はっきりと呼ばれた、名前。
  それを聞いた時、涙が出そうになった。
  どうしてなのか考えれば、一つしか思い付かない。

  嬉しかったから……。

  ミミちゃんが、パルモンの事を覚えていたのが……。

  だから、大丈夫。
  迷わずに信じる事が、出来る。

  だって、パルモンは、確かに進化していたから……。


 
                                         GATE 09


「タイチ…どうやって、デジタルワールドへのゲートを開くの?」

 心配そうに見詰めてくる瞳と、その質問に、太一は一瞬、困ったような表情を見せる。
 確かに、エアドラモンとユニモンをデジタルワールドに戻さなくってはいけないのだが、その方法が分からない。

「……俺達が通ってきたゲート、まだ開いてると思うか?」

 考えてから、一つ思いついたそれに、太一は自分のパートナーへと問い掛けた。

「えっ?あの、場所の事??」

 不思議そうに首を傾げて問い掛けられたそれに、大きく頷く。
 ゲートが開いている場所は、あの場所しか思い付かない。

「う〜ん…可能性としては、開いてると思うけど、ボク達に見つけられるのかなぁ??」
「……見つけるしか、方法はないって事だよな……」

 不安そうなアグモンに、太一は小さく息を吐き出すと苦笑を零す。
 そんな太一とアグモンの話を黙って聞いていた二体のデジモンが、申し訳なさそうに口を開く。

「……私達が、迷惑を掛けてすまない……」

 同時に謝られて、太一は再度、苦笑を零した。

「気にすんなよ。お前達は、操られてただけなんだからな」

 そして、精一杯の笑顔を浮べて、そう言うと、ユニモンの首筋を優しく撫でる。

「それに、今こうやって乗せてもらって、助かってるから、お互い様だしな」
「……お前は…」
「んっ?」

 ニッコリと笑顔で言われたその言葉に、エアドラモンが何かを言おうとして、口を閉ざす。
 それに、太一は不思議そうな表情を浮べて、エアドラモンを見詰めた。

「いや…何でもない……」

 しかし、太一から視線を逸らすと、エアドラモンはまた暗い前方を見詰める。
 そんなエアドラモンに不思議そうに首を傾げるが、深く追求する事はなく、太一も前を見据えた。

「…なんにしても、一度は戻らねぇ……ハッ…クション!」
「タイチ?」

 そしてこれからの事を口にしようとした時、大きなくしゃみを一つ。

「だ、大丈夫だ……ユニモン、お台場に向かってくれ……っても、場所分かる訳ねぇか……」

 心配そうに自分を見詰めてくるアグモンに笑顔を見せて、太一はユニモンに行く先を伝えると、そっと自分の体を抱き締めた。

「本当に、大丈夫なの?」

 太一の体が、小さく震えているのに気が付いて、アグモンが再度問い掛ける。
 確かに、全身ビショ濡れ状態で、スピードの出ているユニモンの背に乗っているのだ。
 当然風を遮るものなどない状態では、体温は、奪われて当然である

「スピードを落とすか?」

 ユニモンも、太一の様子に気が付いて、心配そうに問い掛けた。
 それに、太一は大きく首を振る。

「心配ない……直ぐ乾くから……」

 これが、真夏ならば心配などしない。
 だが、今は秋とは言えなくっても、既に秋になる手前の季節なのである。
 このまま体温を奪われて、大丈夫な訳はない。
 それでも、太一は心配要らないと笑顔を見せるのである。
 だから、これ以上何も言えずに、今はただ目的の場所へと急ぐ事しか出来ない。






「ここなら、多分……」 

 目的の場所に着いて、太一がユニモンの背から下りる。
 ペガサスは、たった一度の羽ばたきで、千里を翔けると言われている生き物である。
 その翼を持つユニモンのお陰か、空はまだ暗い。

