何時だって、望んでそうなった訳ではない。
だけど、周りが、それを望むから、俺は、それを演じるしかなかった。
皆に、頼りにされるリーダーと言う役を……。
本当の自分を、押し隠して……。
GATE 24
何も話さない二人に、思わず苦笑を零す。
どう見ても、仲の良い先輩後輩と言う風には見られない。
「ねぇ、タイチ。どうして二人とも、あんなにムキになってるの?」
そんな目の前の二人を前に、アグモンが不思議そうに質問してきた言葉に、太一は、少しだけ困ったように笑みを零す。
「……んっ、俺にも、分かんねぇ……」
3人揃って光子郎の家に戻ると言う話から、この二人は荷物も持たずに学校を出て来ている。
それに対しては、自分の責任なので、深く追求する事は出来ないが、しかし、どうしてこんなにも険悪な雰囲気が流れているのか、それを疑問に思っても、許されるだろう。
「なぁ、もうちょっと、穏やかに出来ないのか?」
険悪な雰囲気に絶えられなず、そっと声を掛ければ、同時に振り返る、二人。
それに、一歩後退しそうになるのをぐっと堪えて、二人の言葉を待つ。
「穏やかにですか?僕は、いつも以上に穏やかですよ」
自分の言葉に、ニッコリとこれ以上無いほどの笑みを浮かべて言われた言葉に、太一は心の中で突っ込みを入れる。
「俺も、同じだ」
そして続けて素っ気無く言われた言葉に、今度は盛大なため息をついてしまうのを止められない。
そう見えないからこそ、声を掛けたと言うのに……。
「分かった。んじゃ、兎に角、早く帰ろうぜ。空、待たせ過ぎてるからなぁ」
諦めたようにため息をついて、先へと促す。
しかし、その言葉に、光子郎が、ずっと疑問に思っていた事を口にした。
「……先ほどから仰っている、空さんと言う方は、一体誰なんですか?」
質問されて、思い出してしまうのは、彼らには、あの冒険の記憶がないと言う事。
「……悪い。知らねぇんだよなぁ……えっと、空って言うのは、武之内空って言って……」
「武之内……」
説明しようと慌てて名前を言った瞬間、ヤマトが複雑な表情で問い返してくる。
「えっ、ヤマトは知ってるのか??」
「………一緒のクラスだからな……」
「武之内先輩でしたら、僕も知っていますよ。小学校の時、同じクラブでしたから」
自分の言葉に、返されたそれに、太一は複雑な表情を見せた。
それだけではないのに、今の彼らは、覚えていない。
光子郎に至っては、どうして自分がそのクラブに入る事になったのかさえも……。
「……そっか、なら、話は早いな。そいつも、デジモンのパートナーが居るんだ。だから、光子郎の家に行ってもらった。あそこなら、あいつらも居るから……」
自分の気持ちを押し込めて、説明をする。
何も覚えていない彼らに、空も自分達と同じ仲間だと言う事を……。
デジモンのパートナーが居ると言う事、それは、即ち仲間であると言う事。
自分達の姿が見え、そして、声が聞える限られた人間の一人。
「……デジモンのパートナー……話からすると、俺に会わせたいヤツも、そいつなのか?」
説明された内容に、ヤマトがそっと質問を投げ掛けてくる。
問われた言葉に、一瞬太一が驚いたような表情を見せるが、自分が何も説明しない事を思い出して、苦笑を零した。
「そう言えば、ヤマトには、何にも言ってなかったな。もっとも、光子郎にだって、そんなに説明してる訳じゃねぇけど……」
思い出した事に、返事を返し、自分の直ぐ傍に居る光子郎へと視線を向ける。
その視線を受けて、光子郎が小さく頷いて返した。
「確かにそうですね。詳しい事は、何も聞いていません。ただ、ボクにデジモンというパートナーが居る事。そして、僕達が何者かに、狙われている事。そして、すべての答えは、僕の中に存在するのだと、貴方は教えてくれました」
