戻りたいと、ずっと思っていたこの世界。
不確かで、今となってはどちらが現実の世界か自分には分からない。
ただ、言える事は、既に自分と言う存在が、この世界からは見放された存在だと言う事だけ……。
GATE 04
「ここは……」
瞳を開いた瞬間、飛び込んできたその景色。
今まで居た場所では決して見られなかった、自分以外の人の姿。
「…無事、着けたの?」
心配そうに尋ねられたそれに、太一は辺りを見回した。
知っているようにも感じられるこの公園を見回せば、離れた場所に良く知った建物が見える。
「…お台場……」
フジテレビの建物。
それが、自分にこの場所が何処であるのかを知らしてくれる。
あの世界に行く前に、自分が住んでいた場所。
「ここは、あのヴァンデモンと戦った場所」
「……ボクとタイチが、あのブラックホールに飲み込まれた時に来た場所だ……」
テイルモンの言葉に続いて、アグモンが辺りを見回しながら、同じように呟く。
そう、ここはあのアグモンと二人だけで戻ってきた時に辿り着いた場所と全く同じ所。
ただ違う事は、今が夕暮れ時だと言う事だけ。
「タイチ、どうするの?」
辺りを見回しながら、心配そうにガブモンが太一に声を掛ける。
確かに、ずっとこの場所に居る事は出来ない。
「……そうだな……」
今、自分達の目の前には、何人かの人が通り過ぎていっている。
だが、誰も自分達を振り返る事はない。
「選ばれし子供は、俺を除いて7人居る。だったら、みんな別れた方が、いいんだろう?」
「別れるって、どうやって?」
質問するような太一の言葉に、パタモンが素直に疑問を投げ掛けた。
「……それぞれ、自分のパートナーに付いてくれ……俺とアグモンは、サポート回る。ただ、問題があるんだ…皆が、前に住んでいた場所と同じ場所に住んでいるかどうか……」
心配そうに言われたその言葉に、一瞬場の空気が重くなる。確かに、それは否定できない事。
自分がこの世界に住んでいた時とは、何もかもが変わっているだろう。
「皆を探せるかどうかは、こいつで何とかなると思う……後は、俺達が、どうやってこっちで生きるかだよな……」
重くなった空気を軽くするように、太一がすっとデジヴァイス差し出す。
それは、仲間の居場所を知らせてくれる機能がある事は、皆が知っている事だ。
しかし、続けて言われたその言葉に、誰もが不思議そうに太一に視線を向ける。
皆の視線を感じて、太一は思わず苦笑を零す。
「……俺達、こっちの世界では、姿が見えない。それって、どうやって食べ物なんかを確保するかって、事になるんだ」
「……確かに、私達は、こちらでは不自由だな……」
太一の言葉に納得したようにテイルモンが、困ったような表情を浮かべる。
それに、皆が複雑な表情を見せた。
「まっ、深く考えても仕方ないよな……なるようになるさ」
苦笑を浮かべて、辺りを見回す。
これからの事を考えるのは、まず仲間の居場所を知る必要があるから。
「まずは、一番近くの丈の家からだな……引っ越してねぇといいんだけど……」
そっとため息をついて歩き出す太一に、デジモン達は複雑な表情をして互いの顔を見合わせた。確かに、今はなるようにしかならないだろう。それは、誰よりも自分達がよく分かっている事。
「兎に角、行こうぜ」
そして、振り返った相手が笑顔を見せる。
それに、力付けられるように、全員が頷いて、ゆっくりと歩き出した。
「……大丈夫みたいだな」
そっとデジヴァイスを手にとって確認してから、太一はほっと息を吐く。
「ジョウは、ここに居るのか?」
心配そうな表情を浮かべて、ゴマモンが自分に問い掛けてきたそれに、太一は安心させるように笑顔を見せた。
「ああ、心配ねぇよ。丈は、ここに居る……そんな訳だから、ここに残るのは、ゴマモン。お前に任せる」
静かな口調で言われたそれに、ゴマモンが力強く頷いて返す。
それに、太一も満足そうに頷いた。
「さっきから、誰かいるのかい?」
そして、その瞬間、目の前の扉が開いて、中からの光が溢れ出す。
それに、そこに居た全員が驚いたように顔を上げた。