「タイチ、どうやって、ゲートを見つけるの?」
「……そうだな……」

 心配そうに自分に尋ねてきたアグモンに、太一が考えるように腕を組む。
 その手は、既に感覚が無くなる程冷たくなって、今でも小刻みに震えていた。

「やっぱ、デジヴァイスが、鍵を握ってると……あっ!」

 考えついた事に、腰に付けているデジヴァイスを手に持とうとした瞬間、悴んだ手から、デジヴァイスがカッシャンと音を立てて地面に落ちる。

「タイチ……」
「だ、大丈夫だ、アグモン……」

 慌てて落ちてしまったデジヴァイスを拾おうと、太一が手を伸ばした瞬間、ある表示にその手が止まった。

「…タイチ?」

 デジヴァイスを拾わず見詰めている太一に、アグモンが不思議そうに首を傾げて同じようにデジヴァイスを覗き込んだ。

「アグモン…」
「なぁに?」
「このマークって、何だと思う?」

 デジヴァイスに映し出されているのは、黒い点滅。
 仲間などが近くに居る時、音と赤い点滅が表示されるのとは、また違う。

「もしかして!」
「……それしか、考えられないよな……」

 アグモンが自分を見詰めて呟いたそれに、太一は大きく頷いて、震える手でデジヴァイスを拾い上げた。
 そして、黒い点滅を示している場所を特定しようと、デジヴァイスを方向を変えながら確認する。
 考えた通り、その黒い点滅は、ある一定の場所しか現れないのを確認して、太一はもう一度大きく頷いた。
 ゲートがある場所は、木の茂みの中。

「ユニモン、エアドラモン!ここが、デジタルワールドへのゲートだ」

 場所を確定して、後ろに控えている二体のデジモンに、声を掛ける。

「では、我々は戻ろう。選ばれし子供よ。世話になった……もし、我等の力が必要になった時、呼ぶがいい。我は、お前に力を貸そう」

 すっと自分の傍へと来たエアドラモンのその言葉に、太一が小さく頷いて返す。

「私も、同じだ。感謝している」

 ユニモンも、同じように言葉を述べる事に、太一はもう一度大きく頷く。

「……俺の方こそ、巻き込んじまって、悪かった……ここまで、乗せてくれて、有難う、な…ユニモン……そして、エアドラモン」

 すっと、ユニモンの体を擦りながら、太一が謝罪の言葉と礼の言葉を呟いた。
 それに、二体は、お互いの顔を見合わせて、否定するように首を横に振って返す。

「選ばれし子供よ、お前が謝る事ではない。我等は、お前に感謝してるのだからな」
「エアドラモン……有難う……」

 エアドラモンのその言葉に、太一は笑顔を見せて、心からの礼を述べる。
 そして、意を決して顔を上げると、デジヴァイスをゲートがある場所へと翳した。

「聖なるデジヴァイスよ。示された道を開け!」

 黒い点滅は、多分ゲートが開いていない事を意味していると感じた太一の考えは正しく、翳されたデジヴァイスから、眩しいほどの光が溢れて、辺りを照らす。

「開いた!」

 そして、その瞬間、デジヴァイスが音と共にオレンジの点滅を示した。

「では、我々は戻ろう。ここは、我等の世界ではないからな……」

 すっと、開かれたゲートへとエアドラモンとユニモンが、入っていく。
 完全に、その姿が消えてしまうまで、太一はただ、その空間を見詰め続けた。

「タイチ?」

 光が消えた世界には、闇が残る。
 二体が消えたゲートは、また同じように沈黙し、その扉を閉じてしまう。
 黒い点滅を示すデジヴァイスを、見詰めて、太一は息をついた。

「……俺も、この世界に居ちゃ、駄目なのかもしれないな……」
「タイチ……」

 ポツリと呟かれたその言葉は、初めて太一が零した胸の不安である。
 そして、静まり返った公園の中、ゆっくりと東の空が明るくなり始めるのだった。



                                                 



   はい、『GATE』09になります!
   次は、二桁になるんですね……。早いのか、遅いのか謎です。
   そして、10話目にして、4人目が出てくる事を告知できます!!
   って、事は、クイズの答えは、締め切りと言う事に……。
   では、10話UPした時に、正確なクイズの締め切りも発表しますね。
   答え合わせは、6人目が出るまで、お待ちいただくことになるんですけど……。
   そして、もう一つ、クイズにしてみようかなぁなんて、思ってます。
   こっちは、もっと簡単!
   『誰が、太一さんの名前を呼ぶのか!?』です。
   こちらは、簡単だと思いますので、10月の20日までとさせていただきますね。
   大体一週間!こちらは、正解して下さった方先着1名に、リクエスト券をプレゼント!(いらねぇって…xx)
   答えの受け付けは、この小説をUPした時から、とさせて頂きます。
   答えは、その人が、太一さんの名前を呼ぶまで……って事は、小説がUPされるまでって、事になります。
   先は長そうですけど、宜しければ、参加してくださると嬉しいです。いや、商品は、いい物では、無いですけどね。
   
   では、次の『GATE』も、頑張ります!!