第2章.精神障害者福祉施策の現況
はじめに
 第1章において、精神障害者数、また精神病院の在患者数など、どの様な状態なのかをを明らかにした。本章においては、昨今進められている精神障害者福祉施策の実際的な状況について明らかにする。

第1節.精神障害者福祉施策の整備状況について
 昨今の障害者に関する動向として、平成14年12月、障害者対策に関する新長期計画及び障害者プランに引き続くものとして、新しい「障害者基本計画」が閣議決定された。また、「障害者施策推進本部」において、障害者基本計画の具体的目標を定める「重点施策実施5カ年計画」(いわゆる「新障害者プラン」)が決定された。その背景には、ESCAP「アジア太平洋障害者の十年」の延長が強く反映されていると考える。また、障害に関する認識、国際障害分類第2版(ICF)が2002年に提出されたことが大きい。この分類の理念では、国際障害分類初版(1980年)に比べ、社会的に形成されている様々な制限(あるいは障害)〜社会参加、地域生活などに着目している。このことについては、第2部以降で詳述するが、「新障害者プラン」では、特に精神障害者施策の充実を謳い、「社会的入院患者(約7万2千人)の退院・社会復帰を目指す」と具体的に数値を提示し、そのための社会資源の拡充を目指している。具体的には、精神障害者の社会復帰施設の増加による受け皿の確保が進んでいるといわれている。一般に、社会復帰施設などの設置数状況については以下のようになっている。
表2-1
表2-1.精神障害者福祉施設数年次推移
出所(「厚生労働省白書」,小規模作業所数は「障害者白書」参照)
 生活訓練施設(いわゆる援護寮)が社会復帰施設の中でも設置数が多く社会復帰施設の総数の27%であり、人数は約40%を占める。しかし、生活訓練施設、福祉ホームや通所授産施設は昭和46年に法制化されている事を考えると、明らかに設置数が少なく、立ち後れているといえる。また、生活訓練施設も福祉ホームも利用期間が2年以内と決められ、入所授産施設の少なさもあり、再入院などで行ったり来たりしているケースもあるといわれる。いずれにしろ、設置数に関しては、藤井(1999,P111)の平成10年の調査で、「福祉ホームについてみていくと設置ゼロが12県、1ヶ所のみというところが12府県というありさまである」ということから、社会復帰施設は地域生活の受け皿となり得ていないのではないだろうか。実質活動の拠点となっているのは、作業所であり、助成を受けているものだけに限っても、社会復帰施設を上回る結果となっている。
 さらに、新障害者プランにおいては、精神障害者福祉施策の目標数は以下のようになっている。
表2-2
表 2-2.精神障害者福祉施策目標数 出所(「障害者白書」
 この数値を見ると、社会的入院患者7万2千人の退院を促進させるといったスローガンは疑問である。前述のとおり、福祉ホーム、生活訓練施設は原則として2年以内の利用にであり、約1万7千人が利用しても地域生活とはならない。住居として機能するのは、グループホームや入所型の授産施設なのであるが、その定員は少なく、さらにアパートなどでの一人暮らしの精神障害者への支援としてホームヘルパーも含まれてくるとはいえ、目標というには少ないのではないだろうか。
 昨今の、地域生活、社会参加などに見られるように、いわゆる施設福祉を縮小し、在宅での生活を中心とした小規模化、通所型が主流であると言われている。しかし、前述の通り、精神障害者福祉が強く意識されたのは、ここ最近のことであり、さらに社会的入院患者の退院促進が打ち出されたのは新障害者プランによってである。たしかに急な増加ということは見込めないにしろ、在宅中心、通所型にするにしろ、依然として、退院=家族の受け入れが前提となっており、福祉面においてハード面が不足しているといえる。そのことを端的に表しているのが、社会福祉施設の設置数・定員数である。他の障害と比較して、大まかな概数のみを提示する。
表2-3
表 2-3. 障害別施設、定員数年次推移 出所(「厚生労働省白書」)

