1998.5
改正児童福祉法施行


網野武博「改正児童福祉法施行の意義と課題」
ポイントは、過去の戦後直後の「国の子」から「社会の子」への概念変化である。50年ぶりの改正において、社会による「子供を健やかに生み育てる環境づくり」が重視される時代を迎えた。
児童福祉から児童家庭福祉への潮流、ウエルウエア(福祉)(=最低限度の生活の保障)とともにウエルビーング(健幸)(=健康で文化的な生活を保障する)を指向する潮流に即して強化される。
それは従来であれば、保育にかける児童の保護の重視から積極的なサービスの進展へ。国際的な児童憲章などへの批准も背景にあり。憲章では、受動的なものから個性ある育ちや自己実現の尊重などが盛り込まれ、それらの影響も大きく作用している。児童の権利擁護を促進することを特に重視している。
児童の施設入所に際しては、児童と保護者の意向を聞くとか、児童福祉審議会の意向を聞かないといけないとか。保育所の情報提供に義務化。児童家庭支援センターを設けること。
保育制度施策の見直しも図られている。保育所の選択利用制度の導入などである。後に、この制度改革は強力に押し進められていく。市町村の措置から利用者本位の選択性になっている。また、乳児保育などの充実も盛り込まれている。もともと、保育に欠けていると判断された場合に乳幼児の利用がかなっていたが、今回の改正によって、その条件は緩和されている。背景には、この時期のベビーホテル・認可外保育施設の劣悪なサービスが問題になっていたこともあり、情報の提供の義務と当時に強化されることになっている。〜乳幼児に関しては、乳児保育を特別保育ではなく、すべての保育所が日常的に実施するという一般化を行っている。
名称の改変では、教護院は児童自立支援施設に。また職員名も「教護」を児童自立支援専門員に。「教母」を児童生活支援員に。また、入所だけではなく、通所でも可とする。養護施設は児童養護施設になる。また、情緒障害児短期治療施設は、18才未満または20才までと拡大される。母子寮は母子生活生活支援施設になる。児童自立生活援助事業も20才まで拡大している。この理由は、義務教育を終了したあとは、その子の自立の尊重の観点から野放しにしてきたが、高校への進学率、または就労の困難性などからである。

鼎談
少子社会にふさわしい制度として再構築された。
保育所の改革が目を引くが、待機児童は解消されていないし、地域格差〜過疎の地域における運営の維持の問題がある。
従来の保育制度では、保育所は親の代行であった。しかし、これからは、補完する立場になる。家庭育児で満たされないものを保育所が満たすことになる。また、親が育児の主体性を持つことで親子の相互作用を活性化させる。
児童家庭福祉とは、児童だけを保護するのではなく、その背後にある環境=家庭を含めて総体的に考えるという意味である。家庭機能の弱体化など…親をいかに支援することが子供の自立にとっても必要なことである。
自立支援とは、対象者を依存の必要な時期を施設の中で保障して十分に受容していくところから出発する。言い換えれば、ここの発達時期にあった形でサービスを展開し、一つ一つの課題をクリアーしていく。そういうことが積み重なって自立につながっていく。〜家族全体に関わるものであり、家族と施設、または社会擁護に関わるものが価値観を統合していくことが重要になる。
バックアップ〜少年犯罪などは保護観察や保護司が社会内処遇で面倒を見ているが、児童養護施設や児童自立支援施設を出た児童に対して全くバックアップがなされていない。
また、施設入所に関しても保護者の意見を聞かないといけないが、その保護者が応じる状況でない場合、児童の意見だけでは動けない。また、福祉法の総則では体罰の禁止規定や子供の最善の利益を明記されていない。〜権利擁護としてはどうなのか。
また、問題が多様化して、様々要因で入所してくる児童に従来の児童養護施設は対応できるのか。職員の設置基準でも6対1から3対1にしたかったが、結局予算が付かなかったし、これからもつく予定はない。また、非常勤換算になったし、給食などの外部化など安上がりなものへ流れていった。
…最後は精神論とか無責任な実践者への期待で結んでいた。

結局
。まぁ、保育所の改善〜少なくても乳幼児を預けることに抵抗感が無くなったこと。選択できることであろう。しかし、そこで働く労働者の保障はないがしろにされ、安上がりに済ませているのが透けて見える。もし、児童の権利擁護や家族のサポートを本当に考えるなら、そうしたことを先にするひつようがあろう。また、それ(専門性)を担保するためには、国家資格を有したものでないと参加できないという業務独占を持ち込んでも良いだろう。…しかし、現実はそうではない。

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1996.11
2000.2

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