人の話し声が、聞こえて顔を上げる。
 もう既に暗くなっている窓の外を見て、小さくため息をついた。

「もう、こんな時間なんだ……」

 ずっと勉強をしていた事で、硬くなった体を解すように伸びをする。
 その瞬間、耳に聞こえてきたのは、何かの音。

「何の音なんだろう?」

 聞いた事の無いその音に、どうしてこんなに惹かれるのだろうか。
 ただ、その音が無償に懐かしくって、それして、大切な音に聞こえたのかもしれない……。
 その音に誘われるように、自分の部屋を出て玄関へと歩く。

 どうして、確認しようなんて考えたんだろう。
 家には、何の関係も無い音かもしれないのに……。
 一体、何の音なのか、どうしても気になって……。

 玄関に辿り着いた瞬間、その音が更に大きさを増す。
 まるで、何かに反応しているかのようなその音。

「……一体……」

 確認しようと扉に手を掛けようとした瞬間、外から聞き取り難いが確かに人の話し声が聞こえて来た。
 何人かのその声に、誘われるようにドアを開く。

「さっきから、誰かいるのかい?」

 扉の外に居る人物を確認するようにドアを開いた瞬間、扉の外に居たそれを見て、僕は驚いて瞳を見開いた。

 そこに居たのは、見たことも無い生き物が数匹と、少年が一人。
 そして、僕が驚いて見詰めている中、その少年が、驚いたように僕を見る。

「……俺達の姿が見えるのか?」
「み、見えるのかって、君は……それに、その生き物……」

 質問されたその言葉に、僕はただ驚いて、まともに言葉が出てこない。
 だが、質問された事に、少年が何処か安堵したような表情を見せたのに、気が付いた。

「……頼む、騒がないでくれ……怪しいのは、重々承知してる。けど、理由があるんだ」
「……理由?」

 意味不明な事を口にする少年に、僕はただ聞き返す。
 僕が聞き返したそれに、少年が小さく頷いた。

「……多分、俺達の姿は、お前以外には見えないと思う。だから、騒いだりしたら、お前が可笑しくなったと思われるだけだ」
「……ボク以外に見えない?……そう言えば……」

 説明されるように言われたその言葉に、僕は改めて少年を見る。
 そして、気が付いた事は、少年の体が透けている事。
 そうそれは、後ろに居る不思議な生き物達も同じで、色はあるのに、向こう側が透けて見えているのだ。

「ゆ、幽霊……?」

 未知との出会いなのに、冷静な自分が居る事が不思議に思える。

 普段なら、こんなに冷静ではいられないだろう。
 だが、目の前にいるこの少年の瞳が、余りにも真剣で、そして、何処か懐かしいと感じられたから、話を聞く気になったのかもしれない。

「…幽霊じゃねぇよ……でも、似たようなモンだよな……」

 自分の言葉に、少年が苦笑を零した。それが余りにも悲しみを帯びている事に気が付いて、慌ててしまう。

「り、理由って、なんだい。一体どんな理由が……」
「頼みがある。こいつをお前に……」

 すっとアザラシのような生き物を抱き上げて、自分に差し出す。
 それに、一瞬驚いたような表情を見せたのは、その変な生き物の方で……。

「……こいつって……?」
「名前は言えない……それは、お前自身が自分で思い出すしかないから……でも、これだけは覚えててもらいたい……こいつは、丈、お前だけのデジモンだって事……」
「……デジモン?…それに、どうしてボクの名前を?!」

 何処か懐かしくも思えるその響き、そして、はっきりと自分の名前を呼ばれた事に、驚いて少年を見詰めた。

「……そいつの事、頼むな……丈」

 押し付けるような形で、その生き物を手渡すと、少年はそのまま歩き出す。

「ちょ、待ってくれ!」
「……ジョウ…」

 去ろうとしているその後姿に、声を掛けた瞬間、自分の腕の中に残されたものが、そっと小さく自分の名前を呼んだ。

「しゃ、しゃべれるのかい??」

 まさか、変な生き物に自分の名前を呼ばれるなどと思っていなかっただけに、驚きは隠せない。

「オイラの事、本当に忘れちまってるんだな……」
「忘れる??一体、どう言う事なんだい……」

 自分の腕の中に居る存在が、何を言いたいのか分からない。
 そして、先程のあの少年の事も……。

「でも、オイラは、ジョウの事を信じてる。どんな事があっても、オイラはジョウの事が、好きだからな」

 そっと伝えられる言葉は、何処か悲しく、そして、何処か懐かしくも感じられるものであった。
 一体、何があって、今この生き物が自分に託されたのかは分からないが、何かの歯車が再び回りだした事に、気が付いていたのかもしれない。

「ジョウ?」

 不思議そうに名前を呼ばれて、自分が泣いている事に気が付いた。

「……分からない…どうして、涙なんか……」

 懐かしいと感じるこの腕の温かさ。
 ずっと、求めていたモノが、戻っていたようなそんな錯覚。

「……ジョウは、相変わらず臆病だよな」
「…キミ、失礼だね………初めてなのに……」

 初めて、そう思えるのに、何かが否定する。
 その台詞は、前にもどこかで聞いた事があるのだ。

「……これからは、オイラが、ジョウを守ってやるよ」

 ニッコリと笑顔を見せるその姿が、何かを駆り立てていく。

「……一体、これから、何が起こるって言うんだい?」

 自分を守ると言ったこの生き物。それは、これから先の事を暗示している言葉。

 しかし、自分の問い掛けに、腕の中の存在は、何も答えずに、ただ視線を自分から逸らしただけだった。



                                                 



   はい、遡っての『裏・GATE05』です!
   それに伴って、『GATE04』も少し話が変わりました。
   丈さん視点です。次は、ゴマモン視点かな?
   って、裏ばっかり書いてないで、表の話を進めろ、私!
   もう、しばらくお待ちください……xx