確かに、覚えているといった。
  どうして、そんな事が起こったのか分からないけれど、それが嬉しい。
  自分の事など、覚えてなくっても構わない。
  だけど、パートナーである彼等の事だけは忘れないで欲しかったから……。


 
                                         GATE 08


「メタルグレイモン、急いでくれ」
「分かった、タイチ」

 暗闇の中、自分とパルモンを乗せ、空を飛んでくれるメタルグレイモンに、太一が急かすように声を掛ける。
 何が起ころうとしているのかそれはまだ分からないが、確かに嫌な予感がするのだ。
 あのメールで伝えられた言葉だけが、自分の頭の中を巡っている。
 ミミが、デジモンの事を覚えていると言われたそれ。

「ねぇ、本当に、ミミは私の事を覚えてるの?」

 自分の考えに沈んでいた太一は、声を掛けられてハッと意識を戻す。

 そして、自分の直ぐ傍に居るパルモンへと視線を向けた。
 心配そうに自分を見詰めてくる相手に、太一は少しだけ困ったような表情を見せる。
 本当かどうか、それは自分にも分からない事だから……。

「…じいさんが言ってたんだ、信じていいと思うぜ」

 だから、自分に言える精一杯の言葉がこれだけである。

 自分も、信じたいから……。

 例え、自分なんかを覚えていなくっても、パートナーである彼等の事は、覚えていてもらいたいと、心から思っているのだ。
 そして、最後に途切れてしまったあの言葉が、ずっと気になっている。
 日本に戻ってきている、ミミが乗っている飛行機……。
 それは、ミミに危険が迫っていると言う事を知らせているのだ。

「……タイチ!」

 焦る気持ちは、どうしても抑えられない。
 そんな中、突然名前を呼ばれて、太一は顔を上げた。

「あれは!」

 そして、目に入って来たその光景に、瞳を見開く。

「エアドラモン!」
「それに、ユニモン」

 二体のデジモンが、飛行機を攻撃している姿に、グレイモンとパルモンが驚いたようにそのデジモンの名前を口にする。

 太一もそのデジモンを知っているからこそ、瞳を見開いた。
 エアドラモンは、神に最も近いとされているデジモンで、滅多に姿を見る事が出来ないほどの、貴重なデジモンなのである。

 そして、もう一匹。
 こちらも神聖なデジモンとされているものだ。

「飛行機が……メタルグレイモン!」
「…タイチ…」
「二体とも、成熟期だ。メタルグレイモンは、完全体……でも…」

 そっと不安そうに自分を見詰めてくるパルモンに、太一はどうするべきかを考えた。
 そして、 機体から煙を出しているその飛行機を見た瞬間、太一の考えが決まる。

「メタルグレイモン、俺を落とせ」
「タイチ!!」

 真剣な表情で名前を呼ばれて言われたその言葉に、メタルグレイモンが驚いたようにその名前を驚いたように呼ぶ。

「大丈夫、心配は要らない……下は海だ。だから、俺が劣りになる。その間に、あの飛行機を護ってくれ……」
「タイチ……」

 真っ直ぐに前を見詰めているその瞳で、自分の考えを伝える。
 それに、メタルグレイモンは、複雑な表情を浮かべた。
 確かに、このままの状態では、あの飛行機は墜落してしまう。
 そうさせない為には、太一の考えたその作戦が、一番有効だと言えるだろう。
 だが、それは、太一を一番危険にさらす事になる作戦とも言えるのだ。

「頼むな、メタルグレイモン……」

 しかし、自分が返事を返すよりも先に、太一が優しい微笑を浮かべると目の前の敵を厳しい表情で睨みつけた。

「俺は、ここだ!お前達の目的は、選ばれし子供を抹消する事なんだろう?!」
「タイチ!」

 そして、目の前のデジモンに大声を上げて自分の存在を見せ付ける。
 太一のその声に、最後の留めとばかりに攻撃を仕掛けようとしていた二体の動きが止まった。

「…頼む……パルモンをミミちゃんに届けてやってくれよ……」
「タイチ!!」

 何時もの笑顔を浮かべて、自分の肩からトンッと飛び降りるその体が真っ直ぐに下に落ちて行く。
 それに、二体のデジモンが狙いを定めて迫って行くのが見えた。
 しかし、今はその人物を助けに行くよりも先にしなくっては、いけない事がある自分に、メタルグレイモンは内心苛立ちを感じる。

