幸宏さんがほのぼの語る、「あのバンド」再生その後(2)
...疲れました。三人でいるといつもテンション高くて


●●でもね幸宏さん、YMOというバンドは論理的脈絡が核だったわけで―"ライディーン"や"テクノポリス"に代表される前期YMOは、音楽ではなく「音楽マニュアル」、バンドではなく「匿名集団」的な、無機質さがコンセプトで。それが圧倒的な支持を集めて肥大化してしまったが故に、その反動として、『BGM』以降「個人」を主張し「音楽」に接近したわけじゃないですか。そしてそうした「袋小路感」を、音楽と「ビョーキ」を演じる事によって表現して。でその閉塞した表現の限界を、あえて正反対の「歌謡曲紙一重」の馬鹿ポップ"君に胸キュン"を唄って表現し、自らにオトシマエつけて散開―その後は細野さんと教授が現場を離れ実験性に向かう中、幸宏さんだけが現場にとどまってポップ・ミュージックに対峙して、YMOの未完のオトシマエをつけようとしたでしょ。その経緯を考えたら、やはり幸宏さんにとってはYMOの再生は脈絡から外れた事なんじゃないんですかねえ。
「でもね、全く別個の物だったからよかった、って気もしますね、自分の80年代とは。だから10年前のあの感じのまま音楽を作ったから、10年間ぱっと戻ったから、独特ですね」

●●自分のソロは忘れた、みたいな感覚?
「そうですね。そうじゃないとできないし。ただプロジェクト長かったでしょう?レコーディング6ヶ月、コンサートまで2ヶ月。疲れましたね、三人でいる時はいつもテンション高いんで。お互いに遠慮してるようなとこもあるし」

●●じゃあ83年の散開時点のYMOと今回のYMOは、直接的な脈絡で繋がってると考えていいわけですか。釈然としませんが。
「うん……でもそれも微妙なとこですよね。各々の10年があってから……だから例えばね、1年前に三人で集まってもう一度やるかもしれない的な話をした時は、全部生で三人だけの、物凄いライヴとか考えられるじゃない?(笑)。いかにもでしょ? あと所謂アシッド・ジャズに近いものとか、皆考えてたと思うのね。結局『テクノ』という提案が細野さんから出てきた時、『はいわかりました、YMOは細野さんのバンドだから、テクノでいきましょう』っていう。キーワードは幾つもあって、環境問題とかアンビエントとかね。でも一部で誤解されてるみたいだけど、『テクノドン』はアシッド・ハウスみたいな極端な羅列でもないし、ハードコア・テクノでもないし、どこに位置するのかわかりにくいかもしれないけど、あれはYMO、YMOなんですよ。」

●●私が思ったのは、音的には10年前のYMOと何ら演ってる音は変わってないって事で― 特にライヴ観て感じたのは、結局テクノって規模が大きくなり、機材の量が仰々しくなり、とにかくテクノロジーの最先端を導入しても、演ってる事の本質は何も変わりようがないのでは、みたいな。
「うん、そうなんですよ。例えばね、『今回YMOはテープ使ってる』っていうのは排除したかったんですよね。昔は、松武(秀樹)さんが後ろで一曲毎に打ち込んでたでしょ? あれと同じ事を今回も演ってるわけ。ただ今回機材が沢山で(笑)、スタッフ達が徹夜でCDから起こした音源を全部別々にサンプリングして、同時に走らせてんですよ―だから止まったらどうするか的な恐怖感たるや(笑)。リハを2週間やったんだけど、実は3日間だけなの、上手くできたのは(笑)。もう真っ青で。スタッフは毎日徹夜だし。でもね、曲間に情報を入れてくシステム自体は昔とあえて変えてないから、5万人が集まるコンサートの責任を一人の人間に与えていいのかという。人為的なミスが一番多いわけだし、短刀持たせて失敗したら切腹しなさい、という問題じゃないもんねえ。まあ最悪の場合、止まったら『急にアンビエント・ミュージックにしよう』って(笑)。もしくは『いざとなりゃドラムとベースとキーボードで何とかなるだろう、一応プレイヤーなんだから私達も』って(笑)」

●●確かに(笑)。そのこだわりの正体は何なんですかね。
「幸いな事にライヴは2日共無事進行したけど、やはりこだわりがあって、80年代に演った事と同じ事が演りたかったんですね、たぶん教授なんかも―聴き手には全然関係無い事なんだけど、ライヴにせよレコードにせよ細かい実験的な事やこだわりは徹底的に探求してて。ちょっとお金は懸かり過ぎましたけどね(笑)。だからそういう実験質的な点は愉しかったですね、昔のYMOに戻ったみたいで。演れる事は全部演ったって感じでね。ただし、肉体の表現性的なライヴの在り方云々を論義し始めるといろんな意見があるでyそうが、僕はあれで良かったと思います」

●●最新のテクノロジーを駆使しつつも、方法論自体はやたら原始的である事が再生YMOとするならば、ライヴで『テクノドン』からの新曲より、生弾きがやたら初々しい昔の曲―"ビハインド・ザ・マスク"や"中国女"や"東風"が客にウケてたという事実をどう見ますか。
「当然だと思ってましたから。そういう宿命は必ずあるしね。ただね、観に来たお客さんの層にもよると思うんだけど、若い人ほど昔の曲喜んでるわけじゃないんだよね。コンサート評も賛否両論だったけど、そういうのは結果論だからどっちでもいいですね。まあ、もしまたYMO演る時があったら全然違う事するだろうしね」

●●またやりますかぁ(笑)。
「いや、わかんないけど―でもまだ解散してないですからね(笑)」

●●卑怯ですなあ(笑)。たださっきの古い曲がウケてた現象に話を戻すと、前回のYMOの無記名的な、匿名表現に当時魅かれた連中が、10年経って再生ライヴ中最も記名的な楽曲と場面で一番盛り上がるという、実に皮肉な光景が印象的だったんですが。
「そうですね。同じ事演るわけないのにね、僕達が」


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