 単純に比較することは出来ないが、確かに増加率に関しては、身体障害者や知的障害者の施設利用は微増であるのに対し、精神障害者の社会復帰施設が急増していることが分かる。しかしながら、第1章(表1-1)において他の障害者数との比較では、身体障害者の施設入所者が18.9万人(約5%)、知的障害者が13万人(約28%)である。さらに、通所やディサービスを含めるとその差は歴然とし、精神障害者数は、表1-1においては、204万人であったのに対し、通所型の施設を含めた社会復帰施設の利用は、12001人(約0.5%)の定員であり、その差は歴然としているといえる。
 さらに、グループホームは地域生活援助「事業」として施設数には含まれないこと、またいわゆる小規模作業所のような法定外施設と呼ばれるものも相当存在している1)。これらの施設数や利用者数を把握することは困難であり、グループホームにしろ、小規模作業所にしろ、地方自治体などによる助成によって行われているもの、自主運営しているものなどが様々ある。仮に、退院者の促進を図る際には、これらの助成や補助の相当の拡大を視野に入れた取り組みが必要であるといえる。
 また、精神障害者社会復帰施設の大きな特徴は、医療法人による設立が多いと言われている。このことについて、厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成13年)による「社会福祉施設等数,施設の種類・経営主体、設置主体別」で明らかになっている。
表2-4
表 2-4.社会福祉施設の種類・設置主体別 出所(「社会福祉施設等調査」(平成13年度))
 設立法人は、身体障害者が公立で約12%、社会福祉法人は約84%、知的障害者に関しては、公立が6%、社会福祉法人が94%であるのに対し、精神障害者は、公立で約2%、社会福祉法人が約45%、医療法人が約43%である。このように、他の障害において、社会福祉法人が90%以上を占めているのに対し、精神障害者社会復帰施設の設立法人が医療法人が圧倒的に多いことが分かる。
 精神保健福祉法においては第50条第1項では都道府県が、同条第2項において市町村、社会福祉法人、その他の者が厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届けることによって設置できるとされる。素直に解釈をすれば、主たる設置主体は都道府県、市町村、社会福祉法人ということになる。しかし、実際にはそうなっておらず、「社会福祉法人、その他の者」の拡大解釈によって、精神障害者福祉においては、医療法人や医療関係法人が大きく占めている2)といえる。そもそも、精神障害者に対する施策が歴史的に民間の精神病院に行ってきたことを考えれば、この社会復帰施設が医療法人であるという理由は当然といえば当然である。しかし、一概にはいえないが、あるPSWへ訪問調査をした際に、「退院後どこにも行けない患者がたくさんいることから社会復帰施設が立ち上がっていったが、医師の意向により精神障害者の処遇が左右されやすいこと。さらに現在、痴呆老人などの療養群へ病院の経営が移行していくに伴い、社会復帰施設などは縮小し、あまり精神障害者を受け入れなくなっている」ことなど話された。こうした医療法人による弊害については第5章でも触れるが、病院の経営に左右され易いため、社会福祉法人での設立は有意味であるといえる。
 さらに在宅、地域性が重視される現代社会福祉の傾向にあって、脱施設化は必然的であるといえる。しかしながら、圧倒的な施設数が少ないことは、あらゆる意味での担保がないことを意味していると考える。

