中西部へ
さあ、そろそろ東部へ向けて旅立つときです。バスは、どうやらアリゾナ方面へ向かうようです。
バスは、徐々にL.A.の街から離れていきます。だんだん建物が閑散としてきて、風景は徐々に荒涼としてきました。
しばらくすると人家の代わりにサボテンが増えてきました。
やがて、地平線まで一本のフリーウェイの他はサボテンだけの砂漠になりました。
夕方になってきて、サボテンが砂漠に長い陰を伸ばし始めました。「こんな砂漠で晩御飯はどうなるのだろう」と不安になってきました。
と、そのときKingmanという小さな町を通り過ぎた、はずれにバスはストップ。ミールストップのアナウンスが流れ、
ご飯タイムになりました。ミールストップは、バスの運ちゃんが頃合いを見計らって、テキトーに決めるようです。
外に出てみるとバスが止まった周りには数軒の家と西部劇に出てくるような酒場が一つあるだけです。
どうやらその酒場でおなかを満たす仕組みになっていることが解ってきました。
メニューなんて物は無く、バスから降りてきた人全員がパンにハムが挟まったものを食べるという奇妙な風景になりました。
ハムのあまりの塩辛さに、「これよりは食べ飽きたハンバーガーの方がマシだ。」とちょっと悲しくなりました。
日本からも、海からも遠く離れて、砂漠の中。濃いアメリカを肌で感じます。
バスのメンバーのうち、外国からやってきたのは明らかに我々だけ(男二人で行きました)のようです。
酒場のマスターが話しかけてきました。「どこからやってきた?」「日本からだ。」と答えると、
「日本人は初めてだ!俺の酒を飲め。おごりだ」ここで出てきたのがワイルドターキーだったんですね。
日本から遙か離れた大西部の荒野の町で飲む酒は、体にしみました。
ストレートのターキーで速くも酔ってきた頭で「うまい!」と言うと、
「どこまで行く?」と聞いてきます。「New Yorkだ」と言うと、
「俺はまだニューヨークに行ったことがない。ニューヨークに行ったら
ヤンキースの試合を見に行ってくれ。俺の友達がプレイしている。
俺はグレイトなこの町で元気でやっていると伝えてくれ。」といって
もう一杯おごってくれました。野球を見に行くのはともかく、伝言するのは不可能だろうなあ、
と思ったけど、酒場の親父の夢を壊すのも何なので、「オーケー」と言って別れました。
再びバスは砂漠の中を走っていきます。サボテンも無くなってきました。あるのは砂だけ。
ヘッドライトに照らされた路面を砂嵐が這いずり、
やがて度肝を抜かれる大きな大きな満月が出てきました。
この異様な景色の中で、さっきの親父とターキーと遠くまで来たという思いがミックスして、
ちょっぴり(かなり)感傷的な気分になりました。
時折すれ違う長距離トレーラーの音を聞きながら何時しか夢の中へ入っていきました。