楽しくって・・・・・・でも、本当に大丈夫だから、心配しなくってもいいよ。今日は、疲れてるだろうから、ゆっくりと休んだ方がいいと思うしね」
笑いながら言われた事に、何も言い返せない。
確かに今日は、体力にいくら自信があるゴーでもかなり疲れていた。
正直なところ、食事が済んで風呂に入った今の状態では、かなりの眠気を誘っている状態なのである。
「・・・・・・それじゃ、お休み、ゴー・・・・・・良い夢を・・・・・・」
今のゴーの状態を知っているかのように、優しく微笑んで挨拶をするレツに、ゴーも笑顔を返す。
「ああ、お休み、レツさん・・・・・・エーリの旦那にも宜し・・・・・・・」
ニッコリと笑顔を返したまでは良かったのだが、言い終わる前に大きな欠伸を止められず、レツに笑われてしまう。
「じゃ、明かりは貰っていくね。お休み、ゴー」
言うが早いか、笑いながらもランプを持って部屋を出て行く。
ただ一つの明かりを持っていかれると、急に部屋の中が薄暗くなった。
真っ暗にならないのは、窓から漏れている月の光のお陰。
「たく、シマらねぇよなぁ・・・・・・」
そんな月明かりを感じながら、ゴーは今日一日の事を振返って、盛大な溜息をついた。
思い求めていた初恋の人に、散々助けてもらった一日。
自分は、あの人を護れる位強くなりたくって、剣術を習ったのに、現実では逆に守って貰ったのだから、格好の悪い話だ。
「・・・・・・本当に、情けねぇよなぁ・・・・・・」
溜息をついて瞳を閉じれば、そのまま睡魔に誘われるままに夢の中に入り込んでいく。
「・・・・・マグナム・・・・ソニック。今日、変な奴に会ったんだ。ボクの姿を見ても、怖がらない奴。昔に、一度だけ会った事があるんだけど、すっごく逞しくなってたんだよ」
そこまで言ってから、レツは思い出したように笑い出す。
「・・・・・昔、ボクにしがみ付いて泣いてたのに・・・・・・・・エーリの一族相手に、全然余裕見せて相手してた」
楽しそうに笑いながら、レツは自分の肩に乗ってくるドラゴン達に話し掛ける。
自分の呼び掛けに、頬に擦り寄ってくるドラゴンの姿に、レツは瞳を細めながら見詰めた。
「寂しくなんかないよ、ソニック。ボクには、お前達や、エーリが居てくれるんだから・・・・・・」
優しく自分の事を見詰めてくる瞳に、笑顔を見せてから、レツはゆっくりと瞳を閉じる。
レツ達一族は、代々ドラゴンの守護族として、この湖の辺にひっそりと暮らしていた。
だが、幸せだった自分達のこの地に人間達が入り込んできた為、昔は沢山居たというドラゴン達も、人の手によって殺害され、今では目の前に居る二匹だけとなってしまっている。
そして、そんなドラゴン達を守護していたレツ達一族も、人間達とは違う容姿と人では決して使えない力を使える事から、化け物扱いを受けてきた。
ましてや、人間に害を与えると言われているドラゴンを守護しているのだから、人間にとっては、邪魔な存在だったのであろう。
そんな理由から、何人もの守護族が、ドラゴンを守るためにその命を落としている。
だから当然、ドラゴンの守護族は、人間との関わりを極端に嫌っていたのだが、レツとその父親だけは、違っていた。
人間達が、自分勝手なのは、レツだって良く知っている。
それでも、人が傷付くのを見るのが嫌なレツは、迷い込んできた人間を出来るだけ安全に森の外に送り出してきた。