第2節.精神障害者福祉施策の財源について
 精神障害者福祉の現況はどの様になっているのであろうか。このことについては、新障害者プランに基づいた各省庁からなる予算を障害者福祉関係で抽出し、さらに主要な項目を中心に概説すると以下の通りである。
(百万円)
表2-5
出所(『社会福祉の動向』,「厚生労働省白書」,「社会福祉行政報告」(平成14年度)等を参照)
 障害者福祉プランから主要な政策を抜き出して、提示されているが、「該当」に関しては、予算配分上明確ではないものとして「総合」の項目として記している。詳細はQ県、Q市の予算配分、決算で論述するが、平成14年度の精神障害者福祉に関する予算で、精神医療対策以外の合計が、35424百万円であり、精神医療対策とは、措置入院、医療保護入院、あるいは公費負担通院医療費などをさしている。この数値は、他の精神障害者福祉施策の約58%を占める。また、表2-1で述べたように、援護寮、福祉ホームの設置数が多いことから予算配分でも多いが、他の障害者福祉施設への予算配分には遠く及ばないといえる。
 また、他の障害、身体障害、知的障害それぞれに特徴があり、身体障害者は療護施設への予算配分が多く、推測であるが、身体障害者は高齢者あるいは肢体不自由の人が多く3)、そのことによる身寄りの問題、介護面の重視による施策が採られているといえる。知的障害者は、発達段階から障害が判明しており、若年層は在宅などで過ごし、年齢を経てから授産施設、更生施設へ入所していくという形である。精神障害者に関しては、一概にはいえないが、表1-6などから、統合失調症が最も多い。この統合失調症の発症は主に20代から30代に多く見られるといわれている。仮に、在宅が中心であるとしても高齢化している親が面倒を見ることが多く、また働き盛りに発症することを考えると、社会復帰、授産施設の受け皿は急務である。しかし、発症してから退院する間の期間が表1-10から他の疾患よりも入院が長期化しており、そのため福祉施設の整備が遅れていると考える。
 いずれにしろ、地域福祉や在宅中心の施策に比べて、依然として施設福祉に偏重しているのが予算の面からも明らかであり、他の障害においても同様であることが分かる。
 ちなみに、精神障害者にとって重要な施策として捉えられている、通院医療公費負担に関しては、以下の通りである。
表2-6
表2-6.通院医療公費負担患者数年次推移 出所(「国民衛生」)
 通院医療公費負担患者数の増加は4年間で255,571名であり約1.5倍以上の増加である。また、入院費用や外来は微増の傾向にあり、公費負担分も1.7倍の増加である。このことは、依然として医療の占める割合は強い事が伺える。実質、在宅の精神障害者の施策として定着している制度であり、例えばQ市の「障害者プラン」(平成14年度)において、サンプル数が少ない(266名)が、通院中が86.8%であり、さらに、2週間に一回の通院者が約55%、月に一回が約17%となっている。
 この医療費については、藤井(1997,P.101)によると、「精神障害者の諸政策の遅れに比較して医療保険制度と医療費の公費負担が早期に確立したことによって、医療機関に入所することが生活を保障する上で最も確実で、かつ安価な手段であった」ことを指摘し、障害者が地域で暮らす際には、地域で医療サービスを受けるだけでなく、住居・食事などのための費用を負担する必要があるが、医療保険による費用負担の硬直性のため、適正に振り分けられていないといえる。いずれにしろ、社会復帰対策などの予算の少なさが、精神障害者福祉の社会資源の整備を遅れさせ、かつマンパワーにおいても著しく制限されることを意味する。
 そもそも予算化とは、社会運動やニーズなど「社会的なもの」と、マクロとしての「経済的なもの」を調整し、立案、決定、実施するのは政治的なもの(政治・行政過程)を通して行われ、社会福祉施策の内容・方向性を具体的に規定する一つの政策の主要な計画であるといえる。
 坂田(2003,P.95)によると、「次年度の予算を検討する場合には、従来の施策の中で必要なものと不必要なものをより分け、不要なものを廃して、新しいものに入れ替えるとか、同じ目的を達成するための異なる目的を達成するための異なる手段の中で最も効率的なものを選択するといった合理性が現実にはなかなか確保されにくい」といわれ、「計画そのものが予算の獲得可能な資金額を見越した上でそれに合わせて作成される」という。
 さらに藤井(1997,P.105)は「伝染病や精神障害者は経済学でいう外部性が働くという考えがある。精神障害者に関していえば、「精神障害者は医療を受けるべきだ」あるいは精神障害者は「病院に収容されるべきだ」と考えられてきたことによって、精神障害者に対する医療サービスがメリット財としてパターナリスティックに提供されてきた」といわれるように、精神障害者福祉施策は医療費に引きずられ、地域生活などの福祉予算への配分を阻んできた面があると考える。このことを念頭にして、Q県、Q市における予算・決算の実際について述べる。
(決算額は1円単位、予算額は千円単位)
表2-7
表2-7.Q県障害者福祉関係財源13年度決算・15年度予算
出所.(一般会計・特別会計「Q県歳入歳出決算書」,「Q県予算書事項別明細書」)

表2-8
表2-8.Q市障害者福祉関係財源平成13年決算,平成15年度予算
出所.(一般会計・特別会計「Q市歳入歳出決算書」,「Q市予算書事項別明細書」)

