通し番号「30」

「聖地ルルド」

夜でした


朝、トゥールースで電車を乗り換え、ルルドに着いた。
こどもの頃、ルルドの泉の水でたくさんの人が病を治したという話を読んだ。それが私がキリスト教の聖地に赴いた直接の理由だ。
駅に荷物預かりはなく、数個のコインロッカーはすべて使用中だった。

坂が多いルルドを重い荷物を持って歩く。
iがすごく遠く感じられる。

そのiで地図を貰い、街の見所を聞く。
まず、奇跡の泉の場所へ。
公園に入るまでは、江ノ島か、川崎大師の参道のように土産物屋が連なり、人口最盛期の原宿みたいに人がごったがえしている。
どこでも見掛けるような必要を感じないおみやげものの他に、水筒がたくさん売られている。店によって微妙に値段が違う。
マリア様が描かれている水筒。
戻るときにどの店に寄るか物色しながら坂を下る。
公園の入口では早朝の駅ぐらいに閑散としているのに、進んでいくと、すごい数の人々!
誰かが自国の旗を持ち、その周りにたくさんの車椅子に座った人、
それを囲むように人が立ち並び、一つの集団が100人を下らない。その集団が無数にある感じ。
観光地で大型バスから降りてくる集団には何割かの人が(あぁ、こんなのいやだ)という顔をしているが、
このルルドの集団にはそういう感が微塵もない。
誰もがここにいて喜んでいる。
ルルドの礼拝堂の前なのだから。

更に進むと人がうじゃうじゃと短い列をつくっている。
なんだろうと覗いてみると、
岩肌に水道管が這わせてあり、人と人が、ぎりぎりぶつからないぐらいの間隔で蛇口が配されている。銭湯で見かける、ボタンを押すと一定量の水が出るタイプの蛇口だ。
私も並んで水を汲むことにした。
ちょっと汲んで、飲んでみる。
美味しい。
美味しくて奇跡もあったら、と思うとうれしくてペットボトルいっぱいに汲む。
隣の人は蛇口の使い方が分からないようだったので教えてあげた。

先に進むとまた群集。
長いろうそくを持った人たちが柵の中を進んでいく。
柵の外には車椅子の方、その周りにたくさんの人。
その外をぐるりと進んでいくと、人並みの奥の洞窟にマリア様のようなものが見えた。
ろうそくを持った人はマリア様の前で拝んでいる。
そこが泉の出所なのだ。

その奥は森林公園になっているようだ。
そこでくつろぐのはあきらめて、礼拝堂まで戻る。
中に入るとパンフレットが売っている。
フランス語・イタリア語・スペイン語・ドイツ語・英語のものが置かれ、
フラン・リラ・ペセタ・マルク・ドルで、100円ぐらいの値段が書かれた箱があり、自分の持っている通貨を見合った箱に入れてパンフレットを持っていけばいいようになっている。私はリラで払って英語のパンフレットを貰った。
ルルドの礼拝堂はミラノのドゥオモに比べると質素なものだった。だが人々の空気に圧倒された。

公園を出て土産物屋へ行った。
アクセサリーは安く感じたので、お守りにもなるし、ここで友人たちへのお土産をある程度そろえてしまおうと思った。色は青いものが多く、その青が微妙で縁の飾りが金だったり銀だったりで出来もまちまちで、ステキなものを、と探していると、とても楽しい。私はお土産用にたくさん買って、小さな袋をたくさん貰った。自分には少し良いペンダントヘッドも買って、身につけ、この旅のお守りにすることに決めた。

荷物は重いけど、せっかくだからと街の墓地まで行ってみた。墓地はあまり気持ちよくなかったが町のはずれを歩いているとなんだかほっとする。
街を小さく、ぐるりとして、駅のそばの食品屋についた。
そこでフランスパンを一本買った。
パンの胴にくるっと紙を巻いて渡してくれる。
駅でカフェオレを飲んで、電車に乗った。
雨が降ってきた。
今日はカルカッソンヌに泊まる。
そこはスペインとの国境として城壁が発達した街で、いまも残っているその美しい城壁の内にユースがあるというので泊まってみたくなったのだ。

私はフランスパン1本を手に持ち1等車にのっている。
子供と一緒で、彼らはかわいらしい。
電車の中で私は景色も見ずに手紙を書きつづけていた。
書くのを止めて、ぼーっとしてると子供たちがふざけて、小さく笑っている。面白い顔をしたりして。私も小さく笑うと喜んで、一層おもしろいことをする。子供たちは大きく笑ってしまって親に叱られていた。<続く>

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