[ささやかな勇気の育成・大胆さと率直さ]

俳優の勉強は、未知との出会いの連続です。
それも自分の中に潜んでいる自分自身との出会いが、一番未知なるものの可能性があります。
自分と出会うこと、自分を知ることには、勇気が必要です。
そのために、一歩踏み出す大胆さと自分を理解する率直さが大切だと考えています。

■大胆さと率直さを養う訓練として、ささやかな勇気の育成を目的とする運動課題と創発性課題の修得を求めます。
俳優にとって大切なことは、未知なるものへ挑戦する大胆さであり、自分を奮い立たせる勇気や潔い率直さです。
また優れた俳優の中に芽生える[舞台でごまかしをやるということへの恐怖]を克服する最良の薬も、
舞台上の課題を遂行する時の内面の『創造の自由・大胆さ、果断さ、率直さ』を修得することです。
そのためには俳優の病的な[自尊心・はにかみ・きまりの悪さ・不器用で滑稽な大根役者]と見られる不安・恐怖
などから生まれる「防衛的な心と身体の反応」を克服するよう練習していくことが必要です。
○注意点…決断力と勇気を求める課題が提示されるため、積極的な行動が大切です。
熟練する事や熟考することではなく、瞬間的で的確な対応に心掛けましょう。


Exercise・[行為による大胆さ、率直さへのアプローチ]

芋虫
1995年 芋虫の横飛
★課題
(1)芋虫の横飛:腕立て伏せの姿勢から拍呼吸のリズムで、体を左右に振って横に飛ぶ。
・腕立て伏せの姿勢から拍呼吸のリズムで、体を左右に振って横に飛び、拍発声。
だるま
1995年 だるまさんがころんだ
(2)だるまさんが転んだ:座って両足の裏を合わせ、両手で持って斜め前へ倒れるように後に一回転
しつつ拍呼吸。
・座って両足の裏を合わせ、両手で持って斜め後へ倒れるように一回転しつつ拍発声。

Exercise・[稽古場アスレチック]

★課題
障害物を配置した教室を様々な形で歩いたり這ったり、教師の合図で、そのままの姿勢で止まる。
それから動かずに、その姿形にふさわしい正当化(信じられる理由づけ)を行う。
・俳優自身の生活の中の姿勢を想起する事。
・大胆に率直に素早く回答すること。
・止まってポーズが決まったら、考えずに感じたまま回答する事。
○注意点…正当化によって、偶然に生まれた姿勢が、筋の通った生活の中の行動の断面となるようにします。
それに従って、姿勢その物も修正され、余分な緊張も解放されるのです。
例…両足とも椅子に上がって床に手をつけていたら……小さな橋の上にすわり、川に落ちたモノを拾う、
あるいは屋根の端にすわって、転げ落ちたヒナを救おうとしていた等。

キッズワークショップ・アスレチックを参照

■アイホールでは、[リラックス]や[ささやかな勇気の育成・大胆さと率直さ]を稽古場への身支度として、
年間を通じて自主的に実施することを求めました。
[リラックス]と[ささやかな勇気の育成・大胆さと率直さ]は、実際に俳優の習慣的な行為として
身につくことが求められたのです。
大胆さと率直さの育成に関して、運動課題については熟練するに従って誰でもが大きく成長していきます。
しかし即興的な…心理的な面での育成は、本人の資質に大きく左右された結果となりました。
本人の資質をさえも乗り越えるためには、もっと時間をかけたカリキュラムが必要です。
大胆さと率直さは舞台上で歩き出す勇気、話し始める勇気という基本的な行為からも必要とされる、
俳優の基礎の基礎です。注意深く修得されることが望ましいのです。

[稽古場へのトワレット]

[稽古を始めるまでの心身の準備運動(気持ちのリセット)]を目的として
一連の課題を習慣的に修得します。
俳優は、普段の生活からスイッチを切り替えるように、稽古場に入って稽古を始めるまでの短時間の間に、
舞台創造に立ち向かえるコンディションを整える必要があります。
その為に、今まで学んできた各項目から代表的な課題を稽古前の身支度として実行していきます。



Exercise・[トワレットのプログラム]
●ランニングと歩行:
駆け足や歩く姿が、美しいと感じられるように、
整った身体の動きを自分でつくりだしましょう。
自分のコンデションを把握し、他人のコンデションも理解できるように努めましょう。
大勢で走ったり歩いたりしているのに、聞こえてくるのは一人だけのような、
静けさと調和が大切です。
耳を澄まして、他人の走っている足音を聞き分け、リズムやテンポの把握を行い、
全員で一つのテンポ・リズムを作り出すことが大切です。
トワレット1 走る
トワレット2 歩く
●ラジオ体操 第一:
動きそのものへの注意力を養うこと。他と自己との関係を確認する。
美しい体操・楽しそうな体操など、鑑賞に耐える身体表現としてのラジオ体操を演じること。
トワレット3 ラジオ体操
●腕立て伏せの姿勢から拍呼吸のリズムで、体を左右に振って横に飛ぶ。
・腕立て伏せの姿勢から拍呼吸のリズムで、体を左右に振って横に飛び、拍発声。
トワレット4 いも虫の横っ跳び
●座って両足の裏を合わせ、両手で持って斜め後へ倒れるように一回転しつつ拍呼吸。
・座って両足の裏を合わせ、両手で持って斜め後へ倒れるように一回転しつつ拍発声。
トワレット5 だるまさんコロンだ
立ったまま、呼吸に気を付けながら立っていられるだけの力を残して、
力を抜いていきます。
足を肩幅に開いて膝をゆるめ(膝の力を抜いて軽く曲げた状態)、
頭や胴体がしっかり腰に乗って、
背筋がのび、体重が足の裏できっちりと感じられるように直立し、
目を半眼に、全身の平静な状態を保ちます。
力の脱力具合が判らない時は、力を強く入れてまた抜くということを繰り返します。
また腕、肩、胸など、身体の部分に注目して、部分毎にゆっくりと動かして脱力します。
トワレット6 リラクゼーション

■ラジオ体操は、初め輪を作ってそれぞれの顔が見えるように体操していきますが、
お互いのテンポリズムが分かってきたら、輪の外を向いて一人一人観客と向かい合うつもりで体操をしていきました。
自分の行為を自分の責任で遂行する、自立の始まりです。
また、聴覚や触覚によって、他の動きを察知する鋭敏さも訓練していきます。
■芋虫の横飛は、二人一組となって、タイミングを合わせて飛ぶことにしています。
お互いの都合を計って伴に苦労を分かち励ましあって課題を達成する喜びの萌芽とします。
■だるまは、生徒同士でアドバイスしたり力を貸したりすることを奨励していきました。
この課題も潜在的に恐怖感や不安感の克服という一面を持っており、できなくても再トライするためには、
人が自分を励ましてくれたり、できると期待してくれたりすることが大きな支えとなります。
■スタンディングリラクゼーションは、安定した良い姿勢であることを強く求めます。
気持ちばかり先行して体が凍り付いている状態を一番恐れます。
常に何処かがゆっくりと動いている事を求め続けます。
また後期には、リラックスと同時に感覚の記憶の課題を遂行することも求めました。

特別解説 もっと厳しい身体運動『サーキット』

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