 身体障害者の施設費は、施設福祉費+施設整備補助+保護費(補助)+県施設整備補助であり、知的障害者は施設整備+者施設費+援護負担+施設整備補助である。Q県においては、1022614千円の予算が組まれ、13年の決算では、923904502円であり、実に予算の70%以上が施設費として使われている。知的障害に関しても、1580874千円、決算では3310143680円であり、予算の2倍近く違うが、これは事業団への補正が組まれており、1次、2次で追加されているのではないかと推測する。いずれにしろ、予算では約40%が、決算では約60%施設費に使われていることが分かる。一方、精神障害者に関しては、社会復帰施設運営に関わる予算を援護寮運営費+福祉ホーム+授産施設運営補助とすると、404025千円であり、決算においては316830464円となる。身体障害者、知的障害者への財源は予算に関しては10分の1であることが分かる。さらに、通院医療費が国から38401千円でており、社会復帰施設などの308587千円でていることを考えると、法定上、身体障害者や知的障害者と比較することはできないが、実質的県費の額はかなり少ない。また、地域生活支援に関しては、知的障害者のグループホーム運営補助や児者の短期入所が目について決算から比較して増加している。このことは、Q市の方でも連動しているが、国の施策と連動して動いていることが見て取れる。
 Q市に関しては、身体障害者が166名Q市から施設入所しているが、予算では、施設振興費+施設整備+保護措置費を合算しただけでも826689千円である。知的障害者は432名施設入所しており、保護措置費だけで、1246567千円が人件費・事務費などにつぎ込まれている。それに対し、精神障害者に関してはそれに該当する費用がない。また、地域生活支援関係でも小規模作業所育成事業においては遜色のない額が計上されているが、身体障害者のホームヘルパー、ディサービス、知的障害者の小規模授産、ディサービスなどが既存の社会福祉施設から展開しているのに比べ、メニューがないのが現状である。しかし、平成15年から地域生活支援事業(いわゆるグループホーム)では県の補助が大幅についたこと、小規模作業所育成事業も決算の約2倍になっている。いずれにしろ、市としては、地域生活のためのメニューと予算の組み方が県とは違ってより身近に展開できると考えると、精神障害者への地域生活は市が中心に行っていくことが求められるし、その取り組みはこれからといえそうである。

第3節.障害者福祉手帳などについて
 第2節において、障害者福祉に関わる施策の財源について述べた。財源により実際に障害者個人が利用できる福祉サービスのメニューが決められていると言ってよい。他の障害においてもそれぞれの特色によってサービスの内容が異なるため、福祉サービスをそれぞれの障害者別に列記して比較することはあまり意味がないといえる。重要なのは、どのくらいその障害に対して生活面での援助を行っているのか。または、手当などが支給されているのかと言うことである。このことについては、どのくらいの人が障害者手帳を所持しているのか。手当はどのくらいなのかなど具体的な内容について述べる。

第1項.障害者手帳の所持数について
 身体障害者、知的障害者の手帳所持数と精神障害者の手帳所持数は比較にはならない。そもそもの福祉サービスを取得する上での前提となっているはずの手帳取得の意味がまるで違う。手帳取得によって福祉サービスが多様に展開されている。また、身体・知的障害者については在宅者=手帳所持者と捉えられている4)。福祉サービスの供給の規模などは手帳取得者数によって決定する大きな要因であるといえる。精神障害者保健福祉手帳の所得数が在宅者、入院者とまったく一致しない。例えば、平成13年時点では、手帳所持者が219154人5)である。在宅者に限っても170万人いるといわれているが、取得率は12.9%である。しかしながら、精神障害者保健福祉手帳の制度が平成7年より実施されてきたこと。毎年約3万人ずつ増加していることを考えると、今後の制度であるといえる。ただ、精神障害者にとって、手帳を所持することに対する抵抗感があること。等級と福祉サービスの連携が十分ではない等の課題がある。例えば、身体障害者の更生医療は手帳所持者の等級などが重要な利用要件であるのに対して、精神障害者は通院医療費公費負担者が平成13年では796732人(取得者率約27.5%)である事を考えると、取得と福祉サービスが一致していないことは明らかである。
 さらに、全家連(2001,P55)の調査において、手帳所持に関して在宅者で37%、入院者で約27%が取得し、「取得したい」が在宅者で約22%、入院者では約26%いる。このことは取得に関心が決してないわけではなく、できれば取りたいといった人がいるいることを明らかにしている。しかしながら、取得について分からないといった人も在宅で24%、入院者で26%いる。さらにこの調査では全家連の会員、非会員に分け、サンプル数が少ないとはいえ、非会員全体での取得に関して「分からない」と答えたのが、42.6%に及んでいる。手帳取得を積極的に進める行政・医療の働きかけが必要であるし、手帳取得の増加が一つの力となり、多様な施策やサービスの拡充へと結びつく要素になりうると考える。

