月は先程より一層青さを増した。その光はリビングの床をたどり男の足下まで長く伸びている。まるで、それは夜の海を漂う海藻のようにしなやかに男の足に巻きついているかのようにも見えた。大地から祝福されガジュマルの木の精霊と神との間でのみ交わされた密やかな盟約に、彼ら以外誰も知り得ぬ甘美な秘密に男は満足していた。逃れ得ぬ運命に自ら巻き取られた者だけが知る不思議な充足感が男の頬から静かに笑みとなってこぼれ落ちた。
「今夜も逢瀬のためにひそやかに庭に降りていこう。
僕の愛しいガジュマルをこの腕に抱くために」