「Trick or Treat?」
 「I’m scared.えーっとこれから作るんですけど、待ってはもらえません?」
 何故かwizardではなくwitchの格好をした天蓬に、八戒はお願いしてみる。が天蓬は人差し指を出すと、チチチと横に振った。
 「八戒、貴方はレストランに行って海老ピラフを注文したとします。そこでコックにこれから田植えをするんです。もしくは船に乗って海老を捕りに行くんです。と言われて待っていられますか?」
 「取り敢えず材料はあるので、そこまでお待たせしないと思うんですけど…」
 「いいえ、僕にはそのくらい長い時間に感じられますよ」
 にっこりと天蓬に微笑まれて、八戒は諦めの溜息を吐いた。
 「判りました。それで僕はどんな悪戯をされちゃうんでしょう?」
 「……八戒。その言葉、絶対僕以外に使っちゃだめですよ。世に犯罪者を増やすことになりますからね」
 その言葉を言わせた天蓬は、真剣な顔で言うと、魔法のように取り出したものを八戒に見せた。



 「八戒、似合うというレベルをすでに超えてますね。まるで貴方のために作られた服のようです」
 非常に難しい顔をした天蓬は、目の前のソファに座っている八戒を見つめた。天蓬の手によって着替えさせられた八戒は、頭にはヘッドドレスを被り、黒のワンピースはパニエでふんわりと広がり、その上にレースがふんだんに使われた白いエプロンを付けた完璧なメイド服を着ていた。
 「それってあまり喜ばしいことではないと思うんですけど。大体どうしてサイズがぴったりなんですか?」
 非常に複雑な顔した八戒に、天蓬はやおらスティックを取り出した。
 「昨今のメイド服は性別問わず製作してるんですよ。判りました、八戒はまだ不満なんですね。えいっ!」
 「って、何するんですか、天蓬!どうしたらこんな物が頭やお尻に付くんですか?!」
 自分の身の上に起きた恐ろしい現象に、八戒が驚いて立ち上がると、天蓬は満足な笑みを浮かべる。
 「実は僕の溢れんばかりの才能を見込まれまして、今日限定で魔法書とスティックを貸してくれたんです。ふぅ〜、まったく自分の才能が恐ろしいです。ほら、これで完璧になりましたよ、八戒」
 「不満だなんて一言も言ってません!自分に感心してないで、早く消して下さい。凄く変な感じなんですから」
 膨れっ面をする八戒の頭には黒の猫耳がピンと立ち、白のパニエの下からは黒くて長いしっぽがのぞいていた。
 「えー、勿体無いですよ。だって凄く可愛いんですから。ところで変ってどんな感じなんですか?」
 「……尻尾の生えてる辺りがむずむずして……苦しいっていうか…」
 伏目になり頬を赤らめた八戒を、天蓬は両手を伸ばして抱き寄せる。
 「それはいけませんね。じゃあ、こうしましょう」
 天蓬は八戒を抱き締めながらキスをすると、そのままソファに押し倒す。
 「えっ、ちょっと天蓬、何するんですか?」
 「だって苦しいんでしょ?八戒」
 焦る八戒の顔にキスの雨を降らせながら、天蓬はパニエの下に手を入れて、手慣れた仕草で下着を取り去ってしまった。
 「天蓬!」
 「僕達一緒にお風呂まで入る仲でしょう?今更何を照れてるんですか」
 「だからってこんな所で…」
 真っ赤になって抗議する八戒の鼻先にキスをした天蓬は、悪びれずに笑った。
 「貴方があんまりにも可愛いからいけないんですよ。もっと悪戯したくなっちゃいます」
 「……意地悪です。天蓬」
 「くすくす。だって貴方が困らない事には悪戯として成立しないでしょう?もう女装くらいだと、嫌がってもくれないんですから」
 天蓬は唇に可愛らしいキスをすると、八戒を抱き起こし膝上に乗せた。
 「ねぇ、八戒。このまま僕のためにtreatを作ってくれません?そうしたらこの耳としっぽを消してあげますから」
 「それなら僕もお願いがあるんですけど」
 向かい合う形で八戒が伺うように首をかしげると、黒いしっぽがスカートの端でゆらゆらと揺れる。
 「何ですか?八戒。そんなに可愛い姿で言われたら、何でも聞いてあげますよ」
 「えーっと、実はかぼちゃを買ってあるので、Jack-O'-lanternを作って欲しいんですけど」
 「お安い御用ですよ。ふふふ、凄く嬉しいです。貴方もHalloweenを楽しむつもりだったんですね」
 「えぇ、でもこんな格好になるつもりはなかったんですけど」
 恥ずかしそうに頬を染める八戒に天蓬はもう一度キスをした。
 「良く似合ってますよ、八戒。数あるメイド服の中から選び抜いたかいがありました。この格好で今日はHalloweenを楽しみましょうね」



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