それは、レツの父親が生きていた時からずっと続けている事。
「・・・・・・父さん、ボクの半身には、何時会えるんだろう・・・・・・それとも、ボクはずっと一人なの?」
優しい父の顔を思い出して、レツは小さく息を吐き出す。
自分の半身。
父親が何時も自分に話してくれた。
何時か出会える自分の半身を悲しませないように、強く生きろと・・・・・・。
そんな優しかった父も、5年前に人間を魔物から助ようとして、その命を落としてしまった。
大勢居た村人達も、魔物に殺されたり病気になったりで、今ではこの守護族の村に残ったのは、レツただ一人である。
「お前達が居るのに、どうしてこんなにも、物足りないって思ちゃうのかなぁ・・・・・・」
自分に擦り寄ってくる二匹に呟きながら、苦笑を零す。
「・・・・・・ボクは、きっと我侭なんだね・・・・・・」
一人が嫌だとは思わない。
けれど、時々見かける人間達の幸せそうに寄り添う姿を見る度に、胸が痛むのだ。
一人である自分と、笑い合える誰かが居る人達との違い。
分かっている事は、自分にそんな人が現れる事なんて、有得ないという事。
「エーリには、仲間が居る。そして、ソニック、お前にはマグナムが居る。でも、ボクには・・・・・・ううん、ボクにも、ソニックとマグナムが居てくれるから・・・・・・大丈夫だよ。ボクには、まだお前達が居るんだから・・・・・・」
例え、強がりだと言われても、それが自分にとっての真実。
誰も居なくなったこの村に居るのも、全てはこの二匹のドラゴンの存在があるから・・・・・・。
自分以外に、このドラゴン達を守れない。
もし、守る存在がなかったとしても、自分は人間達に受け入れられる事はないだろう。
「今日は、ここで眠らせて・・・・・・お前達と一緒に・・・・・・」
笑顔を見せて、何時ものように子守唄を口にする。
『お休み 風の歌を聴きながら
お休み 月の囁きを聴きながら
自然が奏でる子守唄を聴きながら お休みなさい
大丈夫 誰も傷付かないように
大丈夫 どんな時でも傍に居るから
今だけは 優しい気持ちのまま お休みなさい
一緒に空を飛ぶ夢を見よう
一緒に森の中を駆ける夢を見よう
大丈夫 ずっと一緒にいるよ だからお休みなさい』
ドラゴンの為の子守唄。
少し高いレツの歌声に安心したように、ドラゴンたちが瞳を閉じる。
そんな2匹を優しく見守りながら、レツも静かに瞳を閉じた。
夜が更けていく・・・・・。
静かな夜の月明かりが、湖にその姿を揺らしながら・・・・・・。
眩しい光を感じて、ゆっくりと瞳を開く。
「おはよう、ゴー良く眠れた?」
直ぐ傍で聞こえた声に、まだハッキリしない意識のままそちらに顔を向ける。
「その様子だと、眠れたみたいだね。朝食の準備出来てるよ、エーリだ怒り出す前に、顔洗っておいでよ」
枕もとで笑顔を見せながら、自分を見ている赤い髪の少年。
一瞬、まだ夢の中なのかと錯覚してしまそうな程、光に溶け込んでいて眩しい。
久し振りにゆっくりした時間の中で覚醒できたのは、体が疲れていただけではなくって、あれは・・・・・。
「・・・・・・昨日、歌が聞こえなかったか?」
昨夜遅く、風に乗って流れてきた歌声が耳に付いて離れないのは、あの声が優しくそして悲しく聞こえたから?
