通し番号「27」

「南仏のかけら」

犬


紙のシーツが寒くて早く目が覚めたので、、歩いて5分のビーチへ行ってみた。

空も海も澄んでいた。
朝日に照らされた静かな波が輝き返し、とても美しい。

浜辺は私一人のものだ。

誰もいないので、
白い砂利の上に小銭と鍵を置き、Tシャツと布を被せて、海の中へ。
冷たい。
じっと浸かる。清々しい。

しばらくして、おじいさんとおばあさんと犬が来た。
3人と1匹は はしゃいだ。
私は特に、犬と遊んだ。うれしくて“ラメール、ラメール。(海)”と言うと、おばあさんも“わたしたちだけ!”みたいなことを多分言って、大喜びしている。

そのうち老人が数人来た。若い人は仕事か、お祭り疲れかで、誰も来なかった。
私は少し寒くなったので海から上がると、犬が来て私の腕をなめた。
おじいさんは“君の腕についた塩水を犬はなめてるんだよ”と言った。
しあわせな気持ちとはこういうものか。

人が10人ぐらい増えたので、犬たちとさよならしてユースに戻った。

シャワーをあびて、それからHのことを考えた。
住所など何も聞かなかった、
ロビーでパンをじっくり時間をかけて食べていたけれど、Hは現れなかった。

11時になったのでユースを出て駅のiまで歩いていった。

かわいい子供たちが“オルボワー(バイバイ)”と声かけてくれる。 うれしくて私も言い返す。
途中道が分からなくなるとすごくかっこいいお兄さんが道に立っていたりするので、その中でも一番かっこいい人に“駅はどこですか?”と聞く。
ニースの人は皆、どこか軽やかで、私もイタリアにいた頃とは大違いに、すっかり調子よくなっていた。

iでマティスが作った教会があるヴァンスという街への行き方を教えてもらい、バス乗り場まで坂を下りていく途中、昨日のスーパーマーケットがあり、弁当代わりに果物を買って、また歩き出すと偶然、自転車に乗ったHに出会った。旅順が似ているのでスペインでも会えるといいね、と言って別れた。Hは結局自転車をニースから送ることが出来ず、自転車と一緒にマルセイユに明日行くことにしたそうだ。

バスターミナルのカフェでカフェオレを飲んで、バスに乗った。
海沿いの道から山に登っていく。途中、まさにヨーロッパという感じの丸くまとまった街、建物などが見え、バスの車窓も楽しい。一時間ほどしてバンスに着く。

バンスの中央街はやや人工的にいい雰囲気に整えられた感じ。
四角の広場を中心にぐるりと沿った通りに木々が植わり、お店が連なっている。広場の木陰で、おじさんたちがペタングを興じている。
iで地図を貰って教会までの道を行く。
広場には買い物をする人、くつろいでいる人、たくさん人がいたのに、ここを歩いているのは私だけ。
きれいな田舎。空気と太陽が気持ちいい。<続く>

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