もしも、自分が決めた事が間違っていたら……。
何時だって、そんな不安が無い訳じゃない。
だけど、不安を感じて、立ち止ってなんて居られなかったから……。
けど、やっはり考えるのだ。あの時、違う道を選んだら、道は変っていたのだろうかと……。
GATE 18
目の前で、自分の事を不信気な瞳で見詰めている幼馴染の姿。
偶然出会えたのか、それとこれも何かの力が働いているのか、自分には分からない。
半ば無理やり話をして、相手の気持ちを聞いた。
機嫌が悪かった理由。
泣きそうな表情を見せていた、本当の理由を……。
好きな人から、迷惑だと言われたのだと、彼女が泣き笑うような表情でそう告げた。
迷惑だと言われて、そのままその場を逃げるように走っていたのだと……。
好きな人。
自分の幼馴染である彼女に、そう言う人が居たからと言って、何もおかしな事は無いのに、ショックを受けたのは、隠せない。
自分一人、取り残されたのだと、改めて思い知らされた。
自分には、人を好きになる事さえ出来なかったのだから……。
人と呼べる存在は、自分一人しか居ないあの世界で、ずっと何時死んでも可笑しくないような日々を過ごしていた。
きっと、パートナーのアグモンが居なければ、再びここに戻ってくる事なんて、出来なかっただろう。
それだけの日々を自分は、送っていたのだ。
だから、人を好きになる事など出来なかった。
いや、好きになる相手も居なかったのだ。
そんな自分だから、泣き笑うような表情を見せる相手に、掛ける言葉が一瞬見付からない。
自分で無理やり話をさせたのに、慰める言葉の一つも見付からないなんて、変な話だと思う。
「なぁ、人を好きになるのって、見返りとか必要な物なのか?」
慰めの言葉なんて浮かばないから、口から出たのは、自分が疑問に思ったそれ。
だけど、自分の質問に、少女が顔を上げて、少し驚いたように真っ直ぐ見詰めてくる。
「迷惑だって、言われても、そいつの事、好きなんだろう?」
じっと見詰めてくるその視線を受け止めながら、更に問い掛けた。
それに、小さく頷くのを見て、ほっとする。
彼女の紋章は、愛情。
だから、誰よりも深い愛を持っているという事を知っているから……。
「ならさ。何にも変らないんじゃねぇの?空は、そいつの事、好き。そいつはまだ、空の事、なんとも思ってないかも知れねぇけど、見返りが欲しいのじゃなければ、そいつだって、何時かは分かってくれるさ、空の気持ち」
いい加減な、言葉かもしれない。
だって、本当に相手に伝わる保証なんて何処にも無いのだ。
しかも、それは、とっても大変な事。
好きなのに、気持ちを返してもらえないのは、とっても辛い事だから……。
「……でも、これは空が答えを出す事だから、俺はそれ以上何も言えない」
じっと見詰めてくるだけの瞳に、困ったような笑みを浮かべる。
自分で言っておいて、こんな事言うのは、間違っているかもしれないけど、きっと目の前の相手は、自分で答えを見つけられるだろう。
迷っても、迷いながらも、自分で答えを見つけられる。
そう言う相手だと、信じているから……。
何も言わない相手が、じっと見詰めてくる。
何か言いた気な視線を感じながら、太一はただ笑顔を見せた。
それが、自分に出来る精一杯の事。
そして、不意に視線が逸らされる。
それと同時に、相手が口を開いた。
「…………有難う。本当は、子供にこんな事言っても、意味がないと思っていたの。本当ね、誰かに話すとすっきりするって…。でも、それは、貴方だからかもしれないわ」
お礼の言葉とそっと告げられたそれは、柔らかい微笑と共に向けられた。
久し振りに向けられた笑顔は、昔の笑顔と何も変らない。
「俺は、何もしてねぇって!だって、ただ話し聞いただけだぜ。だから、すっきりしたって言うのなら、空が自分の中で、納得出来たって事だ。うん、空は、絶対に愛情の意味を間違えたりしないって、俺は信じてるしな」
はっきりと断言出来るそれは、目の前の少女が持っている紋章が何を表しているのかを、誰よりも知っているから。だから、信じられる。
「……愛情の意味?」
ニッコリと笑顔で伝えた言葉に、目の前の少女が不思議そうな表情で首を傾げた。
一瞬何を言われたのか分からないと言う表情で、問い掛けてくる。
「おう!空は、本当の愛情が何であるのか、一番知ってる。だから、俺はただ話を聞いただけだ」
質問されたそれに、太一は大きく頷くと返事を返す。