「歌?何も聞こえなかったよ。ゴーもしかして、夢でも見てたの?」
自分の言葉に、レツが楽しそうに笑う。
嘘をついている様には見えないが、本当の事を言っているようにも思えない。
そんなこと言ったら、呆れたように返されそうだが・・・・・・。
「ほら、寝ぼけてないで、起きろよ!これで、顔洗って来い!」
言わなくても、十分呆れられてるように思うのだが、ゴーは顔を拭くようにタオルを渡されて急かすように、ベッドから追い出される。
「湖で顔洗っておいで、今の時間の水は、一発で目がさめるよ」
ベッドから追い出すと、一つ溜息をついて、レツが外の湖を指差す。
太陽の光を一杯に浴びて、湖は夜の月明かり以上に輝いてる。
「・・・・・・分かった・・・・・あっ、そうだ!レツさん、おはよう・・・・・」
部屋を出て行こうとしたゴーが思い出したように振返って、笑顔を見せながら朝の挨拶。
ウインクまで見せての挨拶。
「本当に、変なヤツ・・・・・・」
姿の見えなくなった相手に、苦笑を零しながら溜息をついた。
「でも、何年ぶりかなぁ、誰かに『おはよう』って言ってもらったの・・・・・・・エーリじゃ出来ないし、ソニックにマグナムだって、言える訳ないもんね・・・・・・」
もう一度苦笑を零すと、レツは湖にゴーの姿を見つけてると溜息をついて笑顔を零す。
「冷てぇ・・・・・」
湖で顔を洗えと言われた理由を、手を入れた瞬間理解してしまった。
「確かに、一発で目が覚めるよなぁ・・・・・・」
溜息をついて、冷たい水で顔を洗えば、本当に頭がすっきりとしてしまうのは、気のせいではないだろう。
目の覚めた頭でゴーは、湖の周りを見回した。
確か、ドラゴンが居るといわれているのは、湖の近くにある洞窟。
それは、ここ以外には考えられない。
案の定、直ぐにそれらしいものを見つけられた。
昨夜は気が付かなかったが、小屋の直ぐ傍に小さな洞窟がある。
「・・・・・・あそこが、ドラゴンの棲家?でも、レツの家の傍だぞ・・・・・・・本当に、ドラゴンなんて居るのか?」
居たとしても、凶悪と言われているドラゴンの傍で人が住めるはずも無いだろう。
そう、ドラゴンの存在が、凶悪とされていると言うのが本当ならば・・・・・・。
「凶悪ドラゴン・・・・・姿を確認するのは、簡単って事か・・・・・・」
このまま、あの洞窟に入っていけば、真実が分かる。
だがそれをしてしまうと、自分は確実にレツに嫌われると分かりきっているのだ。
折角出会えた初恋の君に嫌われるような事を、いくら金の為とは言えゴーには出来ない相談である。
「さて、どうしたものか・・・・・・レツには嫌われたくねぇし、かと言って何もしねぇで帰るなんて、俺のプライドが許さねぇしなぁ・・・」
腕を組んで、その場に座り込む。
自分がここに来た理由は、ドラゴンの存在を確認する為。
そして、それには村の若者達と賭けまでしていると言うおまけ付き。
ここでオメオメと帰るなんて、自分のプライドとしては許せない。
しかも、逃げ帰ったと思われるのは、正直悔しい。
「・・・・・・どうする、俺?」
一番早いのは、ドラゴンが自分の棲家から出て来てくれるのが一番確実、しかもレツに嫌われなくて済む方法である。
だが、それはレツまでもを危険な目に合わせる方法だと言うのが、一番難点。
何せ、レツの家は、洞窟の直ぐ傍にあるのだから・・・・・・。
今この時までも、ゴーにはドラゴンは凶悪な存在と言う言葉が頭から離れなかった。
よくよく考えれば、そんな危険な存在が居る場所に、人が住む訳がないと言う当たり前の事をゴーは考え付かなかったらしい。
「ゴー!何時までそこに居るつもりだ!」
