1. エミッタフォロワの出力インピーダンスが低くなるのはなぜ?
金田明彦先生考案の、完全対称アンプの動作をまだ良く理解していない人が多いので、ここでは部分的な面を取り上げて金田先生の完全対称アンプの動作を説明しようと思います。
1. エミッタフォロワの出力インピーダンスが低くなるのはなぜ?未だに、完全対称出力段の上段のエミッタ側の出力インピーダンスが低い、という人がいます。どうも、「エミッタ出力のインピーダンスは低い」と、頭から思い込んでいる人が多いようです。
正確に言えば、「エミッタフォロワの出力インピーダンスが低い」のであって、「エミッタ出力のインピーダンスが低い」のではないことに注意しましょう。
一番良い例を挙げれば、それは、フォトカップラでしょう。フォトカップラのエミッタの出力インピーダンスは、どうなりますでしょうか?図1a、図1bに、フォトカップラでコレクタから信号を取り出す場合と、エミッタから信号を取り出す場合の回路図を示します。この二つの回路で、それぞれの出力インピーダンスはどうなるでしょうか?
答えは、両方ともほぼRLになります。図2a、図2bで示したように、フォトトランジスタは(通常のトランジスタも)電流源として考えることが出来ます。電流源の両端のインピーダンスは無限大として考えていますから、定電流としておきかえられる以上、もともと、トランジスタのエミッタとコレクタは、両方とも出力インピーダンスがきわめて高いことを意味します。
したがって、図1bの様に、フォトカップラでエミッタフォロワの様にエミッタから出力を取り出しても、出力インピーダンスは高いままです。これは、実験によって簡単に確かめられるので、もし疑問がある方がいらっしゃったら、安いフォトカップラでも購入されて実験してみられることをお勧めします。
何を隠そう、この私も、以前は「何でエミッタから信号を取り出しているのに出力インピーダンスが下がらないのか??」と悩んだ事がありました(^_^;)。エミッタから信号を取り出しても、出力インピーダンスは高いのです。この概念を早く飲み込みましょう!
さて、ここでエミッタフォロワを少し考えてみましょう。基本動作や出力インピーダンスに関しては、前座の「エミッタフォロワの怪」で書きましたので、そちらをまず読んでください。
エミッタフォロワの出力インピーダンスは
Zo=(Rg+Rb)/(1+hfe)
になります。かなりひくくなりますね、hfeは最低でも数十倍あるでしょうから・・・・
「エミッタフォロワの怪」で書いた式、帰還ループを示す
Vi=(Rg+Rb)・ib+Vo
のRg=0とすると、
Vi=Ib・Rb+Vo・・・・・・(1)
この式が成立しないフォトカップラでは、帰還がかかっていないため、エミッタから信号を取り出しても、出力インピーダンスは低くはないのです。
また、FETのソースフォロワでもまったく同じ事で、FETは入力電流Ibを定義できない代わり、Vgsを用いてまったく同様のことが説明可能です。興味のある方は、考えてみてください。
さてさて、本題の完全対称アンプなのですが、その上段を等価回路にしたものが、図4です。
この図5から、入力ループをキルヒホッフの法則によって式にすると、
Vi=Ib・Rb ・・・・・・(2)
と、(1)式とは違い、VoがViのループから外れています。これにより、Voの変化ΔVoがIbの変化ΔIbに対して影響せずに、帰還が生じていません。これは、フォトカップラの場合と良く似ています。
完全対称アンプ上段のViとGNDとは、まったくフローティング状態、つまりつながっていないと考えることが出来ます。入力のGNDと出力のGNDとは、違うのです。
従って、完全対称アンプ上段のエミッタの出力インピーダンスは、簡易的には無限大と考えてもよいです。
ただし、実際の回路では、完全対称アンプの入力につながっているのは電流源で、それとベース〜出力間につながっている抵抗でI/V変換されて、初めて電圧源と考えられますので、そのときの入力電流Ii(=Isig−Ib)が負荷にまで流れています(図5)。この電流の分は、誤差として考えて目をつぶろう、それより上下段とも同じNPN(またはPNP)で構成できるメリットを主に考えよう、というのが、完全対称アンプの考え方です。
こういった意味で、完全対称アンプの上段は、絶対に通常のエミッタフォロワとは全く違う動作をしています。この事をなかなか理解できない人が大勢いるようですが・・・・・
本ページの回路図は、McCAD Schematics3.5.10-J(Mac版)によって作成されています。 (一度プリントアウトしてスキャナで読み込んでからGIFファイルにしています。)