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1.ドラッグの使用 2.ドラッグについてのメール 3.ドラッグ解説

2.ドラッグについてのメール

2007年、僕がネパールに行ってストリートでのブラウンシュガー(ヘロイン)の使用を知り、対策を模索する過程を当時のメールより抜粋しました。現地の様子をより理解して頂けると思います。

07.04.04のメールより〜


スシル、タラ、ラジクマールら数人がブラウンシュガーという 薬物の注射を打っていることが来てすぐわかり、薬物を絶つためのNGOにコンタクトして 昨日はタラをそこへ連れていきました。 まだタラがそこで薬物を絶つかは彼次第ですが、タラもその気持ちは持っています。 他の子も止めたいけど止められない状態です。薬は500ルピーもして、お金もなくなり みんなでお金を出し合って買っているようです。 できるだけみんなが薬物を止められるよう、僕にできることをしていきたいと思っています。

07.04.12のメールより〜


20歳前後の子の多くが麻薬(ヘロイン)を打っていることが分かり、 現在現地のNGO(全員ドラッグ経験者)とコンタクトして対策を練っています。
彼らのオフィスに数日通って様子を見た後、本格的な更正施設へ送り、 最低3ヶ月その施設で暮らすというものですが、 まずオフィスへつれていくことが大変です。
タラはプログラムの第一歩が始まる日に故郷へ帰ってしまいました。
彼は自分でも止められるといっていたので、 自分がドラッグから離れる道を選んだのかもしれません。
また、昨日はスシル、ラジクマール、ラビの3人をNGOスタッフに会わせたのですが ラジクマールは今日、プログラムはやらないと言ってNGOのオフィスへは行きませんでした。
スシルも今日は行ったのですが、あまり乗り気ではなさそうです。
今は唯一ラビという子が止める気がある感じです。
ただブラウンシュガーは質の低いヘロインらしく、精神依存、身体依存が大きく 彼らも止めたい気持ちはあるのですが、そう簡単にはいきません。
プライアス

07.04.22のメールより〜


ネパールでの滞在期間も半分を切ってしまいましたが 相変わらず麻薬の問題は大きくのしかかったままの状態です。
今までタラ、ラジクマール、スシル、ラビ、オニール、モテと NGOに連れて行きましたが、結果的には壊滅です。

オニールなどは本格的な更正施設へ入る段取りまで行ったのに なぜか姿を消してしまいました。
思うようにいかないのはいつものことですが、 なぜここまでやめたいけど施設には行きたくないのか、 もう少し彼らの心の中を知る必要があるのかもしれません。
ブラウンシュガーというのは純度の低いヘロインらしく、 精神的、身体的に依存性が大きくやめるのは非常に難しいそうです。
現在、どうも僕の知らない子も含めると数十人規模でこの地域(てぃるがんが) でブラウンシュガーを使用している感じです。

他にもサントスという14歳の男の子もブラウンシュガーをやっていますが、 一度は彼がオーバードーズ(過剰投与)で白目を剥いて意識を失う現場に居合わせました。
仲間が顔を何度もひっぱたき、頭から水をかけ、レモンを絞って口に入れたり かなり緊迫した状況でなんとか意識は取り戻しましたが、 彼はこれでオーバードーズになるのは5回目だといいます。

本当に目の前に死の恐怖と隣りあわせで生きているのが感じられました。

07.04.29のメールより〜



麻薬をやめるプログラム初日に故郷に帰ってしまったタラという子が先日帰ってきました。
彼は故郷へ帰って自力でブラウンシュガーを絶ってきました。
最初の数日はかなり苦しかったみたいですが、よく頑張ったなぁって思います。
しかしこちらでは目の前で毎日友人がブラウンシュガーを使っており、 彼がどこまでそれに耐えて使わずにいれるか、心配なところです。
ラジクマールという子は10日ほど前にスリで警察に捕まり、現在は刑務所に入っています。
面会に行くと彼は、これでドラッグをやめられる、更生施設へ入ったのと同じだって言ってました。
彼は施設に入るとお金が要ると思い、スリで得たお金で施設に入る費用を作り、 その後僕の話していたNGOへ行くつもりだったと言います。
実際、一人当たり政府の補助をいれても1万ルピーくらい必要になります。
しかしうまくいけば無料で入れる枠もあり、彼の健気な気持ちが悲しくもありました。
刑務所からは2000ルピーで保釈できるので、友人がお金を出す相談をしています。
しかし彼らも20日くらい刑務所に入っていればドラッグもやめられるから、 それまで待ってお金を出そうという話をしています。
もちろん、そう話す友人もドラッグを使ってスリをやっています。