どうするかを考え込んでいたゴーは突然名前を呼ばれて、我に変えった。
呼ばれた方を振返れば、レツが窓から顔を出して、不機嫌そうに自分を睨んでいるのが見える。
「ああ、悪い・・・・・・今戻・・・・・・・・xxあっ・・・・・あ〜!?」
そんなレツに苦笑を零すと、ゴーは返事を返して立ち上がろうとした瞬間、それは目の前に現れた。
真っ白い体に、赤い鬣、その背には翼を持つモノ。
これをドラゴンと言うんなら、その姿は間違いなくドラゴンである。
だが、それはドラゴンと呼ぶには余りにもミニチュアで、ゴーは余りの事に声も出なくなった。
「ソ、ソニック!!」
目の前の物体に動けないで居る自分と、嬉しそうにそんなゴーに擦り寄ろうとしている謎の物体に驚いて、レツが小屋から飛び出してくる。
「ソ、ソニック?」
自分に擦り寄ってくる物体に、レツは慌ててその物体を自分の方に抱き寄せた。
「・・・・・・・も、もしかしなくっても、やっぱりドラゴン?」
自分の目の前で謎の物体を庇うようにしているレツに、ゴーは思わず頭を抱えてしまう。
確かに、自分はドラゴンの存在を捜しに来た。勿論、それは否定しない。
だが、こんな小さい生き物を苛める趣味など全くない。
しかも、襲い掛かってくる相手ならまだしも、嬉しそうに自分に懐いて来る相手を、どうこうするつもりは、全く無いのだ。
「ソニックを殺すつもりだって言うのなら、ボクを先に殺せ!!」
戦意喪失も、いいところである。
しかし、ぎゅっとドラゴンの体を抱き締めているレツは、キッとゴーを睨みつけるとそのままの勢いでゴーに声を荒げた。
「殺せって・・・・・・あのなぁ・・・・・・」
自分の事を睨んでくる瞳が、すっかり元に戻ってしまった事に、ゴーは盛大な溜息をつく。
今、ドラゴンの存在と言うものを目の前にして、漸くゴーはレツが抱えていた悲しみと言うものを理解する事が出来た。
彼にとっては、このドラゴンは大事なモノなのだ。
「殺す訳ねぇだろう・・・・・・俺は、ドラゴンの存在を確かめるってのは言ったが、退治に来たなんて一言も言ってねぇぜ」
もう一度ゴーは溜息をつくと、呆れたように口を開く。
その言葉にレツの瞳が驚きに見開かれる。
「それに今、武器持ってねぇのに、殺せねぇだろう?」
驚いて自分の事を見詰めてくる瞳に、ニッと笑顔を見せれば、きょとんとした表情が返ってきた。
それに、もう一度笑顔を見せて安心させるように口を開く。
「武器持ってたって、敵意がねぇヤツを殺したりはしねぇよ」
ウインク付きで言えば、疲れたようにレツはその場に座り込んだ。
「・・・・・・本当に、変なヤツ・・・・・・」
疲れたように座り込んで、呆れたように笑う。
漸く笑顔を見せた相手に、ゴーは少し不機嫌そうに溜息をついた。
「俺って、そんなに変なヤツなのか?」
ゴーの質問に、レツは小さく笑うと、素直に頷いてみせる。
「・・・・・・十分、変だよ・・・・・・ここに来たヤツは、ドラゴンを見つけると英雄気取りで殺しちゃうヤツばっかりだった。だから、お前みたいなヤツ、初めてだ・・・・・・」
悲しそうな瞳が、全てを物語っているようで、ゴーは肩を竦めると苦笑を零す。
「世の中、そんなヤツばっかりじゃねぇよ・・・・・・んでもってさぁ、そいつ俺にも紹介してくんねぇか?」
今だに腕の中に居るドラゴンを指差して、ニッコリ笑顔。
その笑顔と言われた事に、レツは一瞬きょとんとした表情を見せたが、直ぐに笑顔を作った。
「・・・お前にだったら、特別に紹介してあげるよ。この子は、ソニック。そして、あそこで心配そうに見てるのがマグナム。ソニックと違って、マグナムは人見知り激しいから、多分出てこないとは思うよけどね。見分けるのは・・・・・・」