自分が知っているのは、それだけだと言うように、小さくため息を付きながら答えられた言葉に、太一が複雑な表情を見せる。
自分自身だって、分からない敵。
どうして、今になって、記憶のない彼等が狙われているのかさえも……。
「なら、教えてくれ。お前は『誰』、なんだ……」
「い、石田先輩、そんな事……」
そして、ずっと疑問に思っていた事を、ヤマトがそこで初めて口にした。
しかし、その質問に、光子郎が慌てた様子を見せる。知っているから……。
今、その事で誰よりも傷付いている、相手の事を……。
慌てている光子郎に、太一は困ったような笑みを浮かべて、その言葉を遮る。
そして、複雑な表情で、自分を真っ直ぐに見詰めてくるヤマトのその視線を受け止めた。
「……自己紹介したいのは山々なんだけど、出来ねぇんだ」
「えっ?」
そっと、呟かれた言葉。
それは、何処か諦めたような悲しみを帯びた声。
そんな声で言われた内容に、ヤマトは意味が分からずに聞き返す。
「俺の名前、お前等には、聞えないから……」
まるで泣き出してしまいそうな表情で、さらりと言われたその言葉に、ヤマトは言葉を失う。
自分が、聞いてはいけない事を聞いてしまったのだと、悟って、その視線を逸らす。
「すまない…」
「いいよ、普通は、名前を聞くのが、当たり前なんだよ。でも、俺の名前も、そして、お前等のパートナーの事も、全部お前達の中に存在してるんだって、信じてる。だから、思い出した時は、名前、呼んでくれよ」
ニッコリと笑顔で言われた言葉に、二人が同時に頷いて返した。
「お前等が、俺の名前をまた呼んでくれるのを楽しみにしてるな」
本当に楽しそうに言われた言葉は、彼の本心。
そして、願い。
一人だけ止まったままの時を、もう一度動かす事ができるの事を願って……。
「タイチ!」
そんな中、突然名前を呼ばれ、驚いたように直ぐ傍に居る自分のパートナーに視線を向ける。
「アグモン」
緊迫した空気。それが何を意味しているのか、誰よりも自分が知っている。
安らかな時間さえも、自分には、持てないのかもしれない。
「タイチは、二人を連れて早く逃げて!!」
自分の背に大切なパートナーを庇うように立ちながら言われたその言葉に、太一が大きく頭を振る。
「出来ない!相手が、完全体だったら……」
「駄目だよ、ここで、ヤマトやコウシロウが、危ない目にあってもいいの?」
「だからって、アグモンを残しては………サーベルレオモン……」
「えっ?」
向けられた視線の先に立っているデジモンを見て、太一は言葉をなくした。
「……レオモンまで……」
この世界に戻ってきてから自分に向けられてくるデジモンは、データやワクチンのみ。
そして、2度にも渡って、自分にとって、大切な誰かが使われている。
「タイチ!来る」
驚きに呆然としている自分の耳に、アグモンの声が響き渡り、太一はハッと我を取り戻した。
「アグモン、ここで戦う訳にはいかない。場所を移そう……ヤマトと光子郎は、先に戻っててくれ。ここは、俺たちが……」
「一体、どう言う事なんですか?あのデジモンは一体……」
突然名前を呼ばれ、状況が分からない光子郎が説明を求めるように言われたそれに、太一は複雑な表情を向ける。
「……お前達を狙っている、敵ってヤツに操られている……俺の友達だ……」
知っている相手だからこそ、そんな姿は見たくない。
操られているだけだと知っていても、自分のした事を知って傷付いてしまう優しい心をもっていると知っているから……。
「操られているだけなんだ……体のどこかに糸が……」
間合いを取りながら、逃げる瞬間を探す。
しかし、その目は相手を操っている糸を探し出そうと必死に相手を観察していく。
「あの、尻尾についているやつか?」
「えっ?」
ポツリと呟いた自分の言葉に、不思議そうに聞かれた内容に、太一は驚いたように言われた場所を見た。
