3人はおじさんと二人の若者で構成され、みな、感じがよかった。
しかも一人はマット・ディロンとニコラス・ケイジを足して2で割ったような、私好みの顔。
3人のうちでおじさんだけは英語を話せて、
“どこからきたの?”と英語で聞いてくれるので
“日本からです。”と応えているうちに、おじさんと私は一時間ほども
【香港の中国返還に伴う東洋経済】について
話すことになってしまった。なんで私はおなかが空いてるのに東洋経済について【変な英語】同士で話しているんだろう。
3人はビールを飲んで楽しいので、私が一緒にテーブルにいるだけでうれしいみたいだ。かのマット・ケイジ氏は時々、おもいきりフランス語発音で“君、ビューティフル、だから今日は君は僕の部屋に来て、うふふふふ”というような事をくりかえし言う。ユーレイルパスに日にちを書き込んでなかったら、そういうのもいいのかも、と一瞬魔がさすほどに、魅力的な発音。フラフラっとなってしまう人がいるのも分かると思った。
もうひとりは二人を見てから、私を見て(二人とも、酔っ払いだ、すまないねぇ)みたいな顔をして、若いのに落ち着いている。
3人は道を挟んだ向かいの雑貨か何かの店の店員で、おじさんが店主だった。店を終わって一杯飲んでいる、今が一番気楽な時間なので、私が席を立つのを許したがらなかったが、電車が来るからと、さよならした。3人は(え、ほんとに行っちゃうのー)という感じで見送ってくれた。
ホームに入ると売店があって、売り子のおねえさんと酔っ払いのお兄さんがいた。
ドーナツみたいなものが見えたので、私はそれを買った。
酔っ払いが
“きみ、ベトナム人?”
と聞いてきた。
“日本人です(ジュシジャポネ)”。酔っ払いは分かってくれなくて、
おねえさんが“日本人ですって”と通訳してくれる。
ドーナツを食べて“さよなら”と言うと、
二人はちょっと首をかしげてから“オルボワ(さよなら)”と言ってくれた。
電車はすごくきれいだった。
でも日本の特急列車みたいに右二席・左二席がずらり、という感じで、
イタリアからの夜行のような、ベッドになる椅子ではないので少しつらかった。
でも、車両をほとんど一人占め状態で気分的には安らかだった。
椅子の背に『予約』『空席』と書かれているので、予約されている席には座ってはいけないが、『予約』の席はほとんどないようだった。
街の灯がぽつんぽつんと流れていく。
少しして車内は暗くなり、私も目を閉じた。<続く>
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