洞窟の方を指差して、レツが笑顔を見せる。
言われた通りそちらに視線を向ければ、確かに同じようなものが、顔だけを出してこちらの様子を窺っているのが見えた。
その窺っている方と、今目の前に居るモノとで明らかに違うのは・・・・・・。
「鬣の色?」
「うん、ソニックは赤で、マグナムは青の鬣。この2匹が、この地に残る最後のドラゴン・・・・・・」
瞳を閉じて、レツはそこで一呼吸置く。そして、ゆっくりと瞳を開くと静かに微笑えんだ。
その微笑が余りにも綺麗で、胸を締め付けられる。そのまま消えてしまいそうな程、儚い笑顔。
「・・・・・・そして、ボクはドラゴンの守護族。今ではボク一人だけだけどね」
ザッと風が、二人の間を流れていく。
苦笑うようなその表情で、何を言われたのか理解できない。
「ドラゴンの守護族?」
聞きなれない言葉に、ゴーが首を傾げた。
その質問に、レツは自嘲的な微笑を見せると小さく頷く。
「知らないのは、無理ないよ。でも、ここは守護族の村。ここだけは、守護族の結界が張られているから、魔物も入ってはこれない聖域。そう、ここに人間達が入ってくるまでは、ね」
語りながら、レツが肩を竦める。
レツが人嫌いな理由。そして、自分の事を警戒していた本当の訳。
「・・・・・初めは、ボク達も旅人がこの地に入るのを快く思ってたよ。でも、人間達は、ドラゴンの姿に魅了され、剥製にする為に狩りを始めた。そして、それを邪魔するボク達一族を疎ましく思うようになってきたんだ。しかも、ボク達が魔法を使えると知った人間は、ボク達を化け物だと言って恐れ、この地に居るドラゴンは凶悪だから、殺したモノには賞金まで出すと言われだした。だから、今この地に居るドラゴンは、この二匹しか残って居ない・・・・・・。この地に居るドラゴンが凶悪だって、お前も、言われてたんだろう?」
否定の出来ない問い掛けに、ゴーは小さく頷いて返すしか方法が思い付かない。
確かに、小さい頃から言われていた。
この森には、恐ろしいドラゴンが住み着いているから、入ってはいけないと・・・・・・。
村の大人達は、口々にそう子供に言って聞かせている。
そう、ゴーの母親を除いては・・・・・・。
ゴーの死んだ母親だけは、この森のドラゴンの事をとっても優しい生き物だと言って聞かせてくれたのだ。
「お前に、こんな事言っても仕方ないのは分かってる!でも、ボクは人間に殺されたドラゴンたちも、みんな好きだったんだ!!」
目の前で殺されたドラゴン達の姿が忘れられず、何日も眠れない日を過ごした事がある。
優しい生き物を、簡単に殺してしまえる人間達の姿こそが、自分にとっては魔物以外の何者でもない。
「・・・・・・悪い・・・・・・俺が、謝っても許してもらえるとは、思えねぇけど、ごめん・・・・・・」
目の前で泣くまいと必死に虚勢を張っている姿に、ゴーは辛そうに瞳を逸らすと頭を下げた。
突然誤られたそれに、レツは一瞬瞳を見開いて、溜息をつく。
「・・・・・・君に謝ってもらっても、仕方ないよ・・・・・・」
苦笑を零して、ゆっくりと立ち上がる。そして、腕の中からドラゴンを開放した。
「・・・・・・許すとか、許さないじゃないんだ。・・・・・・それに・・・それでもボクは、人間の事、嫌いになんてなれなかったから・・・・・・」
自分から離れていくドラゴンを見詰めながら、レツが苦笑を零す。
悲しいほど綺麗な微笑。
どれほど、そうやって自分の感情を押し殺してきたのかなんて、知る事なんて出来ない。
一人残されたこの地で、そんな気持ちだけを抱えていくるのは、どれだけ辛いものなのだろうか?
