兎に角、急いでいたの。
 もう、あの場所に居たくはなかったから……。

 授業が始まっていると分かっていても、そんなの受ける気分じゃなかった。
 だって、好きな人から、 『迷惑だ』なんて言われたから……。

 そして、急いでいる私は、不思議な少年に出会った。
 まるで、私の事を知っているような、その少年は、真っ直ぐな笑顔を見せる。



「あなたに話して、私の気持ちが落ち着く訳……」
「でも、話さないで、気持ちが落ち着く筈も無いだろう?」

 ニッコリと笑顔を見せるその少年に、何故か見惚れてしまう。
 まるで、太陽を思い出させるような、笑顔。

 知らないはずなのに、懐かしいと思えるその笑顔……。

「ここじゃ、誰かに見付かるとやばいんだろうから、移動しないか?」

 そして、そっと質問された事に素直に頷いたのは、どうしてなのか、自分でもきっと分からない。
 ただ、言えるのは、このままこの少年と別れたくなかった。理由があるとすれば、そんな理由。


 どうして、こんな所で、こんな得体の知れない相手とジュースなんか飲んでるんだろう。
 思わずおごってしまった自分に、驚きを隠せない。

 だけど、何も話さずにただ座っているだけで、気持ちが落ち着いてくるのを、確かに感じていた。

 相手は何も話さないし、自分を見ている訳ではないけど、励まされているように感じるから……。

「……好きだった人に、迷惑だって言われたのよ……」

 そして、ポツリと呟いたその言葉に、男の子が少しだけ驚いたように瞳を見開いて私を見詰める。
 その視線が嫌で、私は、そっと下を向く。

 朝、言われた言葉は、本当に悲しくて、自分をこんなにも傷付けている。
 人を好きになっても、良い事なんて何一つもないとさえ、思えていた。

「……そんな事言われて、好きでなんて居られない……」

 そして、続けてポツリと呟いた言葉に、隣から息を呑む音が聞える。
 そして、少しだけ戸惑ったような声が聞えてきた。

「なぁ、人を好きになるのって、見返りとか必要な物なのか?」

 問い掛けるように言われたその言葉。それに驚いて顔を上げると少年を見詰めてしまう。

「迷惑だって、言われても、そいつの事、好きなんだろう?」

 そして私が見詰める中、また少年が問い掛けるように口を開いた。
 それに、何も言えずに、私はただ少年を見詰めてしまう。

「ならさ。何にも変らないんじゃねぇの?空は、そいつの事、好き。そいつはまだ、空の事、なんとも思ってないかも知れねぇけど、見返りが欲しいのじゃなければ、そいつだって、何時かは分かってくれるさ、空の気持ち」

 じっと見詰める視線を真っ直ぐに受け止めながら、少年が優しい表情で笑顔を見せる。
 そして、次の瞬間、少しだけ困ったような表情で笑みを零した。

「……でも、これは空が答えを出す事だから、俺はそれ以上何もいえない」

 分かっているわ。他でもない自分自身が一番良く分かっていたはずなのに……。
 困ったような表情で笑う少年を前に、私はそっと息を吐き出した。

 本当は、知っていた筈。
 自分の気持ちが相手に伝わらない事だって、分かっていたのに……。

 何時の間に、私は見返りを期待していたのかだろうか。

「…………有難う。本当は、子供にこんな事言っても、意味がないと思っていたの。本当ね、誰かに話すとすっきりするって…。でも、それは、貴方だからかもしれないわ」

 息を吐き出した瞬間、少しだけ落ち着いて、私は素直に男の子にお礼の言葉を伝えていた。
 そして、自然に笑顔も向ける事が出来る。

 今日初めて出会った少年なのに、こんなにも懐かしいと思える相手。
 だからこそ、私は、落ち着けたのかもしれない。

 私の笑顔でのお礼に、少年が少しだけ照れたように、頬を染める。
 そんな姿は、少年そのまま。

 一瞬大人びた感じを見せていたのに、年相応の一人の少年で……。

 そんな姿に、私はもう一度笑みを浮かべた。

「俺は、何もしてねぇって!だって、ただ話し聞いただけだぜ。だから、すっきりしたって言うのなら、空が自分の中で、納得出来たって事だ。うん、空は、絶対に愛情の意味を間違えたりしないって、俺は信じてるしな」

 照れた表情のまま満面の笑顔で、私に返された言葉に、一瞬意味が分からず、首を傾げる。

「……愛情の意味?」

 問い返すように呟けば、相手が大きく頷く。

「おう!空は、本当の愛情が何であるのか、誰よりも知ってる。だから、俺はただ話を聞いただけだ」

 ニコニコと笑顔を見せて、言われる言葉に、私はそっとその笑顔から視線を逸らした。
 だって、本当の愛情の意味なんて、私には分からないから……。

「可笑しな事、いうのね……本当の愛情なんて、誰にも分からないのに……」

 本当に意味があるのなら、教えて欲しい。どうして、人を好きになるの?
 どうして、見返りを求めてしまうの??