言われたように、そこには、見慣れてしまった糸。
「アグモン、尻尾だ!」
「分かった、タイチ」
言われるままに、アグモンがベビーフレイムをサーベルレオモンの尻尾へと向ける。
そうの攻撃は、簡単に交わされると分かっていたが、垂れている状態の糸に火を付ける事が出来た。
「やった!」
糸が焼けた瞬間、その体が光に包まれて、サーベルレオモンの姿が、レオモンへと退化する。
「……私は、一体……」
「レオモン!!」
片膝を付くその姿に、太一が慌てて駆け寄った。
自分に駆け寄ってくるその姿に、レオモンは、訳が分からずに、額に手を当てる。
「…タイチ……何故、お前がここに……いや、違う、私が、どうしてここに居るのだ」
「それは……」
説明を求める相手に、太一は言葉を濁す。
本当の事を言えば、優しい相手を傷付けることを知っているから……。
「操られて、いたのだな……」
しかし、言葉に困っているその姿に、悟った相手が、問い掛けるように口を開いた。
それに、太一は、困ったような表情を見せたが、ただ、小さく頷いて返す。
「でも、レオモンはボクたちを襲ったりはしなかったよ」
「そうか……」
アグモンが慌てて弁解するように言葉を告げる。
しかし、その言葉にそっと呟かれたレオモンに、太一は言葉を掛ける事は出来なかった。
確かに、襲わなかった。
その言葉に偽りはない。
しかし、ヤマトが、糸を見つけてくれなければ、違う結果になったかもしれない事は否応なしにも、想像できる事なのだ。
「あそこに居るのは、選ばれし子供達か?」
考えに没頭していた自分に、不思議そうに問い掛けられた言葉で、我に返る。
向けられた視線の先には、自分達を見詰めている二人の姿。
「そう、ヤマトと光子郎。でっかくなってんだろう」
困惑している相手に、今までの気持ちをすべて隠すように、ニッと笑みを浮かべて、言葉を返した。
「……確かに、そうだな……」
笑顔で言われた言葉に、レオモンが複雑な表情で、苦笑をこぼす。
しかし、それも一瞬で、直ぐに真剣な表情へと変わってしまう。
「実は、私は、お前を探していたのだ……」
真剣な視線を真っ直ぐに向けられて、太一は不思議そうに首を傾げた。
「俺を?」
「ああ、こんなに早く会えるとは思っていなかったから、操られた事に感謝しよう」
冗談交じりに言われた言葉に、太一が苦笑を零す。
だが、そう言ってもらえるだけで、自分が巻き込んでしまった相手が傷付かずにいてくれた事に、ほっと胸を撫で下ろした。
「レオモン、タイチを探してったって?」
「ここで話さずに、直ぐ近くにある僕の家に行きませんか?」
そして、先を促すようにアグモンが訪ねたそれに重なって、今まで傍観していた光子郎が口を開く。
無視された状態だった二人は、正直言って、複雑な心境を隠せないでいるようだ。
自分達の知らない世界。
それが、今目の前で、完全にその扉を開いた事を、自覚した瞬間だったのかもしれない。

更新出来て良かった。(違うだろう!)
そ、そんな訳で、『GATE』本編24話目になります。
急展開を見せますと言いながら、全然そんな素振りを見せておりません。
ヤマトに光子郎!睨み合っている場合か?!
なんて、突っ込みも空しく、またしても、予想を遙に裏切って、レオモンさんまで登場してしまいました。
次は、本当に、急展開に持ち込めるように頑張ります。
ただ、更新が何時になるか謎っていうのが、問題かもですけど……xx
そんな訳で、追加お知らせです。
この中にも、『裏・GATE』が、2話隠されております。
勿論、光子郎さん視点と、ヤマトさん視点。
興味のある方は、探してみてくださいね。
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