07.05.13のメールより〜 (帰国後)



薬物トリートメントセンターへ行く手続きをした青年は 翌日、薬物を止めたいという少年を連れてNGOへ行く約束をしてくれました。
他にも刑務所に入っていたラジクマールは保釈された後、 現在はブラウンシュガー(ヘロイン)を止めています。
僕がネパールへ行った後、把握している範囲で約20人が ブラウンシュガーを使っており、そのうち計6人が ブラウンシュガーを止めるあるいは大幅に使用量を減らしています。
しかし注射針の仲間との共用でHIV感染している子も数人おり、 本格的に血液検査をすると相当数の子が感染している可能性があります。

彼らの多くは高価な薬物を買うお金をスリで得ており、 ブラウンシュガーを止めてちゃんとした仕事を見つける必要があります。
しかし戸籍もなく学校も1〜2年しか行っていない、仕事の経験もない彼らに まともな生活ができるだけの収入のある仕事は滅多にありません。
職業訓練センターなどで研修を受けるのもひとつですが、 この辺は次回ネパールへ行ったときの課題となりそうです。

ブラウンシュガーに関して僕は現地のプライアスというNGOとコンタクトして動いていたのですが、彼らも僕の作成したこの地域の若者の薬物使用状況リストを元にNGOネットワーク、政府の薬物対策担当者を交えて近くミーティングを行い対策を練り、アクションを起こすと言っています。 これが実効のある動きになれば僕がやったことは帰国後も生きてくることになります。彼らもストリートでの薬物対策に関心はあったのですが、具体的にストリートに入っていく方法を模索していた時に僕が行ったので、水を得た魚のように積極的に動いています。
そのため、僕も次回ネパールへ行くまでにその効果が上がっていることを期待しています。

07.05.19のメールより〜 (帰国後)


今回ネパールで僕が一番大きな問題だと実感したのは、ストリートチルドレンのまま大人になった20歳前後の若者の暮らしです。
彼らの多くはスリや盗みで生活しており、警察に捕まったり刑務所に入ることも珍しくありません。僕もそんな子に会うため警察や刑務所に何回も行っています。
そしてスリをするときの恐怖感をなくすため麻薬もたくさん使っています。マリファナはみんな子どもの頃から吸うし、シンナーも半数以上の子が子どもの頃経験しています。
そしてスリのプロになり多額のお金を手に入れるようになるとヘロインを使う子が出てきて、それは仲間のなかで一気に広がりました。
ヘロインといってもピンと来ないかもしれませんがこれは覚せい剤より強力な麻薬で、あっという間に中毒になり、覚せい剤は気持ちがいいという精神の依存が主ですがヘロインはそれプラス体が薬なしでは動くこともできなくなり、使わないと全身の骨が砕けていくような激痛に襲われます。 そのためどうやって薬を手に入れるかってことしか考えられなくなり、体も心もヘロインに乗っ取られてしまいます。
しかも毎日2〜5回くらい注射で使うため針が足りなくなり、友達と針を共用することでHIVに感染する子もいます。
そんな子をドラッグのケアをするNGOに連れていったりもするんですが、ヘロインを辞めるのはそう簡単なことではなく、更に長期に渡って関わっていく必要を感じています。
今は僕の作ったリストの情報を元に現地のNGOやNGOネットワーク、政府の薬物対策担当者がミーティングを行い対策を練ることになっており、その成果に期待しているところです。

07.05.24のメールより〜 (帰国後)



