「かおり」が出国ゲートを意気揚揚と進んで行く後姿を見ながら、孝一は、自分がとてつもなくショボイ人間のような気がした。
「空港でのキス」なんてことを考えていた自分が馬鹿っぽくて、成田からの帰りのクルマで孝一は吠えた。信号待ちで隣に並んだクルマでカップルがイチャイチャしているのを見て、孝一はアクセル全開で飛ばした。リミッターが効く時速180kmまで出しても気分はちっともすっきりしなかった。
「かおり」と孝一が出会ったのは、2年前の合コンだった。結婚しているのにモテモテの正樹がセッティングしてくれた渋谷の合コンに、暇人Yや女の子のいない環境に苦しんでいたNと共に参加した。相手の女の子は薬剤師つながりで、さすが正樹のセッティングだけあり、カワイイ娘ばかりだった。
YとNが、ショートケーキのような甘い、でもちょっと抜けている通称「ボケ鶴」と呼ばれている女の子に取り入っているスキに、孝一は、ちょっと理性的な「かおり」と盛り上がった。
「かおり」は妙に落ち着いていて、孝一の相手をしてくれた。「彼氏いるのかな?」孝一はちょっぴり不安だったけれど、とにかく盛り上げた。「ボケ鶴」を前に鼻の下が伸びきって、アホ面しているYとNをサカナにして、ひとしきり盛り上げた後、孝一は思い切って行動に出た。
「お酒もいいけど、美味しいケーキと優しい夜風に当たりに行かない?」
「かおり」は、ちょっと酔ったような感じで「うん」と頷いた。孝一は、思い切って「かおり」の手を引いて二人でそぉっと合コン会場から抜け出した。
渋谷の街は二人を祝福しているかのように、キラキラと輝いていた。
この日を境に孝一の人生はガラっと変わった。「生きてて良かった!」孝一は心からそう思った。
「かおり」とデートを重ねるごとに孝一は、「かおり」に惹かれていった。
キャリアウーマンだった「かおり」も忙しい中、孝一とのデートに付き合ってくれた。出張から帰ってきた「かおり」を羽田空港に迎えに行っては、孝一はデートにエスコートした。
2人のはじけた夏が終わり秋になって、「かおり」は、孝一とのデート中にふと遠くを見ることが多くなった。鈍感な孝一もさすがに気づいたころ、「かおり」はボストンに転勤になることを孝一に伝えた。