この身を持って、分かってしまった。
   この世界から、とり残されてしまった自分を……。
   確かに望んでいた世界なのに、もう自分の居るべき場所ではないのだと、何かが語り掛けてくる。

   変わってしまった仲間の姿、そして、変わっていない自分。
   分かっていたこの現実が、自分には重い……。


 
                                         GATE 05


 殆ど押し付けるようにゴマモンを託してきた太一は、見えなくなったそれに、ほっと大きく息を吐き出す。
 緊張していたのだと、今更ながらに感じて苦笑を零した。

「大丈夫、タイチ…」

 複雑な表情を見せている自分に気が付いたアグモンが、心配そうに声を掛けてきたそれに、何も答えられない。

 大丈夫なんかじゃない。

 あの時までは、確かに同じ時間を過ごしていた相手なのに、今会った彼は、少しの面影しか残されていなかった。
 大人になったのだと分かる、その姿に、自分はただ複雑な気持ちを隠せない。

「タイチ……」
「……大丈夫…大丈夫だから……」

 まるで自分自身に言い聞かせるように言われたその言葉に、アグモンは言葉を失う。
 『大丈夫な訳ない』そう言いたいのに、そんな姿を前にしては、言えるはずも無い。

「…少し休もう、タイチ」

 アグモンに代わって、心配そうに声を掛けたのは、ガブモン。
 太一とアグモンを交互に見てから、そっと笑顔を見せて、言われた言葉に、誰もが大きく頷いて返す。
 緊張していたのは、太一だけではなかったようだ。

「…まさか、私達の姿が、見えるとは思っていなかった……」

 ほっと息を吐き出して、テイルモンが空を見上げながら、言葉を口にする。
 それは、皆が思っている事。

 自分達の姿が、見えるなど思っていなかった。
 それを証拠に、公園にいた時は、誰も自分達に気付いていなかったのだ。
 存在そのものが、認められていなかったと言っても良いだろう。
 なのに、丈には、その声が聞こえ、姿までもが見えていた。

「……多分、選ばれし子供達には、わてらの姿が見えるんですやろう。それは、可笑しな事やありまへん」
「……確かにそうかもしれない……でも、そのお陰で、みんなを確実にパートナーの傍に戻す事が出来る……」

 テントモンの言葉に、太一がふっと笑顔を浮かべる。

「どう言う事?」

 笑顔を見せながら言われた事の意味が分からずに、ピヨモンが太一に問い掛けた。

「きっと、俺の事は覚えていなくっても、みんなの事は、覚えてるって言う確信があるだけさ」

 皆を安心させるように、太一が笑う。
 太陽を思わせる明るい笑顔に、誰もが知らずに頷いて返す。

「……んじゃ、次は光子郎の所だな。……テントモン、お前の場所だ」
「……光子郎はん……やっぱり、わての事、覚えてないんですやろうなぁ……」

 太一の言葉に、不安を呟いて、テントモンが小さく息を吐き出した。

「心配すんなって!光子郎の紋章は、知識の紋章だぜ。きっと、思い出すさ。あいつの知りたがる心が、鍵を見つけてくれる」
「タイチはん……」

 慰めるように言われる言葉は、デジモン達に勇気をくれる。

 皆が自分達を覚えていないと言う不安を、拭ってくれるその言葉。
 きっと、一番不安で、その気持ちを拭えないのは、太一本人だと知っているのに……。

「行こう。何時、操られたデジモンが姿を見せるか、分からないからな」

 そして、促されるように言われた言葉に、誰もが大きく頷いて見せた。




「ここに、光子郎はんはまだ居るんですかいな?」

 アパートの前に佇んで、心配そうに見上げているテントモンに、太一はポケットから取り出したデジヴァイスをアパートに向ける。
 しかし、丈の時はちゃんと反応を見せたそれが、今は何も反応しない。

「……引っ越しちまったのか?」

 反応しないそれに、不安が募る。
 もしも、引っ越してしまったのなら、探すのは大変な作業になるだろう。

「そこで、何をしているんです」

 どうするべきかを考えようとした瞬間、後ろから新たな声が掛けられた。
 自分達の姿が見える相手は、決まっている。それは……。

「…光子郎はん……」

 振り返った瞬間、そこにあの時の少年をそのまま大きくした人物が立っている。
 買い物でもして来たのだろう、その手にはコンビニの袋を下げて……。

「君達は、一体なんなのですか?ここで、何を……」

 質問されるその言葉に、思わず苦笑を零してしまう。

 怪しいと思っていても、まず疑問に思った事に、納得しなくては居られないあの時の性格は、未だに健在だと言う事が、嬉しい。
 訝しげな表情で見詰めてくる相手に、太一はすっと前に出ると決心したように頷いて、真っ直ぐに相手を見詰める。

「俺たちは、泉光子郎に、会いに来た」
「どうして、ボクの名前を!一体、君は……」

 自分を見上げてくる少年が、呟いたそれに、驚いたように聞き返せば、曖昧な表情が浮かべられる。

「……多分、答えは光子郎、お前の中に存在してる……俺達が、何者で、何でお前に会いに来たのか……」
「どう言う意味ですか……」
「光子郎はん、わてらは、光子郎はんの敵やありまへん」

