言われた言葉を思い出す。
  俺は、強いんだと……。
  どうして、そんな事を言われたのか、今は覚えていないけど、誰もが、俺を強いのだと言った。
  本当の強さを持っていない自分に……。


 
                                         GATE 15


「タイチ?」

 眠れずに、ぼんやりとしていた中、心配そうに声が掛けられて振り返る。
 何時の間にか、部屋に入ってきていたアグモンに、太一はそっと笑顔を見せた。

「どうしたんだ、アグモン?」

 今にも泣き出してしまいそうな大きな緑色の瞳を前に、太一は優しく問い掛ける。
 何時もの笑顔と一緒に……。

「知ってるって……」

 そして、主語の飛ばされた質問に、苦笑を零した。
 光子郎から話を聞いて、急いできたのだろうと分かる。
 皆が自分の事を心配して、本気で話をしてくれていた。
 だから、自分は、悲しんではいけないのだ。

「知ってる……。心配するな、アグモン!俺たちの姿は、ここじゃ認められていないのは、この透けてる体が物語ってるだろう?選ばれし子供にだけでも、この姿が見える事を、感謝しないとな」

 ニッカリと笑顔を見せて、そっとアグモンの頭を撫でる。
 ずっと、自分に言い聞かせていた言葉。そう思う事でしか、自分を慰める事は出来なかったから……。

「タイチ…」
「大丈夫だ……皆、絶対に思い出してくれる」

 それでも、心配そうに見詰めてくるパートナーに太一は、そっとしかし、力強く言葉を述べた。
 パルモンが、ミミにその存在を認めて貰えたように、自分達も認めてもらえる事を願っているのだ。

「だから、心配すんな」

 にっこりと笑顔を見せれば、アグモンも何とか笑顔を返してくれる。
 大切な大切な、自分のパートナーのその笑顔に、太一は、ホッと小さく息を吐く。

 悲しませたくは無いから……。
 自分の為に、もう誰かが悲しむ姿を見たくない。
 そう、あの時のように…………。

 フッと過ぎったその光景に、太一は、大きく頭を振った。
 知らない光景……自分の大切な仲間が、涙を流しているその場面……。

「タイチ?」

 突然大きく頭を振る太一に、アグモンが不思議そうに名前を呼ぶ。

「どうかしたの?」

 心配そうに問い掛けてくる相手に、太一は少し困ったように首を振った。

「何でもないんだ……何でも……」

 振り払うように頭を振っても、流れていくその場面。
 自分には、そんな記憶など無い筈なのに……。

「そうだ!ボク、何か飲み物貰ってくるね!」
「えっ?アグモン??」
「タケルも、タイチに会いたがってたから、呼んで来るね!」

 言うが早いか、そのまま部屋を飛び出していくアグモンの姿に、太一は呼び止める事も出来ずに、見送る形になる。
 そして、ドアが閉まった瞬間、苦笑を零した。
 自分を心配してくれるパートナーに、心が温かくなる。
 何時だって、自分の事を一番に考えてくれる頼りになる存在。

