「はっか〜い、こっちのはちょっと固いですね」 「それは食用ですから。中身はスープとプディングにしますね。他にリクエストありますか?」 「僕、ワッフルも食べたいです」 「判りました。じゃあそれもデザートに作りますから頑張って下さい」 八戒は忙しくキッチンで動き回る。とその度に白いエプロンが翻り、パニエの下のしっぽが揺れる。その可愛らしい姿を堪能しながら天蓬はかぼちゃを刳り貫き、Jack-O’-lanternを作っていた。オレンジ色をしたかぼちゃは1つクリアしていたが、今は緑色の食用かぼちゃに少し手間取っている。食用の方が中身は固いため、一生懸命になっている天蓬の姿に八戒も目を細める。 と、チャイムが鳴り天蓬は手を止める。そしてインターホンを取るとモニターには不機嫌な顔が映し出されていた。 「こんな楽しい夜に何しに来たんですか?」 「お前が持って来いと言ったんだろーが!」 あからさまに不機嫌な顔をした天蓬を上回る仏頂面で、三蔵は持っていた物をモニターに映す。そこにはボジョレーヌーヴォーが画面に大きく広がった。それを見た天蓬は、三蔵の実家で解禁前に手に入ると聞いて、八戒の名前を出し、持ってくるよう言っていたのを思い出した。 「そうでした。でもだからって何も今日でなくとも良いんじゃありません?」 「…いらねぇんなら、俺はこのまま帰る」 「仕方ありません。背に腹はかえられないですね。それは八戒が楽しみにしてましたからねぇ。今開けますから、ちょっと待ってて下さい」 受話器を置くと、天蓬はくるりと振り返り、キッチンにいる八戒を呼んだ。 「どうしたんですか?天蓬」 「残念ですけど、その耳としっぽを消しますね」 「え、どうしてです?」 「今三蔵が、ボジョレーヌーヴォーを持ってきたからです」 「えっ!?今日、来る日だったんですか?」 「別に今日指定したわけじゃなかったんですけど、僕の予想より早くに来ちゃったんですよ」 「大変です。でしたらすぐに三蔵さんの分も料理を作りますね。あ、じゃあ天蓬これを持っていって下さい」 そう言って八戒は急いでキッチンに戻ると、戸棚のなかからキャンディポットを取り出した。そして中からお菓子を出して天蓬に手渡す。 「何ですか?これ」 受け取った天蓬が不思議そうな顔で見ると、八戒は笑顔で答える。 「天蓬が悪戯されないようにです」 「成程、でもお菓子あったんですね」 「えぇ、一応。でも天蓬にはなるべく手作りのものを食べてもらいたいんです。それは三蔵さんも同じなんですが、間に合わないので取り敢えずそれで許して貰おうかと。そうすれば天蓬が悪戯されないですむでしょう?」 「大丈夫ですよ、今日の僕はwitchですからね。返り討ちにしてやりますよ。でも八戒ありがとう、凄く嬉しいです」 天蓬は八戒を抱き寄せてキスをしようとする、と再び忙しくチャイムが鳴った。 「まったく不躾な輩ですねぇ」 「そんな事言わないで、折角ボジョレーを持って来てくれたんですよ。天蓬だって楽しみにしてたでしょう?早く行ってあげて下さい」 そう言って八戒が頬にキスをすると天蓬の機嫌も少し回復する。 「仕方ありませんね、ボジョレーに免じて行ってやりますか。但し貴方は絶対来ちゃだめですよ」 「ええ、僕は三蔵さんの分も作り足さなくちゃいけませんから。天蓬、お出迎えお願いしますね」 そう言って八戒はキッチンへと舞い戻り、天蓬は邪魔をした三蔵へのtrickを考えながら玄関へと向かった。 扉を開けて待っていた天蓬を見て、三蔵は非常に深い皺を眉間に刻んだ。そこにはまるで待ってましたとばかりにwitchのコスチュームを着た天蓬が、三蔵に負けないくらい不機嫌な顔をして仁王立ちでいたからだ。大きな鍔付きのとんがり帽子に、黒いワンピースはたっぷりの袖で、羽飾りの付いたケープを纏っている。 「お前、本当は俺が来るの判ってたんだろう?」 「そんな訳ないですよ。これは八戒と2人で楽しむための衣装です。貴方に見せるためのものじゃないんです。本来なら見物料を徴収するところですが、今日は特別にそのボジョレーで許して差し上げます」 「これは八戒のために持って来たんだ。本来なら八戒だけに飲ませたいとこだが、伝令料としてお前が飲むのも許してやる」 そう言って靴を脱いで上がった三蔵に、天蓬は拳を突き出した。 「何の真似だ?」 殺気の入った正拳突きを手の平で受けとめた三蔵が片眉を跳ね上げると、天蓬は手を開く。すると中からキャンディーやチョコレート、ラムネにマシュマロ等が出てきて、三蔵は目を丸くしながら、手の上に乗せられたお菓子を見つめた。 「いいですか?貴方はそれを受け取ったんですから、八戒に指一本触れるのも許しませんよ」 「毒でも入ってるのか?」 「何言ってるんですか、それは八戒が用意してくれたtreatですよ」 「何だそれは?」 「今日はHalloweenです。貴方がTrick or Treat?と言っても僕が悪戯されないように八戒が持たせてくれたtreatですよ」 言われて三蔵は、ここに来るまでに笑っているオレンジ色のかぼちゃがやたらと目に付く理由をやっと知った。 「そういう訳ですから貴方もそれなりの格好をしてもらいませんと、家に上げられません。えいっ」 「て、何しやがる天蓬!何でこんな物が頭から生えるんだ?!」 「今日の僕は魔法使いなんですから、この位出来て当然です。さ、後はこれを特別に貸してあげますから、とっとと着替えてください」 がなる三蔵に耳を貸さず、天蓬は一体どこから出したのか真っ黒い衣装を差し出した。 「天蓬、貴様……」 「何ですか?その衣装が気に入らなければ貴方の全身に毛を生えさせたり、もしくは大量の包帯だけの衣装が良かったですか?ミイラ男は一度全裸にしなくちゃいけませんから面倒なんですが、貴方がそんなにやる気なら仕方ありません。じゃあそっちに…」 「待て、仕方ねぇから着てやってもいい…」 天蓬が魔法のスティックを翳したところで三蔵は渋面になって言い放つ。と天蓬はそれは美しい魔女の笑みを浮かべた。 「判ればいいんです」 |
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2006/04/10