第1章.精神障害者数と精神医療の現況

はじめに.
 本章においては、精神障害者が今なお精神病院に長期入院しているという実態を中心に、どのような状態に置かれているのか、そしてどのように精神障害者は捉えられているのかを明らかにする。

第1節.精神障害者数について
第1項.入院患者と在宅者の区分について
 全国の精神障害者の数は、「平成11年患者調査」(厚生労働省H12.6.30調)を元にして、「厚生労働省社会・援護局精神保健福祉課」が以下のように把握している。
図表1-1
図表1-1.全国精神障害者数 出所.(『社会福祉の動向』)
 入院者の概算は、(全国精神病院の病床数×利用率)から割り出したものであり、「国民衛生」において、平成12年の時点で、精神病院の病床数は358,597床ある中、利用率が93%であることから、入院者数332000人は妥当であるといえる。また、在宅者170万人は、あくまでも医療によって把握されている精神障害者の数である。よって、在宅者といっても医療にかかっていない精神障害者の数は把握できていないことになる。
 また、統計上の取り扱いに関してもいくつかの違いがある。例えば、援護局による分類別の入院者は、高原(2002,P.29)によると、約33.3万人の入院者のうち、措置入院3,247人、医療保護入院105,369人、任意入院220,840人と区別している。しかしながら、「衛生行政報告例」(平成12年度)の統計項目「医療保護・応急入院・移送による入院届け出状況」では、措置入院が、平成11年時点で、3187と援護局による統計分類とほぼ同数にあるのに対し、医療保護入院は、「保護者の同意による入院届出数」が107,932人であり、「扶養者の同意による」が39,169人となっている。そのうち「退院届け出」が99,640人であり、退院者を差し引くと医療保護入院は47,911人になる。援護局の議事録を見ると、ほとんどの入院形態が任意入院になっている1)が、他方、医療保護と任意入院の判断基準が明確でない2)ともいわれており、実数については不明な点が多い。ちなみに、他の入院形態、仮入院、応急入院はほとんどないのが実状であり3)、いずれにしろ、入院形態とは主に、措置入院、医療保護入院、任意入院に分けられるといえる。
なお、Q市の精神障害者数は以下のように把握されている。
表1-2
表.1-2.Q市精神障害者数 出所.(「Q市保健所」)
 ここにおいても、精神障害者の在宅者数の把握は曖昧であり、例えば、別表〜「受療形態別精神障害者数」では、Q市の場合、在院患者とは措置入院の3名と医療保護入院の559名のみであり、任意入院の実数把握されていない。なお、全国の病床利用率がおおよそ93%前後であることから推測しても在院者は1524名が妥当であると考える。
 いずれにしろ、任意入院に関しては、医療保護との判定基準が明確ではないといわれているため、把握に関しては十分ではないと考える。また調査の過程では、保健所などにとって、法令上の取り扱いである医療保護、措置入院は組織上把握しやすいが、任意入院に関しては、個人の判断によって自主的な面が強いこと、また、短期間で退院しやすいことなどから把握しにくいといったことも聞かれた。