「幾ら感謝しても、足りないよなぁ……」

 彼が居てくれたからこそ、自分は今こうしてこの世界に戻ってこれたのだ。
 ぼんやりと、アグモンが出て行った扉を見詰めている中、小さなノックの音。

「入るよ、タイチ!」

 そして続くアグモンの声と同時に、扉が開く。

「お邪魔します」
「タイチ、大丈夫??」

 心配そうに自分に向けて飛んで来たパタモンを抱き締めながら、心配そうに見詰めてくるタケルへと少しだけ困ったような笑顔を向ける。

「悪い、心配掛けちまったな……」

 腕に抱き締めているパタモンの頭を撫でながら、謝罪の言葉。
 自分は、彼に助けられたのだと聞いている。

「タケル……その、有難う、な……」
「ボクは、何もしてないよ。それに、この子の事なら、お礼は必要ないはずだよね?」

 感謝の気持ちを伝えれば、小さく首を振って返す。
 そして、続けて言われた言葉に、太一は、首を傾げた。

「タケル?」
「この子は、ボクのパートナーデジモンなんでしょう?」

 質問するように言われた言葉に、驚いて相手を見詰める。
 それに、タケルは笑顔を見せた。

「この子が、教えてくれたんだ。ボク達は、パートナーだって事……」
「パタモンが?……あっ!」

 そっと自分の腕の中の存在を見詰めながら呟いたそれに、慌てて口に手を当てる。
 彼のパートナーの名前を呼んでも、聞えないのだ。

「……うん、その子が教えてくれた。だって、兄さんの事も、知っていたから、嘘なんて付いてないんだって分かるよ」
「タケル?」
「今、ボクに兄弟が居る事を知っている人は、周りには居ないから……」

 困ったような笑顔を見せる相手に、太一も困ったような表情を見せる。
 彼等の事を知っているから……。

「……会ってないのか?」

 そっと問い掛けたのは、その寂しそうな表情が気になったからかもしれない。
 誰よりも弟の事を気に掛けていた、彼の事を知っているからこそ、こんな表情を見せる少年に違和感を感じるのだ。

「時々は会ってるよ……でも、兄さん忙しい人だから……」
「……そう、なのか?」

 3年間の間に何があったのかなんて、自分には分からない。だから、問い掛けるように聞き返せば、小さく頷く。
 それでも、自分が良く知っている彼が、そんなに簡単に変わってしまうとは思えないのだ。

 誰よりも弟を大切にしていた彼が……。

「それに……」

 しかし、続けるように開かれた言葉に、太一はタケルを見詰める。

「兄さん、変わったから……」
「変わった?」
「うん……何をしても、楽しそうじゃないんだ……昔みたいに笑ってくれない」

 不安を口に出すタケルを前に、太一は少しだけ困ったような表情を見せた。
 そんな言葉を聞いても、昔の彼を知っている自分には、やっぱり信じられないのだ。

「……ごめん。どうしてだろう…君を前にしてると、不安を口にしちゃう……誰にも、こんな話した事ないのに……」

 自分の前で心配そうに見詰めてくる相手に、タケルが慌てて謝罪した。
 本当は、こんな話がしたかった訳ではないのに、この少年を前にした時から、素直な自分を感じている。偽らなくっても、大丈夫なのだと思えるのだ。
 まるで、兄のように信頼できる相手。

「気にすんなって!俺なんかに話してすっきりするんなら、幾らでも聞いてやるよ」

 そして、自分を安心させるように言われたその言葉に、タケルも思わず笑顔を返す。
 今、一番不安で辛い思いをしているのは、目の前の少年なのに、そんな事など微塵も見せないで、自分の事を優しく包み込んでくれるその心は、広く、そして温かい。

「タイチ!タイチになら、ヤマトの事、元に戻せる?」

 自分とタケルの話が終わるのをじっと待っていたパタモンが、そっと心配そうに見上げてくるのに、太一は少しだけ困ったような表情を見せた。
 確かに、自分もこれから彼の兄には、会わなければいけないのだ。

「……元にって……」

 しかし、今の彼を知らない自分に、質問された返事は返せない。
 しかも、相手は、自分の事など知らないのだ。

「無理な事言わないの!そんな事言ったら、困るだろう?」

 返事に困っている太一を助けるように、タケルが腕の中からパタモンをそっと抱き上げる。
 突然抱き上げられたパタモンは、罰悪そうな表情を見せた。
 そんな二人を前に、太一は苦笑を零す。
 今、話された事は、自分には理解できないものであったが、それでも、会わなければいけないのは、代えようの無い事実。

