何も、望まない。

  ただ、この世界に戻りたいと、思っていた。
  だけど、今は、望めない。
  ここは、もう自分の居るべき場所ではないと、分かってしまったから……。


 
                                         GATE 14


 小さなノックの音に、顔を上げる。
 そして、慌ててベッドに横になると瞳を閉じた。
 それと同時に、扉が開く。

「……寝てますよね?」

 そして、心配そうな声が聞こえてくる。
 何処か、安心したようなその声を耳にしながら、太一はただ眠ったフリをし続けた。

「気の所為だったようですね。眠っているみたいですよ」

 パタンと扉が閉まる音と、誰かと話をしている声が遠去かって行くのを聞きながら、そっと瞳を開いて小さくため息をつく。
 自分が起きている事を、気付かれなくって良かったと正直に思う。
 今はまだ、自分の中で整理が出来ていない状態だから、きっと隠し切れないと言う自信がある。

「……笑える自信、ない……」

 沢山の事があった中で、自分の名前が聞こえないと言うのなど、些細な事でしかないはず。

 なのに、どうしてこんなにも、自分はショックを受けているのだろうか?
 自分と言う存在を忘れられているのは、知っていたから、心の準備も出来ていた。

 だから、心の準備も何も出来ていなかった事には、こんなにもショックを受けてしまうのだ。

「……弱いよな……」

 自分の心の弱さに、苦笑いしてしまう。
 強くなりたいと誰よりも思っているのに、本当の自分は、こんなにも弱い。
 ただ、自分に出来るのは、その弱い姿を、誰にも見せないようにする事だけ……。
 弱い心を隠す為の、自分が持てる精一杯の笑顔で……。

「……強くなりたいと思うのは、無理な話なのかも……」

 自嘲的な笑みを浮かべて、そっと起き上がる。
 きっと、仲間である彼等が、自分の為に話し合っているのだと思うと、それだけで、胸が痛い。

「強くなりたい……」

 誰にも心配掛けなくってすむ位に……。

「……強く………」

 どんな事にも、負けない強さ。
 望んでいたのは、この世界に戻る事だけ。だけど、今は、強さが欲しいと思う。

 そう、誰にも弱さを見せないそんな強さを……。

「……どうすれば、強くなれる?」

 弱い自分を偽る事なら、幾らでも出来る。
 だけど、それは本当の強さではないから……。

「そう言えば、あいつには、何時も弱いところばっかり見せてたよな……」

 3年前のあの冒険の日々を思い出して、太一は苦笑を零した。

 妹が、熱を出したあの時……。
 初めて、自分が他人に涙を見せた事は、今でも忘れられない。

「あれから、俺は成長してないのかも、な……」

 自分の隣で、参謀として頑張ってくれた相手。
 彼の立てた作戦は、何時も自分を一番に納得させてくれるものだったから……。

 盛大なため息と共に、苦笑を零す。
 それでも自分は、彼を信頼はしていたが、安心できる相手だと、思っていなかったのかもしれない。
 弱さを見せるのは、自分にとっては一番のタブーとなっていたから……。

「なぁ、お前なら、こんな時、どうする?」

 ポツリと呟いたその言葉に、返事など返るはずも無い。
 だが、尋ねずには居られなかった。

 あの冒険の中で、唯一自分とは全く正反対の意見をもっていた相手へと……。





 数回のノックの後、ゆっくりと扉が開く。

「起こしてしまいましたか?」

 申し訳なさそうに問い掛けてくる相手に、太一はただ小さく首を振った。

 あれから、1時間も過ぎていない。
 きっと、話し合いは、何とか終わりを迎えたのだろう。

「高石くんが、夕食を作ってくださいましたので、食べませんか?」
「……そっか…タケルが、作ってくれたのか……」

 すっと差し出されたのは、卵粥。

「食事をしてから、念の為にもう一度薬を飲んでください。それから、今日はそのまま休んだ方がいいですね」

 一気に説明しながら、光子郎が、自分から視線を逸らしている事に気が付いて、太一は小さくため息をつく。
 1時間もあれば、気持ちだって落ち着かせる事が出来るから……。

「光子郎…」
「な、なんですか??」

 躊躇いがちに呼びかければ、慌てたような声が聞き返してくる。
 それに、太一は笑みを零した。

「…もう、知ってるから……」
「えっ?」

 そして、短く自分が伝えるべき言葉を述べる。
 目の前の相手を真っ直ぐに見詰めて、少し困ったような笑みを見せた。

「……話、聞いてた……だから、何も言わなくって、いいぜ……」

 困らせたい、訳ではない。
 だから、もうそれ以上、皆に迷惑を掛ける事など、出来はしない。

「……ごめんな、俺は大丈夫だから……心配させちまって、悪かった……あっ!タケルが折角作ってくれた飯が冷めちまうな」

 もうそれ以上その話を続ける事は出来ずに、太一は差し出された卵粥へと手を伸ばした。

「……貴方は…どうしてそんなに……」
「光子郎?」

 レンゲで粥をすくっていた手が、ポツリと呟かれたその言葉で止まる。
 そして、不思議そうに相手を見詰める。

「……なんでも、ありません……食欲があるようなので、安心しました。これなら、高石くんにも会えますか?」
「おう!大丈夫だ。熱も下がったしvv」

 慌てて首を振る光子郎に、何もなかったように太一が言葉を返す。
 そんな太一を前に、光子郎は、複雑な笑みを浮かべるのだった。



                                                 



   はい、大変お待たせいたしました!
   『GATE 14』になります!!
   そして、やっぱり短いですね。<苦笑>はい、勿論『裏・GATE』UP予定です!!(まだ、UPされてませんよ)
   今度の『裏・GATE』の視点は、テントモンで頑張ってみようと考えております。
   関西弁、不安ですが、広いお心で見てやってください。
   後は、丈先輩視点の『裏・GATE』内に、ゴマモン視点の『裏・裏・GATE』なるものも考えております。
   どちらが先にUPされるかは、分かりませんが、待たせないように努力しますね。