リアルバウト
リアルバウトハイスクール1〜8(2001.3.15現在)
カオルーンの花嫁
バカが忍者でやってくる!
サムライガール
彼女が猫になる日

『召喚教師リアルバウトハイスクール・シリーズ』
(雑賀礼史,富士見ファンタジア文庫)
【入手容易】

高校公認のけんかファイトを主催する、そんな格闘技をこよなく愛する人たちの集う高校。そして、池袋では、そうしたけんかのフェスティバルが開催され、土曜の夜は、池袋ではあちこちでけんかファイト(リアルバイト)がギャラリー付きで行われる…。グループごとにテーマソングをラジカセで流しあいながら…。高校でも、リアルバウトが成立すれば、そうした組織委員が、アナウンスや報告書、解説などをして盛り上げる。(校長が率先している)
そこに、生きるために戦ってきた一人の男、まるで、「北斗の拳」のケンシローのような男がその高校にひょんなつながりで赴任する。その男が暴力を振るうとき、そこにはサイクロンが吹き荒れ、いろんな価値観やらプライドを粉々に砕いていく。また、その男は、ある特殊な技術を持っていて、気功のようなものを操り、水の上を歩いたり、空を飛んだり、スパイ衛生を吹き飛ばしたりする。もちろん、様々な攻撃のバリエーションにも応用して、また、世界を股に戦ってきた経験と技術を持ち合わせた、ほとんど反則もののパワーを持っている。(料理がシェフ級という変な設定でもあるが)
また、現実のリアルバウトの他に、異世界で起こっている、魔法的な世界での危機に対しても干渉をしている。それは、巻をおうごとに現実とシンクロ、あるいは浸食してきていて、戦闘シーンが複雑、または難解になってきている。
また、その気功のようなもの<神威の拳>をめぐっての世界的な動きなどもあり、マフィアの暗躍や宿敵や伝承者の師匠との絡みをめぐっての事件のちらほらと出始めている。

だいたいメインになる登場人物は4人であり、ひとりはケンシローのような男(南雲)で、その男をめぐって、マフィア、異世界、宿敵、<神威の拳>の話が回っている。一人は、同じく<神威の拳>を未熟ながら体得している高校生(静馬)。主にリアルバウト(高校、池袋)のところで活躍する(将棋のリアルバウトもあり)。もう一人が女の子(涼子)で、高校生と友人のような関係で、剣術をこよなく愛する、少々危険な設定である。涼子は、南雲が身を寄せている剣術の師範の家に入り浸るようになり、さらに危険な技術を身につけるようになる。(師範もかなり危ない、その友人の古武術の二人も危ない…どれくらい危ないかというと、ホームレス狩りをする少年を切り捨てることになんのためらいもない、むしろ実践は道場の稽古の一年分の価値があると思っている)。そうした、さまざまな事件やつきあいをレポート形式に、または、ある意味観察するような形で自然につき合っている静馬の友人(大作)といったところだろうか。(サブキャラクターもみんな個性的で、外伝、短編集ではそれぞれクローズアップされて本編と連動して生き生きとしたものとなっている)

この小説の楽しみは、格ゲーの要素ありの、マンガのディフォルメありの、何でもありの設定でありながら、ひとつに社会に暗躍する様々な悪党が、南雲や主要人物などによって、虫けらのように殺されたり、蹂躙される所にあります(おいおい)。女の子や自分よりも弱いと思うと絡むヤンキーや暴力団、まがい物の宗教団体、腐れた教師などこれでもかというくらいに痛めつけられ、まわりでそれを目撃する他の人たちには、爽快感を超えた恐怖や唖然と表現使用のない光景を生み出すところにあります。それも、淡々と、当然のように…。本物の暴力は、たぶん、凄絶な見る人の思考を麻痺させるような、圧倒的な「なにか」であることをこの小説は教えてくれるような気がします。
それと、対照的に健全な暴力としてのけんかファイトが、ある種のエンターテイメントとして、それは素人であっても表現しうるものであり、けんかでなくても、将棋など、自分の得意な一つの分野をエンターテイメントするのと同列に扱っているところが面白い。もっとも、けんかなどは、ある種ひとの本能に訴えることの出来るジャンルであるという意味で、広い意味での普遍性を獲得している(要するに分かりやすい)。暴力(格闘技)の文化系という何とも面白い設定である。
我々は、いろんな意味で抑圧され、様々なタブー以外でも自己を規制しながら、悪い意味での体面とか倫理にからめ取られ、誰に責任があり、ときには自分のけつを拭かせている、かなり生ぬるい世界で生きている。この小説に様に、割り切ったり、ドライに文化系のノリで、そしてガハハと生きていない。そうした意味で爽快感があるのかな…。

ただ、この作家、ちょっと、巻を追う毎に苦しんでいます。フキフキ "A^^;
文体がだれても来ているし、それをすごく自覚しながらも、どうしようもないんだーという開き直り寸前のところであえいでいます。このごろは、少し文庫も厚みをもってきたんだけど、中頃は、100ページから150ページで本編を書いていたりして、ノルマのきつさを物語っていました。
表現の幅からいえば、「フルメタル・パニック」に軍配があがりますが、設定の面白さは、どちらかといえばこっちが好みです。

付録
格闘技について

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