「…そ、ら?」

 隣で、不安そうに名前を呼ぶ声が聞える。

 だけど、それには答えずに、私はぼんやりと景色を見詰めていた。
 きっと、一生分からな。本当の愛情の意味なんて……。

「空、逃げろ!!」

 ぼんやりと考えていた私は、突然強い力で引っ張られて、立ち上がった。
 そして、その瞬間、真剣な瞳とぶつかる。

「な、何、急に?」

 突然言われた言葉の意味が分からずに問い掛ければ、背中を押された。

「いいから逃げろ!そして、出来れば、泉光子郎って奴の家に行って、オレンジ色の恐竜を呼んで来てくれ!」
「オレンジ色の恐竜????」

 真剣に言われる言葉に、聞き返す。そうすれば、力強く頷かれた。

「知ってるよな?泉光子郎!小学校のサッカー倶楽部で一緒だった奴だ!」

 そして、続けて言われた名前は、確かに昔、自分と同じサッカー倶楽部に所属していた一つ年下の後輩の名前。
 家にも何度か行った事があるから、素直に頷けば、安心したようなように笑顔が向けられる。

「そこで、オレンジ色の恐竜に伝えてくれよ、ゲートの場所に来て欲しいって……そんでさぁ、空……」
「何?」
「お前はそこで、たった一人のパートナーに出会う筈だ。そいつが教えてくれる、お前の持つ愛情の意味を……走れ!!」
「えっ?」

 言われた言葉に問い返そうとした瞬間、辺りを爆発音が鳴り響く。
 それと同時に、辺りを白い煙が覆い隠した。

「早く行け!次が来る!!走れ、空!!!!」

 突然の事に動けないで居る自分の耳に、力強い声が聞えて来る。

『ガトリングミサイル!』

 それと同時に誰かの声が聞えて、ミサイルのような物が目に映った。
 それを見た瞬間、訳も分からないままに走り出す。
 その後ろから、また爆発音が鳴り響く。
 その音を聞きながら、私はただ言われた通り、その家を目指して、走った。

 私の気持ちを聞いてくれた不思議な少年。
 その少年が、自分に伝えた言葉だけが、頭の中をぐるぐると回る。

 私のパートナーが、本当の愛情を教えてくれると言う、その言葉が……。
 

 ねぇ、一体何が起こったの?どうして私は、走っているの??

「早く、伝えに行かなくっちゃ!!」

 何が起こっているのか分からないのに、その事だけが自分を急かす。
 多分彼は、自分を逃がしてくれたのだと分かるから、だから、彼を助ける事が出来る誰かにその事を伝えなければいけない。

「お願い、早く、出てきて……」

 何度か訪れた事のある少年の家の前で、私は呼び出し鈴を鳴らす。
 何度も何度も鳴らせば、漸くその扉が開いた。

「―――!遅かったね」

 そして、中から嬉しそうな声が聞えて、やはり透けているオレンジ色の恐竜の姿が現れる。
 それは、彼が言っていた相手。

「お願い、あの子が危ないの!!ゲートの場所に急いで行ってあげて!!」
「……―――!!!」

 私が伝えた言葉に、その不思議な生き物が、何かを叫ぶとそのまま走り出す。
 その姿を見送りながら、私はその場に座り込んだ。

「……何が、起こってるの………どうして、あんな事になったの???」
「……ソラ……」

 分からない事に、体が震えるのを止められない。
 私は自分の体を抱き締めるようにその場に座り込む。
 その瞬間、突然名前を呼ばれたかと思うと、ふわりと温かい何かに抱き締められた。

「……誰?」

 ピンク色をした鳥の姿は、彼等と同じように透けている。
 その姿を前に、そっと問い掛ければ、少しだけ寂しそうな瞳が、笑みを作ると、口を開く。

「私は、ソラのパートナーよ」

 そして、その笑顔と共に言われた言葉に、私はただそっと相手を見詰めるだけしか出来なかった。



                                             



   す、すみません。
   本当は、『GATE17に入る筈だったのですが、予定変更となりました。
   そ、そんな訳で、『裏・GATE』……あれ、何話目になるんだろう??(おいこら!)
   と言う訳で、空さん視点の『裏・GATE』完了いたしました。
   次は、ピヨモン編かな??
   その前に、本編頑張らないと……太一さんまたバトルしてるし……xx
   ファイト!ですね。<苦笑>