第2項.他の障害者数との比較について
 他の障害者数では以下の通りである。
表1-3
表 1-3.障害者別比較数 出所(「障害者白書」)
 身体障害児・者は351.6万人、精神障害者は204万人、知的障害者は45.9万人の順番で、在宅者の割合は身体障害児者は94.6%、知的障害者は71.7%、精神障害者は83.3%となっている。
 またQ市における他の障害者との比較では以下のとおりである。
(人)
表1-4
図表 1-4.Q市障害別比較数 出所(「Q市福祉の概要」)*()は児童数
 障害別の割合は身体障害者69.6%、精神障害者21.3%、知的障害者は9.1%で、表1-3の割合から身体障害者は11.1ポイント高く、精神障害者は12.6ポイント低くなっている。身体障害者の割合が高いのは、高齢者県でかつ脳血管性疾患の罹患率が高いことによるものと推測される。この相対的比率で精神障害者の精神障害者の割合が低くなっているものと考える。
 精神障害者は、他の障害とは違い「児・者」の区別が行われないが、「Q市保健所」において「在宅、症状別、年齢別」の統計によって、20歳未満が170人いることが明らかになっている。しかし、この統計は任意入院を入院形態として含まない数値であり厳密に割り出すことは出来ないが、表1-2の捉え方からQ市における在宅者は1,775名であると推定した場合、20才未満の者の割合は約9.6%である。一概に比較することはできないが、「Q市福祉概要」の他の障害の実数を割合に換算すると、身体障害児が身体障害総数の約2%、知的障害児は、総数の約24%になる。
 さらに入院している精神障害者の年齢区分は、「Q県患者調査」から提示する。
表1-5
表 1-5.年齢別入院患者数 出所(「Q県患者調査」
 この統計から、精神障害者のうち未成年が入院している割合は少ない事が明らかである。また、40〜59歳の働き盛りの世代が35.18%である。
 さらに全国における精神障害者の入院者数(33.2÷204)とQ市保健所が把握している入院者数(1524÷3322)では、割合がかなり違う。このことは、Q市の特殊性として、精神病院が集中していることに起因している面が強いと考える(Q県の全病床数が4520床であり4)、Q市は1595床であり、約35%以上を占めている)。それは、必然的に精神障害者を病院に集めるため絶対的に多くなる。また、知的障害者は福祉制度の充実(第2章において詳述)と共に、障害者福祉手帳所持者が多く、福祉の対象として統計上把握されているが、精神障害者は、「患者調査」など医療を受療していることからのみ把握されている。精神障害福祉施策は、グループホームや社会復帰施設などが年々整備されてきているといわれているが、入院者33.3万人のうち福祉施設利用が1.8万人であり絶対的な不足(第2章にて詳述)にあり、「入院」を「施設入所」として内閣府が「障害者白書」に他の障害の施設入所者と比較されているのが現状である。

第2節.精神障害の症状別区分などについて
第1項.疾病区分に基づいた精神障害者数
 代表的な統計として「障害者白書」による疾病分類に基づいた区分があるし、その分類に基づいて一般に精神障害者福祉は認識されていると考える。
(千人)
表1-6
表 1-6.精神疾患別入院者数・在宅者数 出所(「障害者白書」)
 「精神分裂病」(現在は統合失調症に名称を変更している)といわれる人の割合が、「入院」のカテゴリーにおいて62.5%を占めており、「通院」のカテゴリーでは26.9%を占めている。「気分障害」、「神経症」の「入院」の割合が、気分障害7.5%、神経症2.1%であり、「通院」が約22%である状況からも、精神障害者の社会的入院の解消や地域生活支援の対象は、統合失調症であるといえる。また、精神障害者の区分のおけるこの割合は、年次推移にあっても大きく変化することがなく、分類の差異によって数値が変わることがあるが精神障害とは統合失調症を主に指すといってもよいと考える。このことを実証する際に、「Q県患者調査」の年次推移を例示する。
(総数は実人員、症状別は%)
表1-7
表1-7.Q県精神疾患別入院者・再来者数年次推移 出所(「Q県患者調査」各年度を抜粋)

 昭和57年から平成14年の入院患者は、あまり変動がないが再来患者数では昭和57年の3593人から平成14年9663人と2.7倍の増加となっている。Q県保健所の話では、精神障害者を扱うクリニックや総合病院が増え、精神障害者そのものも増えているが、精神障害者として扱う範囲そのものが拡大されたことが一因にあるとのこと。
 疾患別には入院再来ともに、年次ごとにおいても統合失調症が圧倒的に多く、ついで入院患者では、老年期精神病が次いでいる。また、再来患者では神経症と気分障害が多い。つまり精神障害者の社会的入院の原因は統合失調症を主な対象としていることが分かる。

第2項.障害区分の変化について
 この精神障害者における疾病分類は、国際疾病分類(ICD-10)に基づいているが、このICDの発展と共に、疾病が細分化されることになる。そのため、Q市保健所によるICD-10を採用した分類と旧病名区分を例示する。
表1-8
表 1-8.病名区分の変化 出所(「Q市保健所」(平成12年度))
 このように、「Q県患者調査」の分類では、老年期精神障害として該当する「症状を含む器質性精神疾患障害」のうち「血管性痴呆」がQ市保健所の旧病名区分では「その他」で括られていた。このことは、血管性痴呆が精神障害であるかどうか判断が難しかったと推測される。もっとも、高齢者福祉分野にまたがりやすい疾患であり、実際には精神障害者の領域よりは高齢者福祉として捉えられると考える。また、思春期精神障害が一緒になって「その他の精神病」であることなど統計によって統一されていないことが分かる。この統一性について、Q市保健所に質問したところ、「統計的に実態把握に主眼を置く県の立場と住民と直接関わる施策を求められる市保健所の立場からくるくくり方が違うのでは」とのことであった。いずれにしろ、身体障害と比べて障害そのもののを特徴づける症状が現在も分類上流動化していることを意味しているのではないだろうか。

