2000. 10
福祉サービスと「契約」

社会福祉基礎構造改革、保育所の利用制度、介護保険、支援費制度など権利性を中心とした制度改革によって、契約が論点になる。契約とは、社会福祉業界では成年後見制度、地域福祉権利擁護事業などである。
この時期、介護保険が成立して日も浅いこともあって、措置制度を欠陥制度として扱い、さも福祉業界がぬるま湯、甘え体質であったかの様に書いている。しかし、そうではない。それしか無かったのである。社会全体が、障害者や老人の人権や権利に注意を払っていなかったのである。もしくは、優先順位としてかなり低位にあったのである。社会的な責任を長い間放置してきた。そこで働く人たちの立場もまた低位なものであったし、このような契約や権利擁護ということが叫ばれていても、そこで働く労働者の権利はどうなのか。良くある言葉に、政治家は選挙活動の際に、よく福祉をキャンペーンの道具に使うが、動機はよく選挙に意識の高い高齢者への票集めでしかない。実際に当選すれば…。とはいえ、契約社会になって、権利の保障が大分なされるようになってきたのも事実である。それに伴って、多様なサービスに従事することも可能になった。しかし、昔の制度が間違っていたとする言説はナンセンスである。同様に、懐古主義も無意味な論でもある。
なお、契約に関する論述は、レポートしてまとめているために、参照していただきたい。
権利擁護としての地域福祉権利擁護事業と成年後見制度については以下のページ
houkenkyu2.html
社会福祉法と契約社会について
seisakkadai2.html

その中で有意な言説について
(座談会)契約に関して、利用者への啓発が必要。在宅に関して、ヘルパー固有の業務以外の仕事を強要することがある。いわゆる召使いとしての扱い。これなども契約していないからという理由で納得する利用者も少なく、丁寧に説明をすることが必要。また、ヘルパーも不適切な扱いを受けたとか交代を希望すれば替えることが出来る様になっている。
(座談会)介護保険法は、消費者契約法の適用の拡大が図られ、人身損害が沖田場合にも、事業者は軽過失での責任は負いません等、事業者にとってかなり不利な内容になっている。
(座談会)成文化していなくても施設で行っているサービスが数多くある。目に見えなくても利用者に不利益にならないような行政の指導と事業者の内部努力があって一つのサービスが成り立っている。反論として、別論者は、契約による違反と措置制度における約束違反は違い、措置制度においては約束違反のために債務不履行で損害賠償ということにはならない。
(座談会)情報提供は、無用のトラブルを防止するために必要なものである。また、情報提供として、1.選択される前の広告。2.利用希望者の選択肢。3.契約締結直前の内容。

他、資料やレポートがあったが、老人にしても待機者が多くいるという。また、障害者の受け入れに関しても定員や施設数の関係で選択できる状態ではない。ただ、契約の意味は、先に述べているように、措置制度では信頼と口約束で済んでいたものを条文として履行する義務として明文化したものである。日本における口約束や信頼は欧米の不信に基づく契約とは違って、口約束といってもかなり尊重されてきたし、履行してきたものである。ただし、それは普通の場合である。彩グループの不祥事や虐待、老人病院の劣悪さ。などなどそうしたものを防止する手だてとして始まった契約制度といっても過言ではない。そういった意味では評価できることと思う。また、事業者に不利な状況であるという契約もまた、専門職とアマチュア(利用者)の関係を考えると不利なぐらいがちょうど良いのである。また、契約者が老人ということで、様々な優遇措置というか、附帯的な条項が盛り込まれる。これもまたまっとうな事である。また、良質のサービスを提供する分には許容されることも当然である。契約以上のことをしないのは最低限のこととして、そこに信頼と誠実さを織り込み、良いサービスを展開していくということが求められていく。また、利用者と事業者、従事者との境界線、ケアする側とケアされる側の境界線、ノーといえる関係は、利用者のみならず、末端の従事者にとっても契約という明文化は一つの有意な道具となる。

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