【演技を創ろう 1】


演技を創ろう。初めの一歩


1《台本作り》
あなたと演技を創って行きましょう。まず演技のもとを選びます。
即興で演技するのも大切ですが、「解説」が大変なので(笑)、演技の元となる素材を使いましょう。
素材を用意してください。
『罠』一幕もの。テネシー・ウイリアムズ作。早川書房など。

書き込みやら色々加工するので、戯曲丸ごとコピーして用意してください。
戯曲は作家の作品であり、私たちは、演技創造のための『台本』に作り替えていくことが必要です。
演技を創る為に台本を創る。戯曲は、そのままでは台本にはならないのですよ。
それでは、戯曲『罠』をベースに、グロォリア・ラ・グリーン、
本名はベシィの演技つくりを考えて行きましょう。

○基本的な台本作り
A.セリフに番号を振り当てる。
様々な切掛けのタイミングや稽古上台本の中の時系列をはっきりさせるため、セリフに番号を打っていきます。
演出の指示で台詞をカットした時は、その台詞ナンバーは欠番になります。

B. シーン割り。
台本の進行に従って、一括りに出来るエピソードを一つのシーンまたはピースと考えます。
割り稽古や抜き稽古などにも便利ですし、シーンのつながり方から、物語の進行の変化を読み取ることもできます。
また、シーンごとになにを観客に伝えるか、列記して行きます。
要はその場面(シーン)が何を意味し表現しているか、整理して行くことです。
ところでシーンの終わりの台詞が、場面を動かす台詞となる場合が多いので、
シーン割りを意味がないと言う方もいらっしゃいますが、私はドラマの進行上でも、
シーンごとの理解は重要な手がかりになると思っています。
あるシーンの終わりの台詞が、次のシーンを惹起する為にどう表現すればいいのか、
あるいは、なにを表現していなければならないか、役者にとっては分かりやすいし、工夫しやすいとも言えます。

C.事件と事実の抜き書き。
台本で、登場人物やドラマの「(出来)コト」が事件、「(現われた)モノ・コト」を事実とします。
その事件と事実を、シーンごとに抜き出して行きます。

例えば、『罠』では、冒頭のト書きに

グロリア・ラ・グリーンは自分の家庭を誇りにしていない。
スポットライトが舞台の一部に時代離れのした居間の隅を照らしだすとき、その理由ものみこめようというものである。
薄汚れた部屋着の中年の女が赤い綿ビロードのソファに端然と腰をおろしている。
彼女の傍らにはガラスのペンダントのついた赤い球型の石油ランプを載せたテーブルがある。
右手の壁に戸外に出るドアと窓があり、内側のドアは左手に通じる。
金箔のフレームに嵌めこまれた楕円形の姿見と、グロリア・ラ・グリーンの大きな「グラマー写真」がある。
(グロリア・ラ・グリーンは芸名である。本名はベシィ)
幕が開くと、窓にはしめやかな九月の雨が流れている。
女は、旧式の銀板写真の人物のように固くなってすわっている。
ホールから娘の帰宅を物語る物音。
ドア。かすかに開くと、母親は、その外にもう一人いる気配を察して、さらに身を固くする。


●事実の確認
・・ト書きから・・
・作者曰く、グロォリア・ラ・グリーンはあまり自分の家庭を誇りにしてはいない。
・薄汚れた部屋着の中年の女が赤い綿ビロードのソファに腰をおろしている。
・傍らにはガラスのペンダントのついた赤い球型の石油ランプを載せたテーブルがある。
・右手の壁に戸外に出るドアと窓がある。
・内側のドアは左手に通じる。
・金箔のフレームに嵌めこまれた楕円形の姿見がある。
・グロリア・ラ・グリーンの大きな「グラマー写真」がある。(ポスターらしい)
・幕が開くと、窓には雨が流れている。(秋雨らしく、しとしとと降り続ける雨)
・グロォリア・ラ・グリーンは芸名である。本名はベシィ。
・赤いソファに座っている女は母親である。

●事件の確認
・・ト書きから・・
女がソファに固くなってすわっている。
ホールから娘の帰宅を『物語る物音』が聞こえる。
ドアがかすかに開く。
母親は、その外に『もう一人いる気配』を感じて、さらに身を固くする。