第3節.精神障害者の入院状況について
第1項.在院期間について
大まかな全国調査として、厚生労働省「患者調査」(平成11年)が挙げられる。
(%)
表1-9
表 1-9.全国精神障害者在院期間 出所(「国民衛生」)
 他の疾病では、1-3年の入院期間で循環器系の疾患(高血圧、脳血管)のみが10%以上の数値を出している以外は、長くても6ヶ月から1年の入院が長期入院として考えられる。よって、この「統合失調症」における入院期間、5年以上の数値は突出しているといえる。
 さらに、5年以上からの入院期間についての全国規模の調査では、1996年の厚生省(現厚生労働省)の「患者調査」を元にした、精神障害者社会復帰促進センタ-編「全国統計から見た日本の精神障害者の現況」(全国精神障害者家族会連合会,2000)(以下「精神障害者の現況」)があり、それによると、
表1-10
表 1-10.全国症状別入院期間 出所(「精神障害者の現況」より「全国の全体」を抜粋)
 この図表では、平成8年の患者調査を基にしており、表1-1の精神障害者数と若干の違いがあるが、入院期間、疾患別では変化がない。この表が示すとおり、入院期間が27.9%、10年以上が30.9%と対極化しており、20年以上が15.4%である。疾患別には統合失調症が入院者数が最も多く、さらに入院期間も10年以上が41.9%と長期化していることが分かる。また、老年期精神病・気分障害・神経症は一年未満が半数と最も多く、経年と共に減少している。次に入院期間の推移について以下のとおりである。
(%)
表1-11
表 1-11. 全国入院期間年次推移 出所(「国民衛生」より作成)
表1-12
表 1-12.Q県入院患者年次推移 出所(「Q県患者調査」より作成)
 上述の全国の調査で一致するのは、1年から5年の入院期間である。Q県は決して精神障害者が多い県ではないし、病床利用率なども全国とあまり変わらない。しかしながら、全国の調査では、10年以上が28.9%であるのに対して、Q県は44.61%となり、その開きが見られる。しかしながら全国もQ県も精神障害者の入院期間が長いことには変わりはない。また、年度を追っていっても、長期化の解消には依然なされておらず、むしろ長期化の傾向は深まっている。表1-11の全国の統計では、ほぼ固定している印象のある結果であるが、表1-12においては、10〜20年、20年以上の割合が伸びており、むしろ短期間の入院者が減少していることが分かる。言い方が悪いが、沈殿している印象があるといえる。