まるで自分達の声が聞こえたかのように開いたその扉、そしてその開いた扉から、メガネを掛けた少し長めの髪をした、青年と呼ぶには少しだけ早い少年が姿を見せる。
身構えた自分達に、青年の瞳がみるみる驚いたように見開かれていくのを認めて、太一は先に声を掛けた。
「……俺達の姿が見えるのか?」
「み、見えるのかって、君は……それに、その生き物……」
太一の問い掛けに、はっきりとした口調で返された言葉。
それは、自分達の姿が見えていると言う事を知らせるモノ。
しかも、声もちゃんと聞こえているのだと言う事。
「……頼む、騒がないでくれ……怪しいのは、重々承知している。けど、理由があるんだ」
「……理由?」
今にも叫び声を上げそうな相手に、太一は真剣に言葉を選ぶ。
それに、問い返された事に、コクリと頷いた。
「……多分、俺達の姿は、お前以外には見えないと思う。だから、騒いだりしたら、お前が可笑しくなったと思われるだけだ」
「……ボク以外に見えない?……そう言えば……」
説明されるように言われたそれに、メガネを掛けた人物は真剣に太一達を見詰め、初めてその姿が透けている事に気が付いたようだ。
「ゆ、幽霊……?」
疑問系になっているのは、きっと信じられないからだろう。
それでも、逃げずに自分の前に居るその青年に、ホッと胸を撫で下ろした。
昔の彼の姿を知っているからこそ、今、逃げ出さずに自分の前に居てくれる相手に、少しの驚きさえ感じてしまう。
「…幽霊じゃねぇよ……でも、似たようなモンだよな……」
そして、呟かれたその言葉に、思わず苦笑を溢した。
『幽霊』確かに、今の自分達を表現するのなら、その言葉は、間違いではないかもしれない。
ふっと視線を青年から逸らす。
その瞬間、青年が慌てて、口を開いた。
「り、理由って、なんだい。一体どんな理由が……」
声が少し震えているのは、やっぱり、怖いからだろうか?
それでも、はっきりと自分に質問したその言葉に、太一は自分の直ぐ傍にいるゴマモンへと視線を向けた。
「頼みがある。こいつをお前に……」
すっとゴマモンを抱き上げて、相手に差し出す。
それに、一瞬驚いたような表情を見せたのは、抱き上げられた方であろう。
「……こいつって……?」
ゴマモンを差し出せば、相手が瞳を見開いて、ズレたメガネを掛け直す。
だけど、その質問には、小さく首を振ってから口を開く。
「名前は言えない……それは、お前自身が自分で思い出すしかないから……でも、これだけは覚えててもらいたい……こいつは、丈、お前だけのデジモンだって事……」
「……デジモン?…それに、どうしてボクの名前を?!」
何処か懐かしくも思えるその響き、そして、はっきりと自分の名前を呼ばれた事に、驚いて少年を見詰める。
「……そいつの事、頼むな……丈」
今まで、口にしなかった青年の名前を口にしてゴマモンを相手に押し付ける。
そして、ゆっくりと青年に背を向けた。
これ以上、ここに居ても、きっと自分には、何も話せないから……。
「ちょ、待ってくれ!」
慌てて自分を呼び止める相手の声を耳にしても、振り返らずに歩いて行く。
きっと、振り返ることなんて、もう自分には出来ないだろうから……。

はい、『GATE 04』になります。
太一さん達は、姿を見られる事は無いと描いておいて、丈にはばっちりと見られております。
って、実は、選ばれし子供達には、その姿を見ることは出来ると言う設定で考えておりました。
しかし、思い出してください、ゲンナイさんのお言葉。
誰かに存在を認めてもらわない限り、この世界では認められない存在なのですよ、太一さん達は……。
でも、しっかりと、その存在を認められているって事で、問題が生じてしまいました。
なので、無理やり設定です。
存在を認められる=名前を呼ばれる。と言う事に致しました。多分、小説内でも、これから説明すると思います。
さて、この次に出てくる選ばれし子供は、誰でしょう?
もう、順番は考えております。後は、描くだけvv
頑張りますね!
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