ラジクマールはいろんなてん末の末、僕の帰国時にはブラウンシュガー(ヘロイン)をやめました。そのてん末は結構長くなりますが、それでも聞きたいですか?なんてね(^^;;

以前のメールでラジクマールがNGOへ行かないって言っていたところまではお話ししましたね。その後彼は、次回僕がネパールに来るまでにブラウンシュガーを辞めるってボソッと話したりしていたんですが、ある日を境に姿を消してしまい、数日後になって僕は彼がスリの現行犯で警察に捕まったことを知りました。
すぐ警察へ面会に行くと彼は「これでブラウンシュガーも止められる」って言っていました。そして「スリでお金を作って、そのお金で更生施設へ入ろうと思っていた」とも言っていました。実際、更生施設に入るには1万ルピーくらいかかるのですが、無料枠もあるので彼の気持ちが健気で少し哀しくもありました。
ラジクマールは簡単な裁判の後、刑務所に送られ2か月間拘置されることになったのですが、2000ルピーの保釈金で保釈も可能とのことでした。
刑務所 それを彼の友人のゴッピやプロカスに伝えると、ゴッピは20日後に保釈すればブラウンシュガーも止められるからその頃にお金を作って彼を出所させるってことでした。
しかし20日後、ゴッピらは祭りに繰り出してスリをしようとしたのですが、その前に多くが不審者として警察に捕まってしまい、スリはできずお金も作れませんでした。
そこで僕はプロカスに「ラジクマールがブラウンシュガーをやめると約束し、彼の友人がみんな、彼がブラウンシュガーを使わないよう協力してくれるなら、僕が2000ルピーだしてラジクマールを出所させる」と言い、プロカスも仲間にこの話を伝えると約束してくれました。プロカスは唯一確固としてブラウンシュガーを使わない子だったので、彼が常にラジクマールを見てくれることを僕は期待していました。
その後、面会時にラジクマールにもこの話をしてブラウンシュガーを使わない約束をしたのですが、その時のラジクマールの表情はブラウンシュガーを使っていた時に較べるとずっと豊かになり、自然な表情が見ていてとても嬉しかったです。
僕はそれからパシュパティやティルガンガにいるブラウンシュガーを使う彼の友人20人以上に協力してくれるよう頼んでまわりました。
パシュパティのリーダーでもあるゴッピは僕の話を真摯に受け止めて、彼自身もブラウンシュガーをやめることにしました。
ラジクマールを出所させる際には面倒な手続きがあったのですが、ゴッピは一緒に来てラジクマールのために率先して4時間もかかった手続きを手伝ってくれました。
そうしてラジクマールが出所した帰りのバスで、彼は車窓から友人を見つけて急いでみんなでバスを降り、その友人と話をしました。なんとその友人はちょうど今スリで大金を手に入れ、これからラジクマールを出所させるために刑務所へ向かって歩いていたところでした。僕のほうが一歩早かったってことですが、この友人はブラウンシュガーを一日に7〜9回も使用する子で、彼が出所させていれば間違いなくラジクマールは出所と同時にブラウンシュガーを使っていたことだろうと思います。
僕としてはいつか誰かがスリのお金で出所させるのは間違いないし、それではラジクマールもブラウンシュガーをやめることはできないだろうと考えてお金を出したのですが、まさにその読みは当たっていました。
彼が出所したのは僕の帰国2日前で、その後の確認はできていないのですが、これだけ周囲にも僕の意向を周知させておけば簡単には再使用できないのではないかと思っています。しかし帰国後、ヘロインについて調べていくとかなり厄介な薬物であることが分かってきて(覚せい剤よりはるかに強力)、ラジクマールがどこまでブラウンシュガーの誘惑に耐えていけるか心配でもあります。

今後はスリをやめ他の仕事をすることが必要なのですが、今回はそこまでの時間はありませんでした。ラジクマールにはゆっくりでいいから仕事を探すよう言いましたが、学校もろくに行っておらず、何の仕事の経験もない彼にできることはあまりありません。
20歳前後になった元ストリートチルドレンにとって、これは切実な問題です。
そして僕にとっても次回ネパールへ行ったときの課題です。