ゴーも、一人残されるという経験をした事がある。
しかし、レツはそれ以上に辛い思いをしていたのだと知って、ゴーは言葉も無くレツを見詰めた。
「人を嫌いになれれば、もっと楽だったと思う。でも、みんながみんな、そんな人じゃないって言う父さんの言葉を信じてたから、だから、嫌いにはなれなかった・・・・・・それに、お前みたいなヤツにも出会えたし・・・・・きっと、また人の事を嫌いにはなれないんだろうなぁ」
諦めたように溜息をついて、レツがもう一度笑顔を見せる。
「不思議だね。お前と、ボクは一度しか会った事がないのに、こうやって自分の気持ちを素直に話してる。誰にも言った事なんて、ないのに・・・・・・どうしてなんだろう、お前のそばに居ることが当たり前だって思えるのは・・・・・・」
困ったような微笑と共に呟かれた言葉に、ゴーは驚いてレツに視線を向けた。
「えっ・・・・それって・・・・・・わっ!?」
言われた言葉の意味を掴もうとして、口を開きかけた自分の問い掛けは、突然頭の上に乗っかってきた物体に阻止されてしまう。
「ソ、ソニック・・・・・・?」
真剣な雰囲気は何処へやら、嬉しそうに自分の頭の上に乗っかったそれは、我が物顔でその上で寛いでみせる。
自分の頭の上で寛ぎの体勢に入ったドラゴンの姿に、レツは一瞬呆然とした表情を見せたが、直ぐにそれは笑顔へと変わった。
「・・・・・・に、似合うよ、ゴー・・・・・・ソニックも、すっかりお前の事気に入ってるみたいだしなぁ・・・・・・」
目の前の姿に、爆笑したいのを堪えながらのレツの言葉に、ゴーは小さく溜息をつく。
しかし、目の前で嬉しそうな笑顔を見せられれば、文句なんて言えないのは仕方ないだろう。これが、惚れた弱みというものである。
「マグナム、お前もおいで・・・・・大丈夫だから・・・」
嬉しそうな笑顔を見せて、今だに洞窟の中から外の様子を窺っているもう1匹のドラゴンを呼び寄せるように手招きすれば、恐る恐るといった感じでマグナムが洞窟から出て来た。
「大丈夫だよ、マグナム・・・・・・ほら、ソニックもこんなに懐いてるだろう?」
「・・・・・・懐いてるって、言うのか?」
どうも、バカにされているような気がするのは、どうしても否定できない。
ゴーの問いに、レツは思わず苦笑をこぼした。
だが、そんな相棒の姿に安心したのか、ゆっくりとマグナムも洞窟のの中から出てくる。
「おいで・・・・・・」
レツの呼びかけに、慌ててその見を摺り寄せて、マグナムは甘えたような声を出した。
ピーっと言う鳥のような鳴き声は、どう聞いても怖いと思えない。
「・・・・・・ドラゴンの鳴き声って・・・・・・んじゃ、噂にある鳴き声って・・・・・・」
そんな声を聞いてしまっては、あの噂の信憑性というもの無く。
どこからそんな話が出てきたのかが、逆に疑問に思えるくらいだ。
「噂?」
呆れたように呟かれたそれに、レツは不思議そうに首をかしげる。
噂ほど、当てにならないものは無いというのを今目の前で確認したというのに、それでもその噂がどうしても頭から離れない。
「・・・・・・湖の洞窟近くで、凶暴そうな声が聞こえるって・・・・・・俺たちの村では言われてんだ・・・・・・」
「洞窟の傍で、凶悪な声?」
自分の言葉を問い掛けられて、ゴーは小さく頷いて返す。
それに、レツは面白そうに笑い出した。
「それを、ドラゴンの声だと思ってたんだ・・・・・・・それは、洞窟の中に風が吹き込んだ時に鳴るんだよ」
楽しそうに笑いながら説明された事に、ゴーは不思議そうに首を傾げる。
「風が鳴る?」
言われた意味が分からなくって思わず聞き返せば、逆に首を傾げられてしまう。
「知らないのか?」
不思議そうに聞き返されて、頷いて返す。
「笛なんかの仕組みと同じだよ。空洞の中に、空気が入り込んだ時、それが振動して音を出す。詳しい事は、ボクも知らないけど確かそんな理由だったと思うんだけど・・・・・・」
ゴーの疑問に、自信無さそうに説明して、レツは自分に懐いているドラゴンの頭を撫でた。
