故勝山 淳海軍少佐 航海日記

発掘:平成15年 2月  日/勝山 忠男様(故人ご令弟)、小野 正実様(故人甥)

採稿:平成15年 3月 1日/峯  一央

校正:平成15年 3月 3日/峯 眞佐雄 (兵73、回天隊にて故人と同期・同僚)

校正:平成15年 3月15日/勝山 忠男様、小灘 利春様(兵72、全国回天会々長)

校正:平成15年 5月 3日/勝山 忠男様

 

七月二十一日

今日も又昨日の如しか

目指す獲物に何時の日会へるやら

突如として回天戦用意

但し教練なり 残念なり 早く本物の回天戦用意がと

唯 敵の補給線路上を聴音電探により捕捉すべく必死の見張を続け居るも 効果空し

あれ程までに熱誠こめて送って呉れた 諸先輩 諸後輩に申し訳なし

宮崎 峯 村上 今頃てっきり俺がやったものと思っていゐて呉れるかも知れぬ

候補生もさうだろう

併しまあ待ってて呉れ

きっと立派にやっつけて見せるから

 

 

七月二十二日

今日で出撃以来十日 未だ好運に恵まれずして見参の機を得ず

段々 回天が心配だ

一号艇は前部浮室満水 原因は明確ならざるも 下部排水には心配なし

安全弁も先づ心配なし 一番心配なるは端蓋の蝋付部の不良による浸水なり 深度

改調装置は明日増締めする筈

若し端蓋ならば此所にては処置なし 唯 発進後 注水要領を変えて浮量とツリムの作成に

遺憾なきを期し 轟沈を期さん

之を要するに 出撃前の深々度確認に於て 浸水に対し最厳密に試験する要あり

長期行動の 而も潜航時間大なる潜水航行艦襲撃に於て 一番苦手なるは浸水なり

殊に九三魚雷は水上艦艇用なれば その用法に於て各部の水密気密は 潜水艦用の

九五魚雷のそれの如く 余り重大問題にならざるため 調整上も関心少し

潜水艦出撃の戦備回天のみは左に非らざるも 訓練的殊に抱射発射に於ては 未だ嘗つて

前部浮室 気筒 深度機室に対する浸水を考慮せるものなし と云ふも過言に非らず

その因は 発射直前まで陸上にあり

発進用意終りて 水に浸りて 発射するまで数分 又訓練時間一時間

而もその間 深度平均五米 浸水箇処あるも その量 潜水艦の潜航時間に対するに位べれば

1/16〜1/20なり

よって抱打にて 各部に二立づつ浸水あれば 潜水艦潜航に於ては四十立づつの浸水あるなり

此の点 浸水に対し 十二分関心を持って調整する要あり

 

次に二号艇

前部気室の塞気弁の衛帯切損 漏気 二十五瓩低下す 之も如何とも術なし

二空管系統は一旦出撃せば 漏気不具合の理由を以て 直す事は殆ど不可能なるを以て

少くも戦備回天だけは各部の些細な部分品に至るまで形状 材質を十分検討

組立後も綿密な試験を行ひ 一点の不具合箇処もなかる如く十分整備する要あり

之に関連し 一号、四号艇は二空装気口より漏気あり 之推環の締付不充分なる為なり

之に付き 装気口 推環締付用具を整備要具として追加するを要す

 

次 一号

操空 漏気あり 殊に一号艇は十五瓩低下せり

此の漏気箇所に関して 一号艇は操空塞気弁 縦舵機発動弁等 手に届く範囲は十分検査せるも

操空 各タンク その導管接続部 等は当り居らざるため 未だ漏気箇所は判明せざるも

タンク接続部辺りならん

操空管系統にしても兎に角 調整組立可能の基地以外に於ては 操空 各タンク

その導管接続部等は検討困難なり 因って基地に於て戦備の際 基地に於て各タンク

導管接手の材質 形状 強度 等十分検討 組立後の試験も厳密なるを要す

一号艇 電液 右六箇不足(十七日調査) 是 元々電液不足ならん

時日経過につれて 整備の欠陥躍如として表はると共に 搭乗員は追々焦燥を感ず

唯一刻も早く見参せん

 

  

回天推進機/山口県徳山市大津島 回天記念館

 

航海日記        4    

 

勝山  淳

更新日:2010/08/01