●●でもね、私はテクノという音楽ジャンルの一つの限界を、あのドームのライヴに見た気がするんですよ。さっきも言いましたけど、再生YMOのように規模もデカく装備も重厚に的なゴージャス性を極めれば、CGや照明もシンクロした仰々しいまでの演出にまで凝りまくれば、マス・エンターテイメントとしても成立しますけども、でもその先のステップが存在するとは思えなかったんですが。
「ああいう形ではね。でもテクノ自体の表現としての可能性は、まだまだありますよ」●●確かにヨーロッパでも優秀な新世代テクノは誕生してますけども、所謂マイノリティーというか、日本で大衆性を獲得するのは苦しいんじゃないですかねえ。全く別物として考えないと。
「でもさ、テクノの限界はまだまだだよ。この前TV観てたら超イケイケの女の子が、『ジュリアナの女の子達をどう思うか?』と訊かれて、『だってジュリアナってテクノ系だから私は好きじゃないしー(はーと)』って答えててさあ(笑)。僕はジュリアナがテクノだとは知りませんでした(笑)」●●わはははは。事実としての成否はともかく、言葉自体は根強く存在してますなあ。
「喜ぶべきなのか悲しむべきなのか(笑)。痛し痒しではありますね(笑)」●●さて、幸宏さんの今後のソロ活動がやはり気になりますけども。
「今回の再生YMOとの繋がりは全く無いですから(笑)。自分のソロで演んなきゃいけない感じというのは、まだ残ってる部分があると思うんですよね」●●日本に定着するポップソングの追求、ですよね。歌謡曲でもニューミュージックでも所謂日本のロックでもない。
「そうですね。しかも『東京』的イメージがソロの根底にはどうしてもあって。まあ、YMOにもあるけど。それをどういう風に表現していくか、例えばまたラヴソングなのか、それとも全然違うものになるのか、というのも今一つ見えてないですよね。スティーヴと作った6曲の方は、完成度も結構高いからどういう形で世の中に送り出すか、また平行して考えていこうと―今、洋楽と邦楽の区別ってないじゃないですか。でもやっぱり違うじゃないすか(笑)」●●違いますね、大きく(笑)。
「そういう意味で言っちゃうと、スティーヴとのユニットは邦楽じゃなくなっちゃうんだよね。だからそれは海外とのパイプもちゃんと開拓して、作品を発表した後のオトシマエをきちっとつけとかないと、作り損になっちゃうんですよね。考えておかないと。」●●幸宏さんが思う洋楽と邦楽の違いとは、一体何なんでしょうね。
「音楽って、いつも時代性を反映しますよね。その中で、邦楽は国内の、ドメスティックな時代性を反映していくわけでしょ? 音楽のブームとか流れとか。それが圧倒的に違うというね。出てくる土壌も違うでしょ? ところがヒットチャート上位の楽曲は、アメリカのミュージック・ビジネス界だって作り方が似てるじゃないですか。でも日本のヒットチャート上位に食い込める楽曲も、ビジネスとしてはどの曲も作り方が似ているけれども、基調はアメリカと当然違うわけで。世界的には同じではないでしょ。ただビジネスはビジネスなわけで、送り手は皆、どういう形でマスにアピールしていくかっていう事を、当然考えるでしょうね。でもアーティストは別のアピールをする方法があるし、送り手も『売る』という皮算用があるわけですよ。どれだけストレートに稚拙な詞を書くか、ってテクニックの人もいるわけだし(笑)」●●これからが思案のしどころと。
「そんなベストテンの中に入っていく為にはどうすればいいのか……考えるべきなのだろうかどうか(笑)」●●幸宏さんはその必要性無いでしょうに。
「でもレコード会社は考えて欲しいらしくて、出す以上はね」●●それが資本主義の原則だけども、「痛み三部作」の際に少し考えたんだから。
「はははは。まあね(笑)。まあだから幾つかの柔軟性を持ってですね(笑)、対処していくという。ただ、売れる為に『好きじゃないなあ』と思うものを作る事は、もう無いでしょうね。それは意味無いから。でも好きなものは、インディペンデントでやっていけばいいと思ってる。僕、自主制作レーベル作ったんですよ。あと11月1日にスタジオもオープンします」●●地下活動はお盛んじゃないですかあ。
「スタジオはね、巨大なんですよ。レンタル営業するんですけど」●●でもスタジオ造るのって、莫大な金が懸かりません?
「とりあえず……何億、でした……借金生活でね、もう(笑)。でも不景気の時に造らないとね、いい時は皆造っちゃうから」●●そういえばYMOも目茶苦茶予算使いまくったらしいですけども。
「ちょっと使いましたね。アーティストって贅沢がどんどんどんどん膨らんでっちゃうから―YMOは遠慮無く使えましたけど、でもちょっと無駄が多かったかな、みたいな反省はありますけど」●●そんなに反省してないでしょ?
「そうそう(笑)」●●わはははは。しかし今回の再生騒動で旧譜からリミックス盤から無尽蔵にリリースされて、業界不景気の活性化には一役買いましたねえ。
「まだ出るみたいですけどね、いろいろ(笑)。若手の感性で解釈してもらえるから、リミックスは大歓迎なんですけど、この1年間で僕8枚もCD出した事になってるの(笑)、何も作業してないのに(笑)」
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