序章

はじめに
 精神障害者の対する福祉政策が、近年充実してきている。新障害者プランによって、精神病院における長期入院者のうち7万2千人が退院可能であるとで算定され、精神保健福祉制度の下、生活訓練、社会復帰対策などから地域生活を支援する方向性が強く打ち出されてきた。
 しかし、救護施設への入所者数は、精神障害者が他の障害に較べて増加傾向にある。また、医療扶助の受給件数は入院外であっても増加傾向にある。さらに、精神病院の入院患者に比べ退院者はまだまだ少なく、社会復帰施設などの社会福祉施設は新障害者プランが掲げる目標値にはほど遠い。このことは、精神保健福祉制度だけでは依然として地域生活の(あるいは自立)支援が十分にできていないことを示しているといえる。

第1節.研究目的
 一般に生活保護は、精神障害者福祉施策の遅れから制度的補完として捉えられている。また、そのことによって精神保健福祉制度と生活保護制度(精神医療を含み)がそれぞれの立場にとどまり、精神障害者に対する支援が分断されている現状を指し示している。
 その一方で、近年、国際的にも障害者そのものの在り方を見直そうとする動きがあり、国際障害分類が改訂され、それに基づいた包括的な理念が提示されている。このような現代の動向を踏まえ、現在救護施設に入所している、あるいは生活保護を受給している精神障害者が、制度としての壁を越えて支援がなされるにはどのようにすればよいか。その阻害要因を明らかにしながらも主に精神保健福祉と生活保護の施策の連関の可能性を探る。
 このことは、取り残されていると論じられている救護施設の役割や補完的な位置づけにとどまっている生活保護制度を、現在でも精神障害者にとって不可欠なものとして、または、立ち後れているとされる精神保健福祉分野を包括的な理念との結びつきの中で捉え直す視点を提示することができると考える。

第2節.研究対象

第3節.研究方法
 つまり、精神障害者の現在置かれている状況を統計、調査や先行文献から浮き彫りにし、制度論としての生活保護と精神保健福祉を比較、あるいは性質などを明らかにし、現時点での精神障害者像を構築する。それらを踏まえて、現在の阻害要因や困難性を実証し、制度に内在する展望や理念または現在の実際の活動などから将来の指向性について仮説を構築する。このことは、精神障害者が現在抱えている問題の軽減や除去を実際的な視点で捉える試論である。

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