2002.1
戦後社会保障の成果と21世紀の課題
措置制度の論議については
レポートを参照のこと
批判的な言説として…
- 社会保障の抑制については、国民負担率の分母は国民所得だが、分子の方は社会保障だけではなく、軍事費や公共事業も入っているにもかかわらず、社会保障の抑制の道具に使われるのはおかしいという議論もあった。しかし、この臨調答申が、その後の社会保障の増大に抑制的に働いた事は確かである。
- 今や高齢者は、全体として決して貧しくない。高齢者負担には実は税制のゆがみがあり、公的年金等控除があり、高齢者の夫婦では354万円くらいまでは所得税がかからない。しかし、若年層の夫婦だと年収220万円くらいで課税対象となる。給与所得であれ、年金所得であれ、同じ所得には同じ負担を求めることをこれから検討しなければならない。
- 市場原理の導入に関しては、もともと社会保障とは市場の失敗を救済するセーフティネットの役割を担っているはずであり、そこ(社会保障)に市場原理を導入するのはそもそもおかしいのではないか。また、医療にしろ介護にしろ国がサービスの内容や数量を決めて、さらに料金を設定している。そうした公定価格になっているところに市場原理が働くはずがない。
最後は福祉の心の重要さで締めくくっていた…う〜ん、
西村健一郎「年金などの所得保障における戦後の成果と21世紀の課題」
福祉の目的については
レポートを参照のこと
所得保障制度においては、給付額の具体的な決定基準をどこに求めるのかが重要な問題となる。この点については、均一給付方式と賃金比例方式の二つが考えられる。前者は各人の最低生活水準だけを社会保障にしようとする。しかし、当該生活事故の発生前の生活水準との間に大きな格差が生まれる。後者は、厚生年金などに反映されており、報酬比例と定額部部の2階建てとなっている。
年金制度の存在は、高齢者が老後の生活設計を立てる上で、一定の安定した所得を恒常的に見込むことが出来るという点で、大きなメリットを持っている。個人の貯蓄では、インフレによる目減りを心配しなければならないが、スライド制を備えた現在の年金においては、実質価値の維持を図ることが可能になっている。また、年金は生活保護のように資産調査なしに、権利として受給できると言うところに大きな意義がある。
専業主婦(いわゆる第三号被保険者)に関しては、負担することなく国民年金の受給権を保障されていることに対する当否があるが、所得のないものの負担のあり方は、社会保険の扶養性をどのように考えるのかの問題であり、簡単に不公平とは言い切れないことが残る。
小山秀夫「高齢者医療・介護における戦後の成果と21世紀の課題」
老人保健法については、その当時の老人医療費無料化からの転換として、老人福祉法とは別立てで成立した、医療・保健の制度である。1998年の改正の後、2000年から介護保険制度成立の足がかりとなった法である。(現在もあり、老福法、老保法、介護保険の三本立てである)
老人保健法の特徴は、
- 老人医療費全体を公費負担と保険者・保険制度からの拠出金で賄うこと。
- 高齢者本人の一部負担を導入した。自分の健康を自分で守る自覚。不適切な受診を抑制すること。
- 40歳以上を対象とした各種のリハビリまでの包括医療を提供
- 老人診療報酬の設定〜在宅ケアの重視:老人訪問介護制度など
介護保険制度は、高齢者の介護に係わるサービス提供が、従来、老人福祉法制度と老人保健制度の双方からなされ、同じレベルの老人であっても、どちらの制度のどの施設を利用するかによって費用負担などが異なることなどから、保険制度によって別立てにした。一言で言うと、介護保険法は、要介護状態を保険事故とし、保険事故に対して保険給付を行う仕組みである。
一圓光彌「医療保険における戦後の成果と21世紀の課題」
日本における医療保障の制度は、ヨーロッパの国々と同様、誰もが必要な医療をわずかな患者負担で受けることができるものので、医療保障率は8割弱と高い水準を保ち、なおかつ国内総生産にしめる総医療費の割合は7.4%と比較的低位を保っている。日本のこの普遍的な医療保障の仕組みは、皆保険と呼ばれている。
抜本的な改革は出来ていないのが現状である。その中で見直していくことと引き継ぐことを確認する必要がある。
- 引き継ぐべき医療制度の成果として、皆保険の意味を考え、また平等な医療サービスの保障は必要である。アメリカが普遍的な医療保障制度を設けようとしてそれが出来なかった長い歴史を考えると、日本の皆保険を戦後の大切な遺産として引き継ぐことが重要である。そのためには、受信時の患者負担を引き上げないこと。医療保険で認められる診療内容を制限しないことを固持していくことが重要。
- 医療費の適正。医科大学の抑制による医師のコントロールも必要であるが、ここで問題になるのは包括的な医療費の規模のコントロールを指す。医療費を抑制するには費用負担を引き上げると良いが、それは根本的な意味において何ら解決に結びつかない。
- 透明性と信頼性の確保。これはインフォームドコンセントやEBM(根拠に基づく医療)の推進を指す。4.分権化と保険者の役割。
- 個人参加の制度による財源確保。これは多様化する社会構造において、従来のように一部の低所得高齢者世帯を前提に、高齢者世帯全体を特別に優遇する仕組みとなっている。しかし、若者の高い失業率や雇用の流動化によって若者と高齢者の逆転現象も起こっている。こうした事を踏まえて一元化されたものではなく、年齢や給付水準に格差を付けていくことが望まれる。