 太一の言葉に警戒していると分かる相手に、テントモンが身を乗り出して口を開く。

「…着ぐるみ??」

 しかし、しゃべったそれが、余りにも変な姿をしている為に、光子郎が思わず首を傾げる。

「着ぐるみじゃねぇよ……デジモンだ」
「…デジ、モン…?」

 苦笑交じりに言われた言葉が、聞きなれない言葉だった為に、思わず聞き返す。
 しかし、聞き返すように呟いたそれは、何処か懐かしい響きを含んでいた。
 初めて聞いた言葉なのに、懐かしいと感じるそれは、何処か安心できるものをも感じられる。
 不思議な響きを持つその言葉に、ただ目の前の少年を見詰めれば、そんな自分の視線を真っ直ぐに受け止めながら、少年が力強く頷いた。

「…そして、こいつは、お前のパートナーデジモンだ」

 テントモンの頭にポンッと手を乗せて、太一がニッコリと笑顔。

「パートナー?ボクは、知りません、そんな事!!」
「光子郎はん…」

 言われた言葉が信じられなくって、少し声を荒げての返答に、テントモンが、寂しそうな表情になる。
 その表情に気が付いて、光子郎が慌てて口に手を当てた。

「……否定しないでくれ……俺達が、お前の目にどう映ってるのか分からないけど、絶対に敵じゃねぇから……」

 必死で訴えるような瞳が、自分を真っ直ぐに見詰めてくる。
 真剣なその瞳は、嘘など言っているようには見えなくって、それどころか、無条件で信頼してしまえ程の光を宿しているように見えた。

「では、聞きます…先程から、敵では無いとおっしゃっていますが、それは、敵が居ると言う事なのですか?」

 先程から聞かされる言葉に、問い掛ければ、一瞬だけ困ったような表情をして後ろを振り返る。
 そして、後ろに居るモノ達と目で会話をして、大きく頷くと、意を決したように口を開く。

「……敵は、居る……多分、お前の事、狙ってる……だから、俺は、俺達はお前を、みんなを守りたいんだ」

 光子郎の質問に、言葉を選ぶように言われたそれは、まるで自分に言い聞かせるような響きを持っていた。
 必死で何かを絶えているようなその姿に、光子郎は一瞬言葉を失って、ただ相手を見詰めてしまう。
 自分よりも小さい子供なのに、何かを背負っているこの少年に、どうしても惹き付けられている自分が居る。

「…分かりました。ボクは、あなたを信じますよ」
「光子、郎?」

 ふっと笑顔を浮かべて、優しい表情を作ると、光子郎はテントモンへと手を伸ばした。

「…えっと、初めまして、でいいんでしょうか?」
「光子郎はん……」

 うるうると自分を見詰めてくるその生き物に、光子郎はただ笑顔を見せる。

「俺達の事、信じてくれてサンキュー……光子郎、そいつの事、頼むな……」
「えっ、ちょっと待ってください、それは……」
「俺達の姿は、多分お前以外には見えない。それに、敵が現れた時、そいつが居れば、安心だから……」

 慌てて自分を呼び止める光子郎に、太一はそっと笑顔を見せた。

「……君は、一体誰なんですか?」

 まるで、昔から、自分の事を知っているような言葉。
 そして、懐かしいと思える自分のこの気持ちを確かなモノにしたくって尋ねたその言葉に、少年が困ったような笑顔を見せる。

「…自己紹介したいのは山々なんだけど、出来ないんだ……多分、俺が誰かって事も、光子郎の記憶の中にあるって信じたい……」

 寂しそうな笑顔を見せながら言われた言葉に、光子郎は何も答える事が出来ない。
 強い光を宿していた瞳が、不安気に揺れているのを見た瞬間、歩き出そうとしたその腕を、思わず掴んでしまう。

「待ってください。もう少しだけ、一緒に居てくれませんか?もっと詳しく話を聞かせてください」
「光子郎?」

 突然自分の腕を掴んだ相手に、信じられ無いと言うような瞳を向けてくる。
 そんな太一を前に、光子郎は少しだけ困ったような表情を見せた。
 そして、卑怯だとも取れる条件を出す。

「…それが、ボクのパートナーだと言う彼を、引き受ける条件です」
「でも、俺達は……」
「心配しないで下さい。今日は、両親が出掛けているので、ボク一人なんです」

 相手の言葉を遮って、優しく微笑んで見せれば、困ったような表情が向けられる。

「それとも、迷惑でしょうか?」
「そんな事無い!……だけど、詳しい話は、出来ない……ここで、何処まで話していいのか、俺自身分かってねぇから……」
「構いませんよ。ボクの性格なんです。分からない事は、ちゃんと調べたいんですよ」

 ニッコリと笑顔を見せながら言われたそれに、太一も思わず笑顔を返した。

 知っているから、彼の性格を……。

 そして、この世界に来て、初めて太一はほっと落ち着いたように息を吐き出すのだった。



                                                 



   光太な話となってしまいました。
   次は、光子郎さんの家に泊まるところからスタートいたします。
   って、次回も光太な話って事ですね。<苦笑>
   でも、心配はありませんよ、この話は、ヤマ太です!!
   ええ、ヤマトさんが出てこなくっても、きっとヤマ太な話になるはずです!
   だって、ここはヤマ太なサイトですから!(笑)
    
   そして、3人目は一体誰になるのでしょうか?
   頭の中では、既に順番は決まってます。
   では、ここでクイズにしてみましょう!
   7人の選ばれし子供達の出てくる順番は??
   クイズでも、何でもないですね。(笑)
   でも、推理しながら読んで貰えるように頑張ります!
   さぁって、次は、誰でしょうね??