「可笑しな事、言うのね……本当の愛情なんて、誰にも分からないのに……」
しかし、自分の言葉に返されたのは、何処か遠くを見詰める瞳と、寂しそうに呟かれたその言葉だけ。
どうして、そんな表情を見せるのか分からないが、その表情に、太一は意味が分からずに首を傾げた。
昔、同じような言葉を目の前の少女から聞いた事がある。
自分には、愛情なんて無いのだと言って、逃げ出した相手。
また、同じように、今彼女の瞳はあの時の色を宿している。
「…そ、ら?」
自分を見ず、何処か遠くを見詰める瞳に、そっと名前を呼び掛けても、何の反応も返ってこない。
それに、それ以上の言葉を掛けられずに、太一は相手から視線を逸らした。
そして、その瞬間、驚きに瞳が見開かれる。
次の瞬間には、立ち上がり隣に座っている相手の腕を掴むと強引に立たせた。
「空、逃げろ!!」
「な、何、急に?」
突然の強い力と、真剣な瞳で言われたそれに、意味が分からず問い掛けて来る相手に、ただ伝える。
「いいから逃げろ!そして、出来れば、泉光子郎って奴の家に行って、オレンジ色の恐竜を呼んで来てくれ!」
「オレンジ色の恐竜????」
ドンと背中を押されて、意味が分からないと言うように問い掛けてくる相手に、太一は大きく頷く。
「知ってるよな?泉光子郎!小学校のサッカー倶楽部で一緒だった奴だ!」
それは、絶対に覚えていると言う核心。
その言葉に小さく頷く姿が見えて、太一はホッとした表情で笑顔を見せた。
「そこで、オレンジ色の恐竜に伝えてくれよ、ゲートの場所に来て欲しいって……そんでさぁ、空……」
「何?」
「お前はそこで、たった一人のパートナーに出会う筈だ。そいつが教えてくれる、お前の持つ愛情の意味を……走れ!!」
「えっ?」
最後に聞えたその言葉と共に、爆発音が響き渡る。目の前を、白い煙が立ち上った。
突然の事に、少女は、その場から動けずにただ呆然と見詰めるだけ……。
「早く行け!次が来る!!走れ、空!!!!」
『ガトリングミサイル!』
そして次に聞えたその声と、誰かの声が重なって聞えた瞬間、無数のミサイルが自分達に向けて流れてくるのを見て、漸く少女がその足を動かす。
走り出した少女を見送りながら、爆発の衝撃に備えるように体を屈める。
その瞬間、また爆発音が辺りに響き渡った。
自分の周りを、真っ白な煙が視界を遮るように立ち上っていく。
そんな中、ゆっくりと自分に近付いてくる足音とその気配を感じて、太一はゆっくりと瞳を開く。
「………アンドロモン……まさか、お前まで………」
目の前に現れたその姿に、太一の表情が皮肉めいたモノへと変化する。
あの冒険を助けてくれた相手だからこそ、複雑な気持ちを隠せない。
何も映し出さないアンドロモンの瞳を見詰めながら、太一はそっと小さく息を吐き出した。
「……完全体………パートナーの居ない今の俺に、お前の相手は正直辛いよなぁ……」
苦笑交じりに呟きながら、辺りを見回す。民家からは少しだけ離れた場所。
自分の後ろにあるのは、川。
その場所を考えて、太一はそっと小さくため息をついた。
「……また泳ぐ事になるとは、思ってなかったぜ………」
小さく呟いて、苦笑いを浮かべると、キッと目の前の相手を睨みつける。
「絶対に、元に戻してやるからな!」
聞える筈はないと分かっていても、そう言わずには居られない。
自分を助けてくれた相手だからこそ、自分も相手を助けたいと思うのだ。
こんな事、彼が望んでいないと誰よりも知っているから……。
優しい相手を救いたいと、心から願う。
『ガトリング、ミサイル!!』
そして、その声が聞えてない相手から、容赦なく攻撃の声が呟かれた。
ミサイルが自分に向けて流れてくるのを確認した瞬間、太一は身を翻して、直ぐ後ろの川に飛び込んだ。

はい、『GATE 18』になります。
またしても、太一さん濡れ鼠。<苦笑>
熱も下がったのに、大変だねぇ……(おい!)
と、そんな話ではなく、今回の『GATE』には、『裏・GATE』が存在いたします。
本当は、『GATE 17』にUP予定だったものが、この中にUPされました。
勿論、空さん視点でありますので、興味なる方は、探してみてください。
この話と平行して話が進んでおりますので、どっちから見ても大丈夫かな??
さて、次はアンドロモンとのバトルです、
戦闘シーン苦手な私に書けるのかは、謎ですね。<苦笑>
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