「・・・・・本当、噂ほどあてにはならねぇなぁ・・・・・・:
「噂なんて、そんなものだよ・・・・・それに、この森に普通の人間達が入ってこないのは、魔物の存在があるからだ。この森に居る魔物は、この森の中からは出られない。だから、自分のテリトリーに入った人間だけしか襲えないんだよ」
溜息をつきながら、レツはそう言って苦笑をこぼす。
「ボク達一族も、そんな魔物に殺されてしまったけど、人を遠避けてくれてるのは、そんな魔物の存在だって事が皮肉だよね・・・」
自嘲的な微笑に、言葉が掛けられな。
ゴーは一瞬そんなレツを静かに見詰めて、ゆっくりと瞳を閉じた。
「って、いけない!!ゴー朝食が冷めてる。エーリ、怒ってるだろうなぁ・・・・・」
だが、そんな雰囲気を壊すように、慌てたように言われた言葉に、ゴーは小さく溜息をつく。
言われてみれば、確かにかなりの時間がたっている。しかも、家の中から、凄まじく不機嫌そうな視線を感じて、ゴーはもう一度溜息をついた。
「・・・・・・エーリの旦那は、狼に戻っちまってるのか?」
「えっ?ああ、エーリの一族は、夜の間・・・・・しかも、満月の日にしか人間には戻れないんだ。だから、昨日は特別・・・・・言っただろう、エーリの人方見たのって久し振りだって・・・・・・あんなに、格好いいのに、勿体無いよね。でも、エーリは狼の姿でも、素敵だけど・・・」
嬉しそうに自分の質問に答えて言われたそれに、ゴーは正直頭を抱えたくなった。
多分、本人はそんな事考えて言ってはいないと分かるのだが、まるで自分の彼氏を自慢しているようにしか聞こえない。
昨日の事でレツがそう言った事に鈍そうだというのは、嫌と言うほど理解できたが、これではエーリとの仲を疑いたくなってしまう。
「・・・・・・俺、実はとんでもないヤツに惚れちまったのか?」
「えっ?何か、言った?」
ゴーの呟きを聞き逃したレツが、不思議そうに首を傾げる。
「嫌、何でもねぇよ・・・・・・」
溜息をつきながら返して、もう一度だけ溜息をつく。
惚れさせた方が勝ちとは、よく言ったモンであろう。
確かに、自分は目の前の人物に弱い。
正直言って自信なんて無いが、少しでも自分という存在に惹かれてくれていると分かったから、勝負はこれから・・・・・・。
一人で居るということが当たり前だと思っているこの存在に、自分と言う存在を認めてもらう。
今は、無理でもそれが出来る事を信じて・・・・・・。
勝負は、まだ始まったばかり、最も相手はかなり強力かもしれないが・・・・・・。
「まっ、相手が強敵な程燃えるってもんだよなぁ・・・・・それに、俺は欲しいって思ったものは絶対に手に入れるぜ」
強気な笑顔を見せて、先に家の中に入って行ったレツの後を追う。
賭けの期限は明日まで、さてさて残り1日で、レツのハートを手に入れる事は出来るのか。
それを知るのは、神のみぞ・・・・・・
そして、2日目の朝が始まった。
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さて、またしてもごめんなさいです。(_ _;)
しかも、全く話が進んでないって、どう言うことでしょうねぇ・・・・・・(遠い目)
えっ!一様進んでるって思ってくれた人、有難うございます!!(居ないだろうなぁ・・・<死亡>)
本人、これでも頑張ってるつもりなので、ゆ、許してください。(><)
しかも、魔法はどうした!!今回、一度も使われておりません。
終わってる、この題名・・・・・・。
「3」に続くのは、もう諦めました。でも、きっと「3」で終わるに違いない!!(自分に言い聞かせてどうする・・・)
と、とにかく、頑張ります!!(でも、次は「GIRL」の方だろうなぁ・・・・・・xx)
苦情は、BBS・メールにていくらでも受け付けております。
どうぞ遠慮無く言ってください。
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