D.道具帳の記入。
舞台装置に必要な道具附帳とはちがって、俳優の仕事として、人物ごとの道具帳が必要です。
登場人物が時計を見ながら時間を述べる、という時に、舞台装置に時計が無かったら、
第三の壁・・客席側の舞台面を通して、客席の一点を、時計と見立てて話す必要が有ります。
役の人物が、何を触る・使う・見つける等の演技行為の対象とするものも、理解する必要が有ります。

『罠』では、
台本のト書きや台詞から、登場人物の髪型・衣装・小道具、出道具などを読み取って、それぞれ人物ごとに表にしていく。
例・・・
娘・・・ブロンドの髪。舞台化粧風の濃い化粧。白いサテンのイブニングドレス。兎の皮のケープ。
ハイヒール。ハンドバッグ。ビルボード

兎の皮のケープ


白いサテンのイブニングドレス
E.ポドテキストの作成。
クリックして頂くとポドテキストの説明へ飛びます。

●登場人物達の台詞を、ポドテキストに置き換えて、台詞ナンバーに従ってポドテキスト化していきます。
演技づくりの手がかりとなる、感情や役の人物の企み・目的の軌跡の台本を作るのです。

F.事前設定の確認
台本の中で、作者が記述している設定条件を確認します。

例えば、『罠』の冒頭ト書きでは、次のように設定されています。

場所:ミシシッピー州、ブルー・マウンテン

ブルーマウンテン
時:現代。九月。午前二時半。
(但し、結核が不治の病と考えられていた、1944年より前の時代と考えられます。)

場:舞台は古臭い居間。赤い綿ビロードのソファ。
傍らにはガラスのペンダントのついた赤い球型の石油ランプを載せたテーブル。
右手(アメリカでは、舞台に立っている人の右手側、日本の下手)の壁に戸外に出るドアと窓があり、
内側のドアは左手(アメリカでは、舞台に立っている人の左手側、日本の上手)に通じる。
金箔のフレームに嵌めこまれた楕円形の姿見と、グロォリア・ラ・グリーンの大きな「グラマー写真」がある。

金箔のフレームに嵌めこまれた楕円形の姿見



グロォリア・ラ・グリーンの大きな「グラマー写真」






●事前設定・舞台設定の確認
舞台設定から、舞台のイメージを創ります。

『罠』舞台セットイメージ
しかし、このまま舞台創造に繋がる訳ではありません。
予算や演出の意図や装置デザイナーの工夫で、この作品を表現する最適な舞台デザインが創られて行きます。
G.作品世界の資料収集。
●その他舞台創造に関する、『罠』の資料を収集する。
ミシシッピ州・ブルーマウンテンからメリディアンまでの位置地図。

(凡そ250キロ、自動車で約5時間。大阪市から岡山県と広島県の県境ぐらい)



当時の一般の家屋、パースと平面図

●当時の家屋
・結核治療の当時の状況。
 結核の最初の有効な治療薬は1944年にワクスマンらが放線菌の培養濾液から抽出した
 ストレプトマイシンであった。
 それまでの結核の治療は、自然治癒力を助長しそれを妨害するものを防ぐという原則に基づき、
 清浄な空気・安静・栄養療法が主な柱となっていた。

・当時のファッション事情。
・当時のブロードウェイの作品。
『オクラホマ!』(Oklahoma!)は、1943年初演・1948年5月29日まで
上演されたブロードウェイミュージカル。
アメリカ中西部・オクラホマ州の農村を舞台に、カウボーイと農家の娘との恋の三角関係を明るく陽気に描いた作品である。

『毒薬と老嬢』ストレートプレイ1941年1月10日初演・1944年6月17日まで。
ブルックリンの豪邸に暮らす老姉妹エビイとマーサは、老い先短い不幸な老人たちを安らかに眠らせるという、秘かな仕事に精をだしていた。
屋敷の下宿人たちに、毒入りのワインを飲ませ、死体を地下に隠していたのだった。
そこへ、彼女たちの甥のモーティマーが、新妻を連れてやってくるが……。
精神異常者たちの猟奇的な犯罪を、ユーモアとサスペンスを微妙に配して描いた作品。

『ライフ・ウィズ・ファーザー』ストレートプレイ1939年11月8日初演・1947年7月12日まで。など。
厳格な父が洗礼を受けてないと知った母が彼を何とか洗礼させようとする騒動が軸。
伝統主義とモダニズムが一つの人格に同居するユニークな家長と、典型的良妻賢母なのだがどこかヌケていて、
しかし、悪知恵は働くその妻との掛け合い漫才ふうのやりとりと、それに振り回される家族を描く前半が面白い。





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