第2項.退院者及び退院可能な者について
 入院の長期化が他の疾患に比べて圧倒的に多い精神障害者であることが明らかにされたが、ではどのくらいの人が退院するのか。そして、退院後はどの様な生活がのぞましいと考えられているのだろうか。まず、Q県における入院患者の入院期間と退院者数の年次推移は以下のとおりである。
(総数は実数のみ、他は実数、%併記)
表1-13
表 1-13.Q県退院患者入院期間年次推移 出所(「Q県患者調査」より作成)
 平成14年度のQ県の入院患者は41724人で、この表が示すとおり、退院者は306人で、率にして7.3%であり、退院者の数が圧倒的に少ないこと。また、入院6ヶ月未満での退院率は61.76%であるのに対し、20年以上はわずか1.63%である。このことは、よく言われているように、「新規で入院する方については、比較的短期間で退院できるようになってきているのに対して、従前から入院している方については、長期の入院となっている方が多いという」(高原〔2002,P.30〕)は、出来るようになってきているのではなく、長い間の傾向である事が分かる。なお、同調査(平成14年)「主な疾病による退院者」は、統合失調症が100名(32.68%)であり、いわゆる老年期精神障害は71名(23.20%)、躁鬱病などは64名(20.92%)である。
 また、年齢、退院理由については以下の通りである。
(人)
表1-14
表 1-14.Q県年齢別退院患者数 出所(「Q県患者調査」(平成13年度))
(人)
表1-15
表 1-15.Q県退院理由 出所(「Q県患者調査」(平成13年度))
 表1-14の年齢別退院者数で、70歳以上が106人の34.6%であり、表1-15の退院理由で死亡が25人であることを考えてもその割合は高い。また、高齢者は施設への入所、あるいは転医(入院)が多いことが推測される。
 表1-15で家族同居155人、独居11人を合わせると全体を54.2%を示している。この割合から地域社会での生活をすることとなる。このことは第6章に論ずる精神障害者を取り巻く環境整備、支援の在り方が重要な課題となってくることを示している。
 次に、「Q県患者調査」にもし、もし福祉施設などがあれば退院が可能であると判断されている人たちはどのくらいいるのあろうかという項目がある。
表1-16
表 1-16.退院可能者の社会資源、年次推移 出所(「Q県患者調査」より作成)
 年次推移からも明らかのように、社会復帰施設についての項目が増えたのは平成8年である。それまでは、せいぜい家族が受け入れてくれるかどうか、高齢化して老人福祉施設の空きがあり入所できるのかであった。さらには、ホスピタリズム施設で最後の時を迎えるかどうかであった。とはいうものの、社会復帰施設への利用が増え、反比例して在宅復帰が減少していることが気に掛かる。このことは、在宅での受け入れができないため退院ができる状態であっても長期入院しているものがいることを示していると考える。
 このうちさらに詳細に調査したものとして、以下の資料を提示する。
(人)
表1-17
表 1-17.退院可能者、社会資源別 出所(「Q県患者調査」(平成13年度))
 援護寮の利用が可能であるなら退院が可能であるというのが社会復帰施設としてはどの入院期間においても平均して求められている。また、グループホームに関しては、10年以上の入院者にとって必要な社会資源として捉えられる傾向にある。これなどは、高齢者〜痴呆高齢者との乗り換えも視野に入っているといえる。しかし、やはり、全体として高齢者福祉施設への入所希望が41.52%と多数占めていることには変わりはない。
 新規に入院した人が退院が早期に可能であるということについて、確かに長期入院者に比べて在宅に復帰する可能性は高いが、高齢者福祉施設や老人保健施設が適切であるという可能性の方が高い。このことは、長期入院による高齢化というよりもむしろ新規であっても高齢者福祉施設入所までの一時避難的に精神病院に入院する痴呆高齢者が多いといえるのではなかろうか。

第4節.考察
 新障害者プランで、精神障害者が収容から地域生活へというスローガンが掲げられている。それを象徴しているデータとして措置入院の減少5)と平均在院日数6)が指し示されている。確かに、措置入院者を含めて、入院患者は減少している。しかし、著しい病床利用率の減少がなく、むしろ、相対的に精神障害者は増加の傾向にあり、通院者は昭和57年から平成14年の間に2.7倍である。
 しかし、精神障害者を地域の中で、生活者としての視点を持って捉えようとする流れの中では、社会的条件で長期入院を余儀なくされていない状況は依然として改善されていないことは明らかであり、社会復帰施設が年々改善はされているものの後に述べるように、地域生活支援が進められていないのが現実であるといえる。

注釈
1) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課「社会保障審議会障害者部会精神障害分会(第1回)議事録」(2001.01.28)参照
2) 公衆衛生審議会精神保健福祉部会「精神保健福祉法に関する専門家委員報告」(平成10年)参照
3)応急入院に関しては、「衛生行政報告例」(平成14年度)で、563名であった。
4)「Q県障害保健福祉課業務報告」(平成14年度)においても、任意入院を入院としてカウントする報告と任意入院をその他に含めて在宅者として捉える統計がある。前者が「厚生省精神保健福祉関係資料」のための各精神(科)病院からの報告を元に、後者が「保健所実績報告」の集計として行われている。
5)(他の入院形態との比較による%)
表1-18
全国措置入院数年次推移 出所(「国民衛生」)
6)(日数)
表1-19
全国平均在院日数年次推移(「国民衛生」)

引用・主要参考文献
1.高原亮治「精神保健福祉施策の現状と課題」『社会福祉研究』84,28-35,2002
2.注釈1) www1.mhlw.go.jp/shingi/2002/01/txt/s0128-4.txt
3.注釈2) www.mhlw.go.jp/shingi/s9804/txt/s0423-3.txt
4.精神障害者社会復帰促進センター「全国統計から見た日本の精神障害者の現況」全家連,2000
5.飯島壽佐美「精神病院の現状と問題点」『秋田県精神保健福祉リハビリテーション所報』(平成7〜9年度版)12-17,1997

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