第2項.障害者福祉手帳におけるサービス内容の実際などについて
表2-9
表2-9.Q市福祉手帳によるサービス利用に関する比較 出所(「Q市障害者のしおり」参照)
 福祉サービスを概観すると、身体障害者に向けたサービスが多く、精神障害者にとって当てはまらないものも多いとはいえ、比較をしてみると利用できるサービスというものがいかに少ないか一目瞭然である。精神障害者にとって通院医療費公費負担制度が唯一独自のサービスであるというのは、すでに表2-6などで見てきたとおりであるが、障害年金に関して必ずしも手帳の等級が参考にならないというのは手帳を持つメリットを薄めているといえる。また、旅客運賃の割引では精神障害者はバスだけである。このことについて、身体障害者や知的障害者はどちらかといえば外出の機会を多く持ってもらうというレジャーとしての要素が強いが、精神障害者の場合は通院を促進させるためが主目的であるという事からも意味が違うと保健所の担当の話であった。
 さらに、全家連のサイト6)による福祉手当の実施状況を参照すると、実施している市町村は微々たるものであり、北海道に関しては、3町村、東北に関しては宮城県のみである。内容に関しても宮城県では生活保護に関する障害加算の認定、重度心身障害者福祉手当で、1級所持者に2000円を支給すると言ったことである。いずれにしろ、ほとんどの市町村で、他の障害に対しての何らかの福祉手当が支給されているに対して、精神障害者に関してはないのが現状であるといえる。
 とはいえ、他の障害者手帳でも様々な施策が拡充されるためには相当な年月を要している。知的障害者が交通運賃の割引の対象になるまでには運動を始めてから20年近い歳月を要している。障害者施策拡充の大きな武器となった手帳制度の持つ歴史的・社会的意味を十分認識することが求められているといえる。

第3節.考察
 これまでの論述で、社会復帰施設など精神障害者福祉施策の少なさ、地域生活支援の裏付けのなさ、社会復帰施設の設置法人が医療法人が多く、その問題点があること。さらにそれらを裏付けるような他の障害者との予算配分や障害者手帳の比較など、そうした様々なことをまとめると、精神障害者福祉施策はいかに医療偏重であることが明らかになった。しかしその一方で、現在の社会福祉施策の傾向として、施設福祉から地域福祉への転換が具体的になってきていることもあり(依然として施設福祉への予算配分が大きいことは表2-7,2-8で述べたとおりでるが)徐々にであるが予算化していることも明らかになった。福祉施策の計画は効率的に、あるいは合理的に進むことはなく、急な組み替えは困難であるとはいえ、これからは地域生活支援事業が市を中心に進められていくことと考える。そのとき、精神障害者もまた他の障害と同じく、徐々にであるが地域の一員として生活ができることになるのではと考える。

注釈
1)藤井(1999,P.114)の平成10年の調査によると、グループホームの法定事業としてカウントされているものは、492ヶ所、また、小規模作業所は都道府県などからの補助金交付の対象となっているところは、1318ヶ所となっている。推定として1400ヶ所近くに達していると言われている。「国民衛生」によると平成14年度でグループホームは950ヶ所整備されているとされる。
2)藤井(1999,p.114)では、社会福祉法人以外の項目、都道府県、市町村、社団法人についても半数以上が医療機関をバックアップ主体として、あるいは設置主体としているものもあるといわれ、医療法人は実質的に60%と言われている。
3)「障害者白書」によると、身体障害者の年齢別では60歳以上が約73%であり、肢体不自由が約53%である。さらに肢体不自由のうち60歳以上が、「厚生労働省白書」から約70%である。
4)身体・知的障害者の手帳所持者数は「国民福祉」を参照。しかしながら、手帳を所持していない人は身体・知的障害者とも多く存在しているといわれている。
5)精神障害者の手帳所持者数「国民衛生」より参照。
6)http://www.zenkaren.or.jp/zenkaren/tetyou/pref_index.htm

引用文献・主要参考文献
1.全家連『精神障害者と家族の現状と福祉サービス』(ぜんかれん保健福祉研究所 モノグラフNO30)全家連,2001
2.藤井賢一郎「精神障害の生活と医療の費用負担に関する研究」『獨協経済』65,87-122,1997
3.秋元波留夫ら編『精神障害者のリハビリテーションと福祉』,中央法規,1999
4.藤井克徳「精神障害者の地域生活を支える施策・制度の現状と問題点」(3.同書),106-134
5.全家連『地域生活本人の社会参加に対する意識と実態』(1.同 NO27),全家連,2000
6.古川孝順ら編著『現代社会福祉の争点』(上)中央法規,2003
7.坂田周一「社会福祉計画と自治体財政」(6.同書)93-116
8.濱野一郎ら編著『社会福祉の原理と思想』岩崎学術出版社,1998
9.松井二郎「社会福祉政策の動向と理論的視角」(8.同書),56-75
10.松井亮輔「アジア太平洋障害者の十年最終年を迎えて」『月刊福祉』10月,12-17,2002
11.岡上和雄ら編著『精神保健福祉への展開』相川書房,1993
12.白石大介『精神障害者への偏見とスティグマ』中央法規,1994

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