静寂の戻ったリビングに一人残った明智はゆっくりとコーヒーを飲み干し、空になったカップをテーブルの上に置いた。
(ちょっと大人げなかったですね)
剣持に冷たい目線を投げたのは八つ当たりと自覚しての事だった。別に剣持を咎めた訳ではなく、昨夜あの絵を見てから生まれた焦燥感のせいだった。あの画像が目に焼き付いて離れない。別にあの絵を描いた画伯を責める訳ではなく、ただ何故あの絵を高遠に渡すよう自分に託したかが問題だった。
(私に絵を渡しそれを情報提供として逮捕に協力する。というには手が込みすぎてますね、画伯)
データファイルの中に術士の肖像は無かった。そしてあの窓を使ったトリックはロス市警時代を思い出させた。マスクマンと遭ったのは別の場所(ゴーストホテル)だったが、当時話題になったため目にしている可能性は十分あった。
軽く握った拳の上に顎を乗せ俯いていた明智は、自分を見つめる視線を感じ、顔を上げ目線を絡めた。
「やはり貴方が関与してますね?」
自分を見つめる高遠に問いかけた。昨夜役目を終えたイーゼルと共にここに運ばれた術士の肖像を、明智は見つめた。この駆られるような気持ちは何なのか?この焦燥感は一体何処から来るものなのか?
――― 会えば判りますよ ―――
明智が高遠の声を感じた瞬間、胸ポケットの携帯が鳴った。必要以上に驚きながらも努めて冷静に声を発する。
「 ―――― 私だ」
携帯から聞こえたのは期待した声ではなく、部下からの連絡だった。明智は報告を聞き終え通話を切ると、自分の感情に眉を寄せた。
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