 唯一の存在からの、お願い事。

 自分の思いを振り切る様に、一番大切な人の願いを遂行する為に、落ちて行くその機体を支える。

「タイチが、願った事だから……」

 自分に言い聞かせるように、その重い機体を支えて、墜落していくその速度を少しでも緩やかにする事に、意識を集中する。

「ミミ!」

 そんな自分の肩に残っているパルモンが、その機体へと大きな声を出した。

「お願い、私の声が聞こえるのなら、私に力を貸して!!」

 落ちる機体を受け止めながら、メタルグレイモンは、太一の方へと視線を向ける。
 今、二対のデジモンは、必死で太一を探しているようだ。
 夜の海に落ちたのが幸いしたのか、空中に居る彼等に、太一を見つける事はたやすい事ではないようである。
 それに気が付いて、内心ほっとしながら、メタルグレイモンは、支えていたその機体をゆっくりと海に下ろした。

「ミミ!」

 機体が海の上に浮かんだ瞬間、パルモンが嬉しそうにその名前を呼ぶ。
 機体の窓から覗く、一人の少女。

 その少女には、自分達の姿が見えていると言うのが、直ぐに分かった。
 彼女の瞳は、驚いたように自分達を見詰めていたから……。

「タイチ!」

 そして、メタルグレイモンは飛行機を無事に下ろした瞬間、パルモンをその機体に残すと、一番大切な人の元へと急ぐ。

「ギガ…」
「駄目だ!メタルグレイモン!!」

 海に居る太一目掛けて攻撃を繰り出そうとしているその二体のデジモンに、メタルグレイモンが攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、それを静止する声が聞こえる。
 だがその声は、自分の居場所を相手に知らせてしまうものとなってしまう。

『スピーニングニードル!!』
『ホーリーショット!!』

 その瞬間、二体のデジモンの必殺技が太一へと放たれた。
 水面目掛けての攻撃に、派手な水しぶきが上がる。

「タイチ!!」

 目の前で、攻撃された自分のパートナーの名前を呼ぶ。

「どけぇ!!」

 そして、二体のデジモン目掛けて、その体を体当たりさせた。
 突然の自分の攻撃に、二体がそのまま突き飛ばされる。

「タイチ!!」

 しかし、そんな事など関係なく、メタルグレイモンは太一の姿を探すように辺りを見回した。
 暗い海の中に、その姿は見当たらない。

「タイチ!!」

 そして、もう一度大きくその名前を呼ぶ。

「…だ、大丈夫だ……メタルグレイモン……エアドラモンは、尻尾……ユニモンは角……頼む、開放してやってくれ……」
「分かった!直ぐに助けるから!!」

 途切れ途切れに聞こえる声に答えて、メタルグレイモンが二体のデジモンに向き合う。

「ギガ…デストロイヤー!!」

 自分目掛けて攻撃を仕掛けようとしているデジモンに、メタルグレイモンの最大の技が出される。
 しかし、その攻撃は、ユニモンのみを開放した。
 残されたエアドラモンが、メタルグレイモンに必殺技を放つ。

『スピーニングニードル!!』
「メタルグレイモン!!」

 至近距離での攻撃に、流石のメタルグレイモンも避ける事が出来ずに、まともに技をその身に受けてしまう。
 それに、太一の悲痛な声が響いた。

「フラウカノン!!」

 メタルグレイモンの体が、アグモンへと戻りそのまま海へと落ちて行く中、突然の声がエアドラモンに放たれる。
 そしてその攻撃が、エアドラモンを操っていた糸を切った。

「……リリモン……」

 開放されたデジモンに、ほっとしながらも、太一は海に落ちたアグモンを助けると、自分達の危機を救ったその相手を見て驚いたように瞳を見開く。
 それは、完全体に進化したパルモンの姿。
 そして、その姿は、自分達のように半透明な中途半端な存在ではなく、実態を持っていた。

「リリモン!!」

 驚いてただ見詰める中、聞こえてきたその声。
 太一は、ハッとして、声の主を確認するように振り返る。
 目に飛び込んできたのは、飛行機の機体に乗っている一人の少女が、嬉しそうに手を振っている姿。

