「――― 降りそうですね」
車窓から鱗雲を眺めて明智は呟いた。
「山荘の方では、もう降っているかもしれませんね」
「予報では、夜半過ぎには雨は上がるそうですが」
湊が同意すると、運転している警官も話を合わせた。フロントガラスには一定の車間距離を保って、剣持の乗る先導車が見えている。
「そうですか、やはり雨夜の月にはならないようですね」
明智はそう呟くと、シートに沈み込み瞼を閉じる。束の間の休息を取るその姿を、湊は静かに見守った。
目的地が近付くにつれ秋陰は広がりを見せ、迫る山の紅葉を浮かび上がらせる。やがて車は高速を降り、県警と合流した麓では美しい紅葉に霧の帳が下りていて、ほどなくして秋雨の歓迎を受けた。
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