「いや、俺に出来る事なら、やってみるぜ。ヤマトにも、ガブモンを返さないといけないしな」

 だから、安心させるように笑顔を見せる。
 相手が望んでいる言葉は、ちゃんと知っているから……。

「……ごめん…」

 しかし、自分の言葉に、申し訳なさそうに謝られて、太一はその頭を優しく撫でた。

「気にすんな……明日、お台場中学校に行こうと思ってたんだからな」
「タイチ?」

 優しく頭を撫でながら、これからの事を口にする太一に、アグモンが不安そうにその名前を呼ぶ。
 まだ、完全でない太一の体を心配しているのだ。

「何時までも、光子郎に迷惑は掛けられない。それに、あいつの両親も戻ってくるんだろう?」

 心配そうに見詰めてくるアグモンに、太一が少しだけ困ったような表情で、問い掛ける。

 確かに、何時までもここに居る事は出来ないのは確かだ。
 何時、光子郎の両親が戻ってくるのかも分からないのだから……。

「だったら、ボクの家に!」
「それは、お前に迷惑が掛かる。お袋さん、居るんだろう?」

 自分の言葉に申し出てくれたそれに、太一は複雑な表情を見せた。
 確かに、自分達の姿は選ばれし子供にしか見えないとしても、迷惑になる事は、目に見えている。

「そんな事、気にしてたんですか?」

 誰もが言葉を述べられずに居た中、新たな声が掛けられて、その場に居た全員が驚いて振り返った。

「お母さん達は、暫く戻ってきません。ですから、心配なさらないで下さい」

 ドアに凭れるように自分達の話を聞いていた人物が、少しだけ呆れたように呟いたそれに、太一は意味が分からずに首を傾げる。

「光子郎?」
「お父さんの仕事の都合で、出掛けているんです。後1週間程は、向こうに居ると聞いてますから」

 闇に心配するなと言っているのが分かって、太一は複雑な笑みを見せた。
 今の自分達が一番困っているのは、食事と寝る場所。
 だから、そう言ってもらえて、助かっているのは、本当の事なのだ。

「……悪い……」
「本当に悪いと思うのでしたら、これからは無茶な事はしないで下さいね」

 釘をさすように言われた言葉に、ただしっかりと頷いて返す。

「泉さんの所に居るんでしたら、ボクも学校の帰りに様子見に来てもいいですか?」

 話が決まったところで、タケルがそっと問い掛けたその言葉に、光子郎は勿論、太一も素直に頷いた。

「んじゃ、明日の予定は決まったし、お前等が協力してくれるんなら、俺も心強い」
「……何も、分からない僕達でも、ですか?」
「分からなくっても、お前達は、協力してくれてる……だから、本当に感謝してるんだ」

 本当に安心したような笑顔を見せる太一を前に、光子郎とタケルも、少しだけ照れたような笑みを浮かべた。
 彼に頼られている事が、本当に嬉しいと思えるのだ。

「分かりました。でも、明日中学に行くと言うのでしたら、しっかりと体調を整えてくださいね」
「えっ?」

 一瞬言われた言葉が理解できずに、問い掛ければタケルがパタモンと目を合わせて笑顔を見せる。

「そうだね。それじゃ、ボク達は、帰ろうか?」
「おい」

 既に帰る準備をしているタケルを前に、太一が慌てて呼びかけた。
 しかし、その隣で、にっこりと笑顔を見せた光子郎を前に、言葉を失う。

「貴方は、ゆっくりと休んでください。それが、一番しなくってはいけない事ですよ」

 笑顔のまま言われたそれに、逆らえるはずもなく、太一はただ素直に頷いた。
 そんな自分達を楽しそうに見詰めながら、久し振りに感じた暖かな雰囲気に、誰もがホッとする。

 そして、僅かな安らぎに、心から感謝するのだった。



                                                 



   はい、お久し振りの『GATE』です。
   本当に、お待たせいたしました。なのに、話が進んでいないってどう言うことでしょうか?
   いや、しかし、断言できます。次回、5人目の選ばれし子供が出てきます!!(多分……xx<おいおい>)
   お台場中学校と言えば、あの二人の内のどちらかが……。(出てくる予定…xx)
   お待たせするかもしれませんが、出来るだけ頑張ります。
   本当に、今は家の方がバタバタ状態で、小説書いているのは、仕事が終わった夜だけなんです。
   お休みは、全く小説が書けないので、今以上に更新が……xx
   本当に、ご迷惑お掛けいたします。
   こんなサイトですが、見捨てずにいただけると嬉しいです。