「……ミミちゃん…?」

 間違いなくリリモンの名前を呼ぶその姿に、太一は驚いて瞳を見開く。
 二人の選ばれし子供に出会ったのに、誰も自分のパートナーを覚えては居なかった。
 なのに、ミミだけは、自分のパートナーの名前を間違える事無く呼んでいる。

「ミミvv」

 そして、自分の名前を呼ぶミミに、リリモンは嬉しそうに抱き付いていく。
 だが、完全体に進化したために体力を消耗してしまったのか、その姿は、タネモンへと退化した。
 そんなタネモンを、ミミは嬉しそうに抱き締める。

「タイチ…」
「アグモン、大丈夫か?」

 ただ呆然とその光景を見ていた太一の耳に、小さく自分を呼ぶ声が聞こえて、心配そうにその姿を見た。

「……ボクは、大丈夫だよ……良かったね。ミミが、パルモンの事覚えていて……」

 心配そうに見詰めた先に、嬉しそうな笑顔を見せている自分のパートナーが居る。
 それに、太一もただ笑みを返した。

「そうだな……」

 アグモンに返事を返した瞬間、すっと自分達に近付いて来る気配を感じて、二人は同時に顔を上げる。

『……迷惑をかけたようだ…私の背に乗れ』
「…ユニモン?」
『このまま、ここに居る訳にはいかないのであろう』

 言われた言葉に首を傾げれば、もっともな言葉が返された。
 それに、太一は頷いて、その行為に甘える事にする。

「タイチ、ミミに会わないの?」
「今は、まだその時じゃない……パルモンは確かに届けたんだから、俺達の出番は終わりだよ……それよりも、ユニモンやエアドラモンを、デジタルワールドに送り返さないといけないだろう」

 そっと言われたその言葉に、アグモンはただ小さく頷いて返す。

 時期ではない。
 確かに、太一の言うように、まだ今は再会を喜ぶには早過ぎる。
 本当の再会は、もう少しだけ先の事。
 全てのデジモン達を、 パートナーの所へと届けてから……。





「ミミ?」

 太一達の姿を見送っていたミミを、タネモンが心配そうに呼びかける。

「……タネモン…あの人は誰?どうして、私のリリモンの事、知ってるの??」
「ミミ?!」
「それに、何故私達を助けてくれたのかしら……」

 不思議そうに呟かれたその言葉に、タネモンは驚いて瞳を見開く。
 信じられないと言うように……。

「ミミは、デジタルワールドの事、覚えてるんじゃないの?」
「デジタルワールド?何、それ??」

 信じられない気持ちを抑えるように問い掛けたそれに、ミミが不思議そうに首を傾げる。
 覚えているのは、パートナーである自分の事だけ……。

「ミミ…私は、ミミにとって、何?」
「いやぁねぇ、忘れちゃったの?タネモンは、私の大切な友達よ」

 ニッコリと笑顔で言われたその言葉に、タネモンはただ複雑な表情を浮かべた。

 覚えているのは、自分と言う存在だけ……。

 それは、中途半端な記憶。
 やはり、全てを覚えて居る訳ではなく、不安定なもの。

「……どうして、私の事、覚えててくれたのかなぁ?」

 嬉しいと思うのに、悲しい涙。複雑なその心のままにタネモンの瞳から涙が流れる。

「タネモン?」
「…ミミ……私は、ミミのパートナーだよ……」


                                                 



   はい、お待たせいたしました! 漸く、『GATE08』UPできました。
   そして、やっとミミちゃん登場!!中途半端な記憶の理由は、後々出したいと思います。
   結局、太一さんとミミちゃんは、直接にはお話していません。
   その前に、迷子(?)デジモン達を、デジタルワールドに送り返すと言う使命があるから(笑)
   でも、どうやって返すんだろう??とりあえず、デジヴァイスが鍵を握っているはず!
   次回には、もう帰ってるだろうしね……(それは、本編には出さないって事……<駄目じゃん>)
   でも、その内、書くので待っていてくださいね。

   そして、戦闘シーンに付きましては、もはや言い訳はいたしません。
   もう、意味不明で本当にすみません。
   この話、まだまだバトルシーン入る予